とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール

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「ちょっと先生、アンリ先生、聞いてますか?」

「え、ええ、ごめんなさい。昨夜は徹夜だったものですから、ぼうっとしてしまって」

「もう、本当にお身体大丈夫ですか?   これ以上、無理なさらないでくださいね」

「全く、あの継母ときたら。人使いが荒いんだから、やんなっちゃうわ」

 私は、継母に使用人以上に働かされていた。
 私の実母は、私を産んですぐに亡くなりその後三年経った頃、娘には母親が必要だと考えた父は、男爵令嬢だった継母と再婚したが、継母は最初から私に対し冷たく接した。そして六歳下の弟が生まれてからは特に酷く、扱い方も違った。
 しかし、継母は父の前ではそれを隠し、決して気づかれないようにしていた。ある日、私はあまりにも辛くて、父にそっと相談したが、後でそれが分かるとものすごい勢いで怒鳴られ、それ以来怖くて一切、言葉にできなくなってしまった。
 それでも父は心配して度々尋ねてくれた。
だけど私は、事実を告げるのが怖かった。

「ごめんなさい、私の勘違いでした」

 そう言うしかなかった。
 父は気にして使用人たちにも尋ねてくれていたようだったが、継母は決して誰であろうと人前では普通に接していたので、気づいてくれる人は誰一人いなかった。

 それでも、私にはマナーや学問などを教えてくれる家庭教師のエマ先生がいたからこそ耐えることができた。
 私は先生にも継母のことは言わなかった。言えば必ず先生は父に伝えてしまい、また継母が知れば大変な目に遭うと恐れたからだ。
 それでもエマ先生といる時は、嫌なことは全て忘れることができた。

 先生は私に読書の楽しさも教えてくれた。
 ある日、先生が勧めてくださった一冊の小説との出会いが、私の人生を大きく変えることとなった。
 その小説に今までにない感動を覚えた私は、いつかこんなふうに人々に感動を与える側に私自身がなれたらと思うようになり、書くことにも興味を持った私は、自作の小説を毎日書き続け、いくつもの作品を書き溜めた。

 そしてある日、恥ずかしながらも私の書いた小説を先生に読んでいただいた時に言われた。

「アンリさん、この小説はとっても面白いし、興味を惹かれるわ」

 そんな言葉をもらい、それがとても嬉しくて、その後もたくさんの小説を書き溜めていった。

 その後、エマ先生は私の小説の中から一つの作品を選んだ。

「一番、興味を惹かれたこの小説を、私の知り合いの出版社に持ち込んでみてもいいかしら?」

 そしてその際、私が伯爵令嬢であることは伏せるからと仰ってくれた。私は二つ返事で答えた。

「是非、お願いします」

 自分の書いた小説がどんな評価をされるのか、ドキドキしながら回答を待っていた。

 それから一月後、エマ先生から嬉しい知らせを受けた。私の小説が社内審査を全てクリアし、ついに出版に向けての細かな取り決めが行われることになった。しかし、そのことは父にも内緒にしてもらい、私とエマ先生二人だけの秘密にしてもらった。
 なぜなら、もしそれが分かってしまったら、継母からの嫌がらせを受けそうな気がしたからだ。


 出版に向けて動き出した際、私は社交界でのデビュタントも済み、十八歳になっていたが、その時、私の人生を変えてしまう悲しい出来事が起こってしまった。

 父が流行病で、あまりにもあっけなくこの世を去ってしまったのだ。

 あまりの悲しみに何も手につかない私に、さらに追い打ちをかけるように、継母の態度があからさまに変わった。

 私の部屋は屋根裏部屋へと移され、父からもらった宝石も取り上げられてしまい、その上、使用人以上に屋敷の掃除や食事の支度をやらされた。
 それを見かねた使用人が私のことを庇うと、容赦なく首を切り、紹介状も持たせず解雇してしまった。それ以来、私は使用人たちにこれ以上迷惑がかからぬよう距離を置いた。

 当然、エマ先生も解雇されてしまい、私は途方に暮れてしまった。しかし、しばらく経った頃、使用人の一人が継母に隠れて、エマ先生からの手紙を届けてくれた。その使用人によると、エマ先生は何度か私を訪ねてくれたそうだが、継母が不在だと言って追い返していたそうだ。

 その手紙には出版社の住所と、エマ先生の親友だという編集者のラミナさんという方の名前が記されていて、都合がつき次第、その方を訪ねるようにと書かれていた。そして全ての事情を知ったエマ先生からの手紙には励ましの言葉が綴られていた。

『こんなことで挫けては駄目よ。貴方には明るい未来が必ず待っているのだから』

 その手紙を読み終えた私は、涙がそっと頬を伝うのを感じた。
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