居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について

古野ジョン

文字の大きさ
46 / 52

第46話 決意

しおりを挟む
 金曜の夜になり、体力をなんとか振り絞って荷造りをしている。結局、俺は明日の土曜日に実家に帰ることになった。

「え? タクシー?」

 左手でスマホを耳に押し当てながら、右手で着替えを鞄に詰める。電話先の母親が、実家のある大崎市までタクシーで帰ってこいと言いたいらしい。距離にして50キロくらいあるし、運賃も馬鹿にならないと思うのだけど。

『だって怜、今のあなたが一人で新幹線に乗れるの?』
「仙台駅まで行ければ、なんとか……」
『無理しなくていいから。お父さんが懇意にしているタクシー会社に言っておくわ』
「えっ、タクシーくらい自分で予約するよ」
『いいえ、運転手さんが車椅子で案内してくれるよう特別に頼んでおくから。歩く元気もないんでしょう?』
「……まあ、自信はないかも」
『じゃ、明日の午前十時に予約しておくから。支払いは気にしなくていいから、気をつけて来るのよ』
「分かった、ありがとう」

 礼を伝えたところで、電話が切れた。うちの両親はやや過保護ぎみなのだけど、こういう時にはその方がありがたいのかもしれない。車椅子ってのは少し大げさだと思ったけど……体調が一日ごとにかなり変動していることを考えれば、それも仕方ないかな。

 たぶん、夏休みが終わるまでは実家にいることになるだろう。うちの学部は他学部よりも早く講義が始まるから……九月頭くらいから大学に行くことになるかな。つまり、一か月くらいは仙台を離れるということだ。

 やっぱり、一度は夏織さんに顔だけでも見せるべきだったかもしれない。あの日突然に別れてしまったまま、しばらく会えないってことだもんな。それじゃあんまりだ。

 なんとか夏織さんとの時間を作れないかな。今日はもう無理だし、明日は朝十時になればタクシーが来てしまう。それに、どこかで待ち合わせようにもその場所に行く元気がない。俺の家に来てもらう? ……流石に今の関係値でそれは無理だ。

「ん」

 床に座って考え込んでいると、着信音が鳴った。母親が何か伝え忘れたのかと思い、スマホを手に取ると……画面に表示されていたのは「白兎桜」の文字。

「?」

 アイツうさぎたんが電話って、何の用事だろう。夏織さんのこと? 俺が実家に帰ると知っているはずなのに、何を伝える気なんだろう。

「もしもし」
『白兎だけど。今電話して大丈夫?』
「ええ、なんとか」
『悪いわね、手短に済ませるから』

 いつもはやや高飛車ぎみの白兎が、今日はやたら丁寧だ。何か申し訳なさそうな雰囲気だな。

『ごめん、無理だとは思うんだけどさ。お願いしたいことがあって』
「なんですか?」
『アンタさ、実家に帰る前に……夏織と会ってあげられない?』
「えっ?」

 予想外の言葉に戸惑ってしまう。夏織さんと会えるかな、なんて俺も考えてはいたけど、まさか白兎まで同じことを言い出すとは思わなかった。

「どういうことですか?」
『うーん、なんて言うか……やっぱり夏織、ちょっと落ち込んでて』
「……そうなんですか」

 一瞬、言葉に詰まってしまう。昨日の電話で、夏織さんとの仲は一応元に戻ったと思っている。だけど、やっぱりお互いに思うことはあるみたいだ。

『だからね、なんとかアンタに会わせられないかなって思ったんだけど。無理言ってごめんね、アンタ相当具合悪いんでしょ?』

 きっと松岡から俺の現状を知ったのだろう。ベッドからほとんど起き上がらず、食事も満足に摂れていない。大丈夫ですよと言いたかったが、虚勢を張る体力すらなかった。

「すいません、自分としても会いたいんですけど。明日の朝にはタクシーで実家に帰ってしまうんです」
『タクシー? アンタの実家って県北よね? そっか……なら厳しいか』

 わざわざタクシーで帰るという状況から、いろいろと察してくれたらしい。せっかく気を遣ってもらったのに申し訳ないな。

『分かったわ。夏織には辛抱しなさいって伝えとく』
「ありがとうございます」
『アンタとまだまだやりたいことがあるって言ってたわよ。宅飲みとか』
「ぶっ!?」

 そういやそんなこともあったな!? 初めて(正確には二回目)会ったあの日、夏織さんから宅飲みに誘われたんだったな。そうか、まだ覚えていてくれたんだな。

『まだ早い、って伝えたんだけどねー。夏織、そういうことは絶対に忘れないから』
「夏織さんらしいですね」
『そうそう、松島にも行きたいって言ってたわ。元気になったら連れて行ってあげなさいよ?』
「ええ、もちろん――」

 連れて行きます、と言いかけた瞬間だった。ある考えが思いつく。そうだ、よく考えれば明日の移動手段はタクシー。ルートの融通は利くはず!

『あれ、もしもし? ちょっとアンタ、大丈夫?』
「――すいません、白兎さん。頼みたいことがあります」
『頼み?』
「はい。明日の予定、空いてますか?」
『明日? 特にないけど』
「僕のを務めていただけませんか?」
『代理? 何のこと?』

 夏織さんと交わした約束のひとつ。それは……松島に連れて行くこと。今の自分が完璧な形で果たすことは出来ない。だけど、ほんの一部分だけでも。少しだけでも約束を守りたい。だって――

「明日、あの夜のことを夏織さんに打ち明けようと思います」

 もしかすれば、明日で俺たちの関係が終わるかもしれないから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

学校1のイケメン♀️から逃げ出した先には地獄しかありませんでした

山田空
ライト文芸
ハーレムを目指していた主人公は転校してきたイケメンによってその計画を壊される。 そして、イケメンが実は女の子でありヤンデレであったことを知り逃げる。 逃げた途中でむかし付き合った彼女たちとの過去を思い出していく。 それは忘れたくても忘れられない悲しき記憶 この物語はヒロインと出会いそして別れるを繰り返す出会いと別れの物語だ。 そして、旅の最後に見つける大切で当たり前なものとは

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...