14 / 23
第十話
しおりを挟む僕は待った。ただ待つだけなのは思っていたより辛く、時間だけはたっぷりあるので僕とモニカの真実の愛の物語を書いてみたりもした。せっかくなので義理の父に書き上げた話を見てもらい、本を出版する商家にこの力作を送る考えを伝えた。僕が書いた話を本にして売りに出すのだ。その辺の物書きが書いた恋愛小説恋愛小説とは格が違う、本物の僕とモニカの物語。僕とモニカの真実の愛に皆が心を震わせ、すぐに人気が出るだろう自信作だった。義理の父はどこか呆れた様子だったが、ざっと原稿に目を通して僕の本名ではなくペンネームで発表するならば好きにして良いと言ってくれたので、モニカが僕を呼ぶ時の『アル』というペンネームで送ることにした。すると、僕が書いた物は『すでに流行遅れの話題の上、同系統の小説と内容もほぼ変わりなく今更面白みがない』と言った内容の手紙付きで送り返されてきた。どこの商家に送っても答えは皆同じ。腹立たしく思い躍起になって書いては送る行動を繰り返している内に半年以上の時が過ぎ、ようやくモニカが伯爵の元から帰って来た。ただし、僕達の家ではなく、ブランカ男爵家の方、つまりはモニカの実家にだった。
僕はモニカの帰宅を通いのメイドから話を聞いて、すぐに向かった。ブランカ男爵家の家令たちの出迎えも待たずに勢いのまま家の中を走って、飛び込むように入った居間にはモニカだけでなく、赤子が居た。赤髪と黒い瞳を持つ、二人の赤子。その柔肌を包むおくるみから見るに、男女の双子のようだった。だが、そのどちらも僕が持つ銀の髪や緑の瞳がなかった。母親似ではあっても父の色くらいは引き継ぐだろうに。僕に似てもいない赤子たちを見つめて、思い出すのは愛人契約などの話。それが本当の事ならこの赤子たちは、僕とモニカの子ではない…? …信じたくない事実を突き付けられた気がした。それでも信じられなくて、僕はモニカに問いかけた。この子達は僕の子ではないのか、僕を愛していたのでなかったのかと。モニカは疲れた様子であっさり答えた。
――嘘偽りなく、確かに私はアルを愛してたわ。でも愛だけじゃ、お腹が空くだけでしょ。私は愛も欲しいけど、お金はもっと欲しいのよ。おまけに身分と顔が良ければ更にいい。王子様だった頃はお金がなくても身分があったから、デートの際にお店でツケとかに出来たけど、結婚してからのアルは身分も何もないでしょ? あるとしたら見た目が私の好みってだけ。子供の事だって、アルでは作れないってちゃんと聞いてるわよ。医師の診断書まで見たもの。ナイナイ尽くしのそんなありさまで私からタダで愛されるなんて思わないでよね。私に愛されたいなら、まずは稼いで来なさいよ。…なぁに、その顔? アル、貴方分かってるの? 今まで私が稼いだお金と私の実家からのお金で生活出来ていたのよ? 頑張ってる私に文句があるなら、贅沢出来るくらいのお金かお金になるような物を持って来てから言ってよね。
伯爵とは結婚出来なかったから、次の相手を探さないと…そう言って、モニカは部屋から出て行った。その場で立ち尽くす僕を置いて、赤子たちもメイドと家令の手によって丁寧に運ばれて行くのが目の端に映る。
…モニカに会って話せば、本当の事が分かると思っていた。愛人契約なんて偽物で、モニカはきっと身籠った僕との子供を盾に脅されて無理矢理囲われているだけで、モニカは僕を愛しているのだと、そんな当たり前の事が分かると思っていた。それなのに、ようやく会えたモニカ本人から、調査官や義理の父に聞かされたあのバカげた話が、絶対に出鱈目だと思っていた話こそが、本当の事だと証明されてしまった。…気が付けば僕は一人で家に帰っていた。モニカと結婚してから暮らしてきた、二人の家。そこに新たな家族が増え、より愛に満ちた生活になると信じていた場所。愛は尊く大事なモノであるはずなのに…。
ふいに窓の外から笑い声が聞こえた。外で遊んでいたのだろう子供を家に帰るよう促す女性の声も聞こえてくる。普段は気にもしていなかったのに、他愛もないどこにでもある家庭の会話が、嫌に耳に残る。今の僕は一人きりだと実感させられた気がした。…僕とモニカの真実の愛とは、一体何だったのだろう? 日中であるにも関わらずどこか暗い家の中で、ぽつりと心に浮かんだ疑問。その答えが見つかるのは、僕が外へと出歩くようになってからのことだった。
41
あなたにおすすめの小説
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
良いものは全部ヒトのもの
猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。
ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。
翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。
一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。
『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』
憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。
自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。
婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ~偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う~
鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アプリリア・フォン・ロズウェルは、王太子ルキノ・エドワードとの幸せな婚約生活を夢見ていた。
しかし、王宮のパーティーで突然、ルキノから公衆の面前で婚約破棄を宣告される。
理由は「性格が悪い」「王妃にふさわしくない」という、にわかには信じがたいもの。
さらに、新しい婚約者候補として名指しされたのは、アプリリアの異母妹エテルナだった。
絶望の淵に突き落とされたアプリリア。
破棄の儀式の最中、突如として前世の記憶が蘇り、
彼女の中に眠っていた「真の聖女の力」――強力な治癒魔法と予知能力が覚醒する。
王宮を追われ、辺境の荒れた領地へ左遷されたアプリリアは、
そこで自立を誓い、聖女の力で領民を癒し、土地を豊かにしていく。
そんな彼女の前に現れたのは、王国最強の冷徹騎士団長ガイア・ヴァルハルト。
魔物の脅威から領地を守る彼との出会いが、アプリリアの運命を大きく変えていく。
一方、王宮ではエテルナの「偽りの聖女の力」が露呈し始め、
ルキノの無能さが明るみに出る。
エテルナの陰謀――偽手紙、刺客、魔物の誘導――が次々と暴かれ、
王国は混乱の渦に巻き込まれる。
アプリリアはガイアの愛を得て、強くなっていく。
やがて王宮に招かれた彼女は、聖女の力で王国を救い、
エテルナを永久追放、ルキノを王位剥奪へと導く。
偽りの妹は孤独な追放生活へ、
元婚約者は権力を失い後悔の日々へ、
取り巻きの貴族令嬢は家を没落させ貧困に陥る。
そしてアプリリアは、愛するガイアと結婚。
辺境の領地は王国一の繁栄地となり、
二人は子に恵まれ、永遠の幸せを手にしていく――。
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。
火野村志紀
恋愛
花の女神の神官アンリエッタは嵐の神の神官であるセレスタンと結婚するが、三年経っても子宝に恵まれなかった。
そのせいで義母にいびられていたが、セレスタンへの愛を貫こうとしていた。だがセレスタンの不在中についに逃げ出す。
式典のために神殿に泊まり込んでいたセレスタンが全てを知ったのは、家に帰って来てから。
愛らしい笑顔で出迎えてくれるはずの妻がいないと落ち込むセレスタンに、彼の両親は雨の女神の神官を新たな嫁にと薦めるが……
さようなら、婚約者様。これは悪役令嬢の逆襲です。
パリパリかぷちーの
恋愛
舞台は、神の声を重んじる王国。
そこでは“聖女”の存在が政治と信仰を支配していた。
主人公ヴィオラ=エーデルワイスは、公爵令嬢として王太子ユリウスの婚約者という地位にあったが、
ある日、王太子は突如“聖女リュシエンヌ”に心を奪われ、公衆の場でヴィオラとの婚約を破棄する。
だがヴィオラは、泣き叫ぶでもなく、静かに微笑んで言った。
「――お幸せに。では、さようなら」
その言葉と共に、彼女の“悪役令嬢”としての立場は幕を閉じる。
そしてそれが、彼女の逆襲の幕開けだった。
【再公開】作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる