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第16章-1 キスと拒絶
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しばらくすると祐樹がコーヒーを淹れて戻ってきた。
キッチンでこっそり泣いたのか、すこし目のふちが赤かった。じっと見ている孝弘に気づいて、さりげなく目線をはずしてカップをテーブルに置く。
気まずさを払うように口をつけた。さっきから何を言うべきか考えているが、こんなときにかける言葉を思いつけなかった。
高橋さんのせいじゃないよ、なんて薄っぺらい慰めなんかきっと欲しくないだろう。
「これ飲んだら、きょうはもう帰りな、遅くなるよ」
すでに完璧な表情を取り繕っていて、ごく事務的な口調で言う。孝弘はちらりと祐樹を見て、なるべく優しく聞こえるよう努力しながら訊いた。
「泊まったら迷惑?」
「これ以上甘えられないよ、学生さんに。あしたは金曜で授業あるでしょ」
平静を装った顔でいうから、孝弘の我慢も限界だった。
「それでそうやってひとりで泣くのかよ」
思わず責める言葉が口をついた。
「そうだよ、大人だからね」
祐樹は動揺を見せなかった。
最後の出勤の日、お疲れ様でしたと孝弘に告げたときと同じ、淡々とした声で。
孝弘の顔がもどかしさでゆがんだ。
こんなときですら頼りにしてもらえない。あんな話を聞かせておいて、でも泣きたいときには隣にいらないというのだ。
「そんなに俺って頼りにならない?」
「そういうことじゃないよ。大人なのにみっともないとこ見せて、恥ずかしいと思ってるだけ」
「恥ずかしくなんかないだろ。だから一人で泣くなよ」
孝弘が帰ったあと、がらんと広いこの部屋で一人きりで泣くのかと思ったら、とてもおいて帰れない。
「そんな寂しいこと、言うな」
正面から目を合わせて、強く言い聞かせる。
「惚れてる奴に、そんなことさせられるわけないだろう」
それを聞いた祐樹の顔が、みるみるゆがんで、涙があふれそうになった。
「ごめん、ちょっと情緒不安定なのかも」
うつむいて顔をそむけるのを強引に引き寄せた。
くるみこむように抱きしめる。
祐樹のなめらかな頬を涙がすべりおちた。唇で受け止めて、そのまま頬にちいさくキスを繰り返す。
腕のなかの体が震えるのが伝わって、一瞬、めちゃくちゃにしてやりたいという凶暴な衝動が沸き起こった。
大事にやさしく慰めたいのに、それと同じくらいの気持ちで乱暴にしたいとも思う。
その衝動のままに祐樹を抱きこんで、ソファに押し倒す。ぐっと上から押さえつけるようにして、唇を押しつけた。
「上野、くん、んっ、ん、ダメだ、って」
顔をそむけようとするのを許さず、追いかけてもう一度口づける。こんなやり方はよくないとわかっていても、止められなかった。なんで側にいさせてくれないんだろう。
「やめっ」
「ごめん、ごめん。高橋さん、キスだけ」
きゅっと抱きしめて耳元に口づけながら、おねがいと絞り出すようにささやき声を落とすと、祐樹は勢いを失くしてもがくのをやめた。
顔をそむけたままの祐樹の頬を両手で挟むと、正面から目線を合わせる。戸惑いに揺れている涙にぬれた目にぞくりとした。
その目に誘いこまれるように深く口づけ、閉じた唇を舌でそっとなぞる。
祐樹がためらっているのを感じたが、何度かつついて待つと、おずおずと開いてくれた。
迷わず舌を侵入させて口中をくすぐるように愛撫する。戸惑う祐樹の舌を誘い出し、そっと絡めるとふっと乱れた息をつくのがわかった。
何度も角度を変えながら、互いの熱を交換し合う。
いつの間にか祐樹の体からは力が抜けて、ソファで密着して横抱きになっていた。
さっきの凶暴な衝動は消えて、やさしくしたい気持ちがじわじわ湧いてきて、背中や髪を撫でながら、頬やこめかみに口づけた。
そのまま時々思い出したようにキスを交わしながら、孝弘の腕の中で祐樹は泣いた。そのうち疲れたのか薬が効いたのか、ぐったり眠ってしまった。
腫れぼったい瞼にそっとキスをして、孝弘はじっと祐樹の体を抱いていた。
キッチンでこっそり泣いたのか、すこし目のふちが赤かった。じっと見ている孝弘に気づいて、さりげなく目線をはずしてカップをテーブルに置く。
気まずさを払うように口をつけた。さっきから何を言うべきか考えているが、こんなときにかける言葉を思いつけなかった。
高橋さんのせいじゃないよ、なんて薄っぺらい慰めなんかきっと欲しくないだろう。
「これ飲んだら、きょうはもう帰りな、遅くなるよ」
すでに完璧な表情を取り繕っていて、ごく事務的な口調で言う。孝弘はちらりと祐樹を見て、なるべく優しく聞こえるよう努力しながら訊いた。
「泊まったら迷惑?」
「これ以上甘えられないよ、学生さんに。あしたは金曜で授業あるでしょ」
平静を装った顔でいうから、孝弘の我慢も限界だった。
「それでそうやってひとりで泣くのかよ」
思わず責める言葉が口をついた。
「そうだよ、大人だからね」
祐樹は動揺を見せなかった。
最後の出勤の日、お疲れ様でしたと孝弘に告げたときと同じ、淡々とした声で。
孝弘の顔がもどかしさでゆがんだ。
こんなときですら頼りにしてもらえない。あんな話を聞かせておいて、でも泣きたいときには隣にいらないというのだ。
「そんなに俺って頼りにならない?」
「そういうことじゃないよ。大人なのにみっともないとこ見せて、恥ずかしいと思ってるだけ」
「恥ずかしくなんかないだろ。だから一人で泣くなよ」
孝弘が帰ったあと、がらんと広いこの部屋で一人きりで泣くのかと思ったら、とてもおいて帰れない。
「そんな寂しいこと、言うな」
正面から目を合わせて、強く言い聞かせる。
「惚れてる奴に、そんなことさせられるわけないだろう」
それを聞いた祐樹の顔が、みるみるゆがんで、涙があふれそうになった。
「ごめん、ちょっと情緒不安定なのかも」
うつむいて顔をそむけるのを強引に引き寄せた。
くるみこむように抱きしめる。
祐樹のなめらかな頬を涙がすべりおちた。唇で受け止めて、そのまま頬にちいさくキスを繰り返す。
腕のなかの体が震えるのが伝わって、一瞬、めちゃくちゃにしてやりたいという凶暴な衝動が沸き起こった。
大事にやさしく慰めたいのに、それと同じくらいの気持ちで乱暴にしたいとも思う。
その衝動のままに祐樹を抱きこんで、ソファに押し倒す。ぐっと上から押さえつけるようにして、唇を押しつけた。
「上野、くん、んっ、ん、ダメだ、って」
顔をそむけようとするのを許さず、追いかけてもう一度口づける。こんなやり方はよくないとわかっていても、止められなかった。なんで側にいさせてくれないんだろう。
「やめっ」
「ごめん、ごめん。高橋さん、キスだけ」
きゅっと抱きしめて耳元に口づけながら、おねがいと絞り出すようにささやき声を落とすと、祐樹は勢いを失くしてもがくのをやめた。
顔をそむけたままの祐樹の頬を両手で挟むと、正面から目線を合わせる。戸惑いに揺れている涙にぬれた目にぞくりとした。
その目に誘いこまれるように深く口づけ、閉じた唇を舌でそっとなぞる。
祐樹がためらっているのを感じたが、何度かつついて待つと、おずおずと開いてくれた。
迷わず舌を侵入させて口中をくすぐるように愛撫する。戸惑う祐樹の舌を誘い出し、そっと絡めるとふっと乱れた息をつくのがわかった。
何度も角度を変えながら、互いの熱を交換し合う。
いつの間にか祐樹の体からは力が抜けて、ソファで密着して横抱きになっていた。
さっきの凶暴な衝動は消えて、やさしくしたい気持ちがじわじわ湧いてきて、背中や髪を撫でながら、頬やこめかみに口づけた。
そのまま時々思い出したようにキスを交わしながら、孝弘の腕の中で祐樹は泣いた。そのうち疲れたのか薬が効いたのか、ぐったり眠ってしまった。
腫れぼったい瞼にそっとキスをして、孝弘はじっと祐樹の体を抱いていた。
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