騎士と狩人

みけねこ

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感情の先

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 セオは渋ってはいたが、流石に騎士じゃない無関係がそう長居していいわけでもないだろう。俺はすでに別に宿を取っているし、一泊していってほしいとのセオの言葉を断って寮を出た。しかしどこかで見てたんじゃないかと思ってしまうほどタイミングよくライリーとすれ違ったのには驚いたが。
 セオの今度はあんな強引に連絡をせずにちゃんと手紙を書くとの言葉通り、村に戻るとその都度手紙が送られてきた。内容は他愛のないものだったり、たまに「モテちゃ駄目ですよ」と普段の字に比べて筆圧が濃い文章だったり。だからお前は俺に喧嘩売ってんのかとその文字を見る度に眉間に皺を寄せてしまう。
 しかしすんなりと寮で別れてからというものの、村に戻ってあの時のことを思い出しふむと腕を組む。
 同性とキスするのは初めてだったがどんなもんかと思ったが、特に嫌悪感などはなかった。まぁ、襲われたとはいえ異性とヤッた奴が何言ってんだって感じではあるが。これは別にセオの顔が綺麗だから、という理由ではなさそうだ。
 だからどういうわけだ、と考えたところ、ふとキスした直後のことを思い出した。あの時俺は確かに。
 ああ、なんだ。これだけか。
 と思った。あれだけ意を決して言うものだからてっきり舌まで突っ込んでくるかと思ったがそうじゃなかった。そこまで考えて、俺は舌を突っ込まれることも想定していたのかとはたと気付く。
 そこまで気付いておいて流石の俺も馬鹿じゃない。別に手を触れられるのもキスをされるのも嫌じゃなかった。なんなら先もあるものだと思っていた。ということはだ。
「俺、あいつのこと好きなのか」
 そもそも同性で危機的状況? とはいえ勃ったブツを抜いてやるのもどうかと思うし、接触どころかキスも許してしまってるしその先も想定しているし。つまりそういうことだ。
 いつ惚れたのか自分でもわからないが、そこで気付く。確かにセオは綺麗な顔だしだからといって別に顔に惚れたわけじゃないが、こう言っちゃ悪いがセオとステラはなんとなく系統が似てる。つまり俺の好みに近かった。
 人に優しいところとか健気なところとか、一途なところとか。
「あ~、なるほど……」
 魔獣の肉を解体しながら自分で納得してしまった。悪く言えばまんまとセオに見事に落とされた。今までああも直球で好意を伝えられたことがなかったこともあるが、何かこう一生懸命の姿を見るとなんとなく支えたいとか思ってしまう。
 ステラもまさにそうだったが、あの時はすぐに失恋してしまったわけで恋愛感情も徐々に薄れ支えたいという気持ちだけが残った。が、セオの好意は俺に向かっているもんだから、気持ちが薄れる必要もないわけで。
 ストンと何かが胸に落ち、すっきりした。とはいえそれを言う相手はまだ首都に残ったままなわけで。
 ま、いいか。戻ってきた時に伝えればそれで。と肉を解体し終わった俺は道具や辺りを清め村に戻った。

「リクト、セオとはどう?」
 肉を配っている時にアルフィーと鉢合わせし、いつも通りお喋りをする。アルフィーも一段落し休憩している最中だったらしい。俺から肉を受け取り礼を告げたアルフィーは突然そんな風に切り出してきた。
「どうって、何が」
「会いに首都に行ってきたんだろ?」
「仕事のついでにな。元気にしてた。っていうか屯所に戻りたいって嘆いてた」
「あははっ、騎士も大変そうだねぇ」
 で、と笑顔だったアルフィーは表情をそのままにもう一度俺に視線を向ける。
「それで、どう?」
「やけに聞きたがるな」
「だって気になって」
 そんなに気になるほどか、と視線をアルフィーから外した。恐らくアルフィー的にはセオの調子より聞きたいことがあったんだろう。普段鈍いくせにこういうところは鋭いのか? と思ったが、それだとステラは苦労しなかった。
 チラッと隣に視線を向けてみると楽しそうながらもやっぱり穏やかなアルフィーだ。こうして穏やかでいてくれるから喧嘩なんか今まで一度もしなかった。まぁしようとも思わなかったし、もし殴り合いにでも発展してしまったらとんでもないことになる。
 けれど、幼馴染がアルフィーとステラでよかったと思うのは本心だ。二人だからこそ俺もこうして、まぁ多少は皮肉れたもののその程度で済んだ。
「俺、最初に好きになった相手がステラだったんだ」
「……えっ」
 笑顔だったアルフィーの表情が一瞬で変わる。その次には何をどう言えばいいのかわからないと言わんばかりに口ごもっている。別にわざわざ困り顔してまでこっちを気遣う必要はないと小さく笑う。
「とは言っても十四ぐらいの時の話だ。今は普通の幼馴染だよ」
「リクト、僕は……」
「ステラがアルフィーのこと好きだって勝手に気付いて勝手に失恋しただけだ」
「……そんなことが」
「だから気にすんなって」
 今こうして話すことができるのも、めでたくステラの気持ちがアルフィーに通じて二人が一緒にいるからだ。幼馴染二人が一緒になることができて喜ぶことはあっても羨むなんてことは一切ない。
「ってことでそれから特に誰かに惚れるなんてことがなかったんだ」
「狩人として充実してたからかな」
「多分な。あとは元からそういうの別に興味なかったのかも」
「村の子たちそれ聞いたら泣いちゃうね」
 そんなことねぇだろ、と思わず表情を歪める。それに対してアルフィーは「相変わらずだね」とただ微笑むだけだった。アルフィーといいセオといい、二人とも同じようなことを言うということは本当のことなんだろうか。
 本当に村の同年代の奴らが俺に惚れてたりするのか? あんだけ遠巻きにしておきながら?
 まぁそれは別にもういいか、と一人納得して話を続ける。
「そこでまぁ、気付いたわけなんだが」
「うん」
「ステラとセオってどことなく似てるなって」
「……うん?」
 いやそうか? という顔をしているアルフィーにそういう反応もわからなんでもない。ステラには悪いが正直顔が整っているのはセオのほうだ。こればかりはあいつの親の血が濃すぎるからしょうがない。ステラも流石に怒らないはずだ。
 別に顔じゃないぞ、という前置きに「わかってるよ」と笑顔でアルフィーはそのまま耳を傾けてくれた。
「なんか性格が似てんなって。ああいう性格に弱いみたいなんだ」
「ってことは……リクトはセオのこと好きになったってこと⁈」
「顔じゃなくて中身がな」
 別に顔の好みなんてないし。そう続けると、それはもうアルフィーの顔が眩しいぐらいにパッと輝いたじゃないか。眩しすぎて思わず目を細めたぐらいだ。そのままの状態で今度はにこにこと笑うもんだから細めた目を元に戻せない。
「それ今度セオに直接言ってあげるといいよ。きっと喜ぶから」
「そうだな、そうする」
「……ふふふっ」
「なんだよ気持ち悪いな」
「ああごめん。よかったなぁって思って。リクトにとっても、セオにとっても」
 他人事なのにまるで自分の事のように喜ぶアルフィーはやっぱり人がいい。そんなアルフィーにつられてつい表情を綻ばせると遠くから声が聞こえ、二人同時にその方向へ目を向けた。ステラが俺たちに気付いて大きく手を振りながら駆け寄ってきている。
「ねぇねぇ、なんだか楽しそうだったけど何の話してたの?」
 アルフィーと目が合う。けれどアルフィーは人差し指を自分の口元に運んでにっこり笑い、そしてステラに向き直った。
「内緒の話」
「え~? 幼馴染の私だけ除け者なの?」
「そういう時もあるよ。ステラにはまたあとでちゃんと言うから。そうだよね、リクト?」
「そうだな、ステラはまた今度」
「もう~、二人だけ楽しそうでずるい。今度ちゃんと言ってね? リクト」
「ああ」
 それからしばらく三人で談笑し、時間を見計らってお開きとなった。二人一緒に同じ方向に向かって歩き出した背中を眺めていたが、心情は荒れ狂うことなく穏やかだ。寧ろステラによかったなと内心つぶやいたぐらいだ。
 さて、すぐに帰ると言っておきながら未だにそういう兆しが見えない例の騎士を気長に待っておくかと俺も帰路に着いた。
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