婚約者と王の座を捨てて、真実の愛を選んだ僕の結果

もふっとしたクリームパン

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幕間 <後編>

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 この調査内容がまとめられた報告書が私の元まで届いたのは、恐らく陛下から私への心遣いだろう。どんな内容であろうと知らぬでいるより断然いい、そんな私の心情を察して下さったのだ。私と陛下の間に切なさに身を焦がすような恋も激しく燃えるような愛もないが、陛下からは心許せる家族にだけ与えられる親愛を確かに感じている。アルベルトのことだって、家族として会える時間を公務で忙しい時でも作って下さったり、会えない時には文通を交わしたりと、大変大事にして頂いた。王妃様も生まれたばかりのアルベルトを何度も見に来て下さったし、抱き上げても下さったし、成長からもずっと色々助けて頂いた。…私も、陛下も、王妃様も、アルベルトが戴冠する日を待ち望んでいたのだ。本当に、本当に大事に愛して下さっていた。それなのにこんな結果となるなんて…。陛下を未だに父と呼ぶ程慕っているのであれば、何故私達を、家族を捨てたのか…! 王家である以上一般的な家族とは異なっていても、私達は確かに愛情ある家族であったのに!!



 当時、王家としても静観していた訳ではない。学園でのアルベルトの様子は護衛として潜ませていた王家の影からすぐに報告が挙がっていた。始めは若き過ちとして見逃していたが、周囲を突き放し婚約者よりも恋人を優遇し始めてからは注意を促す手紙を送り、時には王宮への呼び出しの使いも出した。対処の方法が遠回りなのは学園へは王宮から馬車でも通えるが、学園に王族専用の寮がありアルベルトは寮暮らしをしていたので王宮に住む私と直に会う機会がなかったからだ。それと同時にブランカ男爵家に恋人となった娘について報告し対処するよう仕向けた。しかし出した手紙は無視され、呼び出しも学業に専念したいと言う理由でアルベルトは一切応じなかった。私だけでなく、陛下からの呼び出しさえも同様に。ブランカ男爵家の方は肝心のアルベルトが阻害して、退学手続きの為に学園へ行ったのに追い返され、娘とさえ会えなかったそうだ。今までになかった誰の言葉も聞かず応じようともしないアルベルトにどう対応したら良いのか、想定外の事態に私も陛下も困り果てた。陛下の手をこれ以上煩わすまいと、外からの公務帰りに私は密かに学園へ寄りアルベルトに面会を求めたことがあったが、学園にも寮にも姿はなく街に遊びに出掛けていると返答され、肩を落として王宮に帰ったこともある。日々アルベルトに対しての陳情が増える中、王家として恥ではあるが近年使われることがなかった『王命』で呼び出すことが決定した矢先に、とうとうアルベルトは…。



 ―――報告書の文字が突然、滲みだした。ぽたぽたと私の目から零れる雫のせいで。



 調査内容によっては、その結果を投函者の元へ伝えられることがある。今回の件は確実に伝えられることになるだろう。何故ならば、モニカは自ら望んで愛人となり、その関係も契約上のモノとして守っているだけに過ぎないので、伯爵には何の罪もない。アルベルトが訴えた『妻を一方的に愛人として監禁している悪質な伯爵』は存在しておらず、居るのは蚊帳の外にされて勘違いしているだけの夫アルベルトしかいないのだ。嘆願書に書かれている内容は事実無根として扱われ、その訴えは不用意に伯爵家の名誉に傷を付けかねない危険な行為であることをアルベルトに忠告をする必要があるからだ。アルベルトは男爵家に婿入りしているがその立場は『ブランカ』貴族を名乗る事が許されない平民の扱い。平民だからこそ、一度目は忠告で終わる。二度目は貴族に対しての不敬罪となり罰が下されるが、これが貴族同士の事となれば名誉と権威に関わる為、一度目から法廷騒ぎとなるだろう。



 私と陛下の前で、モニカとの真実の愛を貫く為ならばどんな苦労も乗り越えて見せると豪語していたが、報告書にある今のアルベルトは自分にとって都合の良い言葉を乗せて、『幸せになるべきだ』と自分に言い聞かせているだけの不安定な状態に見える。そんなアルベルトはこれから今まで知らされていなかった実情を知ることになるだろう。伯爵に罪が無い事の証明として『モニカの愛人契約のこと』は確実に伝えられる。ついでそうなった経緯として、『アルベルトの身体では子を作れないこと』も秘毒については隠されても身体的な問題として伝えられるはず。そうなれば『モニカの腹の子はアルベルトの実子ではないこと』、何より『モニカにとっての愛は身分と金次第で変わること』も…そんな報告を今のアルベルトは受け入れられるのか。



 モニカは愛人契約が終わり次第、伯爵からは見捨てられる。そうなれば、またアルベルトの元へ帰るしかない。帰って来たモニカと、全てを知ったアルベルト。どんな暮らしが始まるだろうか。この二人が幸せになるような未来が何も見えず、不安が募る。…アルベルトは恋に溺れて道を誤った愚かな子。それでも不幸せになって欲しいとは思えない、親心を捨てきれぬ私もまた愚か。手を貸してやりたい思いを身の内に封じ、何も出来ない無力さに苛まれ、未だ零れる雫はしばらく止まりそうにない。



 ――せめて私は祈ろう。あの子に心の安寧がありますようにと。




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