婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。

ハチワレ

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「……さて。契約書に基づきまして、この城の『維持管理権』も私に移譲されましたわ。エリオット殿下、あ、失礼。元殿下。速やかにその玉座から尻を退けなさいな。その椅子、金箔の張り替えだけで金貨五百枚はかかりますの。貴方の不浄な油で汚されては堪りませんわ」


私は、謁見の間のど真ん中で、扇子をパサリと開いて言い放ちました。


つい先日まで王太子として踏んぞり返っていたエリオットは、今や見る影もありません。


仕立てのいい上着はあちこちが擦り切れ、その自慢だったはずの頭部は、もはや「磨き上げたばかりのボーリングの玉」のようにツルリと光り輝いています。


「リ、リリム……。頼む、そこをなんとか……。私は、私は王家を継ぐ身なのだ。この城を追い出されたら、どこへ行けばいいのだ……!」


「あら、そんなこと私が知るはずありませんでしょう? 道端でミートボールでも売って、小銭を稼げばよろしいじゃない。あ、でも貴方のその頭、調理場の衛生管理上は非常に優秀ですわね。帽子を被らなくても毛が落ちる心配がありませんもの」


「ひどい……ひどいですぅ! リリム様、殿下をいじめて楽しいんですかぁ!? 私、もう三日も高級なケーキを食べてないんですぅ! これじゃお肌がカサカサになっちゃいますぅ!」


後ろでピーピーと泣いているシャーリーを、私は冷ややかな目で見下ろしました。


彼女が着ているドレスは、洗濯をサボったせいか、ショッキングピンクが「ドブネズミ色」に変色しています。


「お黙りなさいな、この『糖分過多な残留物』が。カサカサ? 結構ですわよ。そのまま干からびて、新種のドライフルーツにでもなれば、市場で一銭くらいの価値は出るかもしれませんわね」


「リリム。……この二人の処遇、僕が隣国の地下牢……通称『筋肉の圧搾部屋』に連行してもいいんだぞ? あそこなら、嫌でも贅肉が削ぎ落とされる」


ゼノンが、私の斜め後ろで大胸筋を威嚇するようにピクピクと動かしました。


「いけませんわ、ゼノン。そんな所に連れて行ったら、彼らが筋肉に目覚めて、万が一にも『まともな人間』になってしまったら面白くありませんもの。彼らには、もっとふさわしい『絶望』を用意してありますわ」


私は、バッグから二枚の汚れたボロ布……もとい、清掃員用のエプロンを取り出し、床に投げ捨てました。


「エリオット。そしてシャーリー。貴方たちを、我がリリム商会の『終身名誉・便所掃除係』として雇用して差し上げますわ」


「べ、便所掃除……!? この私が!? 王太子であったこの私が、他人の不浄を拭えと言うのか!」


「あら、他人の不浄を拭うなんて、今まで貴方が振り撒いてきた『不始末』に比べれば、なんて清潔で高尚な仕事かしら。……いいですこと? これは私の慈悲ですわよ。働かなければ、今すぐ城の外へ叩き出して、野犬の群れとミートボールの奪い合いをさせて差し上げますけれど?」


「ひ、ひぃぃぃ……! や、やります! やらせてくださいですぅ! 野犬は怖いですぅ!」


シャーリーが、プライドも何もかも投げ捨ててエプロンに飛びつきました。


エリオットも、ガタガタと震えながら、床に落ちた布を見つめています。


「……リリム。……お前、本当に変わったな。昔はもっと、私の後ろを三歩下がって歩くような、健気な女だったのに……」


「健気? あら、それは単に、貴方の歩みが遅すぎて、歩調を合わせるのが苦痛だっただけですわよ。……さあ、もたもたしない! まずは地下一階の、衛兵たちが一ヶ月放置した開かずの便所から取り掛かりなさいな!」


私はカッと目を見開き、完璧な『白目』で二人を威圧しました。


「……お行きなさいな、この『磨き足りない便器の蓋』共! 貴方たちのこれからの人生、塩素の臭いとブラシの摩擦だけで構成されることを、心から祝福して差し上げますわよ!」


「ぎ、ぎゃあああ! 白目が、白目が追ってきますぅーー!」


二人は、悲鳴を上げながら廊下を駆けていきました。


その背中を、私は扇子で仰ぎながら見送りました。


「……ふふ、ふふふ。ゼノン。あのアホ面たちが、黄金の便器を磨きながら涙を流す姿……想像するだけで、ワインが三本は空けられますわね」


「……リリム。君の今の笑顔、もはや神話に登場する復讐の女神そのものだ。……僕も、君に磨かれたくなってきた。……ブラシで、僕の広背筋を力一杯擦ってくれないか?」


「……。貴方は少し、その腐った脳細胞を塩素で洗浄してきなさいな、この筋肉至上主義者! 貴方のその要望を叶えるには、特注のワイヤーブラシが必要になりますわ!」


「……。……くっ、最高だ。ワイヤーブラシの刺激……想像しただけで筋肉が歓喜しているぞ」


絶望に沈んだエリオット。
そして、現実に直面したシャーリー。


リリムの復讐日記は、かつての婚約者を「最も身近な下僕」に落とすという、最高に愉快な結末へと向かい始めていました。


復讐日記、第18ページ目。
項目:元王太子、トイレの守護神に転職。シャーリー、雑巾と運命の出会いを果たす。


私の高笑いは、今や私の所有物となった王宮の廊下に、どこまでも傲慢に、どこまでも愉快に響き渡るのでした。
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