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落ち着いたかと思えば、また嵐のように取り乱す。
それを繰り返すうち、ティニは蚊の鳴くような声で「ししょう」と呟くようになった。意識が現実に戻り始めた証拠だろうか、まるで迷子が親を探すようなそれに「ここにいる」と返すと、ぼんやりと虚空を見ていた瞳は、安心したようにゆっくりと下りてきた瞼に覆い隠された。
むせずに水を飲むことができるようになった頃、ティニは泣き疲れたのかようやく眠りについた。水で絞った布を赤い目元に宛がうと、冷たかったのか少し身じろいだが、起きることはなかった。
ふと顔を上げると、窓から見える空はうっすらと白んでおり、ユーダレウスはそんなに時間がかかったのかと長く息をついた。もう必要ないだろうと手を伸ばしてベッドサイドのランプを消す。
薄暗い部屋に目が慣れた頃、店の裏口のドアが開く音がした。誰かが階段をそっと上ってくる音を聴きながら項垂れると、長い髪がカーテンのように流れ落ち、白けた夜明けの光を遮った。
「……マーサ、早いな」
扉の前で立ち止まった気配に声をかければ、音を立てずにドアが開く。
「なんだ、起きてたの……って、どうしたんだいその顔。まさか寝てないのかい?」
ユーダレウスが黙って首を縦に振ると、マーサは「おやまあ」と驚いた声をあげる。その声を聴いた男は、煩わしそうに髪をかき上げ、その手でティニを指さした。
「……やっと落ち着いて寝たとこだ」
「そうかい。うちには聞こえなかったから、てっきりすぐ落ち着いたんだとばっかり……まさかあんた、一晩中、防音の魔術でもかけてたんじゃないだろうね?」
冗談を言ったつもりで声を潜めて笑うマーサに、ユーダレウスは黙り込む。沈黙を肯定と取ったマーサはからかうような笑みを引っ込めた。
「……ご苦労さんだったね。ほら、あんたも少し寝な」
疲れ切った様子で狼のように低く唸ると、ユーダレウスは大人しく空いている方のベッドに潜り込んだ。
「今日は店が休みで良かった。ティニは起きたら面倒見とくから、あんたは気にせずゆっくり休みな」
「わるいな、頼む」
すぐに聞こえてきた寝息に苦笑しながら、マーサは窓辺に近づき古びたカーテンを閉める。
ユーダレウスはこの街に来る度に、この店に顔を出してくれていた。
いつだって少しも変わらない同じ姿で、いつだって人を食ったような余裕の表情でいる不思議な男。それがこんなにも弱った姿を見せたのは初めてのことだった。
奇跡のような術を操り、人の数歩先を歩いているように見える伝説の大魔術師、ユーダレウス。
しかし、彼もまた人間なのだとマーサは改めて感じていた。
相変わらず眉間に皺を寄せたまま眠る魔術師と、可愛らしくすうすうと寝息を立てている子供の身体にそれぞれ毛布をしっかりと掛けると、マーサはそっと寝室を後にした。
それを繰り返すうち、ティニは蚊の鳴くような声で「ししょう」と呟くようになった。意識が現実に戻り始めた証拠だろうか、まるで迷子が親を探すようなそれに「ここにいる」と返すと、ぼんやりと虚空を見ていた瞳は、安心したようにゆっくりと下りてきた瞼に覆い隠された。
むせずに水を飲むことができるようになった頃、ティニは泣き疲れたのかようやく眠りについた。水で絞った布を赤い目元に宛がうと、冷たかったのか少し身じろいだが、起きることはなかった。
ふと顔を上げると、窓から見える空はうっすらと白んでおり、ユーダレウスはそんなに時間がかかったのかと長く息をついた。もう必要ないだろうと手を伸ばしてベッドサイドのランプを消す。
薄暗い部屋に目が慣れた頃、店の裏口のドアが開く音がした。誰かが階段をそっと上ってくる音を聴きながら項垂れると、長い髪がカーテンのように流れ落ち、白けた夜明けの光を遮った。
「……マーサ、早いな」
扉の前で立ち止まった気配に声をかければ、音を立てずにドアが開く。
「なんだ、起きてたの……って、どうしたんだいその顔。まさか寝てないのかい?」
ユーダレウスが黙って首を縦に振ると、マーサは「おやまあ」と驚いた声をあげる。その声を聴いた男は、煩わしそうに髪をかき上げ、その手でティニを指さした。
「……やっと落ち着いて寝たとこだ」
「そうかい。うちには聞こえなかったから、てっきりすぐ落ち着いたんだとばっかり……まさかあんた、一晩中、防音の魔術でもかけてたんじゃないだろうね?」
冗談を言ったつもりで声を潜めて笑うマーサに、ユーダレウスは黙り込む。沈黙を肯定と取ったマーサはからかうような笑みを引っ込めた。
「……ご苦労さんだったね。ほら、あんたも少し寝な」
疲れ切った様子で狼のように低く唸ると、ユーダレウスは大人しく空いている方のベッドに潜り込んだ。
「今日は店が休みで良かった。ティニは起きたら面倒見とくから、あんたは気にせずゆっくり休みな」
「わるいな、頼む」
すぐに聞こえてきた寝息に苦笑しながら、マーサは窓辺に近づき古びたカーテンを閉める。
ユーダレウスはこの街に来る度に、この店に顔を出してくれていた。
いつだって少しも変わらない同じ姿で、いつだって人を食ったような余裕の表情でいる不思議な男。それがこんなにも弱った姿を見せたのは初めてのことだった。
奇跡のような術を操り、人の数歩先を歩いているように見える伝説の大魔術師、ユーダレウス。
しかし、彼もまた人間なのだとマーサは改めて感じていた。
相変わらず眉間に皺を寄せたまま眠る魔術師と、可愛らしくすうすうと寝息を立てている子供の身体にそれぞれ毛布をしっかりと掛けると、マーサはそっと寝室を後にした。
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