あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第13章-1 告白

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 翌週火曜日、孝弘は仕事帰りに安藤と鈴木に誘われて焼き鳥を食べていた。
 大きな赤ちょうちんが店の前にぶら下がっている居酒屋は、周辺に勤める日本人駐在員の行きつけだ。店内はほぼ日本語、経営者も料理人も日本人なので、安心して日本の味が楽しめる。
 途中から祐樹も合流し、四人でビールと日本酒をかなり飲んで、気づけば孝弘は祐樹のマンションにいた。
 いつの間に移動したんだ? たしか鈴木さんが、お姉ちゃんのいる店に行こうと誘っていたような記憶があるが、そこから先はあいまいだった。

「大丈夫? けっこう飲んでたね」
 祐樹がコップに入った水を渡した。
 受け取ってごくごく飲んだら、すこし酔いがさめた。
「あー、なんか鈴木さんのエロトークがすごすぎて」
 かっこいいわけではないが愛嬌のある鈴木は、子供二人もいて家庭は円満らしいのに、女の子のいる店が大好きで、なにかというと「若いうちは遊ばなきゃ」と孝弘を悪い遊びに誘おうとする。
 バイト帰りに何度か強引に連れて行かれて、社会主義の中国といえどもこういう場所があり、会社員ってこんな遊び方をするのかとたいそう驚かされた。

「仕事できる人なんだけどね、女の子と遊ぶのが生きがいなんだって公言してるからなあ」
「よく奥さんにばれないね」
「うーん、どうだろう。案外わかっているのかもしれないよ」
「浮気は見ないふりって?」
「たぶん、鈴木さんにとっては浮気でもなんでもないんだよ。ちょっとつまみ食いって感じらしい」
「なんだ、それ」
 孝弘が思わず眉を寄せた。

「おうちにやさしい奥さんとかわいい子供がいて、毎日おいしいご飯はあるんだけど、それ以外にたまにケーキをつまみたい、みたいなって鈴木さん自身が言ってた」
 はあ、と孝弘は首をふった。理解できない感覚だ。
 でもそういう男も多いのだろう。でなければあんな店があんなに流行るはずがないのだ。
 それとも、あれもこれも仕事のうちで、接待したりされたりのあいだに慣れていくのだろうか。

「上野くんは彼女一筋な感じ?」
 どうなんだろう、一筋というほど恋愛にのめりこんだことがない。
 高校時代にも彼女はいたが、互いに部活やアルバイトが忙しくてそんなにべったりな関係ではなかったし、留学してからは帰国で別れが決まっている期間限定のつきあいだ。
「一筋かわからないけど、二股したことはないよ」
 そんな器用じゃないしと肩をすくめる。
 鼓動がどくどくするのが酔いのせいなのか緊張してるせいなのか判別つかない。動揺を押し隠しつつ、訊いてみる。

「高橋さんは?」
「おれも二股はないよ。そんな面倒なことって思う」
「……ぶっちゃけ、何人?」
「なに、急に」
「もてそうだから」
「いうほどもてません。上野くん、酔ってるでしょ」
 祐樹がおかしそうに笑って、孝弘の髪をくしゃくしゃとなでる。

 またはぐらかされた。人の気も知らないで。頭に触れた指先に、どれだけこっちの心臓が速くなるかも知らないで。
「酔ってないよ」
「酔っぱらいはそう言うもんだよ。ほら、もう少し水飲んで」
「ほんとに酔ってないって」
 それでも水は受け取って飲んだ。酔いの加減を確かめるように、祐樹がなんの警戒心もなく孝弘の顔を覗きこんでくる。

 だから、人の気も知らないで。そんな無防備な顔をして。それともこれも計算された顔? 
 あの電話以来、そっと祐樹を観察していて気がついた。無邪気そうに笑う顔はいつもつけ入る隙がなく、プライベートに踏み込む会話はさりげなく質問で返される。
 実はとてもポーカーフェイスのうまい人なんだと。何とか祐樹のガードを外したくて、でもそんな高等なテクニックを孝弘は持ち合わせていない。


「高橋さんが好きだ」

 気づいたら、言葉がこぼれていた。


 何も考えてないようでいて、あー、とうとう言っちゃったよと頭のどこかで冷静に思う。このタイミングでいうかなー、よく考えろよ。
 そんなつっこみをしながら、それでもこのタイミングしかなかったような気もしてくる。
「うん、おれも上野くんが好きだよ」
 祐樹はにっこり笑ってそう返してきた。
 酔っぱらいの戯言だとさらりと受け流されたのだ。
 腹が立つ。こっちはマジだ。

「本気で、好きだ」
 強く言葉を重ねると祐樹は真意を探るように、かすかに眉を寄せて孝弘を見つめた。その視線を受け止めて、なお真っ直ぐに視線を返す。
 緊張はしていたが、口は滑らかに動いた。
「あなたが好きなんだ。つき合いたいって思ってる」
 孝弘の真剣な表情と声に、ようやく祐樹も冗談を言っているわけではないと理解したようだ。


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