欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

翼から見た光景 ☆

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サークにそこを貫かれた時、鈍い痛みと共に本来なら感じてはいけない幸福感を味わった。
さらその奥を犯された時、これが長い間、心の奥底で自分が求めてきたものだと感じで凄く幸せな気持ちになった。

知ってはいけない場所を犯される激しい快楽。

頭の中がトリップした。
途中から獣のようになったサークに乱暴にそこを犯される自分が、あの時見た竜の世話役さんの姿と重なった。

掴みどころがなくて、自由で、でもどこか消えてしまいそうな不思議な人。
その人が竜人様に抱かれていた。
いつもにはない、激しくて、雄々しくて、匂い立つような生々しさ。
本能と本能が剥き出しのままぶつかり合うその様。

綺麗だった。

悍ましくもあるその光景は、自分には美しく見えた。
人である事をやめてしまったような奇声を上げて、激しく快楽の渦に飲まれるその人はとても綺麗だった。
あの時のあの人と自分が重なる。
全てを奪われ、作り変えられ、与えられる。

あぁ、今、自分は、あの人の味わっていた快楽に近い快楽を与えられてるんだ……。

そう思うとはしたないほどの幸福感に満たされた。
憧れた人が激しくみっともなく快楽に喘ぐ姿と同じように、今、自分は奇声を上げてよがり狂っている。

獣のようにむき出しの本能。
それに襲われ、奪われ、自分が作り変えられていく。

あぁ!サーク…っ!!

声にならない声で命一杯叫んだ。
正気ではないような自分の罪深い欲望を満たしてくれる、愛しい人。
自分を壊し、奪い、なってはならない形に作り変えてくれる人。

愛してる……。
誰よりも誰よりも……。

いっそこのまま自分を壊して欲しい。
破壊し尽して欲しい。
望むように作り変えて欲しい。

一つになりたい。

この快楽に狂ったままの自分を、本当に食べてくれればいいのに……。
ウィルはそんな事を思いながら、意識を手放した。










「ウィル?!大丈夫?!辛い?!苦しい?!」

ぱちっと目を開くと、後悔のドン底に落ちたような顔をしたサークが、泣きそうな顔で自分を見下ろしていた。

ん??
なんだ??サークは??
どうしちゃったんだ??
何でそんな変な顔をしているんだ??

聞こうと声を出そうとしたら出なかった。
驚いて喉を触ろうとしたら、全身が軋んだ。

「~~~~っ!!」

「ウィル!ごめん!!大丈夫?!」

体の外側だけじゃない。
体の中、しかもかなり奥深いところまでギシギシいっている。
サークが慌てて回復をかけてきた。
それでだいぶ楽になる。

??
何だ??サークは??
責任を感じで思い詰めた様な顔をして??

しばらく頭がぼうっとして状況がわからなかった。
次第に昨夜の事が思い出され、一瞬、ブワッと全身の血液が沸騰した。

「~~~~っ!!」

「ウ、ウィル~っ?!」

少し動けるようになって、俺は枕をひっつかんで顔に押し付けるように抱きしめた。
恥ずかしさと嬉しさとで頭がおかしくなりそうだった。

あぁ、知ってしまった。
あの人が与えられていた快楽に近いものを知ってしまった。

それが嬉しいやら恥ずかしいやら……。

体の奥が、まだその感覚を覚えている。
それを意識したら堪らなかった。
オロオロと自分を見下ろしているサークをちらりと見る。

「ウィル?!大丈夫?!どこが辛いの?!」

そう言って慌てる顔が愛おしい。
本当、あれだけの事をしてくるのに、情事以外はいつまでたっても純朴な人だ。
俺様でえばってばかりいた竜人様とは大違いだ。
自分を作り変えていく男が、竜人様みたいな人でなくサークで良かったと心から思う。

「…………ふふふっ。」

「え?!何?!どうしたの?!ウィル?!」

「え?サークが好きだなぁって思っただけだけど??」

その途端、ボンッと音でもしそうな勢いでサークは真っ赤になった。
突然の告白にあわあわしている。
可愛い。

「何だ??サークは?俺がお前を好きじゃないと思ってたのか??」

「いや!そんな事はないよ?!ないけど?!」

「なら、サークがわかってくれるまでいくらでも言ってやる。サークが好きだ。大好きだ。誰よりも誰よりも愛してる。他の人になんか渡したくない。絶対に渡さない。サークは俺のものだ。何よりも愛してる。絶対に誰にも譲らない。俺だけのサー……。」

「いやぁぁ~っ!!もうわかったから!!やめてぇぇ~っ!!」

熱い言葉のオンパレードに、サークは真っ赤になってぴよぴよしている。
手で顔を覆って挙動不審だ。
なんだよ、これからなのに……。

でも可愛い。
本当に可愛い。
俺だけの愛しい人。

俺は寝転んだまま、手を伸ばした。
つ…っとその腕に触れると、指の間からこちらを覗き込んでくるからちょっと笑ってしまった。

「ふふふっ。それよりサーク??昨夜、激しく愛を交した奥様に対して、朝の挨拶がなってないんじゃないか??」

そう言ってやると困ったように頭を掻き、サークはちらりと俺を見た。
モジモジしちゃって、本当に可愛い。

「えっと……おはよう、ウィル。体、辛くない??何か魘されてたっぽいけど、大丈夫??」

「う~ん、20点。」

「えええぇぇぇっ?!厳しくない?!」

「可愛いから依怙贔屓目に見て20点。本当なら10点。」

「厳しくない?!どこが駄目?!」

俺の採点にサークは青い顔をしている。
こんなふざけた採点を本気にして悩むなんて、自分は本当にサークから愛されているんだなと思う。

「ウィル~!頑張るから~!俺、頑張るからぁ~!!だから見捨てないで~?!」

「ふふふっ、仕方ないなぁ。可愛いから、今日のところは許してやる。」

「ウィル~!!」

そして半泣きで甘えてくる。
俺はそれをよしよしと撫でながら甘やかす。
以前、馬上の貴公子と呼ばれていた頃、俺に甘えてくる人は多かったけど、正直、面倒だなぁと頭の片隅で思っていた。
でもサークにはそれがない。
むしろもっと甘やかしたくなる。
甘やかして甘やかして、俺無しでは生きられなくなればいいと本気で思ってる。

チュッと頭にキスをすると、純朴な眼が俺をまっすぐ見つめてくる。
そしてどちらかともなく唇を重ねた。
次第に覆いかぶさるように俺を押さえ込み、手を恋人繋ぎにして俺の中を深く弄ってくる。
ねっとりと奥まで味わわれ、食われていく。

「あ……サーク……。」

「ウィル……。可愛い……。」

奪われていく感覚が堪らない。
俺の肉も血も快楽も、全てこの人に奪われていたい。
最後に名残惜しそうに唇を喰まれ、顔が離れる。
俺はうっとりとしながら微笑んだ。

「……100点。」

「ぷっ。まだ採点中だったんだ??」

サークはおかしそうに笑った。
そして手を借りながら体を起こした。
なんとなく全身がだるい。
動くのが億劫になる。

「大丈夫??辛い??」

「ん~?辛くはないけど、動くのがかったるい……。」

「なら、抱っこしようか??」

ニヤッと笑ってサークが言った。
からかってるつもりだろうが、それは甘い。
俺は平然と言い返してやった。

「してもらってもいいが、サークはそれをお義父さんやボーンさんに見られて平気なのか??」

俺の言葉に途端にあわあわしだす。
本当、可愛いよな、サークって。

「えっ?!いや?!あれ?!でも?!」

「ふふふっ、冗談だよ。でもとりあえず、シャワー室には連れてってくれると助かる。」

「シャワーでいいの??お風呂汲んだよ??」

そう言われてちょっとびっくりした。
でも確かにシャワーより湯船に浸かった方が楽になる気がした。

そうか、この家には風呂があるんだ……。

自分が二人の新しい自宅にいるんだと自覚した。
なんとなくくすぐったい気持ちになる。
サークとずっと一緒に暮らす家。
二人が夫婦として生きていく為に手に入れたこの家。
胸の奥が暖かくなって、俺は微笑んだ。

「ありがとう、サーク。助かる。」

「いいよ。それに…その…俺が無理させたんだし……。」

「ふふふっ、そうだっけ??」

「……ごめん、ウィル。俺、また途中から我を忘れてめちゃめちゃにしちゃって……。」

そう言ってサークはまた、深く後悔したような顔をして落ち込んだ。
そうか、それでこんな変な顔をしていたのか…。

「変な奴だな??俺は結構、好きなんだけど??サークが我を忘れてめちゃめちゃにしてくるの??」

その瞬間、またもやボンッと真っ赤になった。
挙動不審になるサークを眺めながら、とりあえずパジャマを着る。

「え?!えぇぇぇっ?!でもウィル?!俺がぐちゃぐちゃにしちゃった後、すごい顔して無言でいつもビンタしたりするじゃん?!」

「ん~、父さんの血なのかなぁ??何か恥ずかしいもそうだけど、嬉しいとかすごく良かったとかも限界を超えてその感情が高まると、言葉より先に気づくと殴っちゃってるんだよなぁ~。」

「ふえぇぇぇっ?!」

「今までそんな事になった事なかったんだけどね??サークにはそうなるんだよなぁ~。」

「えぇぇぇっ?!」

「ま、それも俺の愛情表現の一つだと思っておいてくれ。」

「…………わかりにくいです、その愛情表現……。」

サークは照れながら項垂れた。
言われるまで気づかなかったけれど、やっぱり自分にも両親の血が流れているんだなぁと思う。
特に自分は母親似と周囲に言われてきたし、自分でもそうだと思っていたから、こんなところで父親の血が出るなんて思いもしなかった。

サークは俺が竜の谷に帰れない事を気にやんでいるみたいだけれども、谷では巣立ちをしたら、それはもう違う人生を歩む違う人間だと認識する。
家族は大切だけど、外の世界の家族ほどの強い結びつきはない。
巣立ったら、自分で新しい巣を作って暮らすものだと皆、思ってる。
別に愛がなくなる訳じゃない。
お互い気にはかけるけど、干渉はしないのだ。
無意味に家族に甘えたり依存したりしない。
だから二度と会えなくてもそこまで気にやんだりしない。
巣立つ前に、お互いちゃんと愛されていた事を覚えているから。

そして俺は、新しい巣をこの人と持ったのだ。
心から愛しいと思えるこの人と。
俺は笑って腰掛けたベッドからサークに手を伸ばす。

「……という訳で、お風呂まで運んでもらえますか??旦那さん??」

にっこり笑ってそう言うと、サークは照れたようにはにかんだ後、俺を抱き上げた。
背丈はお互いそんなに変わらないのに、結構、軽々と言った感じで抱き上げられて少し驚いた。
首に腕を回して捕まると、しっかりした筋肉を感じる。

「ちゃんと捕まってね?ウィル?」

「……サークって、そうは見えないのに意外と筋肉質だよな??」

「う~ん??シルクが毎日鍛錬しないと投げ飛ばしてくるから、気づいたら結構筋肉ついてた。」

「それはわかってるんだけど、見た目はそんなに変わってないじゃないか??確かに初めてあった頃より、筋肉はついたと思うけど、そこまでムキムキしてきた感じじゃないのに??」

「そう??」

「うん。昔も今もずっとモモンガっぽい。」

「…………モモンガ……っ?!」

「え??ヤマネの方が良かったか??」

「いや……と言うか………何で俺が例えられる動物って……ほぼ小動物とかなんだろう………。」

「ん~??食べてる感じからじゃないかな??」

「え?!どういう事?!」

「何て言うんだろう??こう…小さい手で一生懸命持って頑張って食べてるっていうか……見てて、ふふふっってなって、たくさんお食べ~ってほこほこした気持ちになるんだよねぇ~。」

「…………それ、随分前に、ライルにも言われた……。小さい手で一生懸命食べてる様に見えるって……。」

「そりゃね?皆、そう見えてるんだし??」

「え?!ちょっと待って?!何なのそれ?!俺、一回、鏡見ながら食事しようかな?!」

「あ~、いいかもね??」

そんな話をしながら、サークに抱えられながら階段を降りる。
すると玄関フロアのアンティークランプがキラリと光った。
パタパタと音を立てて、メイド服姿の可愛いうちの娘がキッチンの方から走ってくる。

「おはようございます!奥様!」

「おはよう、カレン。もしかして朝ごはん作ってくれてるの??」

「はい!お風呂の支度は旦那様に負けましたけど!!朝食準備は負けませんからね!!」

どうやら俺が目覚める前に、カレンとサークはひと悶着したようだ。
ぷんすと胸を張るカレンと、困ったように苦笑するサーク。
う~ん、うちの子、可愛い……。
朝からほっこりしてしまう。

「いや、だからさ??メイド服だからってカレンはメイドさんじゃないんだから、自由にしてていいんだよ?!」

「いいえ!それは家守りの精霊の沽券に関わる由々しき事です!!私が旦那様と奥様の生活をお守りするんですから!!」

頑として譲らないカレンにサークはタジタジだ。
何気にサークって、年下の女の子に太刀打ちできないんだな??
東の国でも男の子たちは片手であしらってたのに、女の子たちにはあわあわしてた気がする。

「あ~うん。わかったけど、無理しないでね??カレン。」

俺をよいしょっと抱き直しながらサークは言った。
もう風呂の前なんだし、降りるよと言って下ろしてもらった。
でも不安定なのでそのまま肩を借りる。

「おや、おはよう。3人とも。」

そんな声がして皆、上を見上げる。
階段の上に寝間着の浴衣姿のお義父さんがいて、あくびをしていた。
ぎっくり腰はサークの回復で良くなったみたいで元気そうで良かった。

「あ、義父さん。お風呂汲んだから、ウィルが出たら入っていいよ。」

「朝風呂とは贅沢だね。ありがとう、サーク。」

「旦那様は奥様と入られるのですか??」

「ふぇっ?!」

「おやまあ、朝からお熱いね?二人とも。」

「はっ!入んないっ!!俺は入んないよ?!」

「え?入らないのか?サーク??」

「えぇぇっ?!入んないよ?!」

「どうして??」

そう言われ、サークは沸騰したヤカンみたいに湯気を出した。
目がぐるぐるしている感じだ。
本気で一緒に入ろうと思っていた訳じゃないけど、そう言ったらサークが動揺するのが目に見えていたからわざとそう言ってしまった。
案の定な反応に、にんまりとほくそ笑む。
本当に俺の旦那様は可愛すぎる。
サークは挙動不審になって手足をジタバタ動かしている。
可愛い。

「どうしてって……。いや!だから……それは……!!……無理ですっ!!ごめんなさいっ!!俺!まだ心の準備ができてないっ!!」

サークの言葉に階段を降りてきたお義父さんがブッと吹き出した。
俺はからかうようにサークに寄りかかって胸元をツンツン突いた。
半ばパニックになってるのが面白い。
そこできょとんと首を傾げたカレンが改心の一撃をサークに浴びせた。

「え??でも昨夜は一緒に入られてましたよね??」

サーク、硬直。
完全に石化してる。
お義父さんがおかしそうにくすくす笑った。

「おやまあ。」

「カレン~?!何でそれを?!」

お義父さんに笑われて正気に返ったサークが涙目でカレンに問い詰める。
カレンは当然の事と言わんばかりに答えた。

「旦那様?お休みの時間になってお暇を頂きましたが、私はこのランプの中に居たんですよ??奥様が入られてすぐ、旦那様がタオルで顔を押さえて出てこられたのも私、見ておりました。」

おっと~、これは痛いなぁ。
俺も思わず笑ってしまった。
サークは完全にパニックだ。

「カ、カレン~?!」

「うふふっ。それを見て、奥様が旦那様を可愛い可愛いって仰るのがちょっとわかりました~♪」

にこにこと無邪気にカレンがトドメを刺す。
悪気がある訳じゃない分、ダメージが大きいよな。
ちらりと横目で見たサークは、顔を青くしたり赤くしたり大忙しだ。


「やめてぇぇ~っ!!俺の一生の不覚を晒さないでぇ~っ!!」


とうとうどうしたらいいのかわからなくなったサークがそう叫んだ。
そしてバタバタと外に出ていってしまう。
あはは、家主なのに家出しちゃった。
きょとんとするカレンとおかしそうに笑うお義父さん。

俺の新しい巣はとても明るくて楽しい。
きっとこんな感じで毎日が続いていくのだろう。

「……しばらく家を空けないといけないのが残念だ。」

俺はサークの消えた玄関ドアを眺めながら、思わずそう呟いてくすりと笑ってしまった。
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