34 / 112
第10章-1 日系企業のアルバイト
しおりを挟む
アルバイトは夏休み期間の毎週火・木・金、朝9時から夕方5時までが勤務時間と決まり、7月最初の金曜日の朝、孝弘は事務所が入る20階建てのビルを訪れた。
日系企業や外資系企業が多く入っているそのビルには、スーツ姿の会社員が闊歩していて、孝弘は場違いだなと思いながらエレベーターに乗って18階に上がった。
服装自由と言われていたし、一応は気を遣って開襟シャツと綿パンツにしてきたのだが、まあアルバイトだしこれでいいかと開き直った。
何か言われたら一着くらいジャケットなりスーツなりを買ってもいい。今後も必要な場面が出てくるかもしれないし。
北京办公室(北京事務所)とプレートのついたドアをノックすると、「请进(どうぞ)」と返事があり、安藤が迎えてくれた。
「上野くん、久しぶり。元気そうだね」
「はい、お久しぶりです。今回はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。小趙、こっちへ」
はいと声がして小柄な中国人男性が立ち上がった。30歳位だろうか、眼鏡をかけていて鋭い目つきをしている。
「今日からアルバイトに入る上野孝弘くん。留学生だから北京語も話せるし、英語もけっこう話せるんだったよね。いろいろ教えてあげて」
「趙英明です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。大趙(趙さん)と呼べばいいですか?」
年上の男性を小趙とは呼べない。
「いいですよ、私も上野でいいですか」
笑うと意外と人好きのする顔になった。
基本的には孝弘は趙に仕事を教わることになるらしい。かなり日本語も話せるようだ。初めてのアルバイトで緊張していたが、すこし安心する。
安藤のほかに出張中の鈴木と原田という三十代の男性、中国人の趙英明、孝弘が代わりに入ったインターンの五名が北京事務所のスタッフで、そこに半年研修で祐樹が加わっている。
日本人スタッフは事務所にはいないことも多く、趙英明が常時留守番状態で待機している。孝弘は趙から仕事を教わりながら、電話番や書類整理や郵便を出したりといった雑用をこなした。
祐樹は語学学校もあっていたりいなかったりだったし、ほかの社員も同様だが、どのスタッフも事務所にいればまだ学生の孝弘になにかと声をかけてくれた。
安藤は自宅に呼んで奥さんの手料理をふるまってくれたりもした。久しぶりに食べる日本人が作る家庭料理は懐かしくておいしかった。
もう一人の社員の鈴木は「女の子が必要ならいつでも言って」と悪い笑みで孝弘を誘う。どんなものかと興味がわいて、一度誘いに乗って行ってみたら、女の子が刺激的なサービスをしてくれる店に連れて行かれ、なかなか得難い経験をさせてもらった。
そのことが安藤にばれて「上野くんに変な遊びをおしえないよう」にと鈴木はがっつり怒られていた。懲りない鈴木はこっそり「また行こうな」と言ってくれたが、孝弘としては「もう十分」といったところだ。
原田のほうは中国赴任以来、太って仕方ないとぼやいている小太りな男性だがフットワークは軽く、仕事が好きで楽しいと見ているだけでもよくわかる人だった。
祐樹とは仕事帰りによく食事をした。事務所で独身は祐樹だけなので、仕事の上がりが合えばどちらが誘うともなく、自然に一緒に食べる流れができていた。外で食べる日もあれば、祐樹のマンションで鍋の日もあった。
土日に一緒に出掛けることも増えていた。
北京の観光地だけでなく、旧市街を散歩したり市場へ買い物に行ったり夜遊びをして部屋に泊めてもらったりと、いつの間にか本当に友人のようなつき合いになっていた。
初めての職場は刺激的だった。物怖じしない孝弘はいらない遠慮をしないので、趙にどんどん質問して仕事を覚えていき、気づけばけっこう頼りにされるようになっていた。
仕事は学校の勉強とは違って、新鮮で面白かったのだ。
工場からのサンプルを確認してFAXや電話のやり取りを通訳したり、通関書類をそろえたりとするうちに、貿易用語や社内用語も徐々にわかるようになってきた。
職場の祐樹は今までの孝弘と遊んでいるときとは違っていて、スーツ姿って3割増しだなと孝弘は祐樹を眺めた。
日系企業や外資系企業が多く入っているそのビルには、スーツ姿の会社員が闊歩していて、孝弘は場違いだなと思いながらエレベーターに乗って18階に上がった。
服装自由と言われていたし、一応は気を遣って開襟シャツと綿パンツにしてきたのだが、まあアルバイトだしこれでいいかと開き直った。
何か言われたら一着くらいジャケットなりスーツなりを買ってもいい。今後も必要な場面が出てくるかもしれないし。
北京办公室(北京事務所)とプレートのついたドアをノックすると、「请进(どうぞ)」と返事があり、安藤が迎えてくれた。
「上野くん、久しぶり。元気そうだね」
「はい、お久しぶりです。今回はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。小趙、こっちへ」
はいと声がして小柄な中国人男性が立ち上がった。30歳位だろうか、眼鏡をかけていて鋭い目つきをしている。
「今日からアルバイトに入る上野孝弘くん。留学生だから北京語も話せるし、英語もけっこう話せるんだったよね。いろいろ教えてあげて」
「趙英明です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。大趙(趙さん)と呼べばいいですか?」
年上の男性を小趙とは呼べない。
「いいですよ、私も上野でいいですか」
笑うと意外と人好きのする顔になった。
基本的には孝弘は趙に仕事を教わることになるらしい。かなり日本語も話せるようだ。初めてのアルバイトで緊張していたが、すこし安心する。
安藤のほかに出張中の鈴木と原田という三十代の男性、中国人の趙英明、孝弘が代わりに入ったインターンの五名が北京事務所のスタッフで、そこに半年研修で祐樹が加わっている。
日本人スタッフは事務所にはいないことも多く、趙英明が常時留守番状態で待機している。孝弘は趙から仕事を教わりながら、電話番や書類整理や郵便を出したりといった雑用をこなした。
祐樹は語学学校もあっていたりいなかったりだったし、ほかの社員も同様だが、どのスタッフも事務所にいればまだ学生の孝弘になにかと声をかけてくれた。
安藤は自宅に呼んで奥さんの手料理をふるまってくれたりもした。久しぶりに食べる日本人が作る家庭料理は懐かしくておいしかった。
もう一人の社員の鈴木は「女の子が必要ならいつでも言って」と悪い笑みで孝弘を誘う。どんなものかと興味がわいて、一度誘いに乗って行ってみたら、女の子が刺激的なサービスをしてくれる店に連れて行かれ、なかなか得難い経験をさせてもらった。
そのことが安藤にばれて「上野くんに変な遊びをおしえないよう」にと鈴木はがっつり怒られていた。懲りない鈴木はこっそり「また行こうな」と言ってくれたが、孝弘としては「もう十分」といったところだ。
原田のほうは中国赴任以来、太って仕方ないとぼやいている小太りな男性だがフットワークは軽く、仕事が好きで楽しいと見ているだけでもよくわかる人だった。
祐樹とは仕事帰りによく食事をした。事務所で独身は祐樹だけなので、仕事の上がりが合えばどちらが誘うともなく、自然に一緒に食べる流れができていた。外で食べる日もあれば、祐樹のマンションで鍋の日もあった。
土日に一緒に出掛けることも増えていた。
北京の観光地だけでなく、旧市街を散歩したり市場へ買い物に行ったり夜遊びをして部屋に泊めてもらったりと、いつの間にか本当に友人のようなつき合いになっていた。
初めての職場は刺激的だった。物怖じしない孝弘はいらない遠慮をしないので、趙にどんどん質問して仕事を覚えていき、気づけばけっこう頼りにされるようになっていた。
仕事は学校の勉強とは違って、新鮮で面白かったのだ。
工場からのサンプルを確認してFAXや電話のやり取りを通訳したり、通関書類をそろえたりとするうちに、貿易用語や社内用語も徐々にわかるようになってきた。
職場の祐樹は今までの孝弘と遊んでいるときとは違っていて、スーツ姿って3割増しだなと孝弘は祐樹を眺めた。
12
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】余四郎さまの言うことにゃ
かずえ
BL
太平の世。国を治める将軍家の、初代様の孫にあたる香山藩の藩主には四人の息子がいた。ある日、藩主の座を狙う弟とのやり取りに疲れた藩主、玉乃川時成は宣言する。「これ以上の種はいらぬ。梅千代と余四郎は男を娶れ」と。
これは、そんなこんなで藩主の四男、余四郎の許婚となった伊之助の物語。
顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる