とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール

文字の大きさ
25 / 85

25話

しおりを挟む
 私は公爵邸に戻り、夕食の際、殿下に今日エマ先生のお屋敷でのリサとの会話を話した。
 すると殿下は、他からも同じような感想を聞いたと仰ったので私は少しほっとした。

「これから少しずつでも戦争に対する民衆の嫌悪感が国王陛下の耳に入り、諦めてくれたらいいですね」
 
「それほど甘いお方ではないんだ。この程度では諦めてはくれない。もっと策を講じなくては。それでもまずはこちらの思惑通りには進んでいる、ありがとう」

 私はその後、殿下にお願いをした。
 
「今、いつもの出版社から次回作の催促がきているので、しばらくの間、お食事は私室の方へ運んでもらっても宜しいでしょうか?」
 
「食事くらいゆっくり取らなかったら身体を壊してしまうよ」
 
「すみません。どうしても時間が足りないので、この作品が仕上がるまででいいのでお願いします」
 
「君との楽しい食事の時間がなくなるのは寂しいな。だが、今回だけというなら仕方がない。私も我慢するとしようか」

 と仰ってくださった。

 そして次の日から、しばらくの間、食事は私室に運んでもらい、寝る間も惜しんで執筆活動に没頭した。

 そんな日が半月ほど経った頃、私はあまりの眠さから机に突っ伏して寝てしまっていた。
 そして目が覚めると肩にストールが掛かっていた。
『ほどほどにしないと本当に倒れてしまうよ』
 と走り書きが残されていた。それを見た私は、殿下が心配をして様子を見に来てくださったのだと思い、心がじんわりと暖かくなるのを感じた。
 それでもあと少しで仕上がるので申し訳ないと思いつつも、もう少しだけとそんな生活を続けた。

 その日の夕食時、食事を運んできてくれたロザリーさんに尋ねられた。

「そろそろ仕上がりましたか?」
 
「はい、どうにか今夜中には仕上がりそうです」
 
「良かったです。長かったですね。お身体は大丈夫ですか? これ以上続くようならアンリ様だけではなく、殿下のことも心配になってしまいます」
 
「殿下ですか?」
 
「殿下はずっとアンリ様のご心配をなさっていました。何度も私に様子を聞かれては、ご自分もあまり食欲がないようでしたので」

 私はそんなに周りに心配をかけてしまったのだと改めて思い、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 そして食事を取りながらペンを走らせ、最後の仕上げに取り掛かった。

 次の日の朝、何とか書き終えた作品を机の上にまとめてから、私は両手を上げて大きく伸びをしながら心地よい朝を迎えた。窓からは、柔らかな光が差し込んでいる。もちろん寝不足ではあるが、やり終えた達成感に満たされていた。
 すると扉がノックされ、ロザリーさんが朝食を運んできてくださった。私はお礼を言いながら朝食の載ったトレーを受け取り、そのまま食卓へ向かった。その後ろでロザリーさんが呆気に取られていた。

 私が勢いよく食卓に入っていくと、殿下は驚いてこちらを見ている。

「トレーを持ったままどうしたのだ?」
 
「やっと終わりましたので、殿下と朝食をと思いまして」

 そう言うと、すぐにトレーを受け取り、椅子を引いてくださった。そしてとても嬉しそうに微笑まれた。

「そうか、やっと終わったか」

 と一緒になって喜んでくださった。

 その後、作品についての話をしながらその間の迷惑と心配をかけてしまったことを謝った。

「まさか君が集中するとここまでとは、驚かされたよ」

 そうおっしゃって、気持ちは分かるがほどほどにしてもらわないとこちらも持たないと言われてしまった。 
 そして食事が終わってから、私はロザリーさんや料理長にもお詫びとお礼を言って回った。特に料理長にはとてもお世話になった。

「片手で食べられるよう配慮してもらった食事にはとても助かりました」
 
「そんな風にお礼を言われるとは思いませんでした。作り甲斐がありました」

 そう言ってもらえた。
 
 そして私はその後、仮眠を取ってからラミナさんとソラさんのいる出版社へと公爵邸の馬車で送っていただいた。
 もちろんラミナさん達に見られるとまずいので、少し遠くで降ろしてもらい、帰りは辻馬車で帰ることにした。

 久しぶりにお会いした二人はいつもの笑顔で出迎えてくださった。

「先生、ご連絡くだされば取りに行きましたのに」 
 ソラさんはそう言ってくれた。

「いえ、ラミナさんにもお会いして、今回は予定よりだいぶ遅れてしまったお詫びも伝えたかったので」

 と返した。
 私はラミナさんとソラさんには、ウィンチェスター侯爵との婚姻無効は伝えたが、その後の殿下との間にあった話はしていなかった。
 やはりエマ先生も迷惑がどこまで及ぶか分からない以上、今は黙っておいた方がよいと言われたので、私は現在、エマ先生のお屋敷で暮らしていると伝えていた。

 ラミナさんはまだ締め切りには間に合うから気にしないでと言ってくださった。

「そういえば今度アンリさんに会ったら伝えようと思っていたことがあったの」
 
 それはあまりにも聞いていて申し訳ないものだった。

「例のライバル社からまた別の作家がアンリさんと同じジャンルの小説を発売したのよ」

 と言って一冊の本を手渡された。それは予想通り私の書いた小説だった。

「例の作家は貴族女性のようだったけれど今度の作家もやはりどこかの貴族のようだわ。もっとも今度の作品は男性が書いたものだけどね」
 
 殿下は適当な男性の名前で出版すると言われたので男性口調を意識して書いたから、そうとられて当然だし、同時にそう思われたことにホッとしてしまった。
 でもこれ以上、この話に付き合うことはラミナさんに対し嘘の上塗りをすることになってしまいそうだったのでお暇することにした。

「これからエマ先生と待ち合わせがあるのでそろそろ帰ります」
 
「ではエマによろしく伝えてね」

 心の中で謝りながら、私は出版社を後にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セーブポイントに設定された幸薄令嬢は、英雄騎士様にいつの間にか執着されています。

待鳥園子
恋愛
オブライエン侯爵令嬢レティシアは城中にある洋服箪笥の中で、悲しみに暮れて隠れるように泣いていた。 箪笥の扉をいきなり開けたのは、冒険者のパーティの三人。彼らはレティシアが自分たちの『セーブポイント』に設定されているため、自分たちがSSランクへ昇級するまでは夜に一度会いに行きたいと頼む。 落ち込むしかない状況の気晴らしにと、戸惑いながらも彼らの要望を受け入れることにしたレティシアは、やがて三人の中の一人で心優しい聖騎士イーサンに惹かれるようになる。 侯爵家の血を繋ぐためには冒険者の彼とは結婚出来ないために遠ざけて諦めようとすると、イーサンはレティシアへの執着心を剥き出しにするようになって!? 幼い頃から幸が薄い人生を歩んできた貴族令嬢が、スパダリ過ぎる聖騎士に溺愛されて幸せになる話。 ※完結まで毎日投稿です。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……   * 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました  そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです

男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~

百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。 放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!? 大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。  ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子
恋愛
  お母様が亡くなってからの私、《セルフィ=ローズリカ》の人生は、最低なものだった。 お父様も、後妻としてやってきたお義母様も義妹も、私を家族として扱わず、家族の邪魔者だと邪険に扱った。 本邸から離れた場所に建てられた陳腐な小さな小屋、一日一食だけ運ばれる質素な食事、使用人すらも着ないようなつぎはぎだらけのボロボロの服。 ローズリカ子爵家の娘とは思えない扱い。 「お義姉様って、誰からも愛されないのね、可哀想」 義妹である《リシャル》の言葉は、正しかった。   「冷酷非情、血の公爵様――――お義姉様にピッタリの婚約者様ね」 家同士が決めた、愛のない結婚。 貴族令嬢として産まれた以上、愛のない結婚をすることも覚悟はしていた。どんな相手が婚約者でも構わない、どうせ、ここにいても、嫁いでも、酷い扱いをされるのは変わらない。 だけど、私はもう、貴女達を家族とは思えなくなった。 「お前の存在価値など、可愛い妹の身代わりの花嫁になるくらいしか無いだろう! そのために家族の邪魔者であるお前を、この家に置いてやっているんだ!」 お父様の娘はリシャルだけなの? 私は? 私も、お父様の娘では無いの? 私はただリシャルの身代わりの花嫁として、お父様の娘でいたの? そんなの嫌、それなら私ももう、貴方達を家族と思わない、家族をやめる! リシャルの身代わりの花嫁になるなんて、嫌! 死んでも嫌! 私はこのまま、お父様達の望み通り義妹の身代わりの花嫁になって、不幸になるしかない。そう思うと、絶望だった。 「――俺の婚約者に随分、酷い扱いをしているようだな、ローズリカ子爵」 でも何故か、冷酷非情、血の公爵と呼ばれる《アクト=インテレクト》様、今まで一度も顔も見に来たことがない婚約者様は、私を救いに来てくれた。 「どうぞ、俺の婚約者である立場を有効活用して下さい。セルフィは俺の、未来のインテレクト公爵夫人なのですから」 この日から、私の立場は全く違うものになった。 私は、アクト様の婚約者――――妹の身代わりの花嫁は、婚約者様に溺愛される。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔法あり。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

処理中です...