2 / 85
2話
しおりを挟む
私は、出版社へ行くための時間を作るべく、継母に与えられた仕事を毎日手際よくこなし、その日が来るのをずっと待ちわびていた。
そして、ついにその好機が訪れた。
その日はちょうど、継母と異母弟が同じ伯爵家の知り合いの屋敷へ、午後からのお茶会に招かれていることを使用人が話しているのを偶然耳にした。
幸い、使用人達は私の味方なので事情を話し、夕方までには戻ると告げて、出版社へと向かった。
途中、辻馬車に乗り、迷いながらも目的地へと辿り着くことができ、受付でラミナさんという方への取り次ぎを頼んだ。そして、現れたラミナさんという方は、とても若々しくいかにも仕事のできる女性という印象だった。その方から声をかけて頂いた。
「もしかして貴方が、アンリさんかしら?」
「はい、私がエマ先生から紹介を受けたアンリといいます」
「エマは私の親友なのよ。だからって訳ではなく、貴方の作品はとても興味を惹かれるものだったわ」
「あ、ありがとうございます」
私は緊張しながらお礼を言った。
その後、色々な話をしながら、出版に向けての細かな手直しや契約についての話があり、後日正式な契約をすることとなった。
これでやっと待ちに待った出版に漕ぎ着けると心の底から安堵した。
そして、最後にラミナさんはエマ先生のことを口にされた。
「もし時間があるなら帰りにエマの所に顔を出してあげて。この時間だったら居るはずよ。貴方のこと、とっても心配していたのよ」
そう言って、去って行かれた。
まだ夕方には早かったので、私はエマ先生のお宅へ伺うことにした。
もともとエマ先生は、亡くなった私の父の友人、ルイノール子爵の奥様だったそうだ。
しかし、父よりも先に病気で亡くなられたとのこと。
その後、子爵家は後見人をつけたご子息が継がれ、その頃、たまたまお時間があったエマ先生に、父が私の家庭教師をお願いしたということだった。
私は先触れもなしに伺うのは失礼かとは思ったのだが、今の私の状況を知っておられる先生ならきっと大丈夫だと思い、ご子息家族と住んでいらっしゃるお屋敷を訪問した。
そして、お屋敷に着くと執事の方が取り次いで下さり、応接室で待っているとエマ先生が笑顔で迎えてくださった。
「やっと来てくれたのね、ずっと待っていたのよ」
「突然で申し訳ありません。先生にまたお会いできて、とっても嬉しいです」
「何を言ってるの、私の方こそ嬉しいわ。でも随分と痩せてしまったのね。それに手もこんなに荒れて」
私をしみじみと見た先生は、涙ぐまれてしまった。
そして、私は先生がいなくなってからのことを全て話した。
それでも書くことが好きだから何とか頑張れていると話し、ラミナさんを紹介して下さったことへのお礼を言った。
すると先生は、私宛てに何度も手紙を書いたが返事がこないので心配になり、私のいる屋敷に何度か足を運んだが、その度に不在だと言われたそうだ。
その際に、使用人が何か言おうとしたが、その都度、継母が出てきて何も聞けなかったということだ。しかし、最後に訪ねた時、継母に気づかれないように手紙を託すことができたという。
エマ先生は私に、屋敷を出て一人暮らしをしてはどうかと提案して下さり、そのための資金も用意して下さると言われたが、私はそこまで頼ることは憚られた。だから私はしっかりとした言葉で先生に答えた。
「小説家として一本立ちできる自信がつくまでは、このまま頑張ってみます」と。
そして、ついにその好機が訪れた。
その日はちょうど、継母と異母弟が同じ伯爵家の知り合いの屋敷へ、午後からのお茶会に招かれていることを使用人が話しているのを偶然耳にした。
幸い、使用人達は私の味方なので事情を話し、夕方までには戻ると告げて、出版社へと向かった。
途中、辻馬車に乗り、迷いながらも目的地へと辿り着くことができ、受付でラミナさんという方への取り次ぎを頼んだ。そして、現れたラミナさんという方は、とても若々しくいかにも仕事のできる女性という印象だった。その方から声をかけて頂いた。
「もしかして貴方が、アンリさんかしら?」
「はい、私がエマ先生から紹介を受けたアンリといいます」
「エマは私の親友なのよ。だからって訳ではなく、貴方の作品はとても興味を惹かれるものだったわ」
「あ、ありがとうございます」
私は緊張しながらお礼を言った。
その後、色々な話をしながら、出版に向けての細かな手直しや契約についての話があり、後日正式な契約をすることとなった。
これでやっと待ちに待った出版に漕ぎ着けると心の底から安堵した。
そして、最後にラミナさんはエマ先生のことを口にされた。
「もし時間があるなら帰りにエマの所に顔を出してあげて。この時間だったら居るはずよ。貴方のこと、とっても心配していたのよ」
そう言って、去って行かれた。
まだ夕方には早かったので、私はエマ先生のお宅へ伺うことにした。
もともとエマ先生は、亡くなった私の父の友人、ルイノール子爵の奥様だったそうだ。
しかし、父よりも先に病気で亡くなられたとのこと。
その後、子爵家は後見人をつけたご子息が継がれ、その頃、たまたまお時間があったエマ先生に、父が私の家庭教師をお願いしたということだった。
私は先触れもなしに伺うのは失礼かとは思ったのだが、今の私の状況を知っておられる先生ならきっと大丈夫だと思い、ご子息家族と住んでいらっしゃるお屋敷を訪問した。
そして、お屋敷に着くと執事の方が取り次いで下さり、応接室で待っているとエマ先生が笑顔で迎えてくださった。
「やっと来てくれたのね、ずっと待っていたのよ」
「突然で申し訳ありません。先生にまたお会いできて、とっても嬉しいです」
「何を言ってるの、私の方こそ嬉しいわ。でも随分と痩せてしまったのね。それに手もこんなに荒れて」
私をしみじみと見た先生は、涙ぐまれてしまった。
そして、私は先生がいなくなってからのことを全て話した。
それでも書くことが好きだから何とか頑張れていると話し、ラミナさんを紹介して下さったことへのお礼を言った。
すると先生は、私宛てに何度も手紙を書いたが返事がこないので心配になり、私のいる屋敷に何度か足を運んだが、その度に不在だと言われたそうだ。
その際に、使用人が何か言おうとしたが、その都度、継母が出てきて何も聞けなかったということだ。しかし、最後に訪ねた時、継母に気づかれないように手紙を託すことができたという。
エマ先生は私に、屋敷を出て一人暮らしをしてはどうかと提案して下さり、そのための資金も用意して下さると言われたが、私はそこまで頼ることは憚られた。だから私はしっかりとした言葉で先生に答えた。
「小説家として一本立ちできる自信がつくまでは、このまま頑張ってみます」と。
134
あなたにおすすめの小説
セーブポイントに設定された幸薄令嬢は、英雄騎士様にいつの間にか執着されています。
待鳥園子
恋愛
オブライエン侯爵令嬢レティシアは城中にある洋服箪笥の中で、悲しみに暮れて隠れるように泣いていた。
箪笥の扉をいきなり開けたのは、冒険者のパーティの三人。彼らはレティシアが自分たちの『セーブポイント』に設定されているため、自分たちがSSランクへ昇級するまでは夜に一度会いに行きたいと頼む。
落ち込むしかない状況の気晴らしにと、戸惑いながらも彼らの要望を受け入れることにしたレティシアは、やがて三人の中の一人で心優しい聖騎士イーサンに惹かれるようになる。
侯爵家の血を繋ぐためには冒険者の彼とは結婚出来ないために遠ざけて諦めようとすると、イーサンはレティシアへの執着心を剥き出しにするようになって!?
幼い頃から幸が薄い人生を歩んできた貴族令嬢が、スパダリ過ぎる聖騎士に溺愛されて幸せになる話。
※完結まで毎日投稿です。
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
Mimi
恋愛
若様がお戻りになる……
イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。
王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。
リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。
次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。
婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。
再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……
* 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました
そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです
男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~
百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。
放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!?
大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。 ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。
光子
恋愛
お母様が亡くなってからの私、《セルフィ=ローズリカ》の人生は、最低なものだった。
お父様も、後妻としてやってきたお義母様も義妹も、私を家族として扱わず、家族の邪魔者だと邪険に扱った。
本邸から離れた場所に建てられた陳腐な小さな小屋、一日一食だけ運ばれる質素な食事、使用人すらも着ないようなつぎはぎだらけのボロボロの服。
ローズリカ子爵家の娘とは思えない扱い。
「お義姉様って、誰からも愛されないのね、可哀想」
義妹である《リシャル》の言葉は、正しかった。
「冷酷非情、血の公爵様――――お義姉様にピッタリの婚約者様ね」
家同士が決めた、愛のない結婚。
貴族令嬢として産まれた以上、愛のない結婚をすることも覚悟はしていた。どんな相手が婚約者でも構わない、どうせ、ここにいても、嫁いでも、酷い扱いをされるのは変わらない。
だけど、私はもう、貴女達を家族とは思えなくなった。
「お前の存在価値など、可愛い妹の身代わりの花嫁になるくらいしか無いだろう! そのために家族の邪魔者であるお前を、この家に置いてやっているんだ!」
お父様の娘はリシャルだけなの? 私は? 私も、お父様の娘では無いの? 私はただリシャルの身代わりの花嫁として、お父様の娘でいたの?
そんなの嫌、それなら私ももう、貴方達を家族と思わない、家族をやめる!
リシャルの身代わりの花嫁になるなんて、嫌! 死んでも嫌!
私はこのまま、お父様達の望み通り義妹の身代わりの花嫁になって、不幸になるしかない。そう思うと、絶望だった。
「――俺の婚約者に随分、酷い扱いをしているようだな、ローズリカ子爵」
でも何故か、冷酷非情、血の公爵と呼ばれる《アクト=インテレクト》様、今まで一度も顔も見に来たことがない婚約者様は、私を救いに来てくれた。
「どうぞ、俺の婚約者である立場を有効活用して下さい。セルフィは俺の、未来のインテレクト公爵夫人なのですから」
この日から、私の立場は全く違うものになった。
私は、アクト様の婚約者――――妹の身代わりの花嫁は、婚約者様に溺愛される。
不定期更新。
この作品は私の考えた世界の話です。魔法あり。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる