あの日、北京の街角で

ゆまは なお

文字の大きさ
8 / 112

第2章-2

しおりを挟む
「高橋さんていくつ? 結婚してる?」
「今年24になる。入社2年目。結婚はまだだよ。どうして?」
「もし結婚してたら、土曜の夕食とか俺と食べてていいのかなあって。っていうか、年上なんだし敬語とか使わなきゃ、ですかね?」
 一応おうかがいをたててみた。
 外見から見てそんなに上とは思っていなかったのだ。でも考えて見れば一流企業の社員なのだから、そのくらいで当然なのだろう。
「んー、会社の関係じゃないんだから。いまさら敬語じゃなくても気にしないよ。そういう上野くんはいくつなの」
「19」
「え、未成年だった?」
 孝弘の手のビールグラスを見て、まあいいかというように祐樹は肩をすくめた。

「大人っぽいから、てっきり二十歳は超えてると思ってたよ」
「よく言われる。ふてぶてしいって。でも日本いた頃はそこまでじゃなかった気もするんだけど。けど気が弱いとこの国じゃやってけないし」
「確かに中国人は気が強いよね。やっぱり人が多すぎるからなのかな、あれは」
 現地スタッフの扱いにでも苦労しているのか、祐樹の口調はやけに実感がこもっていた。
「上昇志向が強いんだって、中国人の友達は言ってた。今はとにかく稼げるようになったもん勝ちって価値観になってるから、どんどん押していかなきゃって」
「ああ、なんかすごいわかるよ。チャレンジ精神があるよね」

「高橋さん、中国語はしゃべれないんだろ?」
「語学学校に通ってる、社命でね。というか、とりあえず半年ほど勉強してこいって言われて北京に来てるんだ。業務手伝いがてら、中国を勉強中ってところ」
 いいながら、くすくす笑いだす。
「だから、こないだの上野くんのガイドはほんと、楽しかったな。勉強になったというか、面白かったよ」
「だったらよかった。中国語、どう?」
「大学で二外で取ってたけど、やっぱり声調が難しい。あと有気音かな。何回聞いてもdaとtaの違いが聞き取れない」
「でも耳はよさそうだけどな」
 前回、何度か聞いた祐樹の発音を思い出す。
 ちょっと舌足らずな感じがかわいかったといったら怒るだろうか。

「語学は嫌いじゃないからね」
「そうなんだ。じゃあ、話せるようになってきたら、そのうち感じるかもだけど、中国語しゃべってると人格チャンネルが切り替わってるよなって、留学生仲間と話したりするんだ」
「人格チャンネル?」
 聞きなれない言葉に祐樹が首をかしげる。
「日本語みたいにあいまいな言い方がほとんどなくて、自分が頭のなかで思ってるよりストレートな言い方になるから、性格まで変わった気になるっていうか。すごく気が強くなった感じがするっていうか。日本語しゃべってるときより自己主張激しい人になったみたいな」
 孝弘の説明に、祐樹は深くうなずいた。
「ああ、わかる気がする。英語もそういうとこあるけど、自分の意見をはっきりいうのに適した言語って感じがするよね。まだ習い始めたばっかりで、ぜんぜん話せないけど」
 そこで祐樹は、追加の料理の発音を孝弘から教えてもらい、オーダーしてみせた。やはり耳がいいのだろう、発音は悪くなかった。

「そういえば、さっきの未成年の話。この国、酒とたばこの年齢制限がないんだって」
「え?」
「中国人から聞いた話だから法律は確かめてないけど、何歳からって決まりがないんだって」
「…そう言われてみれば、路上や店で子供がたばこ吸ったりお酒飲んでたりするの見かけるけど、あれって法律違反ってわけじゃないんだ」
「うん。ちょっとびっくりするよな」
 未成年という概念がないらしい。
 だから相手がある程度の年齢なら飲み物は酒をすすめてくるのが一般的だ。

「そっか、この国では上野くんも酒もたばこもオッケーなんだ」
 そうそう、といって追加のビールを頼む。
「そういえば、長城行った?」
 メーカーの二人が行きたいと話していたのだ。
 万里の長城はけっこう郊外にあるので、タクシーをチャーターして半日くらい必要という孝弘の説明にさすがに無理かとあきらめ半分の感じだったが。

「時間なくて行けなかったみたい。でも実はおれ行ったことあるんだ。北京着いて3日目かな、中国人スタッフが連れて行ってやるって突然言い出して、車も出してくれて」
「それたぶん、彼らが行きたかったんだろうな」
 接待と言いつつ、自分たちが行きたい観光地や店に案内することがよくあるのだ。
「かもね」
 祐樹もわかっているようで、苦笑する。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

処理中です...