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第九章「海神編」
変えることができないもの
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受け入れ体制は整った。
今日の午前中にはライオネル殿下が届くはず……。
そう、届くのだ。
あの後、ヘーゼル医務官長が恐る恐る報告に行くと、王様はあっさり良いよと言ったらしい。
ただ側にいたルードビッヒ宰相は無言で青筋を立て、地獄のようなオーラを発していたらしい。
しかもどこかで言い出しっぺが俺だと聞いたらしく、それからというもの、めちゃくちゃ怨念の籠った目で睨まれる。
何でだよ~!一番安全で!一番理に適った方法なのに~!!
それ以降は俺も忙しかったし怖かったので王宮には近づいていない。
正直言うと俺かブラハムさんが殿下を凍結・石化しに行かないといけなかったんだけど、事情を聞いたロイさんが「なら私が行ってこよう」と言って朝イチに向かってくれた。
確かに元ロイヤルガード長のロイさんなら王宮からの信頼も厚いし、何よりルードビッヒ宰相がなんだかんだ文句を言いつつもやらせてくれるだろう……。
くわばらくわばら。
ちなみに王様は、昨日の午後から北部方面の視察と言う名目で王宮都市から追い出された。
だいぶ駄々をこねたらしいが、色々な局面でフラストレーションが溜まりに溜まったルードビッヒ宰相が無言の威圧を掛け続けた事により、ギリギリになってやっと大人しく言う事を聞いたらしい。
出かける前の最終チェックとしてうちを見に来たグレイさんがそう教えてくれた。
そして「北部は今、魚や果物が美味しいんだよね~」と上機嫌に去っていった。
あの人は本当に王様の執事長なのだろうか……。
たまに疑いたくなる……。
そんな事を思っていると、アーサーが早馬でうちに来た。
アーサーは王宮警護組だ。
彼が来たという事は、いよいよだと思った。
運搬は王宮美術品を運搬する技術者が行い、それの補佐で警護班がついている。
もしもの時を考え義父さんも一緒だ。
多分、ライオネル殿下を詰めた箱や馬車には、それ相応の処置をしてくれていると思う。
ロイさんもついてるし、ファーガスさんもヘーゼル医務官長もいる。
王宮とここまでは、庶民感覚の俺には徒歩通勤が可能な距離だ。
だからそこまで遠い訳じゃない。
運搬ルートは警護部隊が配置され、もしもの際の為、国軍の一部も待機している。
この計画自体極秘事項だし、南と西の息の掛かった貴族はわかる範囲全て処分が下っているし、国境も閉鎖されている。
だから大丈夫。
絶対という言葉はいつも疑わなければならないが、それでもできる限りの事はした。
「……落ち着けよ、ギル。」
「わかってる。」
玄関に設置したソファーに座り、異様な妖気を垂れ流しているギルに俺は言った。
他の隊員が怖がって近づいて来やしない。
俺はため息をついた。
今回、ギルは王子の運搬警護から外された。
なぜかと言うと、ギルがいると言うのは、イコール、ライオネル殿下がいる可能性を示してしまうからだ。
俺が来る前まで、休み返上でべったりくっついていたのがアダになった。
ギルは一番心配な時に、ライオネル殿下の側から離れなくてはならなくなった。
その心情を慮ると可哀相だなと思う。
「……旦那様、来られました。」
玄関の隅に控えていたカレンがいち早くそう言った。
そして顔を強張らせる。
「……これが……海神様……。」
少し青ざめて見えるカレンに近づく。
カレンは不安そうに俺を見上げた。
「旦那様……。」
「大丈夫。きっと全て上手く行く。カレンもこんなに頑張ってくれたんだから、大丈夫。」
俺はそう言ってカレンをハグして、落ち着けるようトントンと背中を叩いた。
体を離すと歯を食いしばり、カレンは気丈に頷いた。
その頭をポンポンと撫でる。
そこでウインドチャイムがなった。
立ち上がろうとするギルを制し、バーバラさんが開けてくれたドアをくぐる。
作業服姿の男が一人、庭の先の扉の前にいた。
軽く帽子に触れて会釈される。
「……お荷物をお届けにきました。」
「ありがとうございます。家の中まで運んでもらえますか?」
「承知しました。」
こんなやり取りをしているが、相手は作業服を着て配達員に扮したイヴァンだ。
とりあえず何事もなく、ここまでこれたようだ。
少しだけホッとする。
作業服姿の隊員と本当の美術品運搬技術者が、わらわらと現れる。
そんな中、まるで庭を愛でる老人の様にブラハムさんが歩いている。
ウッドデッキの大きな窓をアレックが開けてくれた。
目が合い、小さく頷きあった。
作業は順調に進む。
大きな木箱を大人数で持ち、小道を進んで敷地内に入った。
無事、ライオネル殿下であり海神を俺の家の守備範囲に入れる事ができた瞬間だ。
だがその途端、少しだけ敷地内の空気が変わった。
魔力持ちや感のいいタイプの人間は全員、それを感じ、何人かはなんとなく辺りを見渡す。
海神は目覚めている訳ではない。
だが目醒めて怒ってはいないものの、やはり移動による刺激で多少の苛立ちは感じているようだ。
下手をすれば目覚めて、凍結・石化を弾いて表に出てきかねない。
ジリリと重い緊張が走った。
待ってくれ、あと少しだけ待ってくれ。
俺は祈るように思った。
そんな中、ふと、何かが微かに香った。
同時に歌のようなものが聞こえる。
部屋の中でリゼットさんが浄めの香を焚いてくれたのだ。
だいぶ空気が晴れた気がする。
そこに祝詞を歌いながら義父さんが庭に入ってきた。
俺を見つめにっこり笑う。
香と祝詞の効果で、重々しい空気はなくなった。
それを見極め、アレックはすぐに箱に近づき祈りを捧げる。
木箱が光る草花に囲まれ、パッと花が散って消えた。
どうやら眠りを誘う魔法を施したらしい。
目が合うと得意げにふふんと笑う。
なんだかんだアレックの小生意気さは健在らしい。
ちょっと笑ってしまった。
でも本当、流石だなぁと思う。
香と祝詞で落ち着いてきたとはいえ、この状態で無理に眠りの魔法や魔術をかけたら、海神は逆に刺激されて弾く為に目覚めたかもしれない。
けれど眠りを誘う魔法なら、落ち着いてきた相手を元の眠りに戻るよう働きかけることができる。
状況をよく読んだ上によく考えて使われた魔法だ。
この瞬時の判断能力は恐らく、冒険者としてダンジョンなりに立ち続けた事で養われたんだろう。
やはり学校で学んで学位を積んだタイプの魔法師とはタイプが違うなぁと思う。
そこに遅ればせながら状況変化に気づいて走ってきたファーガスさんとヘーゼル医務官長。
どちらが良いとか悪いとかではなく、この場にアレックタイプの魔法師もいてくれた事に感謝した。
そして木箱は無事、サロンダイニングに運び込まれる。
ここで運搬技術者達は帰っていく。
作業服で入り込んだ警護部隊員は、大半がそのまま森の中に消えて行った。
庭から人が居なくなるのを確認し、昼間ではあったがカーテンをしっかりと閉める。
魔術式のシャンデリアが室内の明るさを感知して光りだす。
「リオ!!」
ギルが箱に飛びつかんばかりの勢いで蓋を開ける。
そして苦虫を噛み潰したような顔で何故か俺を睨んだ。
「……仕方ないだろ?!これが一番、殿下を安全にここに運ぶ方法だったんだから……。」
ルードビッヒ宰相じゃあるまいし、何でお前までそんな顔で睨む。
ちゃんと話してあったし、納得してただろうが!!
でもまぁ、仕方がないか。
聞いていたのと、実際、石化を施されて箱に入れて運ばれてきたのを見るのではちょっと違うもんな。
行き場のない怒りを堪えているギルを、偶然、側にいたイヴァンが宥めている。
それがなんかおかしかった。
イヴァンって本当、損な役回りをやる位置にいつもちょうどいるよな?!
何なのそれ?!そういうの呼び込む体質なの?!
俺は少し笑ってしまった。
それからブラハムさんと俺で魔術を使って殿下を箱から出し、ベッドに寝かせた。
細かな梱包を取り外し、ほっと胸を撫で下ろす。
「先ずは石化を解こうかの。それから状況を見て凍結も解く、それでええかな?」
「はい、お願いします。」
そう言うとブラハムさんが石化を解いた。
一瞬、緊張が走ったが、特に変化は起きなかった。
これで後、1時間ほど様子を見て変化がなければ、凍結も解く。
計画の第一段階が、無事に終了した瞬間だった。
「お、終わった……何とか無事に終わった……。」
イヴァンが倒れ込むようにソファーに沈んだ。
こんな大事なのに隊長も副隊長代理もなく、臨時王宮警護担当と言う事で全てを任された心労は半端なかっただろう。
「お疲れ、イヴァン。風呂入って一眠りしてこいよ。どうせ殿下にはギルがべったり張り付いて離れないんだから、お前は休んどけ。」
「あ~。そうさせてもらいます……ちょっと寿命が縮みすぎて辛いです……。」
両手で顔を覆い、本当に疲れ果てている様だった。
運搬に付き添ったファーガスさんとヘーゼル医務官長も食事の前に少し休みたいとダウンしている。
無駄に元気なのは義父さんぐらいだ。
小説の様に王子様を石化して運び出した話を、家庭用ダイニングで食事をしながらリアナとラニ、ついでにノルとアレックに興奮気味に話している。
我が父ながら本当、天然って強いよな……。
ちなみに執事長のパスカルさんは、すぐに動くと怪しまれるので明日までここには来ない。
きっととても心配しているだろう。
俺は指先を切って血を出し、ネズミを作って言霊を持たせた。
余計な言葉は入れず、「無事終わりました」とだけ言葉を詰めた。
鳥より時間はかかるが、秘密裏に伝言を届けるならネズミの方がいい。
それにしても、とうとうこの日が来たんだな……。
俺はグッと奥歯を噛み締めた。
ライオネル殿下は無事、家の中に入ってもらう事ができた。
これから状況を見てだが、数日以内に計画が遂行される。
この家を買うと決めた時、こんな事になるなんて誰が想像しただろう?
全てが都合よく出来すぎていて怖い。
それを巡りと言うのかもしれないが、何か変える事のできない大きな力に決められたように動かされている気がして、俺はどことなく居心地が悪かった。
今日の午前中にはライオネル殿下が届くはず……。
そう、届くのだ。
あの後、ヘーゼル医務官長が恐る恐る報告に行くと、王様はあっさり良いよと言ったらしい。
ただ側にいたルードビッヒ宰相は無言で青筋を立て、地獄のようなオーラを発していたらしい。
しかもどこかで言い出しっぺが俺だと聞いたらしく、それからというもの、めちゃくちゃ怨念の籠った目で睨まれる。
何でだよ~!一番安全で!一番理に適った方法なのに~!!
それ以降は俺も忙しかったし怖かったので王宮には近づいていない。
正直言うと俺かブラハムさんが殿下を凍結・石化しに行かないといけなかったんだけど、事情を聞いたロイさんが「なら私が行ってこよう」と言って朝イチに向かってくれた。
確かに元ロイヤルガード長のロイさんなら王宮からの信頼も厚いし、何よりルードビッヒ宰相がなんだかんだ文句を言いつつもやらせてくれるだろう……。
くわばらくわばら。
ちなみに王様は、昨日の午後から北部方面の視察と言う名目で王宮都市から追い出された。
だいぶ駄々をこねたらしいが、色々な局面でフラストレーションが溜まりに溜まったルードビッヒ宰相が無言の威圧を掛け続けた事により、ギリギリになってやっと大人しく言う事を聞いたらしい。
出かける前の最終チェックとしてうちを見に来たグレイさんがそう教えてくれた。
そして「北部は今、魚や果物が美味しいんだよね~」と上機嫌に去っていった。
あの人は本当に王様の執事長なのだろうか……。
たまに疑いたくなる……。
そんな事を思っていると、アーサーが早馬でうちに来た。
アーサーは王宮警護組だ。
彼が来たという事は、いよいよだと思った。
運搬は王宮美術品を運搬する技術者が行い、それの補佐で警護班がついている。
もしもの時を考え義父さんも一緒だ。
多分、ライオネル殿下を詰めた箱や馬車には、それ相応の処置をしてくれていると思う。
ロイさんもついてるし、ファーガスさんもヘーゼル医務官長もいる。
王宮とここまでは、庶民感覚の俺には徒歩通勤が可能な距離だ。
だからそこまで遠い訳じゃない。
運搬ルートは警護部隊が配置され、もしもの際の為、国軍の一部も待機している。
この計画自体極秘事項だし、南と西の息の掛かった貴族はわかる範囲全て処分が下っているし、国境も閉鎖されている。
だから大丈夫。
絶対という言葉はいつも疑わなければならないが、それでもできる限りの事はした。
「……落ち着けよ、ギル。」
「わかってる。」
玄関に設置したソファーに座り、異様な妖気を垂れ流しているギルに俺は言った。
他の隊員が怖がって近づいて来やしない。
俺はため息をついた。
今回、ギルは王子の運搬警護から外された。
なぜかと言うと、ギルがいると言うのは、イコール、ライオネル殿下がいる可能性を示してしまうからだ。
俺が来る前まで、休み返上でべったりくっついていたのがアダになった。
ギルは一番心配な時に、ライオネル殿下の側から離れなくてはならなくなった。
その心情を慮ると可哀相だなと思う。
「……旦那様、来られました。」
玄関の隅に控えていたカレンがいち早くそう言った。
そして顔を強張らせる。
「……これが……海神様……。」
少し青ざめて見えるカレンに近づく。
カレンは不安そうに俺を見上げた。
「旦那様……。」
「大丈夫。きっと全て上手く行く。カレンもこんなに頑張ってくれたんだから、大丈夫。」
俺はそう言ってカレンをハグして、落ち着けるようトントンと背中を叩いた。
体を離すと歯を食いしばり、カレンは気丈に頷いた。
その頭をポンポンと撫でる。
そこでウインドチャイムがなった。
立ち上がろうとするギルを制し、バーバラさんが開けてくれたドアをくぐる。
作業服姿の男が一人、庭の先の扉の前にいた。
軽く帽子に触れて会釈される。
「……お荷物をお届けにきました。」
「ありがとうございます。家の中まで運んでもらえますか?」
「承知しました。」
こんなやり取りをしているが、相手は作業服を着て配達員に扮したイヴァンだ。
とりあえず何事もなく、ここまでこれたようだ。
少しだけホッとする。
作業服姿の隊員と本当の美術品運搬技術者が、わらわらと現れる。
そんな中、まるで庭を愛でる老人の様にブラハムさんが歩いている。
ウッドデッキの大きな窓をアレックが開けてくれた。
目が合い、小さく頷きあった。
作業は順調に進む。
大きな木箱を大人数で持ち、小道を進んで敷地内に入った。
無事、ライオネル殿下であり海神を俺の家の守備範囲に入れる事ができた瞬間だ。
だがその途端、少しだけ敷地内の空気が変わった。
魔力持ちや感のいいタイプの人間は全員、それを感じ、何人かはなんとなく辺りを見渡す。
海神は目覚めている訳ではない。
だが目醒めて怒ってはいないものの、やはり移動による刺激で多少の苛立ちは感じているようだ。
下手をすれば目覚めて、凍結・石化を弾いて表に出てきかねない。
ジリリと重い緊張が走った。
待ってくれ、あと少しだけ待ってくれ。
俺は祈るように思った。
そんな中、ふと、何かが微かに香った。
同時に歌のようなものが聞こえる。
部屋の中でリゼットさんが浄めの香を焚いてくれたのだ。
だいぶ空気が晴れた気がする。
そこに祝詞を歌いながら義父さんが庭に入ってきた。
俺を見つめにっこり笑う。
香と祝詞の効果で、重々しい空気はなくなった。
それを見極め、アレックはすぐに箱に近づき祈りを捧げる。
木箱が光る草花に囲まれ、パッと花が散って消えた。
どうやら眠りを誘う魔法を施したらしい。
目が合うと得意げにふふんと笑う。
なんだかんだアレックの小生意気さは健在らしい。
ちょっと笑ってしまった。
でも本当、流石だなぁと思う。
香と祝詞で落ち着いてきたとはいえ、この状態で無理に眠りの魔法や魔術をかけたら、海神は逆に刺激されて弾く為に目覚めたかもしれない。
けれど眠りを誘う魔法なら、落ち着いてきた相手を元の眠りに戻るよう働きかけることができる。
状況をよく読んだ上によく考えて使われた魔法だ。
この瞬時の判断能力は恐らく、冒険者としてダンジョンなりに立ち続けた事で養われたんだろう。
やはり学校で学んで学位を積んだタイプの魔法師とはタイプが違うなぁと思う。
そこに遅ればせながら状況変化に気づいて走ってきたファーガスさんとヘーゼル医務官長。
どちらが良いとか悪いとかではなく、この場にアレックタイプの魔法師もいてくれた事に感謝した。
そして木箱は無事、サロンダイニングに運び込まれる。
ここで運搬技術者達は帰っていく。
作業服で入り込んだ警護部隊員は、大半がそのまま森の中に消えて行った。
庭から人が居なくなるのを確認し、昼間ではあったがカーテンをしっかりと閉める。
魔術式のシャンデリアが室内の明るさを感知して光りだす。
「リオ!!」
ギルが箱に飛びつかんばかりの勢いで蓋を開ける。
そして苦虫を噛み潰したような顔で何故か俺を睨んだ。
「……仕方ないだろ?!これが一番、殿下を安全にここに運ぶ方法だったんだから……。」
ルードビッヒ宰相じゃあるまいし、何でお前までそんな顔で睨む。
ちゃんと話してあったし、納得してただろうが!!
でもまぁ、仕方がないか。
聞いていたのと、実際、石化を施されて箱に入れて運ばれてきたのを見るのではちょっと違うもんな。
行き場のない怒りを堪えているギルを、偶然、側にいたイヴァンが宥めている。
それがなんかおかしかった。
イヴァンって本当、損な役回りをやる位置にいつもちょうどいるよな?!
何なのそれ?!そういうの呼び込む体質なの?!
俺は少し笑ってしまった。
それからブラハムさんと俺で魔術を使って殿下を箱から出し、ベッドに寝かせた。
細かな梱包を取り外し、ほっと胸を撫で下ろす。
「先ずは石化を解こうかの。それから状況を見て凍結も解く、それでええかな?」
「はい、お願いします。」
そう言うとブラハムさんが石化を解いた。
一瞬、緊張が走ったが、特に変化は起きなかった。
これで後、1時間ほど様子を見て変化がなければ、凍結も解く。
計画の第一段階が、無事に終了した瞬間だった。
「お、終わった……何とか無事に終わった……。」
イヴァンが倒れ込むようにソファーに沈んだ。
こんな大事なのに隊長も副隊長代理もなく、臨時王宮警護担当と言う事で全てを任された心労は半端なかっただろう。
「お疲れ、イヴァン。風呂入って一眠りしてこいよ。どうせ殿下にはギルがべったり張り付いて離れないんだから、お前は休んどけ。」
「あ~。そうさせてもらいます……ちょっと寿命が縮みすぎて辛いです……。」
両手で顔を覆い、本当に疲れ果てている様だった。
運搬に付き添ったファーガスさんとヘーゼル医務官長も食事の前に少し休みたいとダウンしている。
無駄に元気なのは義父さんぐらいだ。
小説の様に王子様を石化して運び出した話を、家庭用ダイニングで食事をしながらリアナとラニ、ついでにノルとアレックに興奮気味に話している。
我が父ながら本当、天然って強いよな……。
ちなみに執事長のパスカルさんは、すぐに動くと怪しまれるので明日までここには来ない。
きっととても心配しているだろう。
俺は指先を切って血を出し、ネズミを作って言霊を持たせた。
余計な言葉は入れず、「無事終わりました」とだけ言葉を詰めた。
鳥より時間はかかるが、秘密裏に伝言を届けるならネズミの方がいい。
それにしても、とうとうこの日が来たんだな……。
俺はグッと奥歯を噛み締めた。
ライオネル殿下は無事、家の中に入ってもらう事ができた。
これから状況を見てだが、数日以内に計画が遂行される。
この家を買うと決めた時、こんな事になるなんて誰が想像しただろう?
全てが都合よく出来すぎていて怖い。
それを巡りと言うのかもしれないが、何か変える事のできない大きな力に決められたように動かされている気がして、俺はどことなく居心地が悪かった。
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