騎士と狩人

みけねこ

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上か下か、そこが問題だ

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 三日間首都に行くと言った時たまたま自分も首都に行く時がある、と聞いた時には大体予想はできていた。宿の手配もすると言って、そもそも前々から「したい」と直球で言っていたから、まぁそうだよなと察するには十分だった。
 ナイフを受け取り俺と父さんの普段使いしている武器を鍛冶屋に持っていき、そこでつい鍛冶屋の親父と話し込んだりしてしまった。どうやらめずらしい素材を卸す狩人の話が多少広まっていたらしい。俺と父さんの斧とダガーを見てすぐそれなのだと気付いた鍛冶屋の親父は流石だと言ってもいいだろう。
 それからどういうタイプの魔獣が出るのか、どういう狩り方をしてその後の解体の仕方はどうやっているのかと色々と聞かれた。別に父さんから他の人間には言うなとかそんなこと一切言われたことはなかったし、そもそも村付近の森でしか生息しない魔獣だから捌き方を教えたところで俺たちの取り分が奪われることもない。捌くためにわざわざ田舎に行くとも考えにくいし。
 そんな話をしていると、鍛冶屋の親父が気を利かせてか首都の店のおすすめを教えてきた。どこの肉が美味いとか、露店にも穴場があるとか。首都は魔獣の肉を使わないからそこが少し不満だとも言っていた。
 翌日も鍛冶屋に寄ると告げ、その場は一旦お開きとなった。まだ日が傾いていなかったため鍛冶屋の親父が教えてくれた店を軽く見ていく。適当に勝手適当に食っておくかと露店で飯を買って宿へ戻った。多分セオのほうはそう早く仕事は片付かないだろう。
 そう思ってゆっくり過ごしていたらだ、やけに慌ただしい足音が聞こえてきて眉間に皺を寄せたのと同時に勢いよくドアは開いた。
「ハァッ、ハァッ……! も、戻っていたんですね!」
「おう、お疲れ。飯適当に買ったけど食うか?」
「いただきます‼」
 如何にも急いできましたと言わんばかりの息の荒れ方と髪の乱れ方だ。美形もこれじゃ台無しだな、と慌ててバタバタと支度しているセオをよそ目に飯のついでに買ってきた薬草に視線を向ける。薬草、とは言うがこれは対人間用じゃなく対魔獣用だ。目眩ましなどに使えそうだなと買っておいた。
 そうして俺が薬草を吟味している隣でこれまた忙しなく飯を食い、忙しなく浴槽のある部屋へと消えていく。お前は思春期のガキか、と内心突っ込みつつ広げていた薬草を袋へと戻し荷物の近くに置いた。
 セオと付き合うようになってから、まぁ色々とするようになった。子どものキスしか知らなかったセオに色々教えたし、元気なアレを扱くのもなんか普通になってきた。
 小さい頃はあんなにも周りに可愛い可愛い言われてきたセオだが、でも下には俺と同じものがついている。美形だが美形でもそういう欲は当たり前に持っている。部屋に一つしかないベッドの上に横たわって適当に部屋を眺めていたら、またバタバタとした足音が聞こえてきた。
「お、お待たせしました」
 顔を若干赤くしつつも、それでもいそいそとベッドの上に乗ってくる。たまに反応と行動がチグハグな時があるよな、こいつ。と口には出さなかったが、まぁ内心でこぼすぐらいならいいだろ。
「あの、リクトさん……今更ですけど……本当に」
 セオが言い終える前に腕を引っ張り、軽くキスをしてやる。何度もしてるのに何回してもセオの顔は真っ赤になる。
「したいんだろうが」
「ぅ、あ、は、はい、し……たい、です」
 あれだけ直球で行ってきたくせに、今更躊躇うのかよ。と思わず小さく笑って今度は少し開いている口に舌を滑り込ませた。少し伸ばされたセオの舌に絡んで、軽く吸う。歯をなぞり天井を撫でてやると鼻から抜ける音が聞こえた。
 キスをしている間セオはまるで浸るように目を細める。が、反面俺は目を開けたままセオの寝巻きに手を伸ばした。すぐ脱ぐってわかってるのにわざわざ着てきたのかと思いつつ、プチ、プチ、とボタンを外していく。
 少しあらわになった上半身に、あんなにも細かった子どもがここまで逞しくなるもんだなと感心して――いる場合じゃなかった。肩を力強く押され、ベッドの上に倒される。
「あの、リクトさん。いつもリクトさんに気持ちよくしてもらっているので、今日は俺がリクトさんのこと気持ちよくしてあげますね」
「……ん?」
 なんだ、この違和感は。と表情を少し歪めている間にセオが身を屈め、俺の首筋に吸い付いてくる。かなり拙く痕を付けようと必死なのはわかる。それじゃ付いてもすぐに消える――とか考えている場合じゃない。
 セオの口が首筋から鎖骨、胸板まで移って次に動き出した瞬間、今度は俺のほうがその身体を力任せに押しやった。驚いている顔と目が合うが、こっちだって同じ表情をしたい。
「……おい」
「なんでしょう……? あ、下手でした……?」
「上手い、とは言えねぇ……じゃなくてだな。おい。なんで俺が下なんだ」
「……えっ?」
「え、じゃねぇよなんで俺が下なんだって言ってんだよお前が下だろうが」
「……えっ⁈」
「だから、え、じゃねぇ!」
 まさかとは思ったが。こいつが押し倒してきた瞬間まさかとは思ったが――こいつ、俺を抱くつもりだったのか?
「だって、リクトさん綺麗じゃないですか」
「綺麗なのはお前のツラだろうが! こういうのはお前のほうが下だろ!」
「えぇ⁈ で、でも、あの、本人に言うのはあれですけど……俺、何度も妄想でリクトさんのこと抱いてて……なので、抱きたいな、と。その、初めてですけど絶対に気持ちよくさせ――」
「代われ‼」
 聞いちゃいけないことを聞いた。いや諸々と言わんでもいいことを言ったのはこいつだが聞き逃しちゃいけない単語が確かにあった。
「お前童貞か!」
「もちろんですリクトさん以外の人とするなんて考えた事ないですから!」
「胸張って言うな! 童貞なら尚更代われ!」
 目の前の腕を引っ張り今度はセオがベッドの上に横たわり、その上に覆い被さる。童貞なのにある意味女より厄介な身体の男を抱こうとしてたのかこいつは。
 童貞に抱かれたら俺の尻は間違いなく切れるわ!
「俺のこと気持ちよくさせようとかわざわざ考えなくていい。お前に突っ込めば気持ちよくなる」
「へっ⁈ いえでも、あのっ」
「男には突っ込んだことねぇけど、童貞のお前よりは勝手がわかる」
「……え」
 なんで若干部屋の温度が下がってんだ。なんだと訝しげにセオを見下ろすと、あきらかに不機嫌な顔が俺を見上げていた。
「一体、誰を抱いたんですか」
 いつものセオから想像できないほどの低い声が耳に届く。誰を、と言われた瞬間真っ先に年上と結婚した童貞食いのアンナを思い出した。誰をと聞いてきたってことはセオはアンナの噂話を聞いたことがないということだ。
 まぁあれだけ村の奴らに守られるように生活していたんだから知らないのもわかるし、知らないということはアンナに食われてもいないということだ。そもそもアンナ食われていたらこいつは童貞じゃなくなってる。
「……その人が、羨ましいです。俺もリクトさんの初めてを貰いたかった」
「いや俺の恋人になったのお前が初めてだからな?」
 初恋は失恋したしそれから誰かに惚れることもなかったし、そもそも村の同年代から遠巻きにされていたんだからセオが初の恋人になるわけで。俺の初めて貰ってんじゃねぇかと思ったが、どうやらそれでも不満らしい。
「それでも! それでもリクトさんのすべてを貰いたいんです……」
「え……お前結構重いんだな……」
「そうですよ、ずっと片想いしてたんですから重いに決まってるじゃないですか」
 そこまでか、と思ったが別にそれに対して嫌悪感があるわけでもない。ただすげぇなと思っただけだ。だからといって上を譲る理由にはならないが。
「あのな、お前が思っている以上に男の身体は面倒だぞ? 勝手に濡れねぇし、そもそも通常受け入れるようにできてない」
「それでも子どもはできますよね?」
「それはまぁ、そうだけどな」
 同性でも結婚して、そして子どもができる。通常そういう機能にはなってねぇけど男同士でも受け入れれば腹に子が宿るし、女同士でも片方が種を持つことができる。
 一体どういう身体の作りだ、と子どもの頃は不思議に思っていたがどうやらそれは「神からのギフト」と言われているらしい。本当に愛し合う者同士、一生添い遂げられるように身体の作りが変わるんだとか。
 セオの親がまさにそうだ。セオの親は両方とも男で、片方の父親が当時村一番の美形と言われていたと母さんが教えてくれた。セオのもう片方の父親が口説きに口説いて無事に結婚したとのこと。そうして生まれた子がセオだってことだ。
 いざとなれば身体の作りが変わる、それはわかっている。が、それはそれこれはこれだ。俺が下になる理由にはならない。結局初めは濡れないし慣らすのにも時間がかかる。その作業を童貞に委ねることができるか。
「なんだ、俺に抱かれたくねぇのか」
「うっ……それはそれで、き、気になりますけど……でも、でもやっぱり……綺麗な肉体を持ってるリクトさんを抱きたいですっ‼」
 ワッと出された声に思わず耳を塞いだ。やるつもりで選んだ宿だ、壁は厚く隣に聞こえることはないだろうが俺の鼓膜には響いた。
「だだだだってリクトさん、こんなにもエッチじゃないですか! 胸なんて俺よりもあるし無駄のない肉に引き締まった身体。筋肉だってしなやかだし、正直リクトさんの裸を見てるだけで勃ってしまうんです! 抱きたいに決まってるじゃないですか!」
「……お前、本当湯浴みの度に勃たせてたもんな」
「それは申し訳ないです我慢できなくて!」
 流石俺の裸を見る度に勃たせていた奴の説得力は違う。俺の裸をそんな目で見るのもこいつぐらいだろうけど。
 無駄に俺を抱くのだという強い意志を感じてしまう。子どもの頃周りの意見に流されそうになっていたセオはもういない。いや立派に成長したという証でもあるんだろうが。
 無駄に力強い目で見上げられ、表情を歪めたままその顔を見返していた。が、こうして厚い壁の個室で二人きりになれる状況なんて滅多にない。一度目を閉じてそれはもう腹の底から重い重い息を吐き出した。
 セオを組み敷いていた手を離し、身体の力を抜けばベッドは難なくボスンと俺の身体を受け止める。いい宿を選んだもんだ。
「あの……リクトさん……?」
「ほら」
「えっ」
 横にいるセオの身体を起こさせ、俺は寝転がりベッドに背中を預ける。
「時間、かかるぞ。それでもいいんだな?」
「……! はい!」
 パッと表情を明るくさせたセオに小さく溜め息をつく。このままだと硬直状態で一夜を過ごす羽目になる。折角のチャンスを無駄にするぐらいなら今回だけは譲ってやろうという俺なりの最大の譲歩だった。
 見上げるととてつもなく嬉しそうな顔をするに、まぁ今回はいいかと若干諦めにも似た感情だったが。
「――絶対に気持ちよくさせますね、リクトさん」
 身を屈め俺の耳元でそう囁いたセオは小さい頃こそ女顔とか言われていたが、今は立派な雄だ。
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