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つぎはぎのよる
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チュンチュンチュン
可愛らしい鳥の声がする。雀かな、雀だな。だって「チュンチュン」だもん、明らかに雀だ。
朝、鳥の声で目覚めるっていいよね、爽やかでとても素敵だ。
そう、確かに素敵だっただろう。どう見てもラブホテルのでっかいベッドの上で、素っ裸で、尻とか腰とか痛くて赤い鬱血が胸元とか首筋とかに散っていなければね。
なんならついでに頭も痛い。ガンガンする。若干むかむかもする。これはあれだ、確実に二日酔いだ。
なんでこんな事になってるのかって自問して、昨日の夜の事を思い出す。
そう、そうだ。昨日は10年ぶりの高校のクラス会だったんだ。
陰気で地味で、友達なんて片手程しかいなかった俺すらも声を掛けられるくらいに盛大な、ホテルの会場貸し切ってするヤツ。
それで、それで……。それで、どうしたんだっけ。思い出そうとすると頭がガンガン痛む。つぎはぎしたみたいに、バラバラの記憶を無理矢理繋ぎ合わせた感じ。場面場面は思い出せるけど、どれも綺麗に繋がってはいない。
酒を飲んだ、それもしこたま飲んだのは覚えている。高校時代、全然友達もいなかったくせに、何故か二次会三次会まで顔を出して飲んだ。
飲んで飲んで、飲まれて飲んで……、その先がわからない。
「なんなんだよぉ、もぉ……」
思い出せない物を無理に思い出そうとする事は諦めて、俺はそろりそろりとベッドから降りてみる。
「イギッ」
途端に腰に走った痛みにびびりながらも、どうにか1、2歩進む。ついでに、ベッドの下に散らばる、昨日着ていた覚えのある服をかき集めた。
「なんなんだ、なんなんだ、なんなんだ」
ベッドの上には、透明な液体が入ったボトル(半分は減っている)が転がっている。更に、カラフルなコンドームの包み紙(開封済み)が2つ。さらにさらに、それとは種類の違うコンドームの箱。箱は空いていて、バラバラと個包装の中身が飛び散っている。数えたくはないが、何個か消費しているようだ。
ところどころシーツがカピカピして見えるのが恐ろしい。一体何の液体が乾いた跡なんだ。いや、考えるな。考えたら駄目だ。
(ひぇえ……)
俺は内心震え上がりながらも、部屋を見渡した。
広めの部屋にはドアがいくつかあった。その中の一つから「ジャーー……」と水が流れる音がしている。これはあれだ、シャワーの音だ。
俺はそのドアからそっと身を離し、手早く服を身につけると、明らかに出口に繋がっている風のドアに忍足で近付いた。
案の定、そこは部屋の出口だった。
やった、俺の勝ちだ。勝ちって、いや、何かと勝負している訳でもないんだけど。
抜き足差し足でドアに近付き手を掛けて勢いよくドアノブを捻る。
「あれ?」
ガチャガチャと数度回すが何故か開かない。
「え、なんで、何これ、鍵かかってる?」
ええ、なんで。内鍵らしき物は見当たらないし。これじゃ外に出られない。
どうしろっていうんだ。ラブホテルなんて初めてだから全然勝手がわからない。何これ助けて。
「なんか、説明書的な、案内的な……」
俺はおろおろしながら部屋に戻る。
えっと、何を見ればいいんだ。机か、机の引き出しに入っているのか。こういうホテルでも引き出しに聖書入ってたりするのかな、まさかな。いやいや、そんな事は今はどうでもいい。
あ、机の上にそれらしき冊子があったぞ。
「うぉっ」
いきなりどエッチな格好したお姉ちゃん達の一覧が出て来て思わず裏返す。「有料コスプレ貸し出しますハート」。なんじゃそりゃ。えっと、こっちか、こっちの冊子か。
ガサゴソと家探しならぬラブホ探ししている俺は気が付かなかった。いつの間にかシャワーの音が止んでいる事に。
そして、背後に立つ男の気配に。
「……何してるんだ?」
「どぅわーーーっっ!!!」
俺はたまげてその場で飛び上がる。心臓が口から飛び出るかと思った。
ドキドキしながら振り返ると、そこには……
「えっ、えっ、あっ、えっ……てえええええ!!?」
思わず目の玉が飛びでそうなくらい、思いもしない人物が立っていた。
突然だが、俺はゲイだ。胸張って言いたいが言えない。そんな、こっそりひっそり生きるゲイだ。
ゲイだと自覚してはいるが、生まれてこの方恋人など出来た事はない。恋人いない歴年齢という、生粋の非モテ男子だ。
そんな俺にも、忘れられない憧れの「王子様」と言うべき存在がいる。高校の同級生「牧瀬聖」君だ。
牧瀬君は格好良い、とにかくめちゃくちゃ格好良い。日本人離れしたシュッとした顔立ち。さらさらの茶髪にキラキラと輝く色素の薄い瞳。手足の長い八頭身、オマケに頭も良くて、スポーツも出来て、お洒落で優しい。文句の付けようのない、生粋の王子様だった。
ああ、憧れたさ。めちゃくちゃ憧れたとも。その姿を遠くから見つめるだけで幸福だった。朝からその姿を見れた日には「こんな早朝から王子を見られるなんて、なんていい日だぁ」なんて太陽に向かって拝んじゃうくらい、憧れの存在だった。
だが、そんな「王子様」の横には「お姫様」がいた。「鶴野藤二郎」君だ。名前からは「お姫様」って感じはしないだろう、そうだろう。だが、鶴野君は本当に「お姫様」だった。
ほっそりとした体付きに、絹糸のようにさらさらな黒髪。太陽の下に出た事がないんじゃないかってくらい白い肌、こぼれ落ちそうなくらい大きな目。もう、全身、どこからどう見てもやんごとなき「お姫様」。そう呼んでいたのは俺だけじゃない。みんなそう呼んでいたとも。
ちなみに俺が通っていたのは男子校だ。男子校だからこそ、男でも「お姫様」なんて呼ばれちゃう。
「王子様」である牧瀬君と、「お姫様」である鶴野君は、いつも一緒にいた。どう見ても「付き合っているだろう」という距離感で、仲良しこよししていた。
「もしかしたら牧瀬君も、ゲイ?」なんて喜べもしない。牧瀬君と鶴野君は、もう、他人なんて入り込む隙間はない、って感じだったのだから。
取り巻きにもなれない地味な俺は、眩しい彼等の風景の一部と化していた。
そんな憧れの君を、俺は昨日久しぶりに見た。
そう、同窓会には、牧瀬君も出席していたのだ。
牧瀬君は、何というか、相変わらずの「王子様」っぷりだった。いや、年を経てさらに王子様に磨きがかかっていた。
スーツ姿だったけど、あれは多分そこら辺の吊るしで売ってる安物とは違う。ぴったり体にあった、よく見ると細部までデザインが凝っていたそれは多分、なんか、こう、凄い店のやつだ。その店が何かは、俺にはよくわからない。
牧瀬君を一目見た俺の心は、一気に高校時代へと引き戻された。
王子様に恋焦がれていた陰気なただのクラスメイト。体が弱くて保健室に行きすぎて、あだ名が「保健室の人」だったあの頃の俺。多分牧瀬君は俺の名前も知らないだろう。いや、牧瀬君だけじゃない、きっと、この会場にいるほとんどの人間は、俺の名前なんて知らない。
すっぽんが月を眺めるように、俺は一方的に手の届かない眩しい彼を見ていただけだ。
(やっぱり、格好良いなぁ)
そして、「王子様」の横にはもう1人「王子様」がいた。
それが誰だかわからなくて、俺は首を捻る。あんな顔面もガタイも良いイケメン、同じクラスにいた覚えがないからだ。服の上からもわかるくらいがっつりと付いた筋肉、シャープに尖った顎、くっきり二重の目に、爽やかな短髪。意外に色白な所がまたギャップがあっていい感じ。あぁ、二丁目辺りでめちゃくちゃモテそうな感じだ。
まぁ、俺の好きなタイプではないけれど。なんておこがましい事を考えながら、ぼんやりとそのイケメンを眺めていたら、なんとそいつがこっちに顔を向け、手を挙げて見せた。
な、なんだなんだ。
驚いて、挙動不審におろおろしていたら、そいつはあれよあれよという間に俺に近付いてきた。男を取り囲んでいた煌びやかな集団が、不満そうな顔をしている。
なんだかすみません。と、無意味に謝りたくなった。
「久しぶり」
んん、と喉の調子を整えるように咳払いをしてから、イケメンが爽やかに微笑みかけてくる。
「ひ、ひさし、ぶり……?」
若干語尾が持ち上がってしまった。久しぶりも何も、見覚えがないんだからしょうがない。
「矢澤君、元気だった?」
あ、俺の名前知っている。てことは、この人マジで俺の事知っているんだな。
俺は驚いて、ぱちぱちと目を瞬かせる。
「うん、元気だよ。……そ、そっちは?」
あ、ヤバイ。名前を聞くタイミングを逸してしまった。
だって、明らかに知っている風に「元気?」なんて言われて「誰?」なんて聞けないだろう。そんなの無理だ、無理。俺は内心冷や汗をかきながら、男の話に付き合った。
謎の男は、俺でも名前を知っているような大手の会社の研究職だった。なんだ、そのガタイで研究職って。ギャップがまたいいな、絶対モテるだろ。
自社ビルも持てないような中小企業のしがないシステムエンジニアの俺には眩しすぎる存在だ。いいけどさ、いいんだけどさ。
「あ、えと、あっち戻らなくていいのか?」
何分かやり取りした所で、ちらりと牧瀬君達の方を見やる。元々一番盛り上がっている輪の中心にいた男だ、こんな端の方にいつまでも引き止めておくのも忍びない。というか、その華やかな面子はさっきからちらちらこちらを見ている。
何だか申し訳ないような居た堪れないような気分になって、もごもごと口籠る俺に、男は白い歯を見せてニッコリと笑いかけてきた。
「いいんだ。俺は、矢澤君といたい」
「……へっ?」
俺は、含んだ酒を口端からダーーっと漏らしそうになりながら、男を見上げた。「へ?」まさに「へ?」だ。
繰り返しになるが、俺はモテない。
男には勿論女にもモテない。体が弱くてひょろひょろのモヤシだし、目の下にはいつも隈が出来てるし(何故かどれだけ寝ても消えない)、自分で言うのも何だが、どこもかしこも地味で取り柄もない。
ゲイのコミュニティ内では、ひょろひょろはあまりモテない。ノンケには綺麗系や可愛い系がウケがいい。つまり俺は、人生で一度も誰かと好き合った事もなければ、好意を向けられた事もない。
何が言いたいかというと、つまりその、「一緒にいたい」なんて言われて、舞い上がってしまったのだ(そもそも、一緒に、とまでは言われてない)。
別に目の前のイケメンとどうこうなりたいとかそういうのではない。単純に、人に求められた事が嬉しかったのだ。
嬉しくて、浮かれて、舞い上がって、結果俺は、許容量を超えて飲みすぎた。
一次会の後半はもう既に記憶があやふやだ。その状態で、男に誘われるままに二次会三次会と付き合った。
多分男の名前を誰かが呼んだ筈だが、それすら記憶にない。覚えているのは、断片的ながら、人と話が出来て楽しかった記憶。歩くのもおぼつかなくなって、誰かに肩を担がれて道を歩いた記憶。「休んで行くか?」なんて聞かれて頷いた記憶。
「水、飲むか」って言われて、頷いて、上手く飲めなくて服に零して服を脱いで、裸になって、口移しで水を貰って、それで……
「なっ、なっ、なっ、なんで、こここここ、ここは……っ、あのっ、俺はっ」
ラブホテルの机に乗っていた冊子を握りしめたまま、床に尻餅をついて男を見上げる。
男、つまり、男だ。そう、名前のわからないあの色男。「矢澤君といたい」なんて言ってくれた彼が、裸の腰にタオルを巻いただけの格好でそこにたっている。
男はポタポタと髪から雫を滴らせながら、「うん?」と俺に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「どうしたの?こんなの持って。何かルームサービス頼みたかった?」
と優しく聞いて来た。
ああ、間近で見ても直視に耐えうる顔面。まさに水も滴るいい男。じゃないじゃない。
「いや、違くて、あの、あの……」
「ん?」
めちゃくちゃイイ顔。を、見ていられなくて、咄嗟に顔を俯ける。と、男の下半身が目に入った。しゃがみ込んでいるせいで股間のタオルが捲れて、こう、隙間からご立派な御子息さまがお顔をお出しになっているのが目に入る。
んまぁ、しっかりと剥けていて発育の良いお坊ちゃんでございますね。あらでも色黒で健康的、何かスポーツでもされていたのかしら。とでも言えばいいのか、言える訳ない。落ち着け俺。
「こっちが気になる?」
「どぅえっ?」
ちらちらとそちらを眺めていたら、ちら、どころか、ぴらっと思いっきりタオルを捲ってソコを見せつけられてしまった。俺は焦って飛び上がるように跳ねて、背中を机にぶつけてしまう。地味に痛い。
それでもって、体は逃げても、目はしっかりそこを見てしまう。濃いめな陰毛の中でどっしりと主張している赤黒く、見るからに図太いそれは、やはり、ご立派だ。
「矢澤君って、意外にえっちで、可愛いよね」
くく、と揶揄うように笑う男は、そのまま俺の方に顔を突き出してきた。
「へっ?な、なにっ?」
真っ直ぐに、男の唇が俺の唇に向かって差し出されたので、俺は思わずそれを両手でガードして押しやる。
「っむぐ、……いじわるしないでよ」
「えっ、えっ、だって、えっ」
もごもごとした口調で責めるような事を言われて、俺はどうしていいかわからなくなる。
何、俺が悪いのか。でも、だって、だって今多分、キスされそうになったのだ。避けていいだろう、逃げていいだろう。え、駄目なのか。
男は、ぺいっ、とあっさり俺の手を退けて、真剣な眼差しで俺を見据える。
「怒ってるの?」
「えっ?」
「昨日、しつこくあんな事したから」
「あっ、あっ?」
あんな事って一体なんだ。と、問いかけたいけど言葉が出て来ない。
あんな事って、あんな事だよな。息子さんを躊躇いなく見せてくるような仲になったって事だよな。
「……ごめん。まさか初めてだと思わなくて、……出来るだけ優しくしたつもりだけど、調子に乗った」
「はじ、めて……」
頭の中で、俺の体はばらばらに砕け散り、さらさらと崩れて行く。それくらい衝撃的だった。いや、だってこの状況で「初めて」って言ったらつまりそういう事だろう。
呆然とする俺の腕を、男が、がっしと掴む。
「ねぇ、本当に、いいんだよね……」
「いい、いいっ、て……な、なにが?」
「なにが、って……」
顔を引きつらせながら首を傾げる俺に、男が少し照れたように顎を撫でながら顔を俯ける。
「俺達、付き合ってる、って、思っていいんだよね……?」
俯く男の、その白い頬が赤く染まっているのがわかる。
元々の肌の色が白いからだろう、かぁ、と赤く色付くと、まるで薔薇の花でも咲いたように真っ赤になる。
ん、薔薇。薔薇色の頬。
待てよ、待てよ待てよ。
俺は内心ダラダラと冷や汗をかきながら、バラバラになった記憶を、どうにか綺麗に縫い合わせる。
そうだ、確か、昨日の夜。ベッドに押し倒されて、散々キスされて、舐めまわされて弄りまわされて、俺は、俺は……
「矢澤君……矢澤君っ」
「んっ、あっ、……い、いたいよぉ」
水を口移しで飲まされて、その口付けがどんどん深くなって、気が付けばベッドに押し倒されて。
「いい?」「本当に大丈夫?」なんて何回も何回も聞いてくる割に、体は強引な男は、俺を散々気持ち良くさせてから、うつ伏せにして尻孔を解し出した。
「痛い、だけ?」
うつ伏せにされて、両手を縫い止められたまま、俺は枕に涙と涎を染み込ませる。
尻孔には既に長い指が2本挿さっている。ローションを纏っているから、本当は痛くはないが、どうにも違和感が拭えない。動画では何回も見た事あるけど、自分の身を持って体験するのとでは、また全然違う。
ローションの滑りを借りて、にゅくにゅくと動く指に遠慮も躊躇いもない。さっき俺が身を跳ねさせた場所を執拗に執拗にやわやわと押してくる。
「んっ、んんっ、そこ、らめ……」
「矢澤君……っ!」
違和感の中にある気持ち良さを追って、勝手に腰が揺らめく。舌を突き出しながら仰け反った俺の肩口に、男が何度も何度も、余裕なく口付ける。
はぁっ、という熱い吐息が耳朶をくすぐって、俺は「んんっ」と身を捩らせた。
「夢みたいだ…っ、矢澤君に、…っこんな!」
「ひっ、あっ、ああっ!」
穴の奥の、思わず足の先がピンッと伸びてしまう所を指の腹で思い切り擦られて、目の前がチカチカする。
「ずっと、ずっと好きだった…っ!」
「ひぃ……っあっ!」
尻孔の圧迫感が増し、思わず情けない声が漏れた。きっと男が指を増やしたのだ。俺はぶるぶると情けなく全身を震わせながら、必死の思いで後ろを振り返る。
「保健室で、俺を助けてくれたあの時から……」
「ほけ……しつっ…?あっ、あっ、ああっ!」
何を言っているのかわからない。
蕩けた視界に映るのは、薔薇色に染まった男の頬。
俺は、その色に見覚えがあった。
「っんう、……えっ?……つる、の、く…っあああっ!!」
思わず口をついて出た名前を言い終わらない内に、熱い何かが尻穴に押し当てられた。そして、幾ばくもしないうちに、ぐぽっ、と音を立てながら、その太い先端が俺の中に埋まる。
逃げようとする腰を大きな手で掴まれて、俺はどうにかシーツを握りしめて悲鳴を噛み殺す。
「あぅぅ…っ、あっ、あっあっ!」
「はぁっ、矢澤君っ、矢澤くっ、……っは!」
ずっ、ずっ、と肉壁を分け入るように熱い棒が尻穴を進んでくる。時折、先程見つけた「気持ちいい箇所」を熱くて硬いそれが擦り上げ、ぴくぴくと尻が揺らめく。
今にも破裂しそうな程に張り詰めたその怒張は、その内に全てを俺の中に収めたのだろう、ぴたりと動きを止めた。
「はぅ、あっ、……ん、はぁっ!?」
今度は、ずにゅうぅ、と穴の縁がめくれ上がりそうな程ゆっくりとその熱い棒を引かれ、俺は涙目になって首を振る。が、そんなの何の抵抗にもならない。肉棒に合わせて突き出しそうになる尻を鷲掴まれて、震える尻朶を、割り開くように揉まれる。俺は羞恥と興奮で、ぎゅうと目を閉じた。
そして、やっと尻穴から抜けるか抜けないか、という位置に来たところで、またも遠慮なしにその肉棒を体内に挿し込まれる。
「っあああっ!!」
「っくぅ、……やばい、矢澤君っ、すっごく、いいっ」
みっともなく開きっぱなしの口から、喘ぎ声と共に涎が垂れて、ぱたぱたとシーツに落ちる。
がくん、と首が落ちて、思い切り俯けば、腰を揺すられるのに合わせてぶらぶらと情けなく揺れる俺のちんぽが見えた。
突かれるのに合わせて、飛び散っているアレはなんだろう。白くて、粘っこい、アレは。
アレは、精液だ。
そう、精液だ。
白い精液がカピカピに固まった学ランを、恥ずかしそうに、隠すように握りしめて、赤い頬をした少年が保健室に飛び込んで来た。
先生は会議でいなくって、俺は1人でベッドに横になっていたんだ。
『朝から痴漢に遭って、制服に、せ、精液かけられたんだ…。はは、男なのに…情けないよね、僕……』
目を丸くする俺に、言い訳のようにそう言って笑っていた。本当は泣きそうな癖に、誤魔化すように笑って俯く少年に、俺は自分の学ランを貸した。
『俺、具合悪くて、今日はもう、授業に出れないから。家に帰るだけだから。だから、だから、これ……』
クラスの中心人物に、そんな施しみたいな事をして、拒否されたらどうしようなんて思ったけど。少年は、鶴野君は、嫌がらずにそれを受け取ってくれた。
『ありがとう……、ありがとう、矢澤君…』
くらくらする頭の中で、紅顔の美少年が、嬉しそうに、遠慮がちに微笑んでいる。
『矢澤君……ありがとう』
つぎはぎが合わさって、綺麗な一枚の布が出来上がる。
ラブホテルの薄暗い部屋の中、分厚いカーテンの隙間から射す明かりが、彼を照らす。
彼は、そうだ、彼は……
「鶴野、君……?」
俺は目の前の男に、呆然と問いかける。
「ん、何?」
かつて「お姫様」と呼ばれた男は「どうした?」と太く逞しい首を傾げてくれた。
俺は、呆けたような顔をしたまま、とりあえず思った事を口にした。
「お、大きくなったなぁ……」
「……ふっ、何それ。親戚のおじさん?」
思わずといったように吹き出した彼の笑顔。意識して見れば、確かにあの美少年の面影が残っていて。
俺は、とりあえず一緒になって「は、はは……」と笑った。
「はは、は。鶴野君、鶴野君だよな……はは……」
「なんだよ、矢澤君」
繰り返し名前を呼ばれて、照れたような表情を浮かべる彼はやはり、とてもイケメンだった。
まさか、「お姫様」が「王子様」に変わるなんて、思いもしないじゃないか。
俺はただただ情けない笑い声を上げながら、眉尻を下げて項垂れた。
さて、どうしよう。
可愛らしい鳥の声がする。雀かな、雀だな。だって「チュンチュン」だもん、明らかに雀だ。
朝、鳥の声で目覚めるっていいよね、爽やかでとても素敵だ。
そう、確かに素敵だっただろう。どう見てもラブホテルのでっかいベッドの上で、素っ裸で、尻とか腰とか痛くて赤い鬱血が胸元とか首筋とかに散っていなければね。
なんならついでに頭も痛い。ガンガンする。若干むかむかもする。これはあれだ、確実に二日酔いだ。
なんでこんな事になってるのかって自問して、昨日の夜の事を思い出す。
そう、そうだ。昨日は10年ぶりの高校のクラス会だったんだ。
陰気で地味で、友達なんて片手程しかいなかった俺すらも声を掛けられるくらいに盛大な、ホテルの会場貸し切ってするヤツ。
それで、それで……。それで、どうしたんだっけ。思い出そうとすると頭がガンガン痛む。つぎはぎしたみたいに、バラバラの記憶を無理矢理繋ぎ合わせた感じ。場面場面は思い出せるけど、どれも綺麗に繋がってはいない。
酒を飲んだ、それもしこたま飲んだのは覚えている。高校時代、全然友達もいなかったくせに、何故か二次会三次会まで顔を出して飲んだ。
飲んで飲んで、飲まれて飲んで……、その先がわからない。
「なんなんだよぉ、もぉ……」
思い出せない物を無理に思い出そうとする事は諦めて、俺はそろりそろりとベッドから降りてみる。
「イギッ」
途端に腰に走った痛みにびびりながらも、どうにか1、2歩進む。ついでに、ベッドの下に散らばる、昨日着ていた覚えのある服をかき集めた。
「なんなんだ、なんなんだ、なんなんだ」
ベッドの上には、透明な液体が入ったボトル(半分は減っている)が転がっている。更に、カラフルなコンドームの包み紙(開封済み)が2つ。さらにさらに、それとは種類の違うコンドームの箱。箱は空いていて、バラバラと個包装の中身が飛び散っている。数えたくはないが、何個か消費しているようだ。
ところどころシーツがカピカピして見えるのが恐ろしい。一体何の液体が乾いた跡なんだ。いや、考えるな。考えたら駄目だ。
(ひぇえ……)
俺は内心震え上がりながらも、部屋を見渡した。
広めの部屋にはドアがいくつかあった。その中の一つから「ジャーー……」と水が流れる音がしている。これはあれだ、シャワーの音だ。
俺はそのドアからそっと身を離し、手早く服を身につけると、明らかに出口に繋がっている風のドアに忍足で近付いた。
案の定、そこは部屋の出口だった。
やった、俺の勝ちだ。勝ちって、いや、何かと勝負している訳でもないんだけど。
抜き足差し足でドアに近付き手を掛けて勢いよくドアノブを捻る。
「あれ?」
ガチャガチャと数度回すが何故か開かない。
「え、なんで、何これ、鍵かかってる?」
ええ、なんで。内鍵らしき物は見当たらないし。これじゃ外に出られない。
どうしろっていうんだ。ラブホテルなんて初めてだから全然勝手がわからない。何これ助けて。
「なんか、説明書的な、案内的な……」
俺はおろおろしながら部屋に戻る。
えっと、何を見ればいいんだ。机か、机の引き出しに入っているのか。こういうホテルでも引き出しに聖書入ってたりするのかな、まさかな。いやいや、そんな事は今はどうでもいい。
あ、机の上にそれらしき冊子があったぞ。
「うぉっ」
いきなりどエッチな格好したお姉ちゃん達の一覧が出て来て思わず裏返す。「有料コスプレ貸し出しますハート」。なんじゃそりゃ。えっと、こっちか、こっちの冊子か。
ガサゴソと家探しならぬラブホ探ししている俺は気が付かなかった。いつの間にかシャワーの音が止んでいる事に。
そして、背後に立つ男の気配に。
「……何してるんだ?」
「どぅわーーーっっ!!!」
俺はたまげてその場で飛び上がる。心臓が口から飛び出るかと思った。
ドキドキしながら振り返ると、そこには……
「えっ、えっ、あっ、えっ……てえええええ!!?」
思わず目の玉が飛びでそうなくらい、思いもしない人物が立っていた。
突然だが、俺はゲイだ。胸張って言いたいが言えない。そんな、こっそりひっそり生きるゲイだ。
ゲイだと自覚してはいるが、生まれてこの方恋人など出来た事はない。恋人いない歴年齢という、生粋の非モテ男子だ。
そんな俺にも、忘れられない憧れの「王子様」と言うべき存在がいる。高校の同級生「牧瀬聖」君だ。
牧瀬君は格好良い、とにかくめちゃくちゃ格好良い。日本人離れしたシュッとした顔立ち。さらさらの茶髪にキラキラと輝く色素の薄い瞳。手足の長い八頭身、オマケに頭も良くて、スポーツも出来て、お洒落で優しい。文句の付けようのない、生粋の王子様だった。
ああ、憧れたさ。めちゃくちゃ憧れたとも。その姿を遠くから見つめるだけで幸福だった。朝からその姿を見れた日には「こんな早朝から王子を見られるなんて、なんていい日だぁ」なんて太陽に向かって拝んじゃうくらい、憧れの存在だった。
だが、そんな「王子様」の横には「お姫様」がいた。「鶴野藤二郎」君だ。名前からは「お姫様」って感じはしないだろう、そうだろう。だが、鶴野君は本当に「お姫様」だった。
ほっそりとした体付きに、絹糸のようにさらさらな黒髪。太陽の下に出た事がないんじゃないかってくらい白い肌、こぼれ落ちそうなくらい大きな目。もう、全身、どこからどう見てもやんごとなき「お姫様」。そう呼んでいたのは俺だけじゃない。みんなそう呼んでいたとも。
ちなみに俺が通っていたのは男子校だ。男子校だからこそ、男でも「お姫様」なんて呼ばれちゃう。
「王子様」である牧瀬君と、「お姫様」である鶴野君は、いつも一緒にいた。どう見ても「付き合っているだろう」という距離感で、仲良しこよししていた。
「もしかしたら牧瀬君も、ゲイ?」なんて喜べもしない。牧瀬君と鶴野君は、もう、他人なんて入り込む隙間はない、って感じだったのだから。
取り巻きにもなれない地味な俺は、眩しい彼等の風景の一部と化していた。
そんな憧れの君を、俺は昨日久しぶりに見た。
そう、同窓会には、牧瀬君も出席していたのだ。
牧瀬君は、何というか、相変わらずの「王子様」っぷりだった。いや、年を経てさらに王子様に磨きがかかっていた。
スーツ姿だったけど、あれは多分そこら辺の吊るしで売ってる安物とは違う。ぴったり体にあった、よく見ると細部までデザインが凝っていたそれは多分、なんか、こう、凄い店のやつだ。その店が何かは、俺にはよくわからない。
牧瀬君を一目見た俺の心は、一気に高校時代へと引き戻された。
王子様に恋焦がれていた陰気なただのクラスメイト。体が弱くて保健室に行きすぎて、あだ名が「保健室の人」だったあの頃の俺。多分牧瀬君は俺の名前も知らないだろう。いや、牧瀬君だけじゃない、きっと、この会場にいるほとんどの人間は、俺の名前なんて知らない。
すっぽんが月を眺めるように、俺は一方的に手の届かない眩しい彼を見ていただけだ。
(やっぱり、格好良いなぁ)
そして、「王子様」の横にはもう1人「王子様」がいた。
それが誰だかわからなくて、俺は首を捻る。あんな顔面もガタイも良いイケメン、同じクラスにいた覚えがないからだ。服の上からもわかるくらいがっつりと付いた筋肉、シャープに尖った顎、くっきり二重の目に、爽やかな短髪。意外に色白な所がまたギャップがあっていい感じ。あぁ、二丁目辺りでめちゃくちゃモテそうな感じだ。
まぁ、俺の好きなタイプではないけれど。なんておこがましい事を考えながら、ぼんやりとそのイケメンを眺めていたら、なんとそいつがこっちに顔を向け、手を挙げて見せた。
な、なんだなんだ。
驚いて、挙動不審におろおろしていたら、そいつはあれよあれよという間に俺に近付いてきた。男を取り囲んでいた煌びやかな集団が、不満そうな顔をしている。
なんだかすみません。と、無意味に謝りたくなった。
「久しぶり」
んん、と喉の調子を整えるように咳払いをしてから、イケメンが爽やかに微笑みかけてくる。
「ひ、ひさし、ぶり……?」
若干語尾が持ち上がってしまった。久しぶりも何も、見覚えがないんだからしょうがない。
「矢澤君、元気だった?」
あ、俺の名前知っている。てことは、この人マジで俺の事知っているんだな。
俺は驚いて、ぱちぱちと目を瞬かせる。
「うん、元気だよ。……そ、そっちは?」
あ、ヤバイ。名前を聞くタイミングを逸してしまった。
だって、明らかに知っている風に「元気?」なんて言われて「誰?」なんて聞けないだろう。そんなの無理だ、無理。俺は内心冷や汗をかきながら、男の話に付き合った。
謎の男は、俺でも名前を知っているような大手の会社の研究職だった。なんだ、そのガタイで研究職って。ギャップがまたいいな、絶対モテるだろ。
自社ビルも持てないような中小企業のしがないシステムエンジニアの俺には眩しすぎる存在だ。いいけどさ、いいんだけどさ。
「あ、えと、あっち戻らなくていいのか?」
何分かやり取りした所で、ちらりと牧瀬君達の方を見やる。元々一番盛り上がっている輪の中心にいた男だ、こんな端の方にいつまでも引き止めておくのも忍びない。というか、その華やかな面子はさっきからちらちらこちらを見ている。
何だか申し訳ないような居た堪れないような気分になって、もごもごと口籠る俺に、男は白い歯を見せてニッコリと笑いかけてきた。
「いいんだ。俺は、矢澤君といたい」
「……へっ?」
俺は、含んだ酒を口端からダーーっと漏らしそうになりながら、男を見上げた。「へ?」まさに「へ?」だ。
繰り返しになるが、俺はモテない。
男には勿論女にもモテない。体が弱くてひょろひょろのモヤシだし、目の下にはいつも隈が出来てるし(何故かどれだけ寝ても消えない)、自分で言うのも何だが、どこもかしこも地味で取り柄もない。
ゲイのコミュニティ内では、ひょろひょろはあまりモテない。ノンケには綺麗系や可愛い系がウケがいい。つまり俺は、人生で一度も誰かと好き合った事もなければ、好意を向けられた事もない。
何が言いたいかというと、つまりその、「一緒にいたい」なんて言われて、舞い上がってしまったのだ(そもそも、一緒に、とまでは言われてない)。
別に目の前のイケメンとどうこうなりたいとかそういうのではない。単純に、人に求められた事が嬉しかったのだ。
嬉しくて、浮かれて、舞い上がって、結果俺は、許容量を超えて飲みすぎた。
一次会の後半はもう既に記憶があやふやだ。その状態で、男に誘われるままに二次会三次会と付き合った。
多分男の名前を誰かが呼んだ筈だが、それすら記憶にない。覚えているのは、断片的ながら、人と話が出来て楽しかった記憶。歩くのもおぼつかなくなって、誰かに肩を担がれて道を歩いた記憶。「休んで行くか?」なんて聞かれて頷いた記憶。
「水、飲むか」って言われて、頷いて、上手く飲めなくて服に零して服を脱いで、裸になって、口移しで水を貰って、それで……
「なっ、なっ、なっ、なんで、こここここ、ここは……っ、あのっ、俺はっ」
ラブホテルの机に乗っていた冊子を握りしめたまま、床に尻餅をついて男を見上げる。
男、つまり、男だ。そう、名前のわからないあの色男。「矢澤君といたい」なんて言ってくれた彼が、裸の腰にタオルを巻いただけの格好でそこにたっている。
男はポタポタと髪から雫を滴らせながら、「うん?」と俺に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「どうしたの?こんなの持って。何かルームサービス頼みたかった?」
と優しく聞いて来た。
ああ、間近で見ても直視に耐えうる顔面。まさに水も滴るいい男。じゃないじゃない。
「いや、違くて、あの、あの……」
「ん?」
めちゃくちゃイイ顔。を、見ていられなくて、咄嗟に顔を俯ける。と、男の下半身が目に入った。しゃがみ込んでいるせいで股間のタオルが捲れて、こう、隙間からご立派な御子息さまがお顔をお出しになっているのが目に入る。
んまぁ、しっかりと剥けていて発育の良いお坊ちゃんでございますね。あらでも色黒で健康的、何かスポーツでもされていたのかしら。とでも言えばいいのか、言える訳ない。落ち着け俺。
「こっちが気になる?」
「どぅえっ?」
ちらちらとそちらを眺めていたら、ちら、どころか、ぴらっと思いっきりタオルを捲ってソコを見せつけられてしまった。俺は焦って飛び上がるように跳ねて、背中を机にぶつけてしまう。地味に痛い。
それでもって、体は逃げても、目はしっかりそこを見てしまう。濃いめな陰毛の中でどっしりと主張している赤黒く、見るからに図太いそれは、やはり、ご立派だ。
「矢澤君って、意外にえっちで、可愛いよね」
くく、と揶揄うように笑う男は、そのまま俺の方に顔を突き出してきた。
「へっ?な、なにっ?」
真っ直ぐに、男の唇が俺の唇に向かって差し出されたので、俺は思わずそれを両手でガードして押しやる。
「っむぐ、……いじわるしないでよ」
「えっ、えっ、だって、えっ」
もごもごとした口調で責めるような事を言われて、俺はどうしていいかわからなくなる。
何、俺が悪いのか。でも、だって、だって今多分、キスされそうになったのだ。避けていいだろう、逃げていいだろう。え、駄目なのか。
男は、ぺいっ、とあっさり俺の手を退けて、真剣な眼差しで俺を見据える。
「怒ってるの?」
「えっ?」
「昨日、しつこくあんな事したから」
「あっ、あっ?」
あんな事って一体なんだ。と、問いかけたいけど言葉が出て来ない。
あんな事って、あんな事だよな。息子さんを躊躇いなく見せてくるような仲になったって事だよな。
「……ごめん。まさか初めてだと思わなくて、……出来るだけ優しくしたつもりだけど、調子に乗った」
「はじ、めて……」
頭の中で、俺の体はばらばらに砕け散り、さらさらと崩れて行く。それくらい衝撃的だった。いや、だってこの状況で「初めて」って言ったらつまりそういう事だろう。
呆然とする俺の腕を、男が、がっしと掴む。
「ねぇ、本当に、いいんだよね……」
「いい、いいっ、て……な、なにが?」
「なにが、って……」
顔を引きつらせながら首を傾げる俺に、男が少し照れたように顎を撫でながら顔を俯ける。
「俺達、付き合ってる、って、思っていいんだよね……?」
俯く男の、その白い頬が赤く染まっているのがわかる。
元々の肌の色が白いからだろう、かぁ、と赤く色付くと、まるで薔薇の花でも咲いたように真っ赤になる。
ん、薔薇。薔薇色の頬。
待てよ、待てよ待てよ。
俺は内心ダラダラと冷や汗をかきながら、バラバラになった記憶を、どうにか綺麗に縫い合わせる。
そうだ、確か、昨日の夜。ベッドに押し倒されて、散々キスされて、舐めまわされて弄りまわされて、俺は、俺は……
「矢澤君……矢澤君っ」
「んっ、あっ、……い、いたいよぉ」
水を口移しで飲まされて、その口付けがどんどん深くなって、気が付けばベッドに押し倒されて。
「いい?」「本当に大丈夫?」なんて何回も何回も聞いてくる割に、体は強引な男は、俺を散々気持ち良くさせてから、うつ伏せにして尻孔を解し出した。
「痛い、だけ?」
うつ伏せにされて、両手を縫い止められたまま、俺は枕に涙と涎を染み込ませる。
尻孔には既に長い指が2本挿さっている。ローションを纏っているから、本当は痛くはないが、どうにも違和感が拭えない。動画では何回も見た事あるけど、自分の身を持って体験するのとでは、また全然違う。
ローションの滑りを借りて、にゅくにゅくと動く指に遠慮も躊躇いもない。さっき俺が身を跳ねさせた場所を執拗に執拗にやわやわと押してくる。
「んっ、んんっ、そこ、らめ……」
「矢澤君……っ!」
違和感の中にある気持ち良さを追って、勝手に腰が揺らめく。舌を突き出しながら仰け反った俺の肩口に、男が何度も何度も、余裕なく口付ける。
はぁっ、という熱い吐息が耳朶をくすぐって、俺は「んんっ」と身を捩らせた。
「夢みたいだ…っ、矢澤君に、…っこんな!」
「ひっ、あっ、ああっ!」
穴の奥の、思わず足の先がピンッと伸びてしまう所を指の腹で思い切り擦られて、目の前がチカチカする。
「ずっと、ずっと好きだった…っ!」
「ひぃ……っあっ!」
尻孔の圧迫感が増し、思わず情けない声が漏れた。きっと男が指を増やしたのだ。俺はぶるぶると情けなく全身を震わせながら、必死の思いで後ろを振り返る。
「保健室で、俺を助けてくれたあの時から……」
「ほけ……しつっ…?あっ、あっ、ああっ!」
何を言っているのかわからない。
蕩けた視界に映るのは、薔薇色に染まった男の頬。
俺は、その色に見覚えがあった。
「っんう、……えっ?……つる、の、く…っあああっ!!」
思わず口をついて出た名前を言い終わらない内に、熱い何かが尻穴に押し当てられた。そして、幾ばくもしないうちに、ぐぽっ、と音を立てながら、その太い先端が俺の中に埋まる。
逃げようとする腰を大きな手で掴まれて、俺はどうにかシーツを握りしめて悲鳴を噛み殺す。
「あぅぅ…っ、あっ、あっあっ!」
「はぁっ、矢澤君っ、矢澤くっ、……っは!」
ずっ、ずっ、と肉壁を分け入るように熱い棒が尻穴を進んでくる。時折、先程見つけた「気持ちいい箇所」を熱くて硬いそれが擦り上げ、ぴくぴくと尻が揺らめく。
今にも破裂しそうな程に張り詰めたその怒張は、その内に全てを俺の中に収めたのだろう、ぴたりと動きを止めた。
「はぅ、あっ、……ん、はぁっ!?」
今度は、ずにゅうぅ、と穴の縁がめくれ上がりそうな程ゆっくりとその熱い棒を引かれ、俺は涙目になって首を振る。が、そんなの何の抵抗にもならない。肉棒に合わせて突き出しそうになる尻を鷲掴まれて、震える尻朶を、割り開くように揉まれる。俺は羞恥と興奮で、ぎゅうと目を閉じた。
そして、やっと尻穴から抜けるか抜けないか、という位置に来たところで、またも遠慮なしにその肉棒を体内に挿し込まれる。
「っあああっ!!」
「っくぅ、……やばい、矢澤君っ、すっごく、いいっ」
みっともなく開きっぱなしの口から、喘ぎ声と共に涎が垂れて、ぱたぱたとシーツに落ちる。
がくん、と首が落ちて、思い切り俯けば、腰を揺すられるのに合わせてぶらぶらと情けなく揺れる俺のちんぽが見えた。
突かれるのに合わせて、飛び散っているアレはなんだろう。白くて、粘っこい、アレは。
アレは、精液だ。
そう、精液だ。
白い精液がカピカピに固まった学ランを、恥ずかしそうに、隠すように握りしめて、赤い頬をした少年が保健室に飛び込んで来た。
先生は会議でいなくって、俺は1人でベッドに横になっていたんだ。
『朝から痴漢に遭って、制服に、せ、精液かけられたんだ…。はは、男なのに…情けないよね、僕……』
目を丸くする俺に、言い訳のようにそう言って笑っていた。本当は泣きそうな癖に、誤魔化すように笑って俯く少年に、俺は自分の学ランを貸した。
『俺、具合悪くて、今日はもう、授業に出れないから。家に帰るだけだから。だから、だから、これ……』
クラスの中心人物に、そんな施しみたいな事をして、拒否されたらどうしようなんて思ったけど。少年は、鶴野君は、嫌がらずにそれを受け取ってくれた。
『ありがとう……、ありがとう、矢澤君…』
くらくらする頭の中で、紅顔の美少年が、嬉しそうに、遠慮がちに微笑んでいる。
『矢澤君……ありがとう』
つぎはぎが合わさって、綺麗な一枚の布が出来上がる。
ラブホテルの薄暗い部屋の中、分厚いカーテンの隙間から射す明かりが、彼を照らす。
彼は、そうだ、彼は……
「鶴野、君……?」
俺は目の前の男に、呆然と問いかける。
「ん、何?」
かつて「お姫様」と呼ばれた男は「どうした?」と太く逞しい首を傾げてくれた。
俺は、呆けたような顔をしたまま、とりあえず思った事を口にした。
「お、大きくなったなぁ……」
「……ふっ、何それ。親戚のおじさん?」
思わずといったように吹き出した彼の笑顔。意識して見れば、確かにあの美少年の面影が残っていて。
俺は、とりあえず一緒になって「は、はは……」と笑った。
「はは、は。鶴野君、鶴野君だよな……はは……」
「なんだよ、矢澤君」
繰り返し名前を呼ばれて、照れたような表情を浮かべる彼はやはり、とてもイケメンだった。
まさか、「お姫様」が「王子様」に変わるなんて、思いもしないじゃないか。
俺はただただ情けない笑い声を上げながら、眉尻を下げて項垂れた。
さて、どうしよう。
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