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異世界転移編
このスパルトイは特殊らしい
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血を吸い込んだかのような色――朱殷色と言っただろうか――をした骸骨が、奥底の見えない眼窩で私を見下ろす。威圧感らしきものはあるけれど、どう言ったらいいのだろう……テレビで見る警察官とか自衛官、消防官のような泰然とした物腰の絶対的安心感? そういった雰囲気を醸し出していて、不思議と怖いとは思えなかった。
「ええっと……。アレイさん、どうしたらいいのでしょう?」
《話しかけてやればいい》
「はあ……そうですか。あの、初めまして。長月 実花と申します。実花と呼んでください。もしお嫌でなければ、キノコや果物を採るお手伝いをしていただけませんか?」
アレイさんの時と同じように手を出しながら挨拶をする。できれば湖まで行くのもお願いしたいところだけれど、さすがにそれは言い出せなかった。
「えっと、その……この格好のままで申し訳ありません。体調不良に加えて足を捻ってしまい、動くどころか立てないのです。なのでお手伝いをしていただきたいのですが……無理でしょうか」
骸骨だから話すことができるかわからないけれど、じっと私を見るスパルトイに話しかけるも動く様子はなかった。……アレイさんのように私の言葉を理解できていないのだろうか。そんなことを考えはじめたら、スパルトイが屈んで私と握手してくれた。
『ああ……なんて素敵な声なの! つい聞き惚れちゃったわ~。そして貴女がアタシを蘇らせてくれたのね?! ありがとう! うふ、お名前はミカ様っていうのねぇ……。ええ、いいわよ、アタシのお姫様。手伝ってあげちゃうし、ミカ様の護衛もしちゃうんだから! 自分で言うのもアレだけど、アタシってばすっごく強いから任せてネ! ああ、そうそう。アタシはシェーデルって言うの。よろしくね~!』
「え……」
握手を終えたスパルトイは、自分の両手を組んでクネクネと動いている。
……アレイさんに引き続き、スパルトイ――シェーデルさんまで……!!
そのことに、内心頭を抱える。見た目(?)は凄腕の軍人や騎士のような雰囲気だったから勝手にアレイさんのような素敵な声の男性なんだろうなあと思っていたら……いえ、確かにやや低めのテノールで男性の声なのだけれど……まさかのオネエでした! しかもテンション高めで自己紹介され、アレイさんのことも相まってそのギャップの破壊力に衝撃を受け、固まってしまう。
……兄よ、貴方が楽しそうに語っていたスパルトイは、とっても素敵な声の持主でテンション高めなオネエさんでした……!
《ミカ? どうした?》
『ミカ様、大丈夫?』
「……あ、はい。だ、大丈夫、です。よろしくお願いいたします。シェーデルさん、申し訳ないのですが、この袋に入っている果物と同じものをあと五個、それと青紫色のキノコと光るキノコを採っていただけますか? 今から袋を出しますので、それぞれそこに入れてください」
『いいわよ~。ちょっと待っててね』
遠い目をしていたらアレイさんとシェーデルさんに心配されてしまったので慌てて採取をお願いし、ポケットからビニール袋を出してそれを広げる。使い方を説明すると、二人(?)に感心された。
袋を受け取ったシェーデルさんは剣と盾を消すと、オレンジ色の果物が生っている木の側に行き、丁寧にもいで袋に入れる。それを私に渡すとどこからともなくナイフを取り出し、青紫色のキノコを採取したあとで光るキノコも同じように採った。
「…………剣や盾はどこに行ったのですか? ナイフはどこから出したのですか……」
『ああ、これ? そうねぇ……簡単にいうと魔法の一つよ。そのうち誰かに聞けばいいわ。そこにいる爺さん蜘蛛とか』
「魔法なんですね」
《爺さん言うな! 儂はまだまだ若い! それにアレイという立派な名前がある!》
『はいはい、わかったわよ、アレイサマ。……アタシよりも長生きしてるんだから、爺さんでいいじゃないのよ』
《よく言うわ! お主は%*?#ではないか、儂よりも長生きであろうに!》
「あ、あの……喧嘩は……痛いっ」
一部また聞き取れない言葉があったなあと思いつつ、言い合いを始めた二人を止めようとつい動いてしまい、捻った足に激痛が走る。思わず痛いと言ってしまったけれど止めるには十分だったようで、シェーデルさんは袋を持って戻って来た。
『大丈夫? 便利ねぇ、その袋。素材がイマイチよくわからないけど』
「私の世界のもので、ビニール袋といいます」
『私の、世界……?』
渡された袋の持ち手の部分を軽く一回縛っていると、感心しながらも首を傾げるシェーデルさん。「私の世界」という言葉に反応し、それを説明しようとしたらアレイさんからストップがかかった。
《シェーデル、話をする前に移動しよう。急いでここから離れないと陽が暮れる》
『それもそうね。陽が暮れると危険なモノが活発になるもの。で、どこに行くつもりでいるの?』
《この先にある湖がいいじゃろう。あそこならミカが休める洞窟もあるし、飲み水も確保できる》
『確かに洞窟ならアタシも護衛しやすいし安全ね。じゃあ、早速移動しましょう。ミカ様、ちょっと失礼しますね』
「え……? きゃっ!」
全部の袋を縛り終え、それを全て腕に通すとシェーデルさんがナイフを消してから近寄って来た。何をするのだろうとぼんやりと見ていたら、平均体重内だけれどやや太めの部類に入る私を軽々と抱き上げたではないか! そして子供を抱っこするような縦抱っこをして左腕に乗せると、今度は槍を出して移動し始めた。アラサー間近なのに今更縦抱っこされるとか……恥ずかしすぎる!
『もう、アレイ爺! アタシは護衛をやるんだから、ミカ様の頭に乗って楽してんなら袋くらい持ちなさいよ。キノコや果物を持つくらい簡単でしょ?』
《いちいち煩いやつじゃの! 言われんでもわかっておるわ!》
羞恥心で内心悶絶していたらまた言い合いを始めた二人だったけれど、なんだかんだ言いながらも息が合っているようで、流れるように作業を分担していく。シェーデルさんは槍を使った護衛、アレイさんは私から三つの荷物を受け取ると、光るキノコのみを残して残りを隠してしまった。これもシェーデルさんと同じ原理の魔法、らしい。
アレイさんに《ちょっと持っててくれ》と袋を渡されたのでそれを持つと、アレイさんは蜘蛛の糸を使って三つほど光るキノコを束ねる。それを私に渡すと袋の中のものを全部取り出し、残りをいっぺんに束ねてからなにやら呟いたら私たちの周囲が明るくなった。
一つ一つの光は弱いけれど、こうして束ねて光を拡散する魔法をかけることで、ランプやカンテラと同様かそれ以上の明るさを保てるのだと教えてくれた。
そのあたりの詳しい話は私の熱が下がってからと言われたので、素直に頷いた。それに、頭が働いていない状態で聞いたところで、理解できるとは思えなかったのもある。
だからその代わりと言ってはなんだけれど、先ほどなぜ私が「私の世界」と言ったのか、アレイさんにしたのと同じ話しをしたら全く同じ反応が返って来たので笑ってしまった。
「……ふふ、アレイさん、シェーデルさん、ありがとうございます。お二人がいなかったら、途方に暮れていました。それに、独りよりもずっと安心できます」
《儂も礼を言おう。あの【のどあめ】と【くっきい】とやらのお菓子は美味しかった。また食べたいのう》
「いいですよ。ただ、クッキーはもうないのです。なので、のど飴かチョコレートになりますけど、いいですか?」
《おお! 構わん! その【ちょこれいと】とやらも所望する!》
「いいですよ」
そんな私とアレイさんの会話に、シェーデルさんが反応する。
『ちょっと……アレイ爺ばっかずるいわよ! ミカ様、アタシにもちょうだい!』
「いいですよ。でも、その……」
《お主、骨だらけのくせに、食料を食えるのか?》
『うぐぐ……! な、なんとかするわよ!』
「もう……ふふ、喧嘩はやめてください」
二人の言い合いはまるで掛け合い漫才のようで、つい笑ってしまう。そういえば、社会人になってから笑うことってあまりなくなったなあと思う。まあ、家庭環境がひどすぎて、作り笑いや愛想笑いをする以外はよほどのことがない限り、もともと笑うことなんてなかったけれど。
そんな話をしているうちに鬱蒼と茂っていて暗かった木々が無くなっていき、視界がひらけていく。近づくにつれて遠くでキラキラと光っていたものが太陽の光を反射した湖の水面だとわかり、その側を何かが飛んでいくのが見えた。
《おお、間に合った》
『そうね。で、アレイ爺、どこの洞窟に向かえばいいかしら』
《そうじゃな……左手側に崖があって、そこの近くに脇水が出ている場所がある。そこはどうじゃ?》
『そうね……そこならミカ様の足も冷やせるわよね』
二人がどこの洞窟に行くのかを話している。熱が上がって来ているのかなんだか寒いし、ライターがあったことを思い出したので、焚き火の提案をしてみた。
「あの、熱が上がって来ているみたいで、なんだか寒気がするんです。簡単に火を着けることができる道具を持っているのですが、そこで火を熾すことは可能でしょうか?」
『ミカ様の世界には便利な道具があるのね。ああ、火を熾すことは可能よ。寒気がするなら、着いたら枯れ枝や枯葉を集めて焚き火をしましょう』
《そうじゃな。先に足を冷やしてから火を熾そうか、ミカ》
「はい。ありがとうございます」
話しているうちにその場所に着いたのか、座れるサイズの石がある場所に下ろされた。骸骨だからお尻や背中が硬い骨に当たって痛いかと思っていたら全くそんなことはなくて、快適にここまで連れて来てもらったことのお礼を言う。
そのあとでシェーデルさんに布かなにか持っていないか聞かれたのでハンカチを渡すと、それを濡らして足に巻いてくれた。そしてアレイさんに枯葉を入れたいから光るキノコを入れていたビニール袋を渡してくれと話している時だった。大きな影がたくさん横切ったあと、強い風が吹き荒れて目を瞑る。
「きゃあっ! な、なに?!」
《ほう……あの体色と翼は古代竜のものか?》
「エンシェント……ドラゴン……?」
『そうよ。かなりいるわね。しかも先頭にいる古代竜のあの体色と体躯、翼は……王族のものじゃないのよ』
目を瞑っているからどんな姿なのかわからない。不穏なことを言っている二人に不安を覚えていると、先ほどよりも強い風が叩きつけて来たので、今度は両腕も使って顔を覆う。
しばらくそのままでいたら風が止んだので、恐る恐る腕をどかして目を開けて見ると、目の前にはアレイさんよりも濃い色をしたナニカがあった。そのまま視線を上に上げていくと、そこには鋭く尖った幾つもの牙が目に入る。
「あ……」
どうやら私は熱のせいと非現実的なことの連続でキャパオーバーしたのだろう……食べられてしまう! とそう思ったあと、私の視界はブラックアウトした。
そしてアレイさんやシェーデルさんだけではなく、ここにいるはずのない父と兄の声が、私の名前を呼んだような気がした。
「ええっと……。アレイさん、どうしたらいいのでしょう?」
《話しかけてやればいい》
「はあ……そうですか。あの、初めまして。長月 実花と申します。実花と呼んでください。もしお嫌でなければ、キノコや果物を採るお手伝いをしていただけませんか?」
アレイさんの時と同じように手を出しながら挨拶をする。できれば湖まで行くのもお願いしたいところだけれど、さすがにそれは言い出せなかった。
「えっと、その……この格好のままで申し訳ありません。体調不良に加えて足を捻ってしまい、動くどころか立てないのです。なのでお手伝いをしていただきたいのですが……無理でしょうか」
骸骨だから話すことができるかわからないけれど、じっと私を見るスパルトイに話しかけるも動く様子はなかった。……アレイさんのように私の言葉を理解できていないのだろうか。そんなことを考えはじめたら、スパルトイが屈んで私と握手してくれた。
『ああ……なんて素敵な声なの! つい聞き惚れちゃったわ~。そして貴女がアタシを蘇らせてくれたのね?! ありがとう! うふ、お名前はミカ様っていうのねぇ……。ええ、いいわよ、アタシのお姫様。手伝ってあげちゃうし、ミカ様の護衛もしちゃうんだから! 自分で言うのもアレだけど、アタシってばすっごく強いから任せてネ! ああ、そうそう。アタシはシェーデルって言うの。よろしくね~!』
「え……」
握手を終えたスパルトイは、自分の両手を組んでクネクネと動いている。
……アレイさんに引き続き、スパルトイ――シェーデルさんまで……!!
そのことに、内心頭を抱える。見た目(?)は凄腕の軍人や騎士のような雰囲気だったから勝手にアレイさんのような素敵な声の男性なんだろうなあと思っていたら……いえ、確かにやや低めのテノールで男性の声なのだけれど……まさかのオネエでした! しかもテンション高めで自己紹介され、アレイさんのことも相まってそのギャップの破壊力に衝撃を受け、固まってしまう。
……兄よ、貴方が楽しそうに語っていたスパルトイは、とっても素敵な声の持主でテンション高めなオネエさんでした……!
《ミカ? どうした?》
『ミカ様、大丈夫?』
「……あ、はい。だ、大丈夫、です。よろしくお願いいたします。シェーデルさん、申し訳ないのですが、この袋に入っている果物と同じものをあと五個、それと青紫色のキノコと光るキノコを採っていただけますか? 今から袋を出しますので、それぞれそこに入れてください」
『いいわよ~。ちょっと待っててね』
遠い目をしていたらアレイさんとシェーデルさんに心配されてしまったので慌てて採取をお願いし、ポケットからビニール袋を出してそれを広げる。使い方を説明すると、二人(?)に感心された。
袋を受け取ったシェーデルさんは剣と盾を消すと、オレンジ色の果物が生っている木の側に行き、丁寧にもいで袋に入れる。それを私に渡すとどこからともなくナイフを取り出し、青紫色のキノコを採取したあとで光るキノコも同じように採った。
「…………剣や盾はどこに行ったのですか? ナイフはどこから出したのですか……」
『ああ、これ? そうねぇ……簡単にいうと魔法の一つよ。そのうち誰かに聞けばいいわ。そこにいる爺さん蜘蛛とか』
「魔法なんですね」
《爺さん言うな! 儂はまだまだ若い! それにアレイという立派な名前がある!》
『はいはい、わかったわよ、アレイサマ。……アタシよりも長生きしてるんだから、爺さんでいいじゃないのよ』
《よく言うわ! お主は%*?#ではないか、儂よりも長生きであろうに!》
「あ、あの……喧嘩は……痛いっ」
一部また聞き取れない言葉があったなあと思いつつ、言い合いを始めた二人を止めようとつい動いてしまい、捻った足に激痛が走る。思わず痛いと言ってしまったけれど止めるには十分だったようで、シェーデルさんは袋を持って戻って来た。
『大丈夫? 便利ねぇ、その袋。素材がイマイチよくわからないけど』
「私の世界のもので、ビニール袋といいます」
『私の、世界……?』
渡された袋の持ち手の部分を軽く一回縛っていると、感心しながらも首を傾げるシェーデルさん。「私の世界」という言葉に反応し、それを説明しようとしたらアレイさんからストップがかかった。
《シェーデル、話をする前に移動しよう。急いでここから離れないと陽が暮れる》
『それもそうね。陽が暮れると危険なモノが活発になるもの。で、どこに行くつもりでいるの?』
《この先にある湖がいいじゃろう。あそこならミカが休める洞窟もあるし、飲み水も確保できる》
『確かに洞窟ならアタシも護衛しやすいし安全ね。じゃあ、早速移動しましょう。ミカ様、ちょっと失礼しますね』
「え……? きゃっ!」
全部の袋を縛り終え、それを全て腕に通すとシェーデルさんがナイフを消してから近寄って来た。何をするのだろうとぼんやりと見ていたら、平均体重内だけれどやや太めの部類に入る私を軽々と抱き上げたではないか! そして子供を抱っこするような縦抱っこをして左腕に乗せると、今度は槍を出して移動し始めた。アラサー間近なのに今更縦抱っこされるとか……恥ずかしすぎる!
『もう、アレイ爺! アタシは護衛をやるんだから、ミカ様の頭に乗って楽してんなら袋くらい持ちなさいよ。キノコや果物を持つくらい簡単でしょ?』
《いちいち煩いやつじゃの! 言われんでもわかっておるわ!》
羞恥心で内心悶絶していたらまた言い合いを始めた二人だったけれど、なんだかんだ言いながらも息が合っているようで、流れるように作業を分担していく。シェーデルさんは槍を使った護衛、アレイさんは私から三つの荷物を受け取ると、光るキノコのみを残して残りを隠してしまった。これもシェーデルさんと同じ原理の魔法、らしい。
アレイさんに《ちょっと持っててくれ》と袋を渡されたのでそれを持つと、アレイさんは蜘蛛の糸を使って三つほど光るキノコを束ねる。それを私に渡すと袋の中のものを全部取り出し、残りをいっぺんに束ねてからなにやら呟いたら私たちの周囲が明るくなった。
一つ一つの光は弱いけれど、こうして束ねて光を拡散する魔法をかけることで、ランプやカンテラと同様かそれ以上の明るさを保てるのだと教えてくれた。
そのあたりの詳しい話は私の熱が下がってからと言われたので、素直に頷いた。それに、頭が働いていない状態で聞いたところで、理解できるとは思えなかったのもある。
だからその代わりと言ってはなんだけれど、先ほどなぜ私が「私の世界」と言ったのか、アレイさんにしたのと同じ話しをしたら全く同じ反応が返って来たので笑ってしまった。
「……ふふ、アレイさん、シェーデルさん、ありがとうございます。お二人がいなかったら、途方に暮れていました。それに、独りよりもずっと安心できます」
《儂も礼を言おう。あの【のどあめ】と【くっきい】とやらのお菓子は美味しかった。また食べたいのう》
「いいですよ。ただ、クッキーはもうないのです。なので、のど飴かチョコレートになりますけど、いいですか?」
《おお! 構わん! その【ちょこれいと】とやらも所望する!》
「いいですよ」
そんな私とアレイさんの会話に、シェーデルさんが反応する。
『ちょっと……アレイ爺ばっかずるいわよ! ミカ様、アタシにもちょうだい!』
「いいですよ。でも、その……」
《お主、骨だらけのくせに、食料を食えるのか?》
『うぐぐ……! な、なんとかするわよ!』
「もう……ふふ、喧嘩はやめてください」
二人の言い合いはまるで掛け合い漫才のようで、つい笑ってしまう。そういえば、社会人になってから笑うことってあまりなくなったなあと思う。まあ、家庭環境がひどすぎて、作り笑いや愛想笑いをする以外はよほどのことがない限り、もともと笑うことなんてなかったけれど。
そんな話をしているうちに鬱蒼と茂っていて暗かった木々が無くなっていき、視界がひらけていく。近づくにつれて遠くでキラキラと光っていたものが太陽の光を反射した湖の水面だとわかり、その側を何かが飛んでいくのが見えた。
《おお、間に合った》
『そうね。で、アレイ爺、どこの洞窟に向かえばいいかしら』
《そうじゃな……左手側に崖があって、そこの近くに脇水が出ている場所がある。そこはどうじゃ?》
『そうね……そこならミカ様の足も冷やせるわよね』
二人がどこの洞窟に行くのかを話している。熱が上がって来ているのかなんだか寒いし、ライターがあったことを思い出したので、焚き火の提案をしてみた。
「あの、熱が上がって来ているみたいで、なんだか寒気がするんです。簡単に火を着けることができる道具を持っているのですが、そこで火を熾すことは可能でしょうか?」
『ミカ様の世界には便利な道具があるのね。ああ、火を熾すことは可能よ。寒気がするなら、着いたら枯れ枝や枯葉を集めて焚き火をしましょう』
《そうじゃな。先に足を冷やしてから火を熾そうか、ミカ》
「はい。ありがとうございます」
話しているうちにその場所に着いたのか、座れるサイズの石がある場所に下ろされた。骸骨だからお尻や背中が硬い骨に当たって痛いかと思っていたら全くそんなことはなくて、快適にここまで連れて来てもらったことのお礼を言う。
そのあとでシェーデルさんに布かなにか持っていないか聞かれたのでハンカチを渡すと、それを濡らして足に巻いてくれた。そしてアレイさんに枯葉を入れたいから光るキノコを入れていたビニール袋を渡してくれと話している時だった。大きな影がたくさん横切ったあと、強い風が吹き荒れて目を瞑る。
「きゃあっ! な、なに?!」
《ほう……あの体色と翼は古代竜のものか?》
「エンシェント……ドラゴン……?」
『そうよ。かなりいるわね。しかも先頭にいる古代竜のあの体色と体躯、翼は……王族のものじゃないのよ』
目を瞑っているからどんな姿なのかわからない。不穏なことを言っている二人に不安を覚えていると、先ほどよりも強い風が叩きつけて来たので、今度は両腕も使って顔を覆う。
しばらくそのままでいたら風が止んだので、恐る恐る腕をどかして目を開けて見ると、目の前にはアレイさんよりも濃い色をしたナニカがあった。そのまま視線を上に上げていくと、そこには鋭く尖った幾つもの牙が目に入る。
「あ……」
どうやら私は熱のせいと非現実的なことの連続でキャパオーバーしたのだろう……食べられてしまう! とそう思ったあと、私の視界はブラックアウトした。
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