稀有ってホメてる?

紙吹雪

文字の大きさ
92 / 96
第2章 覚悟と旅立ち

取得と習得と体得 #2

しおりを挟む
 全員が寝る支度を済ませた後のリビングに、リミル、クロト、アキリム、ジャックの4人が揃っていた。

「じゃ始めるか。まずは体幹から。既に体幹が出来てるかも知れない。余裕に思っても寝る前のトレーニングに負荷は必要ない。見て真似てくれ。」

 リミルは言いながらソファに足を引っ掛け、床に手を付き腕立て伏せの腕を伸ばした状態で維持する。皆は真似をしてリミルと同じ状態になる。その状態でも会話は続く。

『負荷がある方が早く鍛えられそうなのにね。』

 アキリムが疑問に思いながらそう言うと、リミルは懸念していたことを一応話しておくことにした。

「無駄なことをさせて俺に得はないよ。むしろせっかくのレベル上げのチャンスが無駄に終わるとか最悪だし、そんな面倒なことやるわけないだろ。あ、先に言っとくけど、俺が教える方法以外でやるなら俺は手を引く、自力で頼む。アドバイスくらいならするかも知れないけど、こんな風に手取り足取りってのはモチベーションがないとやってられない。」

『そんなに脅さなくたって大丈夫だって。教えて貰える方が俺達は楽なんだから。ただ、理由とか分かってるなら教えといてくれると納得して出来るなって思うけど。』

 ジャックが宥めながら大人な対応を見せるが別にアキリムもリミルも険悪な雰囲気など無い。アキリムは疑問のつもりで言ったし、リミルが言ったことにも『確かに。』くらいにしか思っていなかった。リミルもアキリムの一言で怒ったとかでは無く、淡々と事実を述べただけだ。他意はない。
 でも、ジャックの言を聞いてリミルは「理由か。」とそっちを答えれば良かったと思った。ただ、先に言っておかないと後から指導外のことをされて手を引くと伝えるのは微妙な気がしたので言っておきたかったのだ。

「そうだな…理由か。今回のテーマは取得と習得と体得だ。」

『取得』

ジャックが呟き、

『習得』

クロトも呟き、

『体得?』

アキリムが首をかしげた。

「まず、職業クラスを手に入れ自分のものとする取得。次に、経験を通して習い覚える習得。最後に、体験によって身につけ十分理解して自分のものにする体得。」

『要は身体で覚えろ的な?』

 クロトの言った言葉は簡潔明瞭でわかりやすいけれど少し違う。言いながら身体を回転させ片手で全身を支える。皆も真似をしながらそのまま話を続けた。

「覚えろではなく、身体に記憶させるんだ。」

『どう違うんだ?』

「覚えろだと無理矢理な気がしないか?無理せず長く続けてそれが通常だと身体に思わせる。職業クラスとして取得した後はロールプレイを繰り返して身体に馴染ませ不必要な筋肉は自然に落とす。」

『せっかくつけた筋肉落とすの勿体ない気がするよな…。』

 ジャックはムキムキになりたいような、なりたくないような複雑そうな顔をした。

「まぁ、ムッキムキでいたい人達は鍛えまくっているけど、あの人達は戦いには向かない。男らしくてカッコイイけど戦闘では見ないだろ?か弱い人達にとっての憧れアイドルであり強くなりたい人達の目標モデルだ。そっちになりたいなら落とす必要はないよ。」

 作られた立ち回りを幾人ものムキムキな者達が覚えそれ通りに動くことで見事に綺麗な戦いを魅せる演武というものがある。まぁそれは今はいい。

『冒険者じゃない道かぁ…でも僕はムキムキは良いや。見る分には良いけど自分だと想像つかない。』

『俺も。ニーナがムキムキの方が好きなら考えるけど…。』

『俺は程よくあればいいかな。うん。』

 アキリムは妖精族特有のスラッとした見た目をしている。想像がつかないのも納得だ。クロトはニーナの好み次第では…まぁ似合うとは思うけども。ジャックもクライの顔がチラついたのか考え直したようだ。
 身体を反転し反対の手で支えながら話は続く。皆疲れは見えないのでそれなりに体幹は出来上がっているのだろう。取得に1歩近づき助かる。

「そうだな。実践を仕事にする冒険者プレイヤーには重たい筋肉は必要ない。必要な分だけ残ればそれで。でも1日1回で良いから戦闘系の職業は使って筋肉を維持しないと。いざと言う時に使えないと困るから。種族レベルが上がれば維持されやすくなってわざわざ鍛えなくても職業クラス自体を使用してれば自然と鍛えられてるから良いんだけど。戦闘系の取得数が多いと維持が大変なんだ。でも選択肢は多い方が良いしな。」

『俺がやってたゲームでは何か職業クラスを選ぶと似た職業クラスは選べないとか真逆のものは選べないとかあったんだけど、この世界は条件さえ揃えばなんでも良いってチートっぽいよな。それなりの苦労があるとはいえさ。』

 クロトの何気ない言葉にアキリムもジャックもムッとした。リミルだって思うところはあった。でもこの世界を知らない子ども相手に怒るべきではないと自分に言い聞かせた。

『それなりってなんだよ。ゲームだと死なないんだろ。平和ボケがまだ抜けてないんじゃないの?』

『さすがに今のは俺らのことを軽視し過ぎじゃないか?何の職業クラスも持たずに生きていけるほど甘い世界じゃないんだ。怖くたって自分がどの程度の魔物を倒せるのか知っておかなきゃいけない。』

『ごめん!そんなつもりで言ったんじゃないんだ。ただ…』

 口ごもってしまったので、リミルはクロトが自信の間違いに気づいたのかと思ったが言い淀んだだけだったのを見て溜め息をついてしまう。

「はぁ…。あー、クロト。多分な、ゲームはゲームとして楽しませるためにそういう工夫をしているかもしれない。ジャンケンだってグーがチョキにもパーにも勝てばゲームにはならない。でも、ここは、この世界は、渡人族に提供された娯楽ではない。俺達は皆生きている。例え似ていても仮想の娯楽と現実世界を同じ程度に見るのは…辞めてくれないか。」

 リミルは少しキツイ言い方になってしまった気もしたがきちんと注意もしなければならないと思っている。親がこんな時どういうのかは分からないが友として仲間として真っ直ぐ向き合えば分かってくれると思った。

『そう…だな。ゲームに似ていると何度も言えば同じ程度に見ていると取られても仕方ない。でも、これだけはわかって欲しい。俺は皆のことちゃんと大事に思ってる。』

 しっかり心に届いた。投げやりな言葉ならこんな風に心に響いたりしない。リミルは分かってもらえてホッとした。

「そうか。ならいいんだ。クロトの環境の変化がどれほどのものか俺には想像もつかない。仮想のゲーム世界に入り込んだ様な状態で異世界に俺が行ったとしたらと考えたことはあるが何も浮かばなかった。クロトのいた世界にもし自分が行ったとしたらと考えてもよく分からないんだ。クロトはとても凄いことをしていると思う。知らない世界で知らない人種とこうして生活しているんだから。」

 体幹のトレーニングを終了し、ストレッチに移行する。身体を伸ばしながらそう言うと、アキリムとジャックがそれぞれ順に口を開いた。

『そうだね。クロトもクロトで大変なの忘れてた。僕もごめん。自分の全く知らない世界だとキツイし、共通点がある方が安心するよね。』

『そうだな…。クロトのおかげで助かってることもあるのにムキになって悪かった。』

『いや、良いんだ。今回は俺が悪い。俺がどれだけ皆の助けになってたとしてもだからってなんでも許されるわけじゃない。リミル、ちゃんと叱ってくれてフォローもしてくれてありがとう。2人もちゃんと指摘してくれてありがとう。』

 その後も話しながら全身を伸ばし終えた。

「あ、朝は起きるのがマチマチだから今言っておくと、さっきやった体幹トレーニングを起き抜けにやってくれ。ストレッチは朝は無しだ。ストレッチで伸ばした分筋肉は縮むから寝る前は良いけど朝の運動前は良くない。体幹トレーニングで軽く身体を温めておく位が丁度いい。」

『なるほど、わかった。』

『ふわぁ…縮むんだね。さっきと同じ体幹トレーニングだけならそんなに時間もかからないな。』

『アキリム眠いのか?…ふわぁ…。欠伸が移った。』

『クロトも眠いんじゃん。』

「じゃあ《清潔クリーン》。皆おやすみ。」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...