【完結】悪役令嬢の薔薇

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こんな婚約破棄事件を殿下の耳に入れても仕方ない。
「それより、イザーク様、私にお話ってなんですの?」
「あぁ、王家主催の夜会の衣装を以前のように揃えたくてな。レオナの好みを聞きたかったのだ」
仲の良い婚約者同士は衣装を合わせて夜会に参加することが多い。
レオナンも考えてはいたが、まさかイザーク殿下から言い出すとは驚きだ。
好悪どちらでも評判の微妙な婚約者であるレオナンをイザーク殿下は大事にしてくれる。だから、レオナンもイザークについて、他の何より優先しているつもりだ。

「そうですわね。前回は色を合わせましたが、今回はワンポイントだけ、バラの花の意匠をお揃いにしませんか?」
「薔薇はいいな。レオナに合っている」
イザーク殿下は、何事もまず、レオナンが優先なのだ。王宮でレオナンの悪口を言うものを見つけると、クビにするくらいだ。穏やかで優しい殿下なのに。レオナンのことだけは我慢できないらしい。
衣装合わせも、そうしたい気持ちとレオナンを悪評から守りたいがためという面があった。

イザークは自分の目で見たものしか信じない。のんびり穏やかと言われているが、信念を持った王子なのだ。だから、レオナンは婚約した。バカ王子なら、うまく断っていただろう。それが王家であっても。
レオナンの方は、人生いいとこ取りが夢の公爵令嬢らしくない令嬢だ。
生徒会長をやっているのも、卒業してからの進路を考えてのことだった。順調に殿下の花嫁になれば不用ではあるが、人生何があるかわからない。
その備えの最たるものがレオナンが会頭となった商会だ。今のところ大儲けしている。薔薇の化粧品が一番有名だ。
王太子妃教育は、素直に殿下を慕う気持ちといろんな知識を身につける楽しさで熱心にがんばっている。幸いにも、先生である王妃は王太子に性格が似ていて、相性がいい。

王太子が忙しくてお茶会が無理なときは王妃殿下とのお茶会になることが多い。そこでは、鬼のような先生から、まるで乙女のように清らかな王妃から、あらゆることを学ぶ。いつまでも若く、陛下の気持ちを惹きつけ続ける技なども。
レオナン・シュタインは、あらゆることに長けていたが、王妃の話はちょうどレオナンに足りない面で、いろいろ見抜かれているのだろうなと思っている。

レオナンをレオナと呼ぶのは、イザーク殿下だけだ。
「誰も呼ばない呼び方で呼びたい」
真っ直ぐに言われてときめかない女子はいないだろう、これは。
なんだかんだで二人は両思いなのだ。


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