あの日、北京の街角で

ゆまは なお

文字の大きさ
48 / 112

第15章-1 過去の男

しおりを挟む
 朝ごはんには野菜とキノコとベーコンの洋風リゾットを作る。バターを使わずベーコンの油だけなので、かなりあっさり仕上がった。
 祐樹は自分で起きてきて、一緒にそれを食べたあと、シャワーを浴びた。
 そのあいだに孝弘はゆうべ宣言したとおり、学校に戻ると授業に出た。
 祐樹のシャワー上がりを待たなかったのは、もう大丈夫という祐樹の言葉を信じたのもあるが、湯上がりの姿など目にしたら帰れなくなりそうだったからだ。

 授業が終わると、また祐樹のマンションに向かう。
 ドアを開けた祐樹は、買い物袋をさげた孝弘を見てももう何も言わなかった。ほんのすこし困ったような、でもわずかに嬉しそうな気配を見せて、家に上げてくれた。
 キッチンに入って、孝弘は気を引き締めた。
 家に上げてくれたからと言って、祐樹が孝弘を受け入れてくれたわけじゃない。
 勘違いしないように、自分に言い聞かせる。

 晩ごはんは肉じゃが、モヤシと人参のナムル、豆腐と長ネギのみそ汁、キュウリの浅漬け。しっかり食べられてなおかつ、あっさりしたものと考えた結果、そんなメニューになった。
「どれもおいしいけど、これいいね」
 祐樹が気に入ったのは塩昆布で揉みこんだキュウリで、浅漬け感覚で作ったのをぽりぽり食べた。
「簡単だから、高橋さんにも作れるよ」
「そうだね、つまみによさそう」
 昨日より顔色もかなり良くなったし、食欲も出ている。

「がっつり食べれるなら、しょうが焼きとかポークソテーとか照り焼きチキンもできるよ」
 あしたは何食べたい?とさも当然のように言ってみた。
 祐樹はそれには答えず、すねたような顔でつぶやいた。
「上野くんがこんなに料理上手だなんて知らなかったな」
「高橋さんの鍋もおいしかったよ。俺が作ってもよかったけど、高橋さんと鍋食べるのが楽しかったからさ」
 料理ができることを隠していたわけではないが、なんとなく責められたような気がして言い訳めいた事を口にする。

「そんな顔しなくていいよ。ただ、おれは何も知らないんだなって思っただけ」
 祐樹の口ぶりにひっかかりを感じたが、それがなにかよくわからず、孝弘は戸惑った。
「そりゃそうだろ。何年付き合いがあっても、そんな生活に踏み込んだことなんか話さないし…、言う機会もなかったし」
「そうだね」
 気まずいとはいえないくらいの微妙な違和感のただよう食事を終えて、熱いほうじ茶を淹れると、ソファに座った孝弘は、遠慮せずに質問した。
 一度、もう会えないという状態を経たから開き直ったとも言える。

「それで、本当はなんかあった? そんな痩せるほど、食事できないほど考え込むようなことが起きた?」
「とくに何があったってわけじゃないよ。ちょっと疲れただけ。やっぱ日本じゃないから色んなことがストレスで」
「本当にそれだけ? 海外生活のせい?」
 祐樹が弱っているのはわかっていたが、さらに踏み込んだ。
「あの人のせいじゃないの?」

「なんのこと」
「とぼけるなよ、電話の奴が会いに来たんだろ。あの博多地鶏は何しやがったんだ」
 名前を知らない彼は、孝弘のなかでは博多地鶏だ。聞いた祐樹はちょっと笑った。
「博多地鶏って」
「笑いごとじゃないっつーの。そいつになんか言われた?」
「べつにそういうことじゃないんだ」
 そういいながら、どこかさみしそうに笑う。

「別れ話がもつれたとか、そういうのじゃないんだ。おれは彼とつき合ってたわけじゃないし、彼もおれのことは……」
 祐樹は言葉をとぎらせて、その先を探すような顔になり、見つからないのかゆるく首を振った。
 孝弘は祐樹を刺激しないようそっとよこに移動して、寄り添うように座った。一瞬、体を揺らしたけれど、祐樹は何も言わない。
 いいから話して、とささやいて髪をなでる。
 昼のうちにシャワーを浴びたのか、シャンプーの香りがした。

 祐樹はゆっくり息を吐いて、呟いた。
「この前、彼がおれに会いに北京まで来たのは、決着をつけるためだったっていうんだ」
「うん」
 意味がわからなかったが、孝弘は続きをうながした。
「ちがうな、そこからの話じゃなくて……」
 混乱したようにつぶやき、祐樹はこてんと頭を孝弘の肩にあずけた。しばらく黙って考えこみ、それから身を起こすともう一度、口を開いた。


「おれが一番最初に、彼と出会ったのは、中学生のときなんだ」
 思いがけない祐樹の言葉に、そんな古いつき合いだったのかと驚く。
 同僚と聞いていたから、てっきり会社に入ってからの知り合いかと思っていた。
「彼は同じ中高一貫校の先輩で、おれが中学に入学した時、彼は高2だった」
 そんな長いつき合いのある相手と聞いて、胸の奥がざわざわと落ち着かなくなる。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

処理中です...