【完結】平民聖女の愛と夢

ここ

文字の大きさ
1 / 10

第一話

しおりを挟む
ソフィは、平民だった。小さな村で育ち、村人全員が知り合い、つらいこともうれしいこともみんなで分け合ってきた。

ソフィの村は王都からは馬車で1か月かかるほど離れていて、果実栽培を中心としていた。
「あっ」
果実の手入れをしていた村人の声だった。声の後にガシャガシャーンと音がした。高いところにある果実の手入れのために脚立を使っていたが、それが倒れたようだ。

「ソフィを。誰かソフィを呼んでくれ」
落ち方が悪かったらしく、ひどい怪我をしていた。足が変な方向に曲がっている。
「おじさん、大丈夫?」
ソフィはすぐにやってきた。
パッと見ただけでもひどい状態だ。
ソフィはすぐに手を合わせて祈った。
光があふれ、おじさんを包んだ。
一瞬だ。
光が消えたら、折れていた足は元通りになっていた。

「ありがとう。ありがとう、ソフィ」
おじさんは手を合わせて拝むように、感謝した。
「おじさん、そんなに気にしないで。私はできることをやっただけ」

ソフィには両親も兄弟もいない。この村にもどこにも血縁関係のある知り合いはいなかった。
物心ついたときには、この村にいて、優しいおばあさんと一緒に暮らしていた。
おばあさんとも血のつながりはない。
だからなのか、村人たちは最初は、孤児院に連れて行った方がよいのではないかと心配していた。でも、一緒に暮らしているおばあさんはそんな必要はないと聞く耳持たなかった。

おばあさんは、ソフィに優しく、時々ソフィの顔を見ながら、泣いていた。
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
そのおばあさんも1か月前に亡くなって、ソフィはさみしかった。小さなお家でおばあさんと2人で穏やかに暮らしてきた。たくさんの温かい思い出がある。けれど、今はひとりぼっちだ。

ソフィに魔法の使い方を教えてくれたのも、おばあさんだった。
「この村の外では使ってはダメだよ」
どうしてなのかはわからなかったけれど、おばあさんの言うことをソフィはしっかり守ってきた。
ソフィはもうすぐ17歳になる。
そろそろ結婚相手を決めなければならない。もちろん村の中で。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの聖女は王太子に婚約破棄されて都を出ることにしました。

高山奥地
ファンタジー
大聖女の子孫、カミリヤは神聖力のないお飾りの聖女と呼ばれていた。ある日婚約者の王太子に婚約破棄を告げられて……。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

うるせえ私は聖職者だ!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
ふとしたときに自分が聖女に断罪される悪役であると気がついた主人公は、、、

「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。

木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。 しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。 さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。 聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。 しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。 それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。 だがその後、王国は大きく傾くことになった。 フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。 さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。 これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。 しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。

才女の婚約者であるバカ王子、調子に乗って婚約破棄を言い渡す。才女は然るべき処置を取りました。

サイコちゃん
ファンタジー
王位継承権を持つ第二王子フェニックには才女アローラという婚約者がいた。フェニックは顔も頭も悪いのに、優秀なアローラと同格のつもりだった。しかも従者に唆され、嘘の手柄まで取る。アローラはその手柄を褒め称えるが、フェニックは彼女を罵った。そして気分が良くなってるうちに婚約破棄まで言い渡してしまう。すると一週間後、フェニックは王位継承権を失った――

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

森聖女エレナ〜追放先の隣国を発展させたら元婚約者が泣きついてきたので処刑します〜

けんゆう
恋愛
緑豊かなグリンタフ帝国の森聖女だったエレナは、大自然の調和を守る大魔道機関を管理し、帝国の繁栄を地道に支える存在だった。だが、「無能」と罵られ、婚約破棄され、国から追放される。  「お前など不要だ」 と嘲笑う皇太子デュボワと森聖女助手のレイカは彼女を見下し、「いなくなっても帝国は繁栄する」 と豪語した。  しかし、大魔道機関の管理を失った帝国は、作物が枯れ、国は衰退の一途を辿る。  一方、エレナは隣国のセリスタン共和国へ流れ着き、自分の持つ「森聖力」の真価 に気づく……

とりかえばや聖女は成功しない

猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。 ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。 『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』 その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。 エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。 それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。 それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...