❲完結❳乙女ゲームの世界に憑依しました! ~死ぬ運命の悪女はゲーム開始前から逆ハールートに突入しました~

四つ葉菫

文字の大きさ
12 / 105

11.占いの館

しおりを挟む


今日はこの世界に来てからのお茶会以外の初めての外出。
カレンは毎週のように出掛けて、ドレスや靴、宝石などを新調していたから、出掛けたいと告げたら理由も特に聞かれずにすんなり出発の準備が整った。 
馬車に乗って二十分ほどの距離で、カレン行きつけのお店に到着する。
私はお店の扉の前で、振り返る。

「アンナ、私が服を選んでいる間、退屈でしょ。だから、この前、行きたいって言ってたカフェでお茶でもしてきたら?」

後ろについてきたアンナが目を輝かせる。

「いいんですか?」

「勿論。よく働いてるご褒美よ。たまにはゆっくりしてちょうだい」

「ありがとうございます! メイド仲間があそこのケーキがすっごく美味しかったって言ってたから私も行きたかったんですよね。そうだ、カレン様にもお土産買ってきますね」

「うん。ありがとう」

私はアンナと手を振ってお店の前で別れる。アンナが人混みに紛れて見えなくなれば、私の口元が自然に綻んだ。
よし、うまくいったわ。
今日は街を探索するのが目的よ。
せっかく『きらレイ』の世界に来たんだもの、ゲームで見た景色を実際生で見て楽しまなくちゃ。
ゲームでは、カラフルな町並みや人々が陽気に闊歩する様子が描かれていた。
プレイヤーは学校が終わると放課後、街に立ち寄るか真っ直ぐ帰るか選択肢が選べる。立ち寄るを選択すると、街で攻略対象者との出会いがランダムに発生したり、昔お世話になっていたマルシェの女主人が出てきて、新しくできたショップ情報やデートスポットを教えてくれたりするのだ。
それによって、攻略対象者たちと仲良くなったり、おしゃれに磨きがかかったりと、色々楽しめる仕組みだ。
私はスカートをひらりと揺らして、ショーウィンドウに写った自分の姿を眺める。
うん、これなら貴族だって思われないよね。
今日もお茶会の時と同じく、ワンピース姿の軽装だ。というか、最近はこういったものしか着ていない。
カレンはすでに洋服も靴も装飾品もあまりあるほど持っているけど、どれも私の趣味じゃなかった。なので、動きやすく軽装な服を数着ほど揃えてもらった。軽装な服と言っても生地は上質だし、所々の装飾も凝っている。見る人が見れば、決して庶民が手を出せる金額の服ではないとわかるだろう。なんせ一点ものだし。
お父様にお金を出させるのは忍びなかったけど、それでもカレンが今まで散財していた額にくらべれば、雀の涙らしい。
これからは節約に努めるし、――というか散財してたのは『カレン』だけど――必要のない装飾品は全部売り払うつもりだから、お父様もお兄様も少しは楽になるといいんだけど、というのが私の願い。もうそんなに頑張って働かなくても大丈夫だということを示したい。
ちょっとお洒落な都会風の少女の出で立ちになった私は早速街を見て回った。十二歳の貴族の娘がひとりで出歩いているなんて誰も思わないのか、違和感なく街に溶け込む。
街並みはゲームで見た雰囲気そのままに、地面は明るい煉瓦で敷き詰められ、建物は色とりどりだけど、全体的によく調和している。
お店は開放的に開かれ、花やガラス細工、アクセサリー、帽子などが路面から見渡せる。その通りを人々が足取り軽く闊歩していく。

「本当に見たまんまだわ!」

画面上にしか存在しなかった世界が、今、現実として目の前にあることに興奮する。
ヒロインは王都育ちだけあって、この街に馴染み深い。貴族出身とわかってからは男爵の屋敷に引き取られるけど、その前まではここに暮らしていたはず。いや、現実進行形だから、まだ暮らしているのか。

「そういえば、占いの館ってどこにあるのかな?」

寄り道を選択すると、さらにいくつかの項目が現れる。その中のひとつ、『裏通りへ』を選択すると、占いの館に行けるのだ。
占いの館では、占い師の女のひとがいて、攻略対象者の情報や親密具合いを教えてくれたり、秘密のアイテムを入手できたりする。ゲームの中だったからすんなり受け入れたけど、現実の今となっては、本当にそんなお店があるのかどうか怪しい。だってこの世界でも、占いは向こうの世界と同じくらい信憑性が薄く、本気で信じているひとは稀だ。それに秘密のアイテムのような、非現実的なものもない。
そう思うと、本当に存在しているのか確かめたくなった。

「『きらレイ』では正確な位置は書かれてなかったけど、とにかく裏通りに行けばいいんだよね。外観は覚えてるし、せっかく来たんだから行ってみよう」

私は商店街のある通りから外れて、裏通りに行くことにした。
一本、二本と通りを横切り、あたりをきょろきょろする。少し離れただけなのに、やはり裏通りとあって、商店街の明るい雰囲気とは違い、どことなく暗い雰囲気がする。

「隠れキャラとも、確かここで会うんだよね」

ヒロインがチンピラに絡まれているところを助けてくれるのだ。一度会ってしまえば、その後はひたすら『裏通りへ』を選択すれば頻繁に会えるようになる。
私は占いの館の外観を頼りに、一軒一軒見て回る。しばらく歩いても見つからず、諦めかけた頃――

「あった!!」

私はとうとう占いの館を見つけた。

「本当にあったんだ――」

私は建物の窓にへばりつく。窓は灰色の色ガラスになっていて、中の様子はよく見えない。でも建物内もなんだか灯りがついていなくて、全体的に薄暗いのがわかった。商業目的が占いだけあって、怪しさ満点だ。

「ヒロイン、こんなところに入ってたの? ちょっと入ってみたいけど、でも占ってもらうこともないしな。それにお金も持ってないし――」

お店を見上げてためらっていると、扉がギギギっと不気味な音を立てて開いた。

「なにっ?!」

私は驚いて、一歩退く。
勝手に開いたんだけど?! 怖すぎる。
身を竦ませながら警戒したけど、その後は何も起こらない。
私は恐る恐る薄暗い店内を覗いてみた。
中はがらんとしていて、危険なものは見当たらない。しばらくじっとしていたけど、何の反応もない。
私はとりあえず警戒を解いて、店内に足を一歩踏み入れてみた。

「いらっしゃい」

奥から女のひとの声がした。そっちのほうへ目を向ければ、机の前にベールを被った女のひとが座っていた。
この人! 占い師のひとだわ! ゲームで見たまんまにそっくり。

「可愛いお客さんね。何を占ってほしい?」

ベールのせいで、女のひとの表情はほとんどわからない。唯一見える赤い唇だけが弧を描いた。

「いえ、私は別に……」

断りの言葉を口にしようとしたけど、占い師は私にかまわず目の前にある水晶に手をかざし始めた。しばらく無言で水晶を見ていたけど、ふと手をとめた。

「……あなたの未来は――。普通のひとが歩む道ではないわね」

「え?」 

私の心臓がドキリと跳ね上がる。
ま、まさか――。

「心を強く持って。あまり言いたくはないんだけど、あなたはこの先――」

「いえ、いいです! それ以上言わないで!!」 

占い師のひとが何を言いたいか、言わなくてもわかった。 
カレンの未来なんて、私のほうが嫌でも知っている。
悪女の末路――斬り殺されるか、幽閉されてしまう道。
他人の口から、改めてそんな言葉を聞きたくなくて、というか、それを占い師に口にされたら、本当に確実になる気がして、私は尻込みしてしまった。後ろ足でそろそろと出口に向かう。

「あの、ごめんなさい。もうけっこうです。お邪魔しました!」

ぺこりと頭を下げると、慌てて店から飛び出す。
しばらく走って店から距離をとると、膝に手をついて立ち止まった。呼吸を整えている間、地面が視界にはいる。
やっぱり、どんなに足掻いてもゲームの運命には逆らえないんだろうか。
どんなに振る舞いに気をつけたとしても、悪女の烙印を押されてしまうのだろうか。 
がっくりと気落ちしてしたまま、頭をあげると、全然見知らぬ建物に囲まれていることに気づいた。私が立っている場所はちょうど十字路の真ん中だった。

「あれ、帰り道どっちだっけ?」

あたりをきょろきょろと見渡すけど、どの通りも見覚えがない。
さっきとはまた違った感じに血の気が引くのがわかった。

「私、もしかして迷子?」

私は薄暗い裏通りのただなかで呆然と立ち尽くしたのだった。


しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...