あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第12章-3

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 訊いたことには何ひとつ答えてくれないくせに、そんな過去をさらりと聞かされて神経がちくちく刺激される。
 そんなに振り回されるほど好きになった相手がいたのか。
 博多地鶏ではない気がする。あの会話しか知らないが、そういう熱い感情に基づいた関係には思えなかった。
 学生時代の恋人か、ひょっとしたら早食いを指摘したという人だろうか。それって男? それとも女? 
 その人のどこがよかった? いつまで続いた? 期間限定の恋ってその人?
 思考が勝手にどんどん進んでしまい、自分でも相当おかしいと思うが制御は難しかった。

「高橋さんがそんなに振り回される恋愛してたんだ?」
「まあ……若かったから」
 わずかに苦笑を混ぜた微笑み。
「だけど上野くんはきっとまじめなんだね。そんなふうに想われて、うれしくないはずはないと思うけど。でも留学生だと最初から期間限定のおつきあいになるんだったっけ。それもちょっと切ないね」
 以前話した留学生の恋愛事情を覚えていたらしい。

 祐樹は孝弘の片思いの相手は留学生だと思って話をしている。それはそうだろう、まさか自分だなんて思うわけがない。
 それで孝弘もすこし頭が冷えた。年上の社会人で、しっかり仕事をしている相手に告白なんか、絶対にできない。いまは友人のようにつき合っているけれど、本来、学生と社会人で接点などほとんどないはずの二人なのだ。

 どういうわけか、祐樹が孝弘を気に入って何かと声をかけてくれるし、たまたまアルバイトをしているから親しくなれた。そうでなければ会うことはないだろう。
 中国滞在歴が祐樹より長いから頼りにされている部分はあるにせよ、会社で仕事をしている姿を見て、やっぱり年上の社会人だと思わされる場面もたびたびあった。
 きっと相手にされないとわかっていても、そんなふうに思うと胸のなかに寂しい気持ちがわいてくるのは止められなかった。

「まあ、帰国後も離れて続くって聞かないけど。そもそも国がちがう場合も多いし。高橋さんならどう? 期間限定で離れるとわかっていて、告白されたらそれでもつき合う?」
 期間限定というなら祐樹も条件は同じだ。
 半年の研修で北京に来ている。帰国予定まであと残り2ヶ月半だ。その後も中国に派遣されることは決定だといっていたが、駐在先が北京とはかぎらない。
 アルバイトの合い間に高橋の会社の中国支社を数えてみたら、北は:哈爾濱(ハルビン)から南は:広州(グアンジョウ)まで十カ所あった。

「どうかな、難しいね。でも本当に好きなら思い切ってぶつかるかもしれない。気持ちが通じなくても納得できるし、短い間でもつき合えたら帰国で別れても、後悔が少ない気がする」
「うん、そうだね」
 孝弘は口では同意した。
 しかし絶対に祐樹には言えないだろうとも思っていた。
 祐樹が少しでも孝弘に気持ちを持っていてくれるならともかく、まったく眼中にないのはわかりきっている。

 万が一、つき合えたとしてもその後、どこに派遣されるか定かではない。それでも中国国内にいるのなら、遠距離でも頑張れるだろうか。祐樹さえその気になってくれるのなら。
 自分はそこまで祐樹を好きなのだろうか。
 電話の相手に嫉妬したことは自覚したが、自分の気持ちにもいま一つ確信が持てないでいるのが正直なところだ。
 孝弘は今まで同性に恋愛感情を感じたことはなかったのだ。
 色々混乱したまま、酔ったふりをして孝弘は祐樹の横顔を見つめてそっと嘆息した。


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