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第15章-1 過去の男
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朝ごはんには野菜とキノコとベーコンの洋風リゾットを作る。バターを使わずベーコンの油だけなので、かなりあっさり仕上がった。
祐樹は自分で起きてきて、一緒にそれを食べたあと、シャワーを浴びた。
そのあいだに孝弘はゆうべ宣言したとおり、学校に戻ると授業に出た。
祐樹のシャワー上がりを待たなかったのは、もう大丈夫という祐樹の言葉を信じたのもあるが、湯上がりの姿など目にしたら帰れなくなりそうだったからだ。
授業が終わると、また祐樹のマンションに向かう。
ドアを開けた祐樹は、買い物袋をさげた孝弘を見てももう何も言わなかった。ほんのすこし困ったような、でもわずかに嬉しそうな気配を見せて、家に上げてくれた。
キッチンに入って、孝弘は気を引き締めた。
家に上げてくれたからと言って、祐樹が孝弘を受け入れてくれたわけじゃない。
勘違いしないように、自分に言い聞かせる。
晩ごはんは肉じゃが、モヤシと人参のナムル、豆腐と長ネギのみそ汁、キュウリの浅漬け。しっかり食べられてなおかつ、あっさりしたものと考えた結果、そんなメニューになった。
「どれもおいしいけど、これいいね」
祐樹が気に入ったのは塩昆布で揉みこんだキュウリで、浅漬け感覚で作ったのをぽりぽり食べた。
「簡単だから、高橋さんにも作れるよ」
「そうだね、つまみによさそう」
昨日より顔色もかなり良くなったし、食欲も出ている。
「がっつり食べれるなら、しょうが焼きとかポークソテーとか照り焼きチキンもできるよ」
あしたは何食べたい?とさも当然のように言ってみた。
祐樹はそれには答えず、すねたような顔でつぶやいた。
「上野くんがこんなに料理上手だなんて知らなかったな」
「高橋さんの鍋もおいしかったよ。俺が作ってもよかったけど、高橋さんと鍋食べるのが楽しかったからさ」
料理ができることを隠していたわけではないが、なんとなく責められたような気がして言い訳めいた事を口にする。
「そんな顔しなくていいよ。ただ、おれは何も知らないんだなって思っただけ」
祐樹の口ぶりにひっかかりを感じたが、それがなにかよくわからず、孝弘は戸惑った。
「そりゃそうだろ。何年付き合いがあっても、そんな生活に踏み込んだことなんか話さないし…、言う機会もなかったし」
「そうだね」
気まずいとはいえないくらいの微妙な違和感のただよう食事を終えて、熱いほうじ茶を淹れると、ソファに座った孝弘は、遠慮せずに質問した。
一度、もう会えないという状態を経たから開き直ったとも言える。
「それで、本当はなんかあった? そんな痩せるほど、食事できないほど考え込むようなことが起きた?」
「とくに何があったってわけじゃないよ。ちょっと疲れただけ。やっぱ日本じゃないから色んなことがストレスで」
「本当にそれだけ? 海外生活のせい?」
祐樹が弱っているのはわかっていたが、さらに踏み込んだ。
「あの人のせいじゃないの?」
「なんのこと」
「とぼけるなよ、電話の奴が会いに来たんだろ。あの博多地鶏は何しやがったんだ」
名前を知らない彼は、孝弘のなかでは博多地鶏だ。聞いた祐樹はちょっと笑った。
「博多地鶏って」
「笑いごとじゃないっつーの。そいつになんか言われた?」
「べつにそういうことじゃないんだ」
そういいながら、どこかさみしそうに笑う。
「別れ話がもつれたとか、そういうのじゃないんだ。おれは彼とつき合ってたわけじゃないし、彼もおれのことは……」
祐樹は言葉をとぎらせて、その先を探すような顔になり、見つからないのかゆるく首を振った。
孝弘は祐樹を刺激しないようそっとよこに移動して、寄り添うように座った。一瞬、体を揺らしたけれど、祐樹は何も言わない。
いいから話して、とささやいて髪をなでる。
昼のうちにシャワーを浴びたのか、シャンプーの香りがした。
祐樹はゆっくり息を吐いて、呟いた。
「この前、彼がおれに会いに北京まで来たのは、決着をつけるためだったっていうんだ」
「うん」
意味がわからなかったが、孝弘は続きをうながした。
「ちがうな、そこからの話じゃなくて……」
混乱したようにつぶやき、祐樹はこてんと頭を孝弘の肩にあずけた。しばらく黙って考えこみ、それから身を起こすともう一度、口を開いた。
「おれが一番最初に、彼と出会ったのは、中学生のときなんだ」
思いがけない祐樹の言葉に、そんな古いつき合いだったのかと驚く。
同僚と聞いていたから、てっきり会社に入ってからの知り合いかと思っていた。
「彼は同じ中高一貫校の先輩で、おれが中学に入学した時、彼は高2だった」
そんな長いつき合いのある相手と聞いて、胸の奥がざわざわと落ち着かなくなる。
祐樹は自分で起きてきて、一緒にそれを食べたあと、シャワーを浴びた。
そのあいだに孝弘はゆうべ宣言したとおり、学校に戻ると授業に出た。
祐樹のシャワー上がりを待たなかったのは、もう大丈夫という祐樹の言葉を信じたのもあるが、湯上がりの姿など目にしたら帰れなくなりそうだったからだ。
授業が終わると、また祐樹のマンションに向かう。
ドアを開けた祐樹は、買い物袋をさげた孝弘を見てももう何も言わなかった。ほんのすこし困ったような、でもわずかに嬉しそうな気配を見せて、家に上げてくれた。
キッチンに入って、孝弘は気を引き締めた。
家に上げてくれたからと言って、祐樹が孝弘を受け入れてくれたわけじゃない。
勘違いしないように、自分に言い聞かせる。
晩ごはんは肉じゃが、モヤシと人参のナムル、豆腐と長ネギのみそ汁、キュウリの浅漬け。しっかり食べられてなおかつ、あっさりしたものと考えた結果、そんなメニューになった。
「どれもおいしいけど、これいいね」
祐樹が気に入ったのは塩昆布で揉みこんだキュウリで、浅漬け感覚で作ったのをぽりぽり食べた。
「簡単だから、高橋さんにも作れるよ」
「そうだね、つまみによさそう」
昨日より顔色もかなり良くなったし、食欲も出ている。
「がっつり食べれるなら、しょうが焼きとかポークソテーとか照り焼きチキンもできるよ」
あしたは何食べたい?とさも当然のように言ってみた。
祐樹はそれには答えず、すねたような顔でつぶやいた。
「上野くんがこんなに料理上手だなんて知らなかったな」
「高橋さんの鍋もおいしかったよ。俺が作ってもよかったけど、高橋さんと鍋食べるのが楽しかったからさ」
料理ができることを隠していたわけではないが、なんとなく責められたような気がして言い訳めいた事を口にする。
「そんな顔しなくていいよ。ただ、おれは何も知らないんだなって思っただけ」
祐樹の口ぶりにひっかかりを感じたが、それがなにかよくわからず、孝弘は戸惑った。
「そりゃそうだろ。何年付き合いがあっても、そんな生活に踏み込んだことなんか話さないし…、言う機会もなかったし」
「そうだね」
気まずいとはいえないくらいの微妙な違和感のただよう食事を終えて、熱いほうじ茶を淹れると、ソファに座った孝弘は、遠慮せずに質問した。
一度、もう会えないという状態を経たから開き直ったとも言える。
「それで、本当はなんかあった? そんな痩せるほど、食事できないほど考え込むようなことが起きた?」
「とくに何があったってわけじゃないよ。ちょっと疲れただけ。やっぱ日本じゃないから色んなことがストレスで」
「本当にそれだけ? 海外生活のせい?」
祐樹が弱っているのはわかっていたが、さらに踏み込んだ。
「あの人のせいじゃないの?」
「なんのこと」
「とぼけるなよ、電話の奴が会いに来たんだろ。あの博多地鶏は何しやがったんだ」
名前を知らない彼は、孝弘のなかでは博多地鶏だ。聞いた祐樹はちょっと笑った。
「博多地鶏って」
「笑いごとじゃないっつーの。そいつになんか言われた?」
「べつにそういうことじゃないんだ」
そういいながら、どこかさみしそうに笑う。
「別れ話がもつれたとか、そういうのじゃないんだ。おれは彼とつき合ってたわけじゃないし、彼もおれのことは……」
祐樹は言葉をとぎらせて、その先を探すような顔になり、見つからないのかゆるく首を振った。
孝弘は祐樹を刺激しないようそっとよこに移動して、寄り添うように座った。一瞬、体を揺らしたけれど、祐樹は何も言わない。
いいから話して、とささやいて髪をなでる。
昼のうちにシャワーを浴びたのか、シャンプーの香りがした。
祐樹はゆっくり息を吐いて、呟いた。
「この前、彼がおれに会いに北京まで来たのは、決着をつけるためだったっていうんだ」
「うん」
意味がわからなかったが、孝弘は続きをうながした。
「ちがうな、そこからの話じゃなくて……」
混乱したようにつぶやき、祐樹はこてんと頭を孝弘の肩にあずけた。しばらく黙って考えこみ、それから身を起こすともう一度、口を開いた。
「おれが一番最初に、彼と出会ったのは、中学生のときなんだ」
思いがけない祐樹の言葉に、そんな古いつき合いだったのかと驚く。
同僚と聞いていたから、てっきり会社に入ってからの知り合いかと思っていた。
「彼は同じ中高一貫校の先輩で、おれが中学に入学した時、彼は高2だった」
そんな長いつき合いのある相手と聞いて、胸の奥がざわざわと落ち着かなくなる。
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