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本編
腹ペコ誰だ!
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♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
むかーし、昔。ある村に1人の冴えないどこにでもいるような印象の薄い男がいました。その男の名はヘッターといいます。
ヘッターは絵本を描く事を仕事としていました。毎日のように机に向かっています。売れなければ、美味しい美味しい食べ物にありつけないからです。
隣の家の住人は老夫婦、前の家は若い新婚さん。この春、めでたく第一子を授かったらしい。美人の奥さんで羨ましいわい!ヘッターの家の周辺には、小さいながら幸せが築かれていました。
そんなある日のこと。1人の旅人がヘッターの住む村にやって来ました。彼はふらふらとした足どりで村の中を歩いていました。そして、食べ物を売っている店の前で突如倒れました。様子を窺っていた人たちはギョッとして慌てて旅人に近寄ります。
「おい!しっかりしろ。大丈夫か!?」
「いえ、大丈夫ではありません。」
「倒れたわりに随分としっかりした返しだな!」
「それはさておき、私に食べ物を恵んで下さいな。」
「厚かましいなお前!?」
心配して損をしたと集まった者たちは解散していく。だが、初めに声をかけた店の店主ががっつり足を掴まれたままだ。
「は・な・せ!!」
「ここで離したら、私に食べ物を恵んではくれないだろう?」
「離しても離さんでも、お前のような奴に食べ物をやる理由はない!金を払うなら別だが?」
「フッ。あいにく、私は一銭も持ってはいない。」
「とっとと、どっかいけ!!」
意地で旅人が掴んでいた手を離し、距離をとる。
「はぁ…なんて冷たい人なんだ」
よいしょと立ち上がると旅人は村の中を再び歩き始めます。食べ物の匂いがすればそこでパタッと倒れ、近寄った人に食べ物をたかっていた。
旅人はもう何軒目か分からないほど回り、ついにヘッターの家の付近にまでやってきた。ヘッターは絵本を家にこもって描いていたので久しぶりに外に出ており、少ないお金で昼食を買った帰りであった。旅人は目敏くヘッターの昼食の匂いを嗅ぎつけ、態とらしく目の前で倒れた。
「2日ぶりの温かい食べ物だ。冷めないうちに食べないと♪」
グニッ
「グェッ!!」
「ん?なんか踏んだ?まぁ、いいか。それより、腐りかけた野菜や果物じゃない、まともな食事にありつけるぞ。今日は良い日になりそうだ。」
「おいコラ、ちょっと待てぇ!!」
旅人は踏まれた背中に手を当てながらヘッターに掴みかかった。
「わぁ!えっと…どちら様?新しく村に来た人ですか?宜しくお願いします。それでは失礼します。」
「おいおいおい!?それだけか?人を踏んでおいてそれでお終いか?」
「踏んだ!?もしや、さっきのグニッとした感触…地面じゃなかったのですか?それは申し訳ない。ですが、道の真ん中で寝ては邪魔になりますよ?そちらにも非はあるという事で、失礼します。」
「寝ていたわけじゃないわ!!」
旅人はヘッターに殴りかかる勢いで揺する。
「ちょっと、揺らさないで下さいよ!!離して下さい!家に帰って出来たてのパンを食べるという非常に大切なスケジュールがあるんです!」
ヘッター同様に腹ペコの旅人にとって、ヘッターの言葉は聞き捨てならないものだった。
「なぁ、あんた人を踏んだよね?結構、痛かったんだよねー?」
「踏んだのは悪いと思っているが、わざとではない。頼むから離してくれっ!」
ヘッターは旅人の目が軽くイっちゃってる事に恐怖した。
「その手に持っている美味しそうな出来立てのパンをくれるなら離してあげるよ。」
「それだけは出来ない!」
「もう私は君に的をしぼったんだ。意地でも離さないよ。」
「他のひとに的をチェンジしてくれーー」
グゥ~
「「あっ…」」
2人のお腹の音が鳴り響いた。
「このまま此処にいてもパンが冷えるだけだし、埒があかない。全部をあげることは出来ないが少しなら分けてあげてもいい。だから肉を摘むようにしがみつくのはやめてくれないか?痛くて仕方がない!」
「もう何十人にも村人たちに断られたんだ。だから知らず力が入ってしまっていたようだ。すまないね。さぁ、君の家に行こう!」
「うわぁ…ハズレを引かされた気分だ。しかも、家まで入ってくるつもりだ。ここで分けようとしたのに…茶でも出せって事か?なんて図々しいんだ…」
「そう言わずに!心の友よ!」
「いつの間に友になったのか不思議でしょうがないよ…」
ヘッターはまだ温かいパンを手に、今日は不運だったようだと空を仰いだ。
「片付けていないから、散らかっているけど許してくれよ?」
「ほんとに散らかってるな。」
「嫌なら出てけば?」
「いい背景だと思うよ!!」
ヘッターは旅人の変わり身の早さに呆れた眼差しだ。
「そういえばあなたの名前は?あ、みなみに自分はヘッターといいます。」
「言ってませんでしたね。私はファーメだよ」
「ファーメさんね。パンは1つしかないので、三分の一でいいかな。」
細長いパンを見せつつ、ファーメに聞く。
「私が三分のニもいただけるのか!?では、遠慮なく…」
「いや、ファーメさんが三分の一の方だからね!?」
何、都合よく解釈してるんだとヘッターはファーメに目を見張る。
「暫くぶりのまともな食事を…数少ない収入で買った貴重なパンを分けてあげるんだ。感謝しなよ?」
「このファーメ、この御恩忘れるまで忘れません!」
「いや、忘れるな!!」
清々しいほどのファーメの態度きもうげっそりするヘッターである。
「いいから食べましょうよ!」
「あぁ、うん、そうだね~はぁ…」
2人はパンを食べ始める。
「「美味しい…」」
腹ペコ2人は出来立てパンの美味さに涙を浮かべる。
そして、食べ終える。
「ありがとう。ごちそうになったよ。ヘッター君、お礼にちょっとしたおまじないをしよう。」
「おまじない?」
ファーメはヘッターに何やら呟く。一瞬だけヘッターの手が光った。困惑気味のヘッターだ。
「ヘッター君はどうやら絵本の仕事をしているようだからね。君の才能に幸あれ!って感じかな?きっと朝までの自分と違う事が実感できるはずさ!それじゃあ、失礼するよ。」
そう言ってファーメはヘッターの家を笑顔で去って行ったのだった。
「ふぅ…さてと!続きを描き始めるか!」
ヘッターは机に向かい、朝の続きへと取り掛かった。
「ん?なんだ?手が進む!イケる!描けるぞ!いいネタも思いついた!うぉおおお」
ヘッターはがむしゃらに絵本をかいた。
数ヶ月後…
「ヘッターさんの本読んだよー!面白かった。また次回作楽しみにしてるね!」
「ありがとう。」
ヘッターがかいた絵本は売れ、プチ有名人とまでなっていた。近所の子供に大人気だ。
「ファーメさんは元気かな?」
ヘッターがふと思い出すのはファーメの事である。彼のおまじないとやらでヘッターは波に乗ったのだ。彼は本当は人ではなく、何かの精だったのかもしれない。
「やあ、ヘッター君。呼んだかい?」
「ファーメさん!?」
そこには数ヶ月前に会ったファーメの姿があった。
「久しぶり。早速で悪いんだけど、何か恵んではくれないかい?」
グゥー
「ハハッ。さっき出来立てパンを買ってきたばかりなんです。相変わらずタイミングばっちりですねぇ。どうぞ、散らかってますが。」
ヘッターはファーメを家へと入れる。
「本当に相変わらず散らかっているね。少しは売れていい生活が出来たんじゃないの?」
「売り上げは村の孤児院に寄付しているんです。ですので、それほどでもないんですよ。さぁ、どうぞ。」
前回と同じパンをファーメに出す。前回と違うのは、今回はパンの半分を分けたことくらいだ。
「半分もくれるのかい?嬉しいね。」
グゥーと2人はお腹を鳴らせ、食べ始める。
「「ごちそうさまでした。」」
「そうだ。ファーメさん、あの節はありがとうございました。あなたの人ならざる力のおかげで私の絵本が売れるようになりました。」
「んん?人ならざる力?」
「ええ!おまじないと言って私の手に力を宿らせてくれたではありませんか!あのおかげで手がすらすら動き、そのおかげか良いアイデアもひらめくと絶好調になりました。本当、あなたの出会う寸前とは大違いでしたよ。」
「人ならざる力って…あれ、普通に疲労回復の魔法だよ?おまじないとか言ったような気はするけど回復魔法の一種だけど。」
「……は?つまり、疲労回復で手の動きが良くなり、久方ぶりのまともな食事を摂った事で頭が冴えただけ?ファーメさんのおかげで才能開花したわけではなく、自分の才能だけで?…………パンを分けて損した!!!パン半分返せよ!恩を返そうとしたのに~!!」
ファーメの肩を掴み揺するヘッター。ヘッターはファーメの力によって売れたと思い込んでいた為、稼いだお金はほとんど孤児院に寄付する事で恩恵を独占してはならないと言い聞かせていた。故に相変わらず厳しい生活をしていたヘッターにとって貴重な食料のパンを分ける事は涙を流す思いも同然。しかし恩人であるファーメが望むのだからと実は2日ぶりの食事であるパンを分けたのだ。
「あははは。ヘッター君は面白いね。またおまじないをお礼にしてあげるよ。だから、次回もパンを分けてくれないか?」
「……とっとと旅に戻れ!!」
「それじゃあ、失礼するよ!またね、ヘッター君!」
さらっと、おまじない…いや、疲労回復の魔法をヘッターにかけたファーメは立ち上がり、ドアを開け外へ出る。
グゥ~~!!
お腹いっぱいとまではいかない2人のお腹は息ぴったりで鳴り響き、目を合わせ何とも言えない表情をする。ヘッターはため息を一つ吐くと手を振りファーメを見送る。なんだかんだ言ってファーメを気に入っているのかもしれない。
「さよならファーメさん。次に来る時は何かお土産を持ってきて下さいね。お気をつけて。」
「また会える事を楽しみにしておくよヘッター君。じゃあね!」
ファーメは旅の続きに、ヘッターは仕事に戻った。
その後…2人は何度も再会しては、少しの時間を共に過ごし、別れを繰り返す。いつしか2人は気の知れた友人へとなった。
そして今日という今日も…
「やぁヘッター君!また来たよー」
「久しぶりだねファーメさん。」
グゥ~~~~!
「「あっ…ふははは!お腹すいた!」」
元気よく2人のお腹が鳴ったのだった。
~おしまい~
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「待て待て待て!!ツッコミどころ多すぎだろぉ!!!」
絵本を読み終わったアルベルタはそう叫んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ほぼ絵本の内容で終わってしまった!すみません(笑)
ヘッターは、お腹がへったからとりました。
ファーメは、イタリア語で空腹の意味だそうです。
むかーし、昔。ある村に1人の冴えないどこにでもいるような印象の薄い男がいました。その男の名はヘッターといいます。
ヘッターは絵本を描く事を仕事としていました。毎日のように机に向かっています。売れなければ、美味しい美味しい食べ物にありつけないからです。
隣の家の住人は老夫婦、前の家は若い新婚さん。この春、めでたく第一子を授かったらしい。美人の奥さんで羨ましいわい!ヘッターの家の周辺には、小さいながら幸せが築かれていました。
そんなある日のこと。1人の旅人がヘッターの住む村にやって来ました。彼はふらふらとした足どりで村の中を歩いていました。そして、食べ物を売っている店の前で突如倒れました。様子を窺っていた人たちはギョッとして慌てて旅人に近寄ります。
「おい!しっかりしろ。大丈夫か!?」
「いえ、大丈夫ではありません。」
「倒れたわりに随分としっかりした返しだな!」
「それはさておき、私に食べ物を恵んで下さいな。」
「厚かましいなお前!?」
心配して損をしたと集まった者たちは解散していく。だが、初めに声をかけた店の店主ががっつり足を掴まれたままだ。
「は・な・せ!!」
「ここで離したら、私に食べ物を恵んではくれないだろう?」
「離しても離さんでも、お前のような奴に食べ物をやる理由はない!金を払うなら別だが?」
「フッ。あいにく、私は一銭も持ってはいない。」
「とっとと、どっかいけ!!」
意地で旅人が掴んでいた手を離し、距離をとる。
「はぁ…なんて冷たい人なんだ」
よいしょと立ち上がると旅人は村の中を再び歩き始めます。食べ物の匂いがすればそこでパタッと倒れ、近寄った人に食べ物をたかっていた。
旅人はもう何軒目か分からないほど回り、ついにヘッターの家の付近にまでやってきた。ヘッターは絵本を家にこもって描いていたので久しぶりに外に出ており、少ないお金で昼食を買った帰りであった。旅人は目敏くヘッターの昼食の匂いを嗅ぎつけ、態とらしく目の前で倒れた。
「2日ぶりの温かい食べ物だ。冷めないうちに食べないと♪」
グニッ
「グェッ!!」
「ん?なんか踏んだ?まぁ、いいか。それより、腐りかけた野菜や果物じゃない、まともな食事にありつけるぞ。今日は良い日になりそうだ。」
「おいコラ、ちょっと待てぇ!!」
旅人は踏まれた背中に手を当てながらヘッターに掴みかかった。
「わぁ!えっと…どちら様?新しく村に来た人ですか?宜しくお願いします。それでは失礼します。」
「おいおいおい!?それだけか?人を踏んでおいてそれでお終いか?」
「踏んだ!?もしや、さっきのグニッとした感触…地面じゃなかったのですか?それは申し訳ない。ですが、道の真ん中で寝ては邪魔になりますよ?そちらにも非はあるという事で、失礼します。」
「寝ていたわけじゃないわ!!」
旅人はヘッターに殴りかかる勢いで揺する。
「ちょっと、揺らさないで下さいよ!!離して下さい!家に帰って出来たてのパンを食べるという非常に大切なスケジュールがあるんです!」
ヘッター同様に腹ペコの旅人にとって、ヘッターの言葉は聞き捨てならないものだった。
「なぁ、あんた人を踏んだよね?結構、痛かったんだよねー?」
「踏んだのは悪いと思っているが、わざとではない。頼むから離してくれっ!」
ヘッターは旅人の目が軽くイっちゃってる事に恐怖した。
「その手に持っている美味しそうな出来立てのパンをくれるなら離してあげるよ。」
「それだけは出来ない!」
「もう私は君に的をしぼったんだ。意地でも離さないよ。」
「他のひとに的をチェンジしてくれーー」
グゥ~
「「あっ…」」
2人のお腹の音が鳴り響いた。
「このまま此処にいてもパンが冷えるだけだし、埒があかない。全部をあげることは出来ないが少しなら分けてあげてもいい。だから肉を摘むようにしがみつくのはやめてくれないか?痛くて仕方がない!」
「もう何十人にも村人たちに断られたんだ。だから知らず力が入ってしまっていたようだ。すまないね。さぁ、君の家に行こう!」
「うわぁ…ハズレを引かされた気分だ。しかも、家まで入ってくるつもりだ。ここで分けようとしたのに…茶でも出せって事か?なんて図々しいんだ…」
「そう言わずに!心の友よ!」
「いつの間に友になったのか不思議でしょうがないよ…」
ヘッターはまだ温かいパンを手に、今日は不運だったようだと空を仰いだ。
「片付けていないから、散らかっているけど許してくれよ?」
「ほんとに散らかってるな。」
「嫌なら出てけば?」
「いい背景だと思うよ!!」
ヘッターは旅人の変わり身の早さに呆れた眼差しだ。
「そういえばあなたの名前は?あ、みなみに自分はヘッターといいます。」
「言ってませんでしたね。私はファーメだよ」
「ファーメさんね。パンは1つしかないので、三分の一でいいかな。」
細長いパンを見せつつ、ファーメに聞く。
「私が三分のニもいただけるのか!?では、遠慮なく…」
「いや、ファーメさんが三分の一の方だからね!?」
何、都合よく解釈してるんだとヘッターはファーメに目を見張る。
「暫くぶりのまともな食事を…数少ない収入で買った貴重なパンを分けてあげるんだ。感謝しなよ?」
「このファーメ、この御恩忘れるまで忘れません!」
「いや、忘れるな!!」
清々しいほどのファーメの態度きもうげっそりするヘッターである。
「いいから食べましょうよ!」
「あぁ、うん、そうだね~はぁ…」
2人はパンを食べ始める。
「「美味しい…」」
腹ペコ2人は出来立てパンの美味さに涙を浮かべる。
そして、食べ終える。
「ありがとう。ごちそうになったよ。ヘッター君、お礼にちょっとしたおまじないをしよう。」
「おまじない?」
ファーメはヘッターに何やら呟く。一瞬だけヘッターの手が光った。困惑気味のヘッターだ。
「ヘッター君はどうやら絵本の仕事をしているようだからね。君の才能に幸あれ!って感じかな?きっと朝までの自分と違う事が実感できるはずさ!それじゃあ、失礼するよ。」
そう言ってファーメはヘッターの家を笑顔で去って行ったのだった。
「ふぅ…さてと!続きを描き始めるか!」
ヘッターは机に向かい、朝の続きへと取り掛かった。
「ん?なんだ?手が進む!イケる!描けるぞ!いいネタも思いついた!うぉおおお」
ヘッターはがむしゃらに絵本をかいた。
数ヶ月後…
「ヘッターさんの本読んだよー!面白かった。また次回作楽しみにしてるね!」
「ありがとう。」
ヘッターがかいた絵本は売れ、プチ有名人とまでなっていた。近所の子供に大人気だ。
「ファーメさんは元気かな?」
ヘッターがふと思い出すのはファーメの事である。彼のおまじないとやらでヘッターは波に乗ったのだ。彼は本当は人ではなく、何かの精だったのかもしれない。
「やあ、ヘッター君。呼んだかい?」
「ファーメさん!?」
そこには数ヶ月前に会ったファーメの姿があった。
「久しぶり。早速で悪いんだけど、何か恵んではくれないかい?」
グゥー
「ハハッ。さっき出来立てパンを買ってきたばかりなんです。相変わらずタイミングばっちりですねぇ。どうぞ、散らかってますが。」
ヘッターはファーメを家へと入れる。
「本当に相変わらず散らかっているね。少しは売れていい生活が出来たんじゃないの?」
「売り上げは村の孤児院に寄付しているんです。ですので、それほどでもないんですよ。さぁ、どうぞ。」
前回と同じパンをファーメに出す。前回と違うのは、今回はパンの半分を分けたことくらいだ。
「半分もくれるのかい?嬉しいね。」
グゥーと2人はお腹を鳴らせ、食べ始める。
「「ごちそうさまでした。」」
「そうだ。ファーメさん、あの節はありがとうございました。あなたの人ならざる力のおかげで私の絵本が売れるようになりました。」
「んん?人ならざる力?」
「ええ!おまじないと言って私の手に力を宿らせてくれたではありませんか!あのおかげで手がすらすら動き、そのおかげか良いアイデアもひらめくと絶好調になりました。本当、あなたの出会う寸前とは大違いでしたよ。」
「人ならざる力って…あれ、普通に疲労回復の魔法だよ?おまじないとか言ったような気はするけど回復魔法の一種だけど。」
「……は?つまり、疲労回復で手の動きが良くなり、久方ぶりのまともな食事を摂った事で頭が冴えただけ?ファーメさんのおかげで才能開花したわけではなく、自分の才能だけで?…………パンを分けて損した!!!パン半分返せよ!恩を返そうとしたのに~!!」
ファーメの肩を掴み揺するヘッター。ヘッターはファーメの力によって売れたと思い込んでいた為、稼いだお金はほとんど孤児院に寄付する事で恩恵を独占してはならないと言い聞かせていた。故に相変わらず厳しい生活をしていたヘッターにとって貴重な食料のパンを分ける事は涙を流す思いも同然。しかし恩人であるファーメが望むのだからと実は2日ぶりの食事であるパンを分けたのだ。
「あははは。ヘッター君は面白いね。またおまじないをお礼にしてあげるよ。だから、次回もパンを分けてくれないか?」
「……とっとと旅に戻れ!!」
「それじゃあ、失礼するよ!またね、ヘッター君!」
さらっと、おまじない…いや、疲労回復の魔法をヘッターにかけたファーメは立ち上がり、ドアを開け外へ出る。
グゥ~~!!
お腹いっぱいとまではいかない2人のお腹は息ぴったりで鳴り響き、目を合わせ何とも言えない表情をする。ヘッターはため息を一つ吐くと手を振りファーメを見送る。なんだかんだ言ってファーメを気に入っているのかもしれない。
「さよならファーメさん。次に来る時は何かお土産を持ってきて下さいね。お気をつけて。」
「また会える事を楽しみにしておくよヘッター君。じゃあね!」
ファーメは旅の続きに、ヘッターは仕事に戻った。
その後…2人は何度も再会しては、少しの時間を共に過ごし、別れを繰り返す。いつしか2人は気の知れた友人へとなった。
そして今日という今日も…
「やぁヘッター君!また来たよー」
「久しぶりだねファーメさん。」
グゥ~~~~!
「「あっ…ふははは!お腹すいた!」」
元気よく2人のお腹が鳴ったのだった。
~おしまい~
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「待て待て待て!!ツッコミどころ多すぎだろぉ!!!」
絵本を読み終わったアルベルタはそう叫んだ。
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ほぼ絵本の内容で終わってしまった!すみません(笑)
ヘッターは、お腹がへったからとりました。
ファーメは、イタリア語で空腹の意味だそうです。
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