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婚約編
王子妃教育のようです
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「おはようございます。本日はよろしくお願いいたします」
月初の朝。目の前には王太后様と王太后様付きの女官がいて、お二人にスカートを摘んで挨拶をするとお二人は感心したような顔をしたあと、笑顔を浮かべて頷いた。そういう顔をしたということは、王族から見ても合格なのだろうと胸を撫で下ろす。
月末までの五日間は、父と一緒に父の仕事を手伝った。兄はジークハルト様の仕事を手伝っているそうで、いなかったのだ。
「実花が手伝ってくれるから助かる」
と父が嬉しそうに笑う。いつもは同じ財務の文官が手伝ってくれるそうなのだけれど、今回は書類を期限ギリギリに、しかもその日が締切という日に持って来た部署があったとかで、そちらに回ってもらったのだそうだ。
「全く……何回言えばわかるようになるのか」
と、父は額に青筋をたてながら怒っていた。「今度ギリギリに持って来たら宰相と陛下に奏上する」とおど……いえ、叱り飛ばしたそうなので、大丈夫だろうと言っていた。特に宰相様に話が行くとなると、相当まずい状況らしい。
そんな父の様子に内心苦笑しつつ、王子妃教育の話を聞かされたのが三日前だった。王太后様には義足のことも話していて、「嫡男を護っての怪我であれば、問題はない。天晴れだ」とお言葉をくださったそうだ。
教育の時間は主に午前中で、マナー、ダンスを中心に見てくださるという話だった。言葉に関しても教えてくださるそうだけれど、私の場合は話せるので、「文字の勉強が中心になるだろう」と父が予想を立てていた。
そしてジークハルト様の執務の手伝いは、王子妃教育の期間が終わってから、ということになったそうだ。その期間中は午前中は王子妃教育、午後は父の執務の手伝いをすることになっている。
それはともかく。
「ミカ様は本当に勉強をされたのは最近なのですか? わたくしが思っていた以上にマナーができていますね。シエラはどう思いますか?」
「王太后様の仰る通りです。これならば教えることは何もございません」
「ありがとうございます。頑張ってこれたのは、一重に我が家の侍女長や執事長の教育の賜物です」
「ミカ様の頑張りもあったと思いますよ?」
「そう仰っていただけると私も嬉しいのですが、褒めてくださるのであれば、我が家の侍女長と執事長を褒めていただきとうございます」
確かに私も努力はしたけれど、わかりやすく説明してくれたのは、アイニさんとバルドさんだ。だからこそ、お二人には感謝する。
「そうですか……。ミカ様は使用人を大事にするのですね」
「他の方がどうお考えなのかわかりかねますけれど、私は何も知りませんし、今も文字を教わっているような状態です。ですので大事にいたしますし感謝もします。母を幼いころに亡くしていますから、余計にそう思うのでしょう」
「そうでしたね。さて……マナーは合格、言葉も問題ありません」
「ダンスも、陛下や王太后様からお聞きした限り、問題ないかと」
「え……」
王太后様と女官の方の言葉に驚く。まさか太鼓判を押されるとは思っていなかったのだ。それでも一応ダンスを披露して見せてと言うのでダンス教師と一曲踊ったのだけれど、教師からも王太后様たちからも「これならば大丈夫だ」とお墨付きをもらったので安心した。
「あと教えるとしたら何がいいかしらね……。ミカ様、何かあるかしら」
「それでしたら、文字を教えていただきたいのです。最近になってようやく絵本と児童書を卒業し、今はこの国の歴史を学ぼうと分厚い歴史書を読んでいるのですが、難しくて……」
「あらあら。いきなり分厚い歴史書は無謀ですわね。そうねえ……これなんかどうかしら」
王太后様の言葉に、少々凹む。どうやらいきなり分厚い歴史書というのは駄目だったようだ。
テーブルの上に乗せられていたものの中から一冊の本を取り出すと、王太后様はそれを私に渡してくれた。表紙を見る限り、歴史書のようだった。
「歴史書、でしょうか」
「正解よ。これは一般にも出回っている歴史書で、大まかに書かれているものなの。文字の勉強ならば、これでも大丈夫でしょう」
「お借りしてもいいのでしょうか」
「いいわ。一日十ページ読んで来てちょうだい。その中でわからない文字があったら教えてくださるかしら。歴史と一緒に文字もお教えいたしますわ。段階を踏んで、文字を難しくしていきましょうね」
「ありがとうございます」
まさか文字の勉強が中心になるとは思わなかった。まあ、ざっと読んだ限りこの国の歴史は面白そうだったから、非常に助かる。
今ここで読んでいいか聞くと構わないと仰ってくださったので、紙とペンをお願いしてから約束の十ページを読み進めることにした。この中でさえわからない文字があったので、それを紙に書き出して行く。そして読み終わり、読めない文字の読み方を教わり、読んだページの中から歴史について質問され、それに答えて行く。
途中で休憩を挟み、ついでだからと紅茶の種類を教わったりしながらそれを繰り返して行く。そんなことをしている間にお昼になってしまった。
「あらまあ……。もうお昼ですのね。ミカ様、よろしければお昼も一緒にどうかしら」
「私でよろしければ。料理についても教えていただけますか?」
「ふふ……勉強熱心ね。ええ、もちろん構わないわ」
コロコロと笑いながら承諾してくれた王太后様に、お心が広い方なのだと思って安堵する。母に教わったことはあまりないから、実際は違うだろうけれど、母と同年代であろう女性からいろいろな話を教わるのはとても楽しい。それにこの国の料理を聞いたり王宮で出される料理を教えてもらうのも楽しみではあった。
歴史についてわからなかったことを質問しているうちに料理が運ばれて来た。女官の説明によると、今日は白身魚のムニエルと白パン、コールスローサラダに似た物だった。スープはオニオンスープのようで、玉ねぎが入っている。これにフランスパンとチーズが乗っていれば完璧なのにと思いつつ、いただきますをして食べ始める。
「とても美味しいです」
「そう、よかったわ。スープはどうかしら? ミカ様のお口に合うかしら?」
「はい。とても美味しいです。贅沢を言うのであれば、固めのパンを浸して、その上にチーズを乗せたいところです」
「まあ! ミカ様の国にはそのような食べ方があるのかしら?」
「はい。チーズを少し焦がすとコクが出てまた違った味わいになるのです」
「そう……。シエラ、固めのパンとチーズを持って来てくれないかしら。わたくしも試してみたいですわ」
「畏まりました」
「え、王太后様?!」
まさかオニオンスープのアレンジを試してみたいと仰るとは思わず、焦ってしまう。
「ふふ……わたくしも食べることが好きなのですわ。先日いただいたお菓子もとても美味しかったの。特にエプレンジュのお菓子は衝撃的でしたわ。また作ってくれるかしら?」
「我が家の料理人の手でなくてもよろしいのでしょうか」
「ミカ様がお作りになったのですってね、あのお菓子は。わたくしはミカ様が作ったものが食べたいわ」
「……私のお手製でよければ。父と相談してからとなりますが、作り方も必要でしたら仰ってください」
「まあ、いいの?! ぜひ教えていただきたいわ!」
お菓子の種類が少ないから、国外からお客様が来た時や茶会に出す時に助かるという。クッキーですらあまり見かけないお菓子だそうなので、それも教えてほしいと王太后様は懇願する。それも父と相談してからと言うと、「ではわたくしからお願いしてみますわ」と、楽しそうに話していた。その様子からすると、多分実践も含まれるのだろうと思うと、少しだけ遠い目になってしまうのは仕方がない。
そこにパンとチーズを持って来た女官が戻って来て、やり方を教えながら実践する。王太后様に断ってから【生活魔法】のとても小さい火を出し、チーズを炙る。
「こうしていただくのですが……チーズを炙るのは私がやりましょうか?」
「ふふ、お願いできるかしら」
「畏まりました」
そしてパンとチーズを入れてからチーズを炙り、できたら王太后様の前に差し出す。念のため女官に毒消しの魔法をかけてもらってから食べてもらったところ、一口食べてから目を瞠った王太后様は、頬を薄く染めて微笑んだ。
「まあ……! なんて濃厚な味わいかしら! シエラも味見してみる?」
え、王太后様ってばそんなことするの?! と思っている間に、女官は苦笑しつつも一口スープを啜り、同じように目を瞠った。そして何か考えると、私に視線を向ける。その真剣な眼差しに何を言われるかわからなくて、自然と背筋が伸びる。
「ミカ様」
「はっ、はいっ」
「これを王宮でお出ししてもよろしいでしょうか?」
「へ……?」
お嬢様としては失格であろう、間抜けな言葉が出る。まさかそんなことを聞かれるとは思ってもみなかったのだ。もちろんこれはアレンジだし、材料もこちらにあるものなので頷く。
「は、はい。構いません。ただ、あとでモーントシュタイン侯爵である父に報告しなければなりませんが……それでいいでしょうか」
「報告でしたら、わたくしからさせていただきますわ」
「申し訳ありません。お願いしてもいいでしょうか」
「ええ」
にっこりと微笑んだ女官が父に報告してくれると言うのでそれに頷いた。というか、こういったアレンジはしないのだろうか……。あとで父になんと言われるかわからないのが怖いけれど、怒られたら怒られたでいいかと半ば自棄になる。そんな私の内心を知ってか知らずか、女官は「早速報告して参ります」と言って部屋から出て行ってしまった。
「あらあら、シエラがあのように言うなんて珍しいわ。よほど美味しかったのねぇ」
「……今更なのですが、本当によかったのでしょうか」
「ふふ、いいのよ。モーントシュタイン家では珍しい料理が出てくると貴族の間では噂になっているの。その料理を食べられただけでも嬉しいわ」
王太后様の言葉に、内心「やっちまった!」と思ったものの、後の祭り。のちに「特に隠しているわけではないから構わない」と父から言われて安心するものの、この時ばかりは凹んでいた。
食事も終わり、今日の勉強は終わりとなった。本をお借りして、家に同じのがないか探すことにし、あったらこの本を返してなかったら兄か父に買ってもらおうと決める。
そして午後の鐘が鳴る三十分前にジークハルト様が迎えに来た。王太后様がいる一角は王族しか入れない区画にあるらしく、私のように勉強に来る者や約束がないと入れない場所にあるそうだ。なので、婚約者であるジークハルト様が直々に迎えに来てくださったのだ。
「ミカ、迎えに来た」
「あら、もうそんな時間ですのね。グラナート、くれぐれも無理をさせて早く歩いてはいけませんよ?」
「わかっていますよ、母上」
王太后様とジークハルト様が挨拶を交わし、そのあと私にも挨拶をしてくれるジークハルト様。教えてくださったお二人にお礼を言い、礼をしてから部屋を出ると、ジークハルト様は私をエスコートしながら父の執務室へと向かった。
月初の朝。目の前には王太后様と王太后様付きの女官がいて、お二人にスカートを摘んで挨拶をするとお二人は感心したような顔をしたあと、笑顔を浮かべて頷いた。そういう顔をしたということは、王族から見ても合格なのだろうと胸を撫で下ろす。
月末までの五日間は、父と一緒に父の仕事を手伝った。兄はジークハルト様の仕事を手伝っているそうで、いなかったのだ。
「実花が手伝ってくれるから助かる」
と父が嬉しそうに笑う。いつもは同じ財務の文官が手伝ってくれるそうなのだけれど、今回は書類を期限ギリギリに、しかもその日が締切という日に持って来た部署があったとかで、そちらに回ってもらったのだそうだ。
「全く……何回言えばわかるようになるのか」
と、父は額に青筋をたてながら怒っていた。「今度ギリギリに持って来たら宰相と陛下に奏上する」とおど……いえ、叱り飛ばしたそうなので、大丈夫だろうと言っていた。特に宰相様に話が行くとなると、相当まずい状況らしい。
そんな父の様子に内心苦笑しつつ、王子妃教育の話を聞かされたのが三日前だった。王太后様には義足のことも話していて、「嫡男を護っての怪我であれば、問題はない。天晴れだ」とお言葉をくださったそうだ。
教育の時間は主に午前中で、マナー、ダンスを中心に見てくださるという話だった。言葉に関しても教えてくださるそうだけれど、私の場合は話せるので、「文字の勉強が中心になるだろう」と父が予想を立てていた。
そしてジークハルト様の執務の手伝いは、王子妃教育の期間が終わってから、ということになったそうだ。その期間中は午前中は王子妃教育、午後は父の執務の手伝いをすることになっている。
それはともかく。
「ミカ様は本当に勉強をされたのは最近なのですか? わたくしが思っていた以上にマナーができていますね。シエラはどう思いますか?」
「王太后様の仰る通りです。これならば教えることは何もございません」
「ありがとうございます。頑張ってこれたのは、一重に我が家の侍女長や執事長の教育の賜物です」
「ミカ様の頑張りもあったと思いますよ?」
「そう仰っていただけると私も嬉しいのですが、褒めてくださるのであれば、我が家の侍女長と執事長を褒めていただきとうございます」
確かに私も努力はしたけれど、わかりやすく説明してくれたのは、アイニさんとバルドさんだ。だからこそ、お二人には感謝する。
「そうですか……。ミカ様は使用人を大事にするのですね」
「他の方がどうお考えなのかわかりかねますけれど、私は何も知りませんし、今も文字を教わっているような状態です。ですので大事にいたしますし感謝もします。母を幼いころに亡くしていますから、余計にそう思うのでしょう」
「そうでしたね。さて……マナーは合格、言葉も問題ありません」
「ダンスも、陛下や王太后様からお聞きした限り、問題ないかと」
「え……」
王太后様と女官の方の言葉に驚く。まさか太鼓判を押されるとは思っていなかったのだ。それでも一応ダンスを披露して見せてと言うのでダンス教師と一曲踊ったのだけれど、教師からも王太后様たちからも「これならば大丈夫だ」とお墨付きをもらったので安心した。
「あと教えるとしたら何がいいかしらね……。ミカ様、何かあるかしら」
「それでしたら、文字を教えていただきたいのです。最近になってようやく絵本と児童書を卒業し、今はこの国の歴史を学ぼうと分厚い歴史書を読んでいるのですが、難しくて……」
「あらあら。いきなり分厚い歴史書は無謀ですわね。そうねえ……これなんかどうかしら」
王太后様の言葉に、少々凹む。どうやらいきなり分厚い歴史書というのは駄目だったようだ。
テーブルの上に乗せられていたものの中から一冊の本を取り出すと、王太后様はそれを私に渡してくれた。表紙を見る限り、歴史書のようだった。
「歴史書、でしょうか」
「正解よ。これは一般にも出回っている歴史書で、大まかに書かれているものなの。文字の勉強ならば、これでも大丈夫でしょう」
「お借りしてもいいのでしょうか」
「いいわ。一日十ページ読んで来てちょうだい。その中でわからない文字があったら教えてくださるかしら。歴史と一緒に文字もお教えいたしますわ。段階を踏んで、文字を難しくしていきましょうね」
「ありがとうございます」
まさか文字の勉強が中心になるとは思わなかった。まあ、ざっと読んだ限りこの国の歴史は面白そうだったから、非常に助かる。
今ここで読んでいいか聞くと構わないと仰ってくださったので、紙とペンをお願いしてから約束の十ページを読み進めることにした。この中でさえわからない文字があったので、それを紙に書き出して行く。そして読み終わり、読めない文字の読み方を教わり、読んだページの中から歴史について質問され、それに答えて行く。
途中で休憩を挟み、ついでだからと紅茶の種類を教わったりしながらそれを繰り返して行く。そんなことをしている間にお昼になってしまった。
「あらまあ……。もうお昼ですのね。ミカ様、よろしければお昼も一緒にどうかしら」
「私でよろしければ。料理についても教えていただけますか?」
「ふふ……勉強熱心ね。ええ、もちろん構わないわ」
コロコロと笑いながら承諾してくれた王太后様に、お心が広い方なのだと思って安堵する。母に教わったことはあまりないから、実際は違うだろうけれど、母と同年代であろう女性からいろいろな話を教わるのはとても楽しい。それにこの国の料理を聞いたり王宮で出される料理を教えてもらうのも楽しみではあった。
歴史についてわからなかったことを質問しているうちに料理が運ばれて来た。女官の説明によると、今日は白身魚のムニエルと白パン、コールスローサラダに似た物だった。スープはオニオンスープのようで、玉ねぎが入っている。これにフランスパンとチーズが乗っていれば完璧なのにと思いつつ、いただきますをして食べ始める。
「とても美味しいです」
「そう、よかったわ。スープはどうかしら? ミカ様のお口に合うかしら?」
「はい。とても美味しいです。贅沢を言うのであれば、固めのパンを浸して、その上にチーズを乗せたいところです」
「まあ! ミカ様の国にはそのような食べ方があるのかしら?」
「はい。チーズを少し焦がすとコクが出てまた違った味わいになるのです」
「そう……。シエラ、固めのパンとチーズを持って来てくれないかしら。わたくしも試してみたいですわ」
「畏まりました」
「え、王太后様?!」
まさかオニオンスープのアレンジを試してみたいと仰るとは思わず、焦ってしまう。
「ふふ……わたくしも食べることが好きなのですわ。先日いただいたお菓子もとても美味しかったの。特にエプレンジュのお菓子は衝撃的でしたわ。また作ってくれるかしら?」
「我が家の料理人の手でなくてもよろしいのでしょうか」
「ミカ様がお作りになったのですってね、あのお菓子は。わたくしはミカ様が作ったものが食べたいわ」
「……私のお手製でよければ。父と相談してからとなりますが、作り方も必要でしたら仰ってください」
「まあ、いいの?! ぜひ教えていただきたいわ!」
お菓子の種類が少ないから、国外からお客様が来た時や茶会に出す時に助かるという。クッキーですらあまり見かけないお菓子だそうなので、それも教えてほしいと王太后様は懇願する。それも父と相談してからと言うと、「ではわたくしからお願いしてみますわ」と、楽しそうに話していた。その様子からすると、多分実践も含まれるのだろうと思うと、少しだけ遠い目になってしまうのは仕方がない。
そこにパンとチーズを持って来た女官が戻って来て、やり方を教えながら実践する。王太后様に断ってから【生活魔法】のとても小さい火を出し、チーズを炙る。
「こうしていただくのですが……チーズを炙るのは私がやりましょうか?」
「ふふ、お願いできるかしら」
「畏まりました」
そしてパンとチーズを入れてからチーズを炙り、できたら王太后様の前に差し出す。念のため女官に毒消しの魔法をかけてもらってから食べてもらったところ、一口食べてから目を瞠った王太后様は、頬を薄く染めて微笑んだ。
「まあ……! なんて濃厚な味わいかしら! シエラも味見してみる?」
え、王太后様ってばそんなことするの?! と思っている間に、女官は苦笑しつつも一口スープを啜り、同じように目を瞠った。そして何か考えると、私に視線を向ける。その真剣な眼差しに何を言われるかわからなくて、自然と背筋が伸びる。
「ミカ様」
「はっ、はいっ」
「これを王宮でお出ししてもよろしいでしょうか?」
「へ……?」
お嬢様としては失格であろう、間抜けな言葉が出る。まさかそんなことを聞かれるとは思ってもみなかったのだ。もちろんこれはアレンジだし、材料もこちらにあるものなので頷く。
「は、はい。構いません。ただ、あとでモーントシュタイン侯爵である父に報告しなければなりませんが……それでいいでしょうか」
「報告でしたら、わたくしからさせていただきますわ」
「申し訳ありません。お願いしてもいいでしょうか」
「ええ」
にっこりと微笑んだ女官が父に報告してくれると言うのでそれに頷いた。というか、こういったアレンジはしないのだろうか……。あとで父になんと言われるかわからないのが怖いけれど、怒られたら怒られたでいいかと半ば自棄になる。そんな私の内心を知ってか知らずか、女官は「早速報告して参ります」と言って部屋から出て行ってしまった。
「あらあら、シエラがあのように言うなんて珍しいわ。よほど美味しかったのねぇ」
「……今更なのですが、本当によかったのでしょうか」
「ふふ、いいのよ。モーントシュタイン家では珍しい料理が出てくると貴族の間では噂になっているの。その料理を食べられただけでも嬉しいわ」
王太后様の言葉に、内心「やっちまった!」と思ったものの、後の祭り。のちに「特に隠しているわけではないから構わない」と父から言われて安心するものの、この時ばかりは凹んでいた。
食事も終わり、今日の勉強は終わりとなった。本をお借りして、家に同じのがないか探すことにし、あったらこの本を返してなかったら兄か父に買ってもらおうと決める。
そして午後の鐘が鳴る三十分前にジークハルト様が迎えに来た。王太后様がいる一角は王族しか入れない区画にあるらしく、私のように勉強に来る者や約束がないと入れない場所にあるそうだ。なので、婚約者であるジークハルト様が直々に迎えに来てくださったのだ。
「ミカ、迎えに来た」
「あら、もうそんな時間ですのね。グラナート、くれぐれも無理をさせて早く歩いてはいけませんよ?」
「わかっていますよ、母上」
王太后様とジークハルト様が挨拶を交わし、そのあと私にも挨拶をしてくれるジークハルト様。教えてくださったお二人にお礼を言い、礼をしてから部屋を出ると、ジークハルト様は私をエスコートしながら父の執務室へと向かった。
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