あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第2章-1 初めての待ち合わせ

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 三日後の土曜日の夕方、孝弘は待ち合わせの燕莎友誼商場イエンシャーヨウイーシャンチャン(ルフトハンザセンター)にバスで向かった。
 凱賓斯基飯店ガイピンスージーファンディエン(ケルピンスキーホテル)隣接のドイツ資本のこのショッピングセンターは王府井の百貨大楼よりよほど品揃えがいい。
 地下のスーパーには中国系の店には置いていない食材や調味料などもそろっているため、朝陽区に住む外国人駐在員やその家族もよく買い物に訪れる場所だ。
 明るい通路で子連れの欧米人ファミリーとすれ違う。
 
 そういえば高橋さんて独身なのかな。
 年も知らないがずいぶんと若く見えた。
 とはいえ駐在員は若くても海外赴任をきっかけに結婚することが少なくない。もしかしたら家族帯同で来ているのかもしれない。
 街中で突然、通訳を引き受けたため、祐樹のプライベートはまったく知らないままだ。

 孝弘が店の前まで来ると、先に来ていた祐樹はほっとした顔を見せた。かっこいいのにかわいい。私服の祐樹を見て孝弘はそう思った。
 カラーシャツに細身の綿パンツがすらりとした体型によく似合っている。
「こんにちは、高橋さん、迷わなかった? ここはわかりやすいと思ったんだけど」
「大丈夫だよ。わざわざ、うちの近くを選んでくれたんでしょう」
 孝弘が選んだのはドイツビールとソーセージがおいしいと評判の店だった。
 散歩がてら祐樹は歩いてきたという。夕暮れの北京はなかなか悪くないと、30分ほどの散歩になったらしい。

 席についてビールと何品かつまみを頼んで、忘れないうちにと明細を書いたレポート用紙を渡した。
 きちんとしてるね、と目を通した祐樹は受け取り、孝弘は先日のバイト代の礼を言った。
 タクシーを降りるときにさらりと渡された封筒には、半日分のアルバイト代と精算金が入っていたのだが、それは孝弘の予想よりかなり多かったのだ。
 ごくつつましい生活をしている留学生なら1カ月くらいの食費になる。孝弘がそんなことを言ったら、祐樹は驚いた顔をした。

「中国のローカルプライスだとそうなんだ。けど日本でアルバイトしたらそのくらいだよ。実際には半日以上つきあってもらったし、色々ガイドもしてもらったし、その謝礼も含めての金額だから」
 中国ではかなりの高給になるが、日本の会社としては適正価格らしい。お互い礼を言ったところでビールと料理が運ばれてきて乾杯する。
 祐樹は最初の一口で、グラス半分くらいを空けてしまった。ごくごくとうまそうに喉を鳴らす音が聞こえた気がする。

「高橋さん、けっこう飲むほう?」
「いや、普通に飲める程度。でも今、歩いてきて喉渇いてたし、これドイツビールで冷えてておいしかったから。こっちのビールって冷えてないよね、味もちょっとうすい感じ」
要冰的ヤオビンダって言えば、冷えたの出てくるよ」
 孝弘が言うと、祐樹は目を丸くした。
 わかるわかる。ビールは冷えてるものって常識を持った日本人からすれば、注文しないと常温のビールが出されるなんて予想外のことだ。

「え、言わないと冷えてないのを出すの?」
「うん、ふつうは常温。冷えたものは体を冷やすからよくないとかなんとか言うね。野菜でも卵でも必ず火を通して食べるし。衛生上の問題かもしれないけど」
「そうだったんだ」
 しばらく食べ物の話をしたり、料理を分け合って食べたりするうちにだんだん気分がほぐれてきて、プライベートな話題になった。

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