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鬱蒼としてなんとも恐ろしげな道だったが、歩き始めてみると、どうということはなかった。
どうやら、ティニの予想通り、ユーダレウスの外套にはまだ術がかかっていたらしい。
ふたりの前を茶色い野うさぎが飛び出してきたが、人間がいることに全く気が付いていない様子で草を食んでいる。すっかり気が抜けた二人は、軽口を言い合いながらどんどん先へと歩いて行く。
道の奥まったところまで行くと、目の前は崖で閉ざされていた。しかし、なんとも食欲をそそる甘い香りが立ち込めているのをティニは感じていた。
外套の前を少しよけて辺りを窺うと、道の脇にティニ達の顔ほどの高さの低い木が生えていた。
カエルの手のように先が分かれた形の葉の陰に、赤くて丸い、大人の親指の先ほどの大きさの実が鈴生りになっている。鼻を寄せるまでもなく、辺りに漂っている甘い香りはこれだとわかった。
「これこれ。アルイマベリー」
ヒューゴが満足そうに、外套の隙間から手を出して、赤い実を指さした。名前からして、背の高いアルイマの木になる実だと思っていたティニは、どの辺りがアルイマなのかと首を傾げた。木の大きさも、葉っぱの形も、何もかもがまるきり違う。
後で師に尋ねてみようと思いながら、ティニは背伸びをしてアルイマベリーの木の向こうを見た。そこは緩い斜面が続いており、遠くに水音がかすかに聞こえた。
「これさ、すげー甘くて美味いんだぜ」
ヒューゴがそう言った途端、ティニの腹の虫が、きゅう、と鳴く。
たくさん歩いて空腹な上に、近くに寄っただけで唾液が出るほど甘い匂いがするのだ。ティニは思わずごくんと喉を鳴らした。
「いっぱいあるし、ちょっと味見しても大丈夫だろ」
ヒューゴも同じく空腹だったのだろう。言うが早いか、深い赤色の実を摘むと、ぽいっと口に放り込んだ。美味そうに目を細め、口を動かすヒューゴが、手振りで早く食べてみろと急かす。勧められるままに、ティニも赤い実をひとつ取った。朝露に潤んだ実は、早く食べてごらんと誘うように、甘い芳香を放っている。じわっと口の中に唾液が出るのを感じながら、ティニはそれを口に入れた。
ころんとした実を歯で噛むと、プチっとはじけて、見かけよりもたくさんの濃い果汁が溢れ出した。得も言われぬ甘い香りが口いっぱいに広がり、ティニはわずかに頬を緩ませる。その味は、飲み込んでしまうのが惜しくなるほど美味だった。
「どーだ?」
「おいしいです!」
「よかった!」
満面の笑みのヒューゴは、もう一つ、実を口に入れながら、ポケットに丸めて詰めていた布を広げた。それは麻でできた袋で、その準備の良さにティニは感心した声を上げる。
「よし、食いながら収穫だ!」
「はい!」
子供たちは夢中になって、木の実をつんでは麻袋に入れていく。
その後ろに迫る足音には気が付かない。
腹をすかせた、鼻の利く獣の足音には気が付かない。
どうやら、ティニの予想通り、ユーダレウスの外套にはまだ術がかかっていたらしい。
ふたりの前を茶色い野うさぎが飛び出してきたが、人間がいることに全く気が付いていない様子で草を食んでいる。すっかり気が抜けた二人は、軽口を言い合いながらどんどん先へと歩いて行く。
道の奥まったところまで行くと、目の前は崖で閉ざされていた。しかし、なんとも食欲をそそる甘い香りが立ち込めているのをティニは感じていた。
外套の前を少しよけて辺りを窺うと、道の脇にティニ達の顔ほどの高さの低い木が生えていた。
カエルの手のように先が分かれた形の葉の陰に、赤くて丸い、大人の親指の先ほどの大きさの実が鈴生りになっている。鼻を寄せるまでもなく、辺りに漂っている甘い香りはこれだとわかった。
「これこれ。アルイマベリー」
ヒューゴが満足そうに、外套の隙間から手を出して、赤い実を指さした。名前からして、背の高いアルイマの木になる実だと思っていたティニは、どの辺りがアルイマなのかと首を傾げた。木の大きさも、葉っぱの形も、何もかもがまるきり違う。
後で師に尋ねてみようと思いながら、ティニは背伸びをしてアルイマベリーの木の向こうを見た。そこは緩い斜面が続いており、遠くに水音がかすかに聞こえた。
「これさ、すげー甘くて美味いんだぜ」
ヒューゴがそう言った途端、ティニの腹の虫が、きゅう、と鳴く。
たくさん歩いて空腹な上に、近くに寄っただけで唾液が出るほど甘い匂いがするのだ。ティニは思わずごくんと喉を鳴らした。
「いっぱいあるし、ちょっと味見しても大丈夫だろ」
ヒューゴも同じく空腹だったのだろう。言うが早いか、深い赤色の実を摘むと、ぽいっと口に放り込んだ。美味そうに目を細め、口を動かすヒューゴが、手振りで早く食べてみろと急かす。勧められるままに、ティニも赤い実をひとつ取った。朝露に潤んだ実は、早く食べてごらんと誘うように、甘い芳香を放っている。じわっと口の中に唾液が出るのを感じながら、ティニはそれを口に入れた。
ころんとした実を歯で噛むと、プチっとはじけて、見かけよりもたくさんの濃い果汁が溢れ出した。得も言われぬ甘い香りが口いっぱいに広がり、ティニはわずかに頬を緩ませる。その味は、飲み込んでしまうのが惜しくなるほど美味だった。
「どーだ?」
「おいしいです!」
「よかった!」
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「よし、食いながら収穫だ!」
「はい!」
子供たちは夢中になって、木の実をつんでは麻袋に入れていく。
その後ろに迫る足音には気が付かない。
腹をすかせた、鼻の利く獣の足音には気が付かない。
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