婚約者と王の座を捨てて、真実の愛を選んだ僕の結果

もふっとしたクリームパン

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オマケ 第四話

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 ――愛の形は千差万別。スノーベル侯爵令嬢と結婚し、新たに夫婦になってからはしみじみと思う。先妻との静かに寄り添い合える愛もあれば、スノーベルとの日増しに降り積もる愛もある。結婚当初は、娘のように想っていただけであったが、今では誰にも渡したくない、私だけを見つめていてほしいと願う強い想いが私の胸に宿っている。亡き妻への想いが消えた訳ではない。月に一度の墓参りはスノーベルと寄り添って向かい、花をささげた墓前でささやかな思い出を二人で語り合う時間はまるで、亡き妻も共に笑って傍にいてくれるような気さえしている大事な時間だ。



 そんなスノーベルと結婚した経緯は、私が押し負けた、これに尽きる。スノーベルとのあの時の約束を引き合いに出された上に、王太子妃としての教育がもうほぼ終わっていると言われ、更にウルファング侯爵からの推薦もあっての正式な結婚の申し出となっては、断り切れなかったのだ。王家の深い内情については正式に王太子妃となってから学ぶ手筈ではあったので、王家から五体満足で離れる事が出来ても、王家の嫁として教育を受けたスノーベルの嫁入り先が非常に困難であることは明確であった。早期の再婚を望まれている公爵と本人には一切の非がないのに嫁入りが危ういスノーベル侯爵令嬢。二十歳ほど年齢が離れているが、貴族同士の結婚にはままあることで、婚約を飛ばしての結婚も夫婦間に歳の差があればあるほど許される風潮。私が再婚であるにもかかわらず、スノーベルは初婚だからと周囲からも盛大に祝福されての結婚式と相成ったのは必然だったのかもしれない。



 ――日々成長しその美しさに磨きがかかるスノーベル。その輝きは今では国一番とまで囁かれ始めている。私とスノーベルの子が産まれからは特に聖母のようだと噂され、名のある画家からぜひ母子像のモデルとして描かせてほしいと嘆願されたことも実際にあるほどだ。…まさか、そんなスノーベルと我が子の姿を偶然目にして、アルベルトが己の妻と己の子であるので返せと主張するとは思いもよらなかったが。



 アルベルトは二度、目安箱を利用している。目安箱に投函された物は基本的にその内容が公開されることがない為、必然的に内容を知るのは国王陛下と調査に携わる者達だけになる。私も監視を任せていた影の者から目安箱へ投函していたと報告を受けていたが、その内容までは把握していなかった。そこまでする必要性を感じていなかったのもある。だが、国王陛下からの使者が来て至急登城するよう命じられたので応じた所、向かった先で国王陛下の書斎に招かれ、その嘆願書のとんでもない内容を見せられた時は意味が分からず硬直してしまったほどだ。聞けば、一度目の目安箱の嘆願書は、投函した本人が実情を知らされていなかった事が加味されて注意で済んだそうだ。だが、二度目の嘆願書は内容そのものが高位貴族に対しての不敬であり、タイガークロー公爵家に対しての名誉棄損に充分値すると判断されたそうだ。王宮での仕事が終わり屋敷に帰宅していた私を、急ぎ呼び出したのも頷ける内容だった。



 そうしてアルベルトが騎士団に捕縛されるのは当然のことであり、国王陛下が余りの内容に義憤に駆られて『王命』まで出して――公的裁判を飛ばして――処分することを決められたのは、自業自得としか言いようがなかった。この件に関して私がしたことは、毒杯に用いる毒の種類を指名させてもらったことだけだ。本来、毒杯に用いられる毒物は国王陛下が決められるものだが、相談と言う体でその決定権を譲って下さったのだ。まぁ、嘆願書で名指しされたのはタイガークロー公爵家当主の私と、その家族だからな。『王命』により裁判が出来なくなったので賠償金なども発生しないため、その代わりのようなものだった。



 ――私が指名した毒は、内臓が腐り果てた後に死に至る種類のもの。その痛みは壮絶で、どんなに屈強な男であっても絶叫し糞尿をまき散らしながら暴れ、最期は悲惨な姿になるという。最早第一王子であった頃の姿は影も形もないほど薄汚れ、浮浪者にしか見えないほど身を窶した惨めなアルベルトには、実に似合いの最期だっただろう。



 部屋の扉がノックされ、私は目を開ける。すでに窓の外は暗く、まあるい月が昇っているのが見えた。入室許可を出して入って来たのは我が家に仕える家令の一人で、話の内容は夕食についてだった。我が子はすでに寝ており、妻が私を待っているようなので、急ぎ身支度を済ませる。今日は特別なワインを開け、夫婦二人で夜を楽しむのもいいだろうなと考えながら書斎を出て、気持ち小走りで食堂に向かう。着いた食堂では美しいスノーベルが私を笑顔で出迎えてくれた。挨拶を交わし互いに席に着くと、温かな料理が運ばれてきて夫婦の食事が始まる。そんな心温まる時間の中で、ふと思い至った。



 ――今後、アルベルトについて思い返すことはないだろう。アレの存在は最早過去の者であり、幸せな私達家族とは一切、何の関係もないのだから。







【完】


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