異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮

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婚約編

貴族女性とは案外大変なようです

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 翌日、父と兄の二人ともお城に行ってしまったので、こちらの部屋で過ごすことにした。ただ、最近運動をしていないので庭の散歩でもしようかと扉のところに控えていたアイニさんに聞くと、魔物たち三人とアイニさんを連れていくことを条件に、許可が下りた。

「でしたら、お庭を案内していただけませんか? 先日お兄様に案内していただいたのですけれど、まだ全部は見ていないのです」
「まあ! わたくしでよろしいのですか?」
「はい、アイニさんがいいのです」
「嬉しいですわ。ではご案内させていただきますね。天気がよろしいので、終わったあとは東屋で休憩いたしましょう」
「ありがとうございます」

 裁縫道具をしまい、それを片付けるようにお願いをする。これも侍女たちの仕事だからと父に言われているので、心苦しくはあるけれどお願いした。……お嬢様家業(?)も楽ではないということか。生まれながらのお嬢様ならば、また違ったのだろうけれど。
 昨日、私が向こうに部屋に篭っている間に商人が来たそうで、ドレスが増えていた。その中でライトピンクのドレスを着せられ、移動した。装飾品はブレスレットとピアスのみ。

 外に出ると、ナミルさんが本来の姿になって私の右に並び、アレイさんは私の右肩に、騎士服を着たシェーデルさんが私の左斜め後ろからついてくる。先導して歩きながら、アイニさんが咲いているお花の名前や、季節によって違う花が咲くことを説明してくれた。

「モーントシュタイン家にある花は、一般的なものばかりですわ」

 確かに見せてもらった花は国立庭園やお城の庭で見たものばかりだ。ただ、森にもあったエプレンジュや季節ごとに生る果物を新たに植えたそうなので、実が生ったらそれを使ったお菓子を作ってくださいと言われて苦笑した。もちろん、そこは父と相談してからになるがと伝えたけれど。
 東屋に着いたので休憩し、紅茶を淹れてくれたのでそれを一口飲むとホッと息をはく。出されたお菓子はバタークッキーだった。

「ありがとうどざいます。どちらも美味しいです」

 お礼を言うと、アイニさんが微笑んでくれた。そこでしばらく休憩したあと、家へと戻る。クッションカバーや枕カバーを作っているうちにお昼になり、今日は誰もいないから部屋で食べることを告げた。
 出されたお昼は所謂BLTサンドと玉子サンドとトマトサラダ。シャキシャキのレタスとベーコン、トマトの味がマッチしてとても美味しかった。この世界のトマトはフルーツトマト並みに甘いので、ベーコンの塩気とよくあう。玉子サンドも玉子とマヨネーズのバランスがとても絶妙で、顔が綻ぶ。
 なのであっという間に食べてしまった。もちろん、魔物たちの食事も用意されている。

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「まだ召し上がりますか?」
「もうお腹いっぱいです。料理人さんたちにお礼を言っていただけますか?」
「はい」

 アイニさんといつも一緒にいる侍女がコーヒーを淹れてくれたので、そのお礼を言ったあとでミゲルさんたちに伝言を頼むと笑顔で頷いてくれた。そしてコーヒーを飲んでいる間に食器が片付けられ、午後は裁縫の続きがしたいと伝えると道具などを持って来てくれた。

「何か御座いましたら、お呼びください」
「ありがとうございます」

 呼び鈴をテーブルに置き、アイニさんたちは下がっていった。お掃除などもあるだろうし、他にもやることがあるのだろう。私もお喋りをしながら刺繍をするのは苦手なので、彼女たちの心遣いはとても有り難かった。
 今作っているのはクッションカバーと枕カバーで、父と兄のもの。枕は家で、クッションはお城で使ってもらおうと思っている。
 本体はすでに出来上がっているので、カバーに刺繍をすればいいだけだった。図案は東洋の龍。父と兄の竜体が東洋の龍のように細長く、体色が白いと聞いていたからだ。カバー自体は青いので、空を泳ぐような感じの図案にしている。
 クッションカバーが二つできたころ、バルドさんが顔を出した。時計を見ると三時少し前。職業補正があるからなのか、本当に作業が早いなあと内心苦笑しながらもどうしたのか聞けば、ジークハルト様がいらしたという。

「いつもはどちらのお部屋で歓談されているのですか?」
「アルジェント様のお部屋か応接室、サロンや外の東屋が多いのです」
「お天気がよければ外でもよかったのですけれど……」
「そうですね。先ほどから曇ってまいりましたから、外は止めたほうがよいでしょう」

 どうしよう……と二人で悩んだところでいい案など浮かばず、結局父にも連絡を入れるようにお願いしてからどうしたらいいかと聞けば、バルドさんもシェーデルさんたちも案を出してくれた。

「お嬢様のお部屋はどうでしょうか」
《妥当じゃの》
『そのほうがいいわ。警備の関係上、外よりは安心だもの』
「左様でございます、リュイ様、ルージュ様」

 バルドさんの提案に、アレイさんもシェーデルさんも頷いている。そしてナミルさんも。

「そうですか……。確か、二人きりの場合は、あらぬ噂を立てられないよう扉を開けておけばよかったのでしたよね?」
「はい。ただ、殿下はそのようなことはなさらないでしょうし、旦那様からも殿下ならばお嬢様のお部屋にお通ししてよいと仰せでした。それに、私どもも控えておりますので」
「お父様ったら……。ありがとうございます、バルドさん。では、そのように手配をしていただけますか? あと、ドレスはこれで大丈夫でしょうか」
「大丈夫でございますよ」

 まだまだ常識が備わっていないからバルドさんたちに聞くしかないのだけれど、どうもモーントシュタイン家の使用人たちは私が質問することが嬉しいようで、何か質問するたびにニコニコと笑顔を浮かべて教えてくれる。
 ……本当に、一体私は何歳に見られているのだろうか……。

 それはともかく、侍女に裁縫道具を片付けてもらい、バルドさんにお茶とお菓子の用意をお願いする。その間に侍女たちが私のドレスの形を直したり、髪型を変えたりしていた。今日は首の後ろで一纏めにしていただけだったのを、それをほどいて途中まで編込みにし、また首の後ろで一纏めにしてくれた。
 起用だなぁ、と思いながらそれを眺めていたら廊下がざわついてきたので、席を立ってジークハルト様を待つ。扉がノックされ、アイニさんが受け答えをしている。部屋に入れていいという意味で頷くと、扉が開けられた。先導しているのはバルドさんのようで、バルドさんに促されてジークハルト様が顔を出した。

「いらっしゃいませ、グラナート殿下」
「ミカ嬢も息災で何よりだ」

 スカートを摘んでお辞儀をしてからそんな言葉を交わし、ジークハルト様に先に席に着いてもらうと、私も席に着く。アレイさんたちは魔物姿で、シェーデルさんが私の後ろ、窓には本来の姿になっているナミルさんがいて、アレイさんは私の横にいる。大きな躰のナミルさんを見たジークハルト様は、心なしか苦笑していた。
 そして紅茶やお菓子を配り終えたバルドさんが扉付近に控えてくれているので、扉は閉められている。

「今日はどうされたのですか?」
「昨日の礼を言いに来た。手紙でもよかったのだが、どうしても直接言いたくてな。ありがとう、ミカ嬢。手紙も菓子も嬉しかった」
「それはよかったです。汚い字で申し訳なく……」
「そんなことはないぞ? それにきちんと勉強していると感じた」

 微笑みを浮かべ、優雅に紅茶を飲みながらきちんと評価をしてくれるジークハルト様に嬉しくなる。もっと頑張ろうと思えてくる。
 雑談しつつも勉強の進捗状況を聞かれたのでそれに答え、「何かあったら聞いてくれ」と言ってくれたので、聞くことを忘れていた草蜘蛛グラス・スパイダーとはどのような魔物なのか聞いてみた。

 草蜘蛛グラス・スパイダーは草原や低木、野菜や果物の木などに棲みついている蜘蛛で、アレイさんの半分以下よりも小さくて色ももっと薄い蜘蛛だそうだ。野菜や果物につく害虫を食べてくれる蜘蛛――所謂益虫で、人と共存しているのだとか。蜘蛛糸を得るために飼育している地域もあり、その領地の特産物にもなっているそうだ。
 モーントシュタイン領や他の領地にもたくさんいるそうだけれど、産業として蜘蛛糸を集めたりはしていないうえに採取禁止になっているらしい。だが飼育されているものよりも野生の糸のほうが等級が上がるらしく、密かに蜘蛛の巣を取りにくる冒険者がいて、禁止区域に指定されている領地の領民や領主も頭を悩ませているそうだ。

「尤も、冒険者カードはどこで採取したかわかるようになっているからな。禁止区域で採取した糸は冒険者ギルドでも商業ギルドでも買い取ってくれないうえ、ギルドランクが下がったり罰則を受けたりするから、密猟紛いのことをする冒険者は減っている。まあ、禁止区域に来て採取する者は冒険者になりたての者が多いから、ある意味篩にかけられているのだろう」

 ギルドにはどこで何が採取できるか地図などが書かれており、そこには禁止区域も書いてあるそうだ。きちんと勉強をすれば回避できることであり、それを怠るなということなのだろう。そしてそれは商人にも言えることで、密猟して来た蜘蛛糸を買うと罰せられたうえ、二度と商売ができなくなるのだという。
 蜘蛛糸は闇商人ですら買わないというのだから、相当厳しく罰せられるということなのだろう。
 ちなみに採取禁止区域は一定期間で変わるそうだ。なので、「あそこの領地ばかりずるい!」という話にはならないらしい。

「ミカ嬢と話していると時間が過ぎるのが早くていかんな……」

 ジークハルト様が懐から出した懐中時計を見る。既に一時間以上話していたことになる。「また近いうちに会おう」と仰ったジークハルト様は、そのまま帰って行った。


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