落ちてきた神様は、捨て子じゃありません! ちょっと“学び直し”に出されただけ。

香樹 詩

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第8話 このパンは誰のもの?

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「おぉ、焼けたのかのぅ?」
魚の香ばしい匂いが、白い煙に乗って鼻腔をくすぐった。
身を乗り出すように焚き火に近づいたディセルネを、ヤーナが服の裾を引っ張って制止する。

『やけどするよ、ディセルネ』
 
「ヤーナくん、偉いね。ディーちゃんが火に近づきすぎないように守ってるんだね」
シェリールはそっと神獣の頭に手を伸ばして、優しく撫でた。
 
『当たり前のことさ。ディセルネは危なっかしいからな』
ちょこんとお座りして、しっぽをパタパタさせるヤーナ。

『ヤーナ、其方も仔犬扱いを受け入れたのじゃな』
『ちがう!俺は賢いから、その場に応じた対応ができるだけだ』
『そうなのかぇ?妾には、仔犬が褒められて喜んでるようにしか見えんがのぅ』
『ちがうって!』
ディセルネの足元に飛びつくヤーナ。

「ほら、火のそばで暴れたら危ないよ。遊ぶなら、ちょっと離れたところで、遊んでおいで。
でももう暗いから、湖に落ちないように気をつけてよ」

あたりは藍色に染まり、砂金を散りばめたような夜空が広がっている。
昼間の輝く水面も、今は静かに月の光を湖面に映し出していた。時折柔らかい風が吹いて、月の輪郭を揺らす。

「シェリール、妾たちは別に遊んでおらん」
『俺も遊んでるわけじゃないぞ』
 
パチパチっと、火の中の木や枯れ葉が爆ぜる音がする。
少し強めの風が吹いて、白い煙がディセルネに迫ってきた。
「うわぁ、なんじゃ……、目が染みるぞよ……」
ヤーナがさっとディセルネの服の裾を引っ張って、風上へと連れて行く。

そんな二人の様子を見ていたシェリールは、驚いたように眉を上げた。
「ヤーナくん、すごいね君。なんだか、ディーちゃんのお兄さんみたいだね」

ふんっと鼻を鳴らしてシェリールを見やるヤーナは、どこか得意気。

「ヤーナは妾が誕生した時から、ずっと一緒じゃな。
……妾は、ヤーナがいてくれて心強いぞよ。
ありがとう、ヤーナ」
白いモコモコの神獣を、キュッと抱きしめて笑いかけたディセルネ。

『あぁ、ずっと一緒だ。これからもな』
ヤーナがディセルネの頬をペロっと舐める様子に、目を細めてシェリールは見守っていた。

「ぐぅぅ」
そんな微笑ましい場を笑いに変えるほどに響いた、ディセルネのお腹の音。

「おぉ、妾の腹が魚を呼んどる」
口調は普段通りの彼女だが、その耳はうっすらと赤みを帯びていた。
 
「さぁ、焼けたよ。熱いから気をつけて食べようね。ディーちゃんも、ヤーナくんも先に骨を取るから少し待っててね」
焚き火から焼けた魚を取り出して、木製のお皿に身をほぐし始めたシェリール。

「はい、どうぞ。パンが一つあったから、ディーちゃんとヤーナくんで、半分こね」
魚の身とパンを乗せたお皿を、ディセルネとヤーナの前に置いた彼。

「さぁ、食べよう」
シェリールは二人に食事を促すと、自分も串に刺さった魚を手に食べ始めた。

――――このパンは、シェリールの持っていたものじゃ。
妾とヤーナに渡してしまったら、シェリールの分がなくなる。
この魚も、シェリールが獲ったもの……。
妾がもろうても、よいのか……?
ここは天界じゃない、それに今の妾には神の力もない……。

食事に手をつけないディセルネに、シェリールが尋ねた。
「ディーちゃん、どうしたの?」

「……このパンは、シェリールのじゃろ?
妾がもろうたら、其方の食べる分がなくなるぞよ……」

「ディーちゃんが食べていいんだよ。僕はそんなにお腹減ってないから、心配しなくていいよ」
 
優しく笑うシェリールと、パンを交互に見つめるディセルネ。
 
「おぉ、そうじゃ」
目の前のお皿に手を伸ばして、おもむろにパンを掴む。
小さな手で必死にちぎると、シェリールに差し出した。
 
「妾と半分こじゃ」

*****

ここは天界、水鏡の前――――
 
「おぉ!ディセルネが……」
言葉につまる創造神デウス。
「あの……あのディセルネが……」
大きく目を見開くアース。
「……ディセルネ」
声を震わすセレナ。
あまりの衝撃に、しばらく動けなかった神様方だったのでした。
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