異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮

文字の大きさ
55 / 62
結婚編

ゼラチンと寒天の中間みたいなものでした

しおりを挟む
 ある程度の手伝いも終わり、月初も過ぎた七月。
 今日から三日間のお休みをいただいたので、魔物たちのリュックを作ろうと、もう一度採寸やリュックの大きさなどを決めている。
 手縫いでも作れないことはないけれど、アレイさんのものはともかく、シェーデルさんやナミルさんのものはミシンを使わないと無理なので、今日は向こうの部屋に来ているのだ。

『楽しみよね~。何をいれようかしら?』
《乾燥果物や日持ちするお菓子はどうじゃ?》
<いいね、それー!>

 布を裁断し、ミシンで縫っている私の横で、魔物たちは私の手の動きを見ながら、リュックに何を入れようか話し合っていた。
 本来ならインベントリがあるからバッグは必要ないのだけれど、私とジークハルト様のコートがお揃いというのを聞いて、羨ましくなったらしい。だからこそ、私に作ってもらった鞄――リュックで、魔物たちはお揃いにしようと、私が仕事をしている時に話していたそうだ。

 リュックの入り口は、紐で絞って縛れるタイプのものにした。カチッと止める道具はこの世界にはないし、紐やリボンならば三人でも自分でできると思ったからだ。
 人型ではなく魔物の時のサイズにしてほしいと言われているので、そのサイズでリュックを作っている。ただ、それだと躰の小さいアレイさんが損をすることになるので、【付与】を使って中を拡張し、重量軽減もかけてあげることにした。
 小説などに出てくる、所謂マジックバッグというやつだ。
 この世界にもマジックバッグがあるそうなので、大丈夫だと思っている。

 休日の一日目はそんな感じで向こうの部屋で一日過ごし、リュックも無事に完成した。

 二日目のことだった。厨房の隅を借り、魔物たち用や家族を含めた屋敷のみんなにクッキーやパウンドケーキを作っている時だった。

「実花、これで何か作れないか?」

 兄が木箱を持って厨房に来た。中身を見れば、透明でぷよぷよしたもの。見た目は水羊羹のような感じだった。

「これはなんでしょうか?」
「スライムゼリーなんだ」
「スライムゼリー、ですか?」

 おお、小説の定番、スライムゼリーが来ました。

「これは火にかけると溶けるんですが、畑の栄養に使う以外に、これといって使い道がないんですよ」
「そうなんだよ。だから余って仕方がないんだ。実花なら何かできるんじゃないか?」
「うーん……。ちょっと実験してもいいですか?」
「どうぞどうぞ」

 兄から木箱を受け取り、ミゲルさんに許可をもらって実験することにした。
 ミゲルさんの話によると、スライムゼリーは火にかければ溶けるけれど、冷やすとまた固まる性質があるそうだ。まるで寒天みたい。
 それを念頭に置いて、スライムゼリーをひとつ取り出すと、鍋に入れた。そしてそのまま溶かしたり、水を入れて溶かしたりしてわかったことは、そのまま溶かして冷やすと寒天に近い硬さになり、水を入れるとゼリーに近い硬さになることがわかった。
 それならばと牛乳と蜂蜜、桃に似た味の果物であるペスカとイチゴに似たエペル、オレンジに似たオランジュを使うことにした。果物はジュースにして、果汁たっぷりなゼリーにしようと思う。

「お嬢様、ジュースにするのでしたら、俺たちがやりますよ」
「ありがとう。お願いできますか?」
「はい!」

 ミゲルさんと他の料理人たちが興味津々でこちらを見ていて、最近は私がなにかをしようとすると、先んじて提案してくれるから助かる。
 牛乳もあることだし、ついでにプリンも作ろうと、砂糖と卵、蒸し器も用意してもらった。
 まずは牛乳かんを作る。
 スライムゼリーの中に牛乳と蜂蜜を入れ、弱火でゆっくりと温める。それと同時にぷかぷかと浮かんでいたスライムゼリーがゆっくりと溶けて、牛乳と馴染んでいく。
 恐る恐る味を確かめるといい味になっていたので、火から下ろして粗熱をとる。四角い型がないので、今日は間に合わせでカップに入れ、冷蔵庫へ。今度父にお願いして、型を作ってもらおう。
 次はゼリー。別の鍋にスライムゼリーを入れて火にかけ、溶けきったところに各種のジュースを入れて馴染むように混ぜ、それもカップに入れて冷蔵庫へ。
 カップに入れる作業は、手の空いている料理人がやってくれた。
 それらをしている間にカラメル作り。フライパンに砂糖と水を入れ、弱火で混ぜる。ふつふつとしてきていい色になってきたら火から下ろし、お湯を入れてよく混ぜる。これでカラメルは完成。
 カラメルをカップの底に入れてもらっている間に、私はプリン種を用意。一番簡単なのは、卵一個に対して牛乳コップ一杯、砂糖は好みで。こちらの世界に計量カップはないから、指定されたカップを使うと間違いがないのだ。
 もちろん、向こうの私の部屋から計量カップを持って来て、どれが何ccになるのかをきちんと計っている。
 卵をボウルに割りいれて解きほぐし、その中に牛乳をいれて混ぜる。その後、茶漉しで漉したものをカラメルの入ったカップに入れてから、蒸し器の中へ。十分も蒸せばできあがり。粗熱をとってから冷蔵庫に入れてもらった。

「作ったものはなんでしょうか?」
「デザートですね。スライムゼリーを使ったものは、牛乳のものと、果物のジュースを使ったもの。最後に作ったのはプリンというものです。それも冷たいお菓子ですよ」
「おお、冷たいお菓子ですか! それは楽しみです!」

 焼き菓子はそれなりにあるけれど、冷たいお菓子はないという。寒天やゼラチンがないと父や兄が言っていたから、ゼリーやプリンなどの柔らかいデザートは諦めていたらしい。
 その日のおやつに牛乳かんもどきとオランジュゼリーを出したのだけれど……。

「久しぶりにゼリーなんて食べたよ。それにスライムゼリーが寒天みたいになるとは……」
「小説ではよく見るが、まさか本当にデザートになるとは思ってなかった……」
「お嬢様、とても美味しゅうございます!」

 試作品だからとまずは父と兄、ミゲルさんに出したところ、好評だった。その後、お屋敷にいた使用人たちにも配られ、みんなも喜んでくれた。

「よし! 安い今のうちに、スライムゼリーを買い占めよう!」
「お兄様……」
「アルジェント様、冒険者に依頼してもよろしいかと。そうすれば領民にも広められますよ?」
「お、いいね! それ採用! ちょっとギルドと領地の商会に行ってくる」
「「いってらっしゃいませ」」

 呆れているうちに、バルドさんがとんでもないことを言い出す。

「実花、レシピを頼む」
「……わかりました」

 父も、領民の食卓が豊かになるのが嬉しいのだろう……嬉々としてレシピを用意するように言われてしまった。
 確かにスライムゼリーには使い道がなく、売れてもひとつ銅貨一枚(日本円で十円)だと聞いた。商会で扱ったとしても、せいぜいひとつ銅貨二枚で買えるし、牛乳に関してはわが領地ならば領民でも手が出せる値段(銅貨十枚)だ。
 蜂蜜に関しても、養蜂をしている農家に加え、魔物もいるという。どちらも共存している関係で、安く仕入れることができるからこそ、こういったものを領民にも伝えることができるのだろう。

「実花、陛下にも献上したいのだが、構わないか?」
「大丈夫ですよ。ただ、牛乳ですと少し高くついてしまうかも知れませんけれど……」
「そこは大丈夫だろう。最近、牛乳というか、ミルクの需要が高まっていてな、他の領地でも生産を始めたんだよ。我が領地ほどではないが、それでも需要と生産が間に合いつつあるから、問題はないだろう」

 チーズの需要が高まってきていて、我が領に負けないようにと、領地で勉強して帰って行く他領の酪農家や貴族が増えてきているという。ただ、そこは気候や土地柄などの問題もあるそうなので、全部が、というわけではないそうだ。

「そうですか。果物やスライムゼリーに関してはどうですか?」
「果物は各領地に独特のものがあるからな。ジュースにできる技術があれば、どうにでもなるだろう。スライムもあちこちにいて、増えると厄介な魔物であるから、見つけるとすぐに討伐することになっている」
「それでしたら大丈夫でしょう」
《儂らが狩ってきてもいいぞ?》
『そうね。アタシたちも躰を動かさないと、なまるもの』
<ボクも狩るよー>

 殺る気に満ちた声で、魔物たちも反応する。彼らも牛乳かんもどきを食べていて、その味が気に入ったようだった。

「おお、それは助かります! ここでは問題になりますから、領地に帰った暁にはお願いしてもよろしいですかな?」
《『<任せて!>』》
「ほどほどにしてくださいね」

 和気藹々と話す父と魔物たち。それをニコニコしながら見ている、バルドさんとアイニさん。
 休日明けに、ジークハルト様にも持って行こうと思いつつ、ミゲルさんにはテリーヌも教えたほうがいいかしらと、作り方を思い出すのだった。

しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

召喚先は、誰も居ない森でした

みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて── 次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず── その先で、茉白が見たモノは── 最初はシリアス展開が続きます。 ❋他視点のお話もあります ❋独自設定有り ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

処理中です...