婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。

ハチワレ

文字の大きさ
9 / 28

9

しおりを挟む
「……ふふ、ふふふ。見てご覧なさいな、ゼノン。この美しい筆跡を。誰がどう見ても『正義感に燃える匿名の告発者』からの手紙に見えますわよね?」


私は、羽ペンを置いて、書き上げたばかりの数通の手紙を空中で振りました。


インクを乾かしながら、私は自分の才能に惚れ惚れとしてしまいます。


「……リリム。その手紙の送り先は、騎士団長、財務卿、そして……王都の全ゴシップ誌の編集長か?」


机の脇で、なぜか頭にブリキのバケツを被ったまま直立不動しているゼノンが、こもった声で尋ねてきました。


「ええ、そうですわ。バケツを被ったまま喋るのはおやめなさい、この鉄頭変態。……騎士団長には『聖女シャーリーの過去の着服疑惑』を。財務卿には『エリオット殿下が私的に流用した軍事費の明細』を。そして雑誌社には『王太子の前髪が、実は呪いではなく脱毛剤のせいだというスクープ』を。それぞれ適切なタイミングで届くようにしてありますの」


「……完璧だ。リリムの嫌がらせは、もはや芸術の域に達しているな」


「嫌がらせではありませんわ。これは『適切な情報の開示』ですのよ。私はただ、真実が日の目を見るお手伝いをしているだけ。……ところで、なぜ貴方はまだバケツを被っているのかしら? 視界が悪くて壁にぶつかるのが趣味なのですか?」


「リリムが昨日『バケツでも被っていなさい』と言った。……命令は絶対だ」


「……。貴方、筋肉だけではなくて、忠誠心の方向性も著しく歪んでいますわね。今すぐ脱ぎなさい! 見てるこっちの気が滅入りますわ!」


「……くっ、脱げという命令。……了解した。もっと、僕の自尊心を削ってくれ」


ゼノンがバケツを脱ぐと、その下からは汗一つかいていない、爽やかすぎるほどの美形が現れました。


本当に、性格さえまともなら今すぐどこぞの姫君にでも売り飛ばしてやるのですけれど。


「さて。情報の種は蒔きましたわ。次は、エリオット殿下に『最後の一押し』を差し上げる番ですわね」


私は立ち上がり、窓の外に広がる王都の景色を眺めました。


ちょうどその頃、王宮では……。


「抜ける……! 今日もまた、五本も抜けたぞ! シャーリー、どういうことだ! この『王立薬草園監修・爆速育毛剤』は、最高級品だと言ったではないか!」


エリオット殿下が、鏡の前で絶叫していました。


彼の額は、もはや「前髪」と呼べる境界線が消失しつつあり、チリチリに焼けたタワシのような毛髪が、無残にも数本ずつ床へ舞い落ちていたのです。


「そんなぁ、殿下ぁ。きっと、リリム様の呪いがまだ解けてないんですぅ。私の愛で包み込んであげますから、もっとダイヤモンドをプレゼントしてくださいですぅ」


シャーリーはエリオットのハゲ……いえ、広大な額など眼中にない様子で、新作のカタログに夢中です。


そこへ、ドカドカと重い足音が響き、騎士団長と数名の憲兵が部屋になだれ込んできました。


「エリオット殿下! 及び、シャーリー男爵令嬢! 公費横領、並びに過去の犯罪隠蔽の疑いで、ご同行願います!」


「な、何を言っている! 私は王太子だぞ! シャーリーは聖女だぞ!」


「聖女が修道院のパン代をネコババして、自分だけ特製ジャムを塗って食べていたという証言が出ております。さらに、殿下がシャーリー様に贈った首飾り、これ、今月の騎士団の遠征手当から出ていますね?」


騎士団長の冷徹な言葉に、エリオット殿下の顔が真っ青から真っ白へと変わりました。


「あ、あれは……その、一時的な借り入れで……!」


「言い訳は署で伺います。……あと殿下、その頭、あまりにも無惨ですので、せめて帽子を被ってください。見ていて忍びない」


「ぐ、ぐあああぁぁぁ!」


……という報告を、再び使い魔経由で受け取った私は、安宿の自室で盛大にワインを吹き出しました。


「あーっはっはっは! パン代! パン代のために聖女が連行されるなんて、前代未聞のギャグですわ! ゼノン、貴方の調べたネタ、最高に効きましたわね!」


「……リリムの笑い声、耳に心地いいな。……次はどうする。シャーリーを牢屋に入れるか?」


私は涙を拭きながら、不敵に微笑みました。


「いいえ。まだ泳がせますわ。あんなマシュマロ、牢屋に入れたら税金の無駄ですもの。彼女には、もっと『現実』という名の地獄を見せて差し上げなくては」


私は手帳の『エリオット破滅への24時』に、大きくバツ印を書き込みました。


「さあ、ゼノン。次は隣国の夜会に向けて、私のドレスを新調させなさい。もちろん、支払いは『アスタロト公爵家の隠し口座』から落としますわ。お父様への、ちょっとしたご挨拶ですの」


「……承知した。最高のドレスを用意しよう。リリムの美しさに、会場中の筋肉がひれ伏すはずだ」


「筋肉をひれ伏させてどうしますのよ……。いいから、とっとと行きなさいな!」


嫌がらせのプロ、リリム。


私の復讐は、単なる破滅では終わりません。


相手が「自分たちの愚かさ」を骨の髄まで理解するまで、徹底的に、かつユーモラスに追い詰めて差し上げるのです。


復讐日記、第9ページ目。
項目:殿下、憲兵隊に(一時的に)ドナドナ。シャーリー、パン泥棒の汚名返上ならず。


私の高笑いは、今夜も路地裏の湿った空気を陽気に切り裂いていくのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

婚約破棄のススメ!王子の「真実の愛」見つけて差し上げます

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢メロア・クレーベルの隣には、非の打ち所がない完璧すぎる婚約者、ジークハルト王子が君臨している。このまま結婚すれば、待っているのは「王妃教育」と「終わらない公務」という名の過労死コース……。 「嫌ですわ! わたくし、絶対に婚約破棄して隠居してみせますわ!」 決意したメロアは、入学したての学園で、王子の「真実の愛の相手(ヒロイン)」を見つけ出し、自分を捨ててもらうという作戦を開始する。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

処理中です...