転生した愛し子は幸せを知る

ひつ

文字の大きさ
176 / 314
本編

腹ペコ誰だ!

しおりを挟む
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 むかーし、昔。ある村に1人の冴えないどこにでもいるような印象の薄い男がいました。その男の名はヘッターといいます。


 ヘッターは絵本を描く事を仕事としていました。毎日のように机に向かっています。売れなければ、美味しい美味しい食べ物にありつけないからです。


 隣の家の住人は老夫婦、前の家は若い新婚さん。この春、めでたく第一子を授かったらしい。美人の奥さんで羨ましいわい!ヘッターの家の周辺には、小さいながら幸せが築かれていました。


 そんなある日のこと。1人の旅人がヘッターの住む村にやって来ました。彼はふらふらとした足どりで村の中を歩いていました。そして、食べ物を売っている店の前で突如倒れました。様子を窺っていた人たちはギョッとして慌てて旅人に近寄ります。


「おい!しっかりしろ。大丈夫か!?」


「いえ、大丈夫ではありません。」


「倒れたわりに随分としっかりした返しだな!」


「それはさておき、私に食べ物を恵んで下さいな。」


「厚かましいなお前!?」


 心配して損をしたと集まった者たちは解散していく。だが、初めに声をかけた店の店主ががっつり足を掴まれたままだ。


「は・な・せ!!」


「ここで離したら、私に食べ物を恵んではくれないだろう?」


「離しても離さんでも、お前のような奴に食べ物をやる理由はない!金を払うなら別だが?」


「フッ。あいにく、私は一銭も持ってはいない。」


「とっとと、どっかいけ!!」


 意地で旅人が掴んでいた手を離し、距離をとる。


「はぁ…なんて冷たい人なんだ」


 よいしょと立ち上がると旅人は村の中を再び歩き始めます。食べ物の匂いがすればそこでパタッと倒れ、近寄った人に食べ物をたかっていた。


 旅人はもう何軒目か分からないほど回り、ついにヘッターの家の付近にまでやってきた。ヘッターは絵本を家にこもって描いていたので久しぶりに外に出ており、少ないお金で昼食を買った帰りであった。旅人は目敏くヘッターの昼食の匂いを嗅ぎつけ、態とらしく目の前で倒れた。


「2日ぶりの温かい食べ物だ。冷めないうちに食べないと♪」


グニッ


「グェッ!!」


「ん?なんか踏んだ?まぁ、いいか。それより、腐りかけた野菜や果物じゃない、まともな食事にありつけるぞ。今日は良い日になりそうだ。」


「おいコラ、ちょっと待てぇ!!」


 旅人は踏まれた背中に手を当てながらヘッターに掴みかかった。


「わぁ!えっと…どちら様?新しく村に来た人ですか?宜しくお願いします。それでは失礼します。」


「おいおいおい!?それだけか?人を踏んでおいてそれでお終いか?」


「踏んだ!?もしや、さっきのグニッとした感触…地面じゃなかったのですか?それは申し訳ない。ですが、道の真ん中で寝ては邪魔になりますよ?そちらにも非はあるという事で、失礼します。」


「寝ていたわけじゃないわ!!」


 旅人はヘッターに殴りかかる勢いで揺する。


「ちょっと、揺らさないで下さいよ!!離して下さい!家に帰って出来たてのパンを食べるという非常に大切なスケジュールがあるんです!」


 ヘッター同様に腹ペコの旅人にとって、ヘッターの言葉は聞き捨てならないものだった。


「なぁ、あんた人を踏んだよね?結構、痛かったんだよねー?」


「踏んだのは悪いと思っているが、わざとではない。頼むから離してくれっ!」


 ヘッターは旅人の目が軽くイっちゃってる事に恐怖した。


「その手に持っている美味しそうな出来立てのパンをくれるなら離してあげるよ。」


「それだけは出来ない!」


「もう私は君に的をしぼったんだ。意地でも離さないよ。」


「他のひとに的をチェンジしてくれーー」


グゥ~


「「あっ…」」


 2人のお腹の音が鳴り響いた。


「このまま此処にいてもパンが冷えるだけだし、埒があかない。全部をあげることは出来ないが少しなら分けてあげてもいい。だから肉を摘むようにしがみつくのはやめてくれないか?痛くて仕方がない!」


「もう何十人にも村人たちに断られたんだ。だから知らず力が入ってしまっていたようだ。すまないね。さぁ、君の家に行こう!」


「うわぁ…ハズレを引かされた気分だ。しかも、家まで入ってくるつもりだ。ここで分けようとしたのに…茶でも出せって事か?なんて図々しいんだ…」


「そう言わずに!心の友よ!」


「いつの間に友になったのか不思議でしょうがないよ…」


 ヘッターはまだ温かいパンを手に、今日は不運だったようだと空を仰いだ。












「片付けていないから、散らかっているけど許してくれよ?」


「ほんとに散らかってるな。」


「嫌なら出てけば?」


「いい背景だと思うよ!!」


 ヘッターは旅人の変わり身の早さに呆れた眼差しだ。


「そういえばあなたの名前は?あ、みなみに自分はヘッターといいます。」


「言ってませんでしたね。私はファーメだよ」


「ファーメさんね。パンは1つしかないので、三分の一でいいかな。」


 細長いパンを見せつつ、ファーメに聞く。


「私が三分のニもいただけるのか!?では、遠慮なく…」


「いや、ファーメさんが三分の一の方だからね!?」


 何、都合よく解釈してるんだとヘッターはファーメに目を見張る。


「暫くぶりのまともな食事を…数少ない収入で買った貴重なパンを分けてあげるんだ。感謝しなよ?」


「このファーメ、この御恩忘れるまで忘れません!」


「いや、忘れるな!!」


 清々しいほどのファーメの態度きもうげっそりするヘッターである。


「いいから食べましょうよ!」


「あぁ、うん、そうだね~はぁ…」


 2人はパンを食べ始める。


「「美味しい…」」


 腹ペコ2人は出来立てパンの美味さに涙を浮かべる。


 そして、食べ終える。


「ありがとう。ごちそうになったよ。ヘッター君、お礼にちょっとしたおまじないをしよう。」


「おまじない?」 


 ファーメはヘッターに何やら呟く。一瞬だけヘッターの手が光った。困惑気味のヘッターだ。


「ヘッター君はどうやら絵本の仕事をしているようだからね。君の才能に幸あれ!って感じかな?きっと朝までの自分と違う事が実感できるはずさ!それじゃあ、失礼するよ。」


 そう言ってファーメはヘッターの家を笑顔で去って行ったのだった。






「ふぅ…さてと!続きを描き始めるか!」


 ヘッターは机に向かい、朝の続きへと取り掛かった。


「ん?なんだ?手が進む!イケる!描けるぞ!いいネタも思いついた!うぉおおお」


 ヘッターはがむしゃらに絵本をかいた。






 数ヶ月後…


「ヘッターさんの本読んだよー!面白かった。また次回作楽しみにしてるね!」


「ありがとう。」


 ヘッターがかいた絵本は売れ、プチ有名人とまでなっていた。近所の子供に大人気だ。



「ファーメさんは元気かな?」


 ヘッターがふと思い出すのはファーメの事である。彼のおまじないとやらでヘッターは波に乗ったのだ。彼は本当は人ではなく、何かの精だったのかもしれない。


「やあ、ヘッター君。呼んだかい?」


「ファーメさん!?」


 そこには数ヶ月前に会ったファーメの姿があった。


「久しぶり。早速で悪いんだけど、何か恵んではくれないかい?」


グゥー


「ハハッ。さっき出来立てパンを買ってきたばかりなんです。相変わらずタイミングばっちりですねぇ。どうぞ、散らかってますが。」


 ヘッターはファーメを家へと入れる。


「本当に相変わらず散らかっているね。少しは売れていい生活が出来たんじゃないの?」


「売り上げは村の孤児院に寄付しているんです。ですので、それほどでもないんですよ。さぁ、どうぞ。」

 前回と同じパンをファーメに出す。前回と違うのは、今回はパンの半分を分けたことくらいだ。


「半分もくれるのかい?嬉しいね。」


 グゥーと2人はお腹を鳴らせ、食べ始める。





「「ごちそうさまでした。」」


 


「そうだ。ファーメさん、あの節はありがとうございました。あなたの人ならざる力のおかげで私の絵本が売れるようになりました。」


「んん?人ならざる力?」


「ええ!おまじないと言って私の手に力を宿らせてくれたではありませんか!あのおかげで手がすらすら動き、そのおかげか良いアイデアもひらめくと絶好調になりました。本当、あなたの出会う寸前とは大違いでしたよ。」


「人ならざる力って…あれ、普通に疲労回復の魔法だよ?おまじないとか言ったような気はするけど回復魔法の一種だけど。」


「……は?つまり、疲労回復で手の動きが良くなり、久方ぶりのまともな食事を摂った事で頭が冴えただけ?ファーメさんのおかげで才能開花したわけではなく、自分の才能だけで?…………パンを分けて損した!!!パン半分返せよ!恩を返そうとしたのに~!!」


 ファーメの肩を掴み揺するヘッター。ヘッターはファーメの力によって売れたと思い込んでいた為、稼いだお金はほとんど孤児院に寄付する事で恩恵を独占してはならないと言い聞かせていた。故に相変わらず厳しい生活をしていたヘッターにとって貴重な食料のパンを分ける事は涙を流す思いも同然。しかし恩人であるファーメが望むのだからと実は2日ぶりの食事であるパンを分けたのだ。


「あははは。ヘッター君は面白いね。またおまじないをお礼にしてあげるよ。だから、次回もパンを分けてくれないか?」


「……とっとと旅に戻れ!!」


「それじゃあ、失礼するよ!またね、ヘッター君!」


 さらっと、おまじない…いや、疲労回復の魔法をヘッターにかけたファーメは立ち上がり、ドアを開け外へ出る。


グゥ~~!!


 お腹いっぱいとまではいかない2人のお腹は息ぴったりで鳴り響き、目を合わせ何とも言えない表情をする。ヘッターはため息を一つ吐くと手を振りファーメを見送る。なんだかんだ言ってファーメを気に入っているのかもしれない。


「さよならファーメさん。次に来る時は何かお土産を持ってきて下さいね。お気をつけて。」


「また会える事を楽しみにしておくよヘッター君。じゃあね!」


 ファーメは旅の続きに、ヘッターは仕事に戻った。




 その後…2人は何度も再会しては、少しの時間を共に過ごし、別れを繰り返す。いつしか2人は気の知れた友人へとなった。


 そして今日という今日も…


「やぁヘッター君!また来たよー」


「久しぶりだねファーメさん。」


グゥ~~~~!


「「あっ…ふははは!お腹すいた!」」


 元気よく2人のお腹が鳴ったのだった。

                                           ~おしまい~

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「待て待て待て!!ツッコミどころ多すぎだろぉ!!!」


 絵本を読み終わったアルベルタはそう叫んだ。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ほぼ絵本の内容で終わってしまった!すみません(笑)

ヘッターは、お腹がへったからとりました。
ファーメは、イタリア語で空腹の意味だそうです。
















 

しおりを挟む
感想 169

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の妾腹の子ですが、義母となった公爵夫人が優しすぎます!

ましゅぺちーの
恋愛
リデルはヴォルシュタイン王国の名門貴族ベルクォーツ公爵の血を引いている。 しかし彼女は正妻の子ではなく愛人の子だった。 父は自分に無関心で母は父の寵愛を失ったことで荒れていた。 そんな中、母が亡くなりリデルは父公爵に引き取られ本邸へと行くことになる そこで出会ったのが父公爵の正妻であり、義母となった公爵夫人シルフィーラだった。 彼女は愛人の子だというのにリデルを冷遇することなく、母の愛というものを教えてくれた。 リデルは虐げられているシルフィーラを守り抜き、幸せにすることを決意する。 しかし本邸にはリデルの他にも父公爵の愛人の子がいて――? 「愛するお義母様を幸せにします!」 愛する義母を守るために奮闘するリデル。そうしているうちに腹違いの兄弟たちの、公爵の愛人だった実母の、そして父公爵の知られざる秘密が次々と明らかになって――!? ヒロインが愛する義母のために強く逞しい女となり、結果的には皆に愛されるようになる物語です! 完結まで執筆済みです! 小説家になろう様にも投稿しています。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の伯爵令嬢だったエミリアは長年の想い人である公爵令息オリバーと結婚した。 しかし、夫となったオリバーとの仲は冷え切っていた。 オリバーはエミリアを愛していない。 それでもエミリアは一途に夫を想い続けた。 子供も出来ないまま十年の年月が過ぎ、エミリアはオリバーにもう一つの家庭が存在していることを知ってしまう。 それをきっかけとして、エミリアはついにオリバーとの離婚を決意する。 オリバーと離婚したエミリアは第二の人生を歩み始める。 一方、最愛の愛人とその子供を公爵家に迎え入れたオリバーは後悔に苛まれていた……。

愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵家の令嬢だったシアには結婚して七年目になる夫がいる。 夫との間には娘が一人おり、傍から見れば幸せな家庭のように思えた。 が、しかし。 実際には彼女の夫である公爵は元メイドである愛人宅から帰らずシアを蔑ろにしていた。 彼女が頼れるのは実家と公爵邸にいる優しい使用人たちだけ。 ずっと耐えてきたシアだったが、ある日夫に娘の悪口を言われたことでとうとう堪忍袋の緒が切れて……! ついに虐げられたお飾りの妻による復讐が始まる―― 夫に報復をするために動く最中、愛人のまさかの事実が次々と判明して…!?

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...