異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮

文字の大きさ
9 / 62
異世界転移編

目覚めたらまた別の天井だったらしい

しおりを挟む
「実花、お昼だよ」

 父の声で起こされ、意識が浮上する。目を開けると先ほどとは違う天井だった。しかも部屋自体も変わっているような……。いつの間に? と内心首を傾げながらも体を起こしてから周囲を見渡せば、そこは眼鏡をしていなくてもわかる、見慣れた内装で固まってしまう。

 異世界に来たはずなのに、どうして自宅の寝室内にあったクローゼットや箪笥があるのだろう……?

「……っ」
「実花?」
「う、そ……。どうして……?」
「…………それは、実花が住んでいたマンションの部屋の内装そのものが、私たちと一緒にこの世界に来てしまったからだ」
「ええっ?!」

 父の説明に驚く。そんなことなどあるのだろうか。

「それはどういうことですか?」
「いろいろと説明してあげたいが、まずは熱を測ろうか。そして先にご飯を食べてから薬を飲んで、説明はそのあとにしよう」
「……はい」

 私を落ち着かせるような柔らかい話し方で声をかけられて父に手渡されたのは、リビングにある救急箱に入っていたデジタル体温計だった。……本当にどうなっているのだろう。説明してくれるというのだから、食事をしたり薬を飲んだりしながらそれを待とう。
 そんなことを考えている間に熱を測ると、三十七度台に落ちていたもののまだ八度台に近い。それを見た父も「まだちょっと高いな……」と呟き、私を抱き上げようとしたのでストップをかけた。

「お、お父様、一人で歩けます!」
「昨日捻挫して、まだそんなに足首が腫れていて碌に歩けないのにか?」
「あっ……そうでした……!」

 父に指摘されるまで、それほど痛みがなかったせいか森で足を挫いたことを忘れていた。殿下にも『手当てをした』と言われたのに……。仕方がないので素直に父に抱き上げられて隣の部屋へ連れて行かれると、そこにあったのは私が借りていた部屋のDKよりも広くなっていたものの、内装は私がこの世界に来る直前までいたそのままの状態の光景が広がっていた。
 しかも、シェーデルさんに引き続き父にまで子供のように縦抱っこされるとか……!

 ――私、あと数年で三十になるのですが……この歳で父に抱っこされるとか……恥ずかしすぎる! 父よ、私がまだ子供だと勘違いしていませんか……?!

「……」
《おお、ミカ》
『あら。おはよう、お姫様』
「お? 起きたか。ご飯できてるぞ。尤も、作ったのは親父だけどな」
「…………」
「おーい、実花? 実花ちゃーん? 反応して?! 僕をシカトしないで?!」

 キッチンはそれほど広いわけではなかったのにそれが広くなっていて、私の家にはなかった六人掛けのテーブルと椅子のセットがあった。そこには兄とシェーデルさんが腰掛け、アレイさんは料理と一緒にテーブルの上にいる。
 料理はミートソースのパスタと野菜スープ、半熟卵がのっているサラダ、ロールパンとバターとマーマレード、飲み物はコーヒー。私の席らしき場所にはコーヒーの代わりに生姜入りの柚子茶が置かれていて、パン用の取り皿と思われる小皿もあった。ミートソースのパスタはペンネである。
 非常に見覚えのある食材だし、数日前に買い出しして来た食材の一部に思えるのだけれど、父は一体どこから持って来た食材なのだろう……。そして周囲を見渡せば、バスルームとパソコンなどが置いてある部屋に続く扉もあるのだけれど……同じなのだろうか。同じなら、せめてあとで汗を流したい。……使えるのならば、だけれど。
 そんなことを考えていたら兄に呼ばれ、目の前で手を振られて我に返る。

「……これ……どこから出て来た食材なのですか……? 朝の食材もそうですが、この世界にあるものなのですか……?」
「ん? 一部の食材はこの部屋からだな。この世界には似て非なるものはあっても、全く同じものはないし」
「どなたが作ったのですか?」
「だから親父だってば」
「お父様が……」

 兄の話を聞いていなかったことを申し訳なく思いつつ、父が作ったことに驚く。そして、食材がこの部屋のものだということも。
 そういえば父は料理が得意で包丁の使い方や料理を教わったことを思い出し、唖然呆然とはこのことかと現実逃避めいたことを考えているうちに椅子に下ろされ、父も椅子に座ると号令をかける。

「よし。全員揃ったことだし、それでは食べようか。いただきます」
「『《いただきます》』」

 私以外の前にはそれなりの量が器に盛られ、私は食欲がないことを見越してか、パスタやサラダはワンプレートに盛られていた。パンは一つの籠に入っていてトングが添えられ、個々人で取ればいいようになっている。

「実花、冷めないうちに食べなさい。食欲がないなら残していいから」
「あ……いえ。この量でしたら食べきれます。いただきます。…………美味しい」
「そうか。よかった」

 少しボーッとしていたのだろう……父に声をかけられ、慌てていただきますをするとパスタを食べる。その味はトマトの酸味と玉ねぎの甘さ、ひき肉の味がぎゅっと凝縮された、私好みの味だった。どうして父は私の好みの味を知っているのだろう……そんなことを考えながらパンを一つ取って食べつつ、父と兄を盗み見る。

 二人はパーティーや社交界で着るような夜会用のスーツに近い服を着ていた。ネクタイはアスコットタイで、楕円形の月長石ムーンストーンがあしらわれたネクタイピンで留められていた。これは二人の誕生日プレゼントにと買ったものだったからよく覚えている。そして父は180センチ越え、兄は190センチ近い高身長と整った顔立ちをしているからか、その出で立ちは二人にとてもよく似合っていた。
 ……そういえば、パーティーに行くと父は妙齢のご婦人方に、兄は独身女性に常に囲まれていた。ついでにいえば、姉二人も父や兄ほどではないが、独身男性に囲まれていた。母に至ってはその性格の悪さが顔や態度に出ていたのか、男性どころか御婦人方にすら遠巻きに敬遠されていた。
 私も168センチと平均以上の身長はあるけれど、常に秘書という立場で控えていたか知り合いの女性と一緒に壁の花と化していたので、囲まれた経験はない。……カナシクナンテナイデスヨ。

 そしてシェーデルさんたちを見ると、アレイさんは私よりも小さいお皿のワンプレートに小さく切られたパスタとサラダとパンが乗せられているものを食べていて、シェーデルさんはどうやってその身体に入っているのかわからないけれど、きちんと食事をしていた。
 骸骨だから食べているものが見えるのかといえばそんなことはなく、口に入れたあとは何も見えなかった。量は兄と同じくらいありそうだ。

(……本当に、どうなっているの……アレイさんとシェーデルさんって……。特にシェーデルさんは)

 思わず遠い目をしそうになるけれど食事中だからとなんとか我慢をし、出されたものを食べ終わると薬を飲むように言われて飲んだ。

「さて……どこから話したものか……」
「先にここに来た経緯や、どうして私が借りていた部屋の内装などがそのままあるのか、それをお聞きしたいのですが……」
「そうだな……そのほうがいいだろうな……」
「たくさんあるなら、紙に箇条書きにしたらどうだ? 先にそれに答えて、疑問が出て来たらその都度メモを取って最後に質問すればいいんじゃないか?」

 兄の提案にしばらく考えたあと、それに頷く。メモ用紙やペンがパソコンが置いてある部屋にあると言えば兄が持って来てくれたのでそれを受け取ると、質問内容をメモに書き、兄の提案に従って父と兄にメモを見せる。


 メモを見た二人が話してくれたのは、アレイさんたちですら驚く内容だった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

召喚先は、誰も居ない森でした

みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて── 次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず── その先で、茉白が見たモノは── 最初はシリアス展開が続きます。 ❋他視点のお話もあります ❋独自設定有り ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

処理中です...