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ナイトプールでナンパしてきた男と恋人になったら体の相性が良すぎて日常生活に支障をきたして困っている話
4話
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「あああ……松田さん、本当にすみません、ごめんなさい……」
体が資本のケータのために用意された移動車。
後部座席のシートの座り心地は最高で、朝から頭を抱える海斗を優しく包みこんでくれた。
「いいんですよ。海斗さん。本当にお気になさらず。ケイさんに海斗さんを大学までお送りするように、と言われたらそうするのが私の仕事です」
ケータのマネージャーである松田は淡々としながらもどこか優しさを感じる声で運転席からそう言った。
これでは昨日と殆ど同じ状況だ。
「いえ。それはおかしいです。仕事に関すること以外はケータに従う必要はないはずです。信じていただけないかもしれませんが、今日はちゃんと早起きして自力で行くつもりで……っ」
「海斗さんがそのつもりだったこともわかっていますよ。でもケイさんが無理をしたから思うとおりにできなかったことも」
松田はそう言うと助手席に置いていたコーヒーショップの紙袋をそっと海斗に渡した。
「こんなにしてもらうわけにはいきません」
袋の中にはやたらめったらお洒落なサンドイッチと温かい飲み物が入っていた。
「ケータさんから頼まれたものです。私の自腹ではありませんので、お気になさらず」
折角買ってきてくれたものを意固地に突き返すのも申し訳ないと思い海斗は袋をそっと膝に乗せた。
松田はケータが無理をしたからだ、と言った。
確かにケータは毎晩のように強引に迫ってくる。
だが、海斗だって満更でもないのだ。
いやそれどころか、彼に触れられて嬉しいと思っている。
抱きしめられると気持ち良くて、体の奥深くに受け入れると彼が愛おしくて、もうそれ以外何もいらないと思ってしまう。
抱かれている最中はレポートも授業も全部どうなってもいいとまで思ってしまう。
こんなにも欲に甘い自分がいるなどとは思わなかった。
昨夜だって結局最後にはもっとしてほしいと脚を開くのは海斗だったし、明け方彼の腕の中で目が覚めたとき無意識に彼に甘えて体を押し付けてしまい早朝からケータを誘ってしまったのは海斗だった。
だからケータ一人のせいにするのは間違っている。
海斗自身だって共犯なのだ。
そしてこのまま欲に溺れてしまったら、この恋が終わったときに自分で学ぼうと思ったことも修得することができない、ぐずぐずのどうしようもない惨めな男が一人残るだけだ。
そこまで考えて海斗は重苦しい溜息を吐きながら、少し前のことをゆっくりと振り返った。
あのナイトプールで声を掛けられたことから始まった恋。
ケータは声を掛けたいと思ったのは海斗が初めてだし、これからは誰にも声を掛けることはないと言った。
つまりナンパしたのは海斗だけだということ。
だけど。
『お兄さん、一人ぃ?』
そう言って海斗に声を掛けてきたあの夜。
ケータの甘ったるい声と衝撃的なほどに美しい姿は海斗の脳裏に焼き付いている。
『ナンパなんてうみが初めてだよ。うみが綺麗に泳いでプールから出たときの表情を見たとき、絶対に逃がしちゃいけない人だって、ピンときた。俺そういう勘絶対外さないから。あと今後うみみたいな人はもう現れないのもわかるから、ナンパなんて俺がするのは後にも先にもうみだけ』
ケータがいくらそう言ってくれても、あの夜の彼の美しい姿と声を思い出すと、とても慣れているように感じられて信じることができないのだ。
短い付き合いでもケータは美しいだけでなく頭がとてもいいし、実は案外思慮深いということも分かってはいる。
でもどんなに頭が良くても人の出会いなんて予測できるものではない。
今後海斗より魅力的な人物が現れたら、ケータはその人にきっと声を掛ける。
海斗に迷わず声を掛けてきたように。
そして海斗より魅力的な人間なんてそこら中に溢れている。
そうなったとき、海斗はどうなるのだろう。
想像するだけでぞっして、海斗は身を震わせた。
いつ如何なるときでも結局助けてくれるのは自分の能力以外に他はない。
だから、ちゃんと自分の力でやらなければならないことと向き合っていかなくてはならないのだ。
それなのに、今の海斗の状況ときたら、魅力的な恋人にだらしなく夢中になって、しなければならないことを疎かにしている。
今夜こそは誘惑に負けない。
言い訳しない。
ケータの家に何だかんだと理由を付けて行ってしまうのがいけないのだ。
課題は自分のアパートで済ますこと。
海斗は指先が白くなるほど自分の手を握りしめた。
体が資本のケータのために用意された移動車。
後部座席のシートの座り心地は最高で、朝から頭を抱える海斗を優しく包みこんでくれた。
「いいんですよ。海斗さん。本当にお気になさらず。ケイさんに海斗さんを大学までお送りするように、と言われたらそうするのが私の仕事です」
ケータのマネージャーである松田は淡々としながらもどこか優しさを感じる声で運転席からそう言った。
これでは昨日と殆ど同じ状況だ。
「いえ。それはおかしいです。仕事に関すること以外はケータに従う必要はないはずです。信じていただけないかもしれませんが、今日はちゃんと早起きして自力で行くつもりで……っ」
「海斗さんがそのつもりだったこともわかっていますよ。でもケイさんが無理をしたから思うとおりにできなかったことも」
松田はそう言うと助手席に置いていたコーヒーショップの紙袋をそっと海斗に渡した。
「こんなにしてもらうわけにはいきません」
袋の中にはやたらめったらお洒落なサンドイッチと温かい飲み物が入っていた。
「ケータさんから頼まれたものです。私の自腹ではありませんので、お気になさらず」
折角買ってきてくれたものを意固地に突き返すのも申し訳ないと思い海斗は袋をそっと膝に乗せた。
松田はケータが無理をしたからだ、と言った。
確かにケータは毎晩のように強引に迫ってくる。
だが、海斗だって満更でもないのだ。
いやそれどころか、彼に触れられて嬉しいと思っている。
抱きしめられると気持ち良くて、体の奥深くに受け入れると彼が愛おしくて、もうそれ以外何もいらないと思ってしまう。
抱かれている最中はレポートも授業も全部どうなってもいいとまで思ってしまう。
こんなにも欲に甘い自分がいるなどとは思わなかった。
昨夜だって結局最後にはもっとしてほしいと脚を開くのは海斗だったし、明け方彼の腕の中で目が覚めたとき無意識に彼に甘えて体を押し付けてしまい早朝からケータを誘ってしまったのは海斗だった。
だからケータ一人のせいにするのは間違っている。
海斗自身だって共犯なのだ。
そしてこのまま欲に溺れてしまったら、この恋が終わったときに自分で学ぼうと思ったことも修得することができない、ぐずぐずのどうしようもない惨めな男が一人残るだけだ。
そこまで考えて海斗は重苦しい溜息を吐きながら、少し前のことをゆっくりと振り返った。
あのナイトプールで声を掛けられたことから始まった恋。
ケータは声を掛けたいと思ったのは海斗が初めてだし、これからは誰にも声を掛けることはないと言った。
つまりナンパしたのは海斗だけだということ。
だけど。
『お兄さん、一人ぃ?』
そう言って海斗に声を掛けてきたあの夜。
ケータの甘ったるい声と衝撃的なほどに美しい姿は海斗の脳裏に焼き付いている。
『ナンパなんてうみが初めてだよ。うみが綺麗に泳いでプールから出たときの表情を見たとき、絶対に逃がしちゃいけない人だって、ピンときた。俺そういう勘絶対外さないから。あと今後うみみたいな人はもう現れないのもわかるから、ナンパなんて俺がするのは後にも先にもうみだけ』
ケータがいくらそう言ってくれても、あの夜の彼の美しい姿と声を思い出すと、とても慣れているように感じられて信じることができないのだ。
短い付き合いでもケータは美しいだけでなく頭がとてもいいし、実は案外思慮深いということも分かってはいる。
でもどんなに頭が良くても人の出会いなんて予測できるものではない。
今後海斗より魅力的な人物が現れたら、ケータはその人にきっと声を掛ける。
海斗に迷わず声を掛けてきたように。
そして海斗より魅力的な人間なんてそこら中に溢れている。
そうなったとき、海斗はどうなるのだろう。
想像するだけでぞっして、海斗は身を震わせた。
いつ如何なるときでも結局助けてくれるのは自分の能力以外に他はない。
だから、ちゃんと自分の力でやらなければならないことと向き合っていかなくてはならないのだ。
それなのに、今の海斗の状況ときたら、魅力的な恋人にだらしなく夢中になって、しなければならないことを疎かにしている。
今夜こそは誘惑に負けない。
言い訳しない。
ケータの家に何だかんだと理由を付けて行ってしまうのがいけないのだ。
課題は自分のアパートで済ますこと。
海斗は指先が白くなるほど自分の手を握りしめた。
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