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異世界転移編
兄はリアルチートらしい
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席に戻ると、再びお喋りをし始める。そこで私の勉強の進捗状況になったのだが。
「午後から商人が来るからそれまでの間とそのあとは僕と使用人二人でこの世界の常識を、魔法は実花の護衛たちを交えて教えることになっている」
「まだ教えていなかったのか?」
「おいおい、熱で寝込んでいて昨日ようやく起き上がれるようになったばかりなんだぞ? 無理に決まっているだろう?」
「それもそうか……」
私を置き去りにしてそんなことを話す兄と殿下。そんな中、二人がいきなり私を見たので「なんでしょうか?」と首を傾げたら、「魔法に関して質問はないか?」と聞かれた。
「そうですね……魔法の種類を教えていただけますか? 特に、アレイさんやシェーデルさん、殿下が使っていた何もない空間から物を出し入れするものと、お掃除に関する魔法のことが知りたいです」
「確かにそれは必要だな」
「種類を知ってるとあとで説明しやすいし」
殿下と兄の言葉にアレイさんたちや殿下のお付の人も頷いているので、急遽魔法の種類の勉強会が始まった。
この世界に於ける魔法は誰しもが必ず授かる【空間魔法】と【生活魔法】、【属性魔法】と【特殊魔法】と呼ばれる四つの魔法がある。物を出し入れするのは【空間魔法】にあたり、自分だけが作れるものと鞄などに【付与】することで使えるようになるものと二種類あるそうだ。
「ゲームや小説でいうところの、マジックバッグやインベントリと呼ばれるものだな」
「この世界では何と呼ばれているのですか?」
「自分で作り出した空間はインベントリ、付与されたものはマジックバッグだ」
「掃除に使う魔法は【生活魔法】に分類されるんだよ」
「私も使えるのでしょうか」
「【生活魔法】はここに書かれているから、問題なく使えるだろう」
「インベントリも【時空魔法】で作れるし、実花は【付与】もあるからどっちでも大丈夫だろう」
紙の一部を指差して説明してくれる殿下に、「なるほど」と頷く。その読めなかったものは【生活魔法】なのだろう……兄もそれを補足してくれる。メモを取りたいところだけれど、あとでまた文字と一緒に説明するからと兄に言われたので、今は聞いておくだけにする。
それに、インベントリとマジックバッグの両方が使えるのはとても有り難い。今、アレイさんとシェーデルさんのことで考えていることがあるし。どのみちそれは勉強をして、きちんと魔法が使えるようになってからの話だけれど。
【生活魔法】はその名の通り、生活に密着したものの魔法が多いそうだ。掃除だったり、火種を出したり。【属性魔法】に近いものがあるけれどそれらに比べると威力は全くなく、人や魔物に使うことは出来ないらしい。
【属性魔法】は、【火】【風】【水】【地】の四つで、このうちの一つ及び【空間】と【生活】を加えて一般市民は三種類、貴族は属性魔法を二つ使える人もいるので、三、四種類を扱えるそうだ。【属性魔法】の中には【光】と【闇】もあるがそれは王族のみ使える魔法で、必ずどちらかが使えるらしい。なので王族はさらに多く、四、五種類の魔法を扱えるのだそうだ。
この世界の神話や伝説にのみ出てくる【時空】【雷】【氷】【無属性】【白】の五つの魔法は【特殊魔法】と呼ばれるもので、今のところ【白】以外の四つを扱えるのは父と兄だけだそうだ。【白】と【時空】だけとはいえ、私も父や兄同様にそこに加わると思うとうんざりする。
同じ【特殊魔法】の【付与】はマジックバッグや鎧などの武器や防具に付けることができる魔法なので、主にそういったものを作っている人が持つ、職業に付随する魔法らしい。私の職業が【裁縫師】だから、【付与】が使えるのはそのせいだろうと言われた。
王族ですら少なくとも三つの属性魔法しか使えないのに、全属性魔法と特殊魔法……そのうちの四つを扱う父と兄は一目置かれているそうだ。といっても、それを知っているのは王族と国の重鎮たち、宮廷魔導師の団長だけらしい。
そもそもの話、【時空】【雷】【氷】魔法はその原理がわからないと扱えないそうだ。なので、王族や宮廷魔導師長も含め、未だに使える者がいないらしい。【時空】は仕方がないにしても、私も【雷】と【氷】ができるプロセスというか原理はわかるけれど、正直使いたいとは思っていないのでそこは助かっている。……氷は料理や冷たい飲み物を作る時に便利そうではあるが。
「お兄様のリアルチートもここまでくると、ある意味嫌味ですよね」
「【白】と【付与】を扱える実花にだけは言われたくはないな。さすがに僕や親父でも【白】と【付与】は使えないからな?」
「そうは仰いますが、全属性を扱えるお兄様やお父様と違って、私は属性魔法を全く使えないようですけれど?」
「ああ……確かに使えないな。先ほどミカ嬢が読み上げた三つに加えて、【生活魔法】しか使えないようだ」
私と兄の会話を聞いた殿下が、紙を見ながら補足するように教えてくれる。
《ふむ……これは憶測になるんじゃが、【白】が使えるからではないか? 教えれば全属性の魔法を使えるようになるじゃろうが、威力は半分以下になるじゃろう》
『そうね。【白】が使えるなら、そのうち【光】も使えるかも……って言ってる側から……』
《まあ、【光】は【白】の威力を上げてくれるからのう、当然か》
「「「「ああっ!?」」」」
のほほんと話すアレイさんとシェーデルさんが話している側から、魔道具がそのままになっていた紙に新たに【光】が加わると、私以外の四人が声を上げて驚いた。私は何も言えずに黙り込んでしまった。
「……」
《儂がきちんと教えるから、安心せい。どちらも危険な魔法ではないから》
『アタシも教えるし、しっかり護衛するわよ~』
「……ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
アレイさんとシェーデルさんがそんな話をしてくれる。護衛も……ということは、何かあるのだろう。そこはあとでシェーデルさんたちに聞けばいいことだ。
「魔法はこんなものか。ミカ嬢、他にはないか?」
「これと言って特には。まだ勉強すら始めていませんし……」
「そうだな。もし……」
「はい?」
「……いや、なんでもない」
何かを言いかけた殿下に聞き返したけれど、結局何も言わなかった殿下に首を傾げる。何かあれば話してくれるだろうからと紅茶やお菓子のおかわりを勧めようとしたら、ノック音が室内に響いた。兄が返事をするとバルドさんが顔を出した。
「歓談中のところ申し訳ございません。アルジェント様、そろそろ昼食のご用意をしなければならないのですが……」
「もうそんな時間? 話していると時間がたつのが早いな……。グラナート、時間はあるか? 昼食はどうする?」
「時間はある。いただいてもいいか?」
「もちろん。バルド、殿下たちのぶんの用意も頼む。今日は天気がいいし、食堂ではなく東屋に用意してくれるかい?」
「畏まりました」
兄の言葉に返事をしたバルドさんは、お辞儀をするとそのまま退出する。
「そうだ、実花。食事の時に作法をみてあげる」
「そうですね……些か心許ないのでお願いいたします。あと、特殊なお作法はありますか?」
「ないな。カトラリーの順番などもあちらとそう変わらないし」
「それは助かります」
そんな話をしているうちに、用意ができたからとバルドさんが再び顔を出した。外に移動すると言われたので立ち上がる。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
差し出された兄の腕に自分の手を乗せると、ゆっくりと歩き出す。テラスから伸びている階段から外に出られるようだ。まだ足首が痛いから、こうして兄が助けてくれるのは有り難い。【白魔法】で足首の怪我を治せるだろうか……。そこはあとでアレイさんたちに聞くことのしたのだけれど、そこでもう一つ思い出したことがあった。
「お兄様、あとでご相談したいことがあるのです」
「なに?」
「今はちょっと……」
なんの事情も知らない殿下たちに聞かれたくはないし、兄も知られたくはないだろう。それとなく相談したい場所に視線を移せば、兄はそれだけで察したらしく、とても小さな声で「いいよ」と言ってくれたことが嬉しい。
「移動するついでに庭も案内するよ」
「それは楽しみです」
兄の言葉が嬉しい。昨日も今日も一歩も外に出ていないからだ。
そして歩きながらこの世界のことを説明してくれた。
日本と同じように四季があって、今は春であること。
時間も二十四時間で一週間が六日、それが五週で一ヶ月となること。それが十二ヶ月あるという。
ただ、一年は三百六十五日と同じだけれど、神と家族に感謝する特別な期間が五日間あって、その期間中は仕事などをせずに家で家族と過ごすという。お正月のようなものだと説明してくれた。
東屋に行く途中にあった庭に植えられていたのは、色とりどりのこの世界の花だった。薔薇もあったけれど微妙に形が違うし、私の知らない花が多かった。それはまた今度説明してくれるというので、その時にいろいろ聞こうと思う。
「さあ、ついた。ここだよ」
「まあ! 素敵な場所ですね!」
周囲を花や木で囲まれている東屋にはテーブルが二つくっつけられ、そこに料理が並べられている。パンとサラダ、スープを並べている途中だった。カトラリーから察するにメインはお肉のようだが、病み上がりだからなのか私のは魚用になっていた。カトラリーの並びから、ほぼフルコースの様相だ。……そんなにたくさん食べられるだろうか。
そんな私の心配を見越してか、バルドさんがこっそり「お嬢様のぶんは量を少なくするよう、旦那様から仰せつかっております」と言ってくれたので、お礼を言うと微笑んでくれた。
談笑しながら食事をして、食事の作法も問題ないと兄や殿下やお付の人たちにもお墨付きをもらったので、安心する。
「実花、グラナートたちとまだ話があるから、一度部屋に戻っていてくれるか? 迎えに行くから。勉強は執務室でしよう。バルド、すまないが実花の部屋まで案内を頼む」
「畏まりました」
「わかりました。それでは殿下、皆様。これで失礼いたします。本日はありがとうございました」
「……いや」
兄や殿下たちに挨拶をし、シェーデルさんにエスコートされながらバルドさんのあとをついていく。アレイさんは兄と殿下に乞われてここに残るので、頭の上にはいない。
『アレイ爺、頼むわよ~』
《それは儂の科白じゃわい》
そんな二人のやりとりを耳にしつつ、その場をあとにした。
「午後から商人が来るからそれまでの間とそのあとは僕と使用人二人でこの世界の常識を、魔法は実花の護衛たちを交えて教えることになっている」
「まだ教えていなかったのか?」
「おいおい、熱で寝込んでいて昨日ようやく起き上がれるようになったばかりなんだぞ? 無理に決まっているだろう?」
「それもそうか……」
私を置き去りにしてそんなことを話す兄と殿下。そんな中、二人がいきなり私を見たので「なんでしょうか?」と首を傾げたら、「魔法に関して質問はないか?」と聞かれた。
「そうですね……魔法の種類を教えていただけますか? 特に、アレイさんやシェーデルさん、殿下が使っていた何もない空間から物を出し入れするものと、お掃除に関する魔法のことが知りたいです」
「確かにそれは必要だな」
「種類を知ってるとあとで説明しやすいし」
殿下と兄の言葉にアレイさんたちや殿下のお付の人も頷いているので、急遽魔法の種類の勉強会が始まった。
この世界に於ける魔法は誰しもが必ず授かる【空間魔法】と【生活魔法】、【属性魔法】と【特殊魔法】と呼ばれる四つの魔法がある。物を出し入れするのは【空間魔法】にあたり、自分だけが作れるものと鞄などに【付与】することで使えるようになるものと二種類あるそうだ。
「ゲームや小説でいうところの、マジックバッグやインベントリと呼ばれるものだな」
「この世界では何と呼ばれているのですか?」
「自分で作り出した空間はインベントリ、付与されたものはマジックバッグだ」
「掃除に使う魔法は【生活魔法】に分類されるんだよ」
「私も使えるのでしょうか」
「【生活魔法】はここに書かれているから、問題なく使えるだろう」
「インベントリも【時空魔法】で作れるし、実花は【付与】もあるからどっちでも大丈夫だろう」
紙の一部を指差して説明してくれる殿下に、「なるほど」と頷く。その読めなかったものは【生活魔法】なのだろう……兄もそれを補足してくれる。メモを取りたいところだけれど、あとでまた文字と一緒に説明するからと兄に言われたので、今は聞いておくだけにする。
それに、インベントリとマジックバッグの両方が使えるのはとても有り難い。今、アレイさんとシェーデルさんのことで考えていることがあるし。どのみちそれは勉強をして、きちんと魔法が使えるようになってからの話だけれど。
【生活魔法】はその名の通り、生活に密着したものの魔法が多いそうだ。掃除だったり、火種を出したり。【属性魔法】に近いものがあるけれどそれらに比べると威力は全くなく、人や魔物に使うことは出来ないらしい。
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この世界の神話や伝説にのみ出てくる【時空】【雷】【氷】【無属性】【白】の五つの魔法は【特殊魔法】と呼ばれるもので、今のところ【白】以外の四つを扱えるのは父と兄だけだそうだ。【白】と【時空】だけとはいえ、私も父や兄同様にそこに加わると思うとうんざりする。
同じ【特殊魔法】の【付与】はマジックバッグや鎧などの武器や防具に付けることができる魔法なので、主にそういったものを作っている人が持つ、職業に付随する魔法らしい。私の職業が【裁縫師】だから、【付与】が使えるのはそのせいだろうと言われた。
王族ですら少なくとも三つの属性魔法しか使えないのに、全属性魔法と特殊魔法……そのうちの四つを扱う父と兄は一目置かれているそうだ。といっても、それを知っているのは王族と国の重鎮たち、宮廷魔導師の団長だけらしい。
そもそもの話、【時空】【雷】【氷】魔法はその原理がわからないと扱えないそうだ。なので、王族や宮廷魔導師長も含め、未だに使える者がいないらしい。【時空】は仕方がないにしても、私も【雷】と【氷】ができるプロセスというか原理はわかるけれど、正直使いたいとは思っていないのでそこは助かっている。……氷は料理や冷たい飲み物を作る時に便利そうではあるが。
「お兄様のリアルチートもここまでくると、ある意味嫌味ですよね」
「【白】と【付与】を扱える実花にだけは言われたくはないな。さすがに僕や親父でも【白】と【付与】は使えないからな?」
「そうは仰いますが、全属性を扱えるお兄様やお父様と違って、私は属性魔法を全く使えないようですけれど?」
「ああ……確かに使えないな。先ほどミカ嬢が読み上げた三つに加えて、【生活魔法】しか使えないようだ」
私と兄の会話を聞いた殿下が、紙を見ながら補足するように教えてくれる。
《ふむ……これは憶測になるんじゃが、【白】が使えるからではないか? 教えれば全属性の魔法を使えるようになるじゃろうが、威力は半分以下になるじゃろう》
『そうね。【白】が使えるなら、そのうち【光】も使えるかも……って言ってる側から……』
《まあ、【光】は【白】の威力を上げてくれるからのう、当然か》
「「「「ああっ!?」」」」
のほほんと話すアレイさんとシェーデルさんが話している側から、魔道具がそのままになっていた紙に新たに【光】が加わると、私以外の四人が声を上げて驚いた。私は何も言えずに黙り込んでしまった。
「……」
《儂がきちんと教えるから、安心せい。どちらも危険な魔法ではないから》
『アタシも教えるし、しっかり護衛するわよ~』
「……ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
アレイさんとシェーデルさんがそんな話をしてくれる。護衛も……ということは、何かあるのだろう。そこはあとでシェーデルさんたちに聞けばいいことだ。
「魔法はこんなものか。ミカ嬢、他にはないか?」
「これと言って特には。まだ勉強すら始めていませんし……」
「そうだな。もし……」
「はい?」
「……いや、なんでもない」
何かを言いかけた殿下に聞き返したけれど、結局何も言わなかった殿下に首を傾げる。何かあれば話してくれるだろうからと紅茶やお菓子のおかわりを勧めようとしたら、ノック音が室内に響いた。兄が返事をするとバルドさんが顔を出した。
「歓談中のところ申し訳ございません。アルジェント様、そろそろ昼食のご用意をしなければならないのですが……」
「もうそんな時間? 話していると時間がたつのが早いな……。グラナート、時間はあるか? 昼食はどうする?」
「時間はある。いただいてもいいか?」
「もちろん。バルド、殿下たちのぶんの用意も頼む。今日は天気がいいし、食堂ではなく東屋に用意してくれるかい?」
「畏まりました」
兄の言葉に返事をしたバルドさんは、お辞儀をするとそのまま退出する。
「そうだ、実花。食事の時に作法をみてあげる」
「そうですね……些か心許ないのでお願いいたします。あと、特殊なお作法はありますか?」
「ないな。カトラリーの順番などもあちらとそう変わらないし」
「それは助かります」
そんな話をしているうちに、用意ができたからとバルドさんが再び顔を出した。外に移動すると言われたので立ち上がる。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
差し出された兄の腕に自分の手を乗せると、ゆっくりと歩き出す。テラスから伸びている階段から外に出られるようだ。まだ足首が痛いから、こうして兄が助けてくれるのは有り難い。【白魔法】で足首の怪我を治せるだろうか……。そこはあとでアレイさんたちに聞くことのしたのだけれど、そこでもう一つ思い出したことがあった。
「お兄様、あとでご相談したいことがあるのです」
「なに?」
「今はちょっと……」
なんの事情も知らない殿下たちに聞かれたくはないし、兄も知られたくはないだろう。それとなく相談したい場所に視線を移せば、兄はそれだけで察したらしく、とても小さな声で「いいよ」と言ってくれたことが嬉しい。
「移動するついでに庭も案内するよ」
「それは楽しみです」
兄の言葉が嬉しい。昨日も今日も一歩も外に出ていないからだ。
そして歩きながらこの世界のことを説明してくれた。
日本と同じように四季があって、今は春であること。
時間も二十四時間で一週間が六日、それが五週で一ヶ月となること。それが十二ヶ月あるという。
ただ、一年は三百六十五日と同じだけれど、神と家族に感謝する特別な期間が五日間あって、その期間中は仕事などをせずに家で家族と過ごすという。お正月のようなものだと説明してくれた。
東屋に行く途中にあった庭に植えられていたのは、色とりどりのこの世界の花だった。薔薇もあったけれど微妙に形が違うし、私の知らない花が多かった。それはまた今度説明してくれるというので、その時にいろいろ聞こうと思う。
「さあ、ついた。ここだよ」
「まあ! 素敵な場所ですね!」
周囲を花や木で囲まれている東屋にはテーブルが二つくっつけられ、そこに料理が並べられている。パンとサラダ、スープを並べている途中だった。カトラリーから察するにメインはお肉のようだが、病み上がりだからなのか私のは魚用になっていた。カトラリーの並びから、ほぼフルコースの様相だ。……そんなにたくさん食べられるだろうか。
そんな私の心配を見越してか、バルドさんがこっそり「お嬢様のぶんは量を少なくするよう、旦那様から仰せつかっております」と言ってくれたので、お礼を言うと微笑んでくれた。
談笑しながら食事をして、食事の作法も問題ないと兄や殿下やお付の人たちにもお墨付きをもらったので、安心する。
「実花、グラナートたちとまだ話があるから、一度部屋に戻っていてくれるか? 迎えに行くから。勉強は執務室でしよう。バルド、すまないが実花の部屋まで案内を頼む」
「畏まりました」
「わかりました。それでは殿下、皆様。これで失礼いたします。本日はありがとうございました」
「……いや」
兄や殿下たちに挨拶をし、シェーデルさんにエスコートされながらバルドさんのあとをついていく。アレイさんは兄と殿下に乞われてここに残るので、頭の上にはいない。
『アレイ爺、頼むわよ~』
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そんな二人のやりとりを耳にしつつ、その場をあとにした。
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