あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第19章-2

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 電気が復旧して箱の中が明るくなり、わずかな振動とともにエレベーターが動き出しても離れることができなかった。
 なにも考えられないまま口づけを続けて、ドアが開いてからようやく身を離した。
 孝弘は熱く潤んだ目で祐樹を睨むように見て、ぐっと手首をつかむと、まっすぐに廊下へ踏み出した。
 くらくらする頭で、祐樹は引きずられるようについて行く。

 部屋に入るやいなや、孝弘はもどかしそうに祐樹のジャケットを脱がせ始めた。驚いて、さすがに抵抗する。
「上野くん、ちょっと待って」
「嫌だ。煽ったのはそっちだろ」
 ここまでは覚悟していなかった、どうしよう。いやいや、あんなキスまでしといて今さらそれは通らないよな。
 戸惑う頭のすみで、べつに構わないだろうという声もする。

 一度は寝たことのある仲で、祐樹は誰かに操立てする必要があるわけでもない。かまととぶって焦らして楽しむような趣味もない。
 でもここで流されてしまっていいものかは迷う。まだ出張は続くのに。
 孝弘が何を考えているかも不確かで、どうしようかとめまぐるしく思考は混乱する。
 これ一度きりならそれもありか?
 お互い欲情していて目の前の相手を欲しているのだから。
 あれこれ乱れる思考のなか、手際よくシャツのボタンがすべて外される。

「上野くん」
 困惑しきった声で呼ぶと、孝弘はまっすぐ祐樹の眼を見て欲情をあからさまに表明する。
「欲しい。今すぐ」
 気持ちをごまかさないその潔さに、祐樹は何を言っても無駄だと悟る。
 何よりここで拒否するのは卑怯な気がした。
 覚悟を決めて、体の力を抜いた。
 孝弘がそれに気づいて、やわらかく抱き寄せながら耳元でささやく。

「触りたい。無理やり抱いたりしないから触らせて。高橋さんだって反応してるだろ」
 抱きたいと言われても了承するつもりだったが、孝弘はそうは言わなかった。
 覚悟を決めたつもりだったけれど、思わずほっとする。
 抱かれるのが嫌なんじゃない。抱かれてしまったら、歯止めが利かなくなりそうで怖かっただけだ。
 
 祐樹がうなずくと、孝弘は一切迷いのない手つきで祐樹の服をすべて脱がせ、ベッドに上がらせた。
 射貫くような強い視線にさらされて、頬が熱くなる。
 自分もさっさと脱いでしまうとするりと横にすべりこんできて、ぎゅっと抱きしめられた。
 人肌のあたたかさに、不覚にも気持ちよさがこみ上げた。裸で抱き合って、気持ちが高まっていくのをはっきりと感じた。

 かじりつくように口づけられて、あとはもう本能で貪りあった。
 何度もキスを繰り返しながら、吐息を交換し合う。触れた舌を絡めあって、互いの手で体を探り合う。
 孝弘の大きな手が背中から肩をなで、また背中におりてきて、腰から先の丸みをおびた臀部に触れる。
 首筋に唇がおとされ、鎖骨から肩、そして胸の先にも口づけられた。押しつぶすようにこねて吸われるときゅんとした快感を感じる。

 その刺激はダイレクトに下半身に伝わって、あっという間に発情した。
 興奮をたくわえた性器に直接触れられるともう隠すこともできず、祐樹は孝弘に抱きついてキスをして愛撫をねだった。
 孝弘の手でどんどん体温が上げられる。

「祐樹」
 名前を呼ばれて、その声にこもった熱がうれしいと思う。
「気持ちいい? いやじゃない?」
 ここまでしておいて、いまさら訊くのか。
 くすりと笑いがもれた。
「やじゃないよ、すごく気持ちいい。おれも触っていい?」
「ん、してよ」
 背中に回していた手をほどき、そっと肩から胸、腹へとなでおろしていく。

 滑らかな筋肉のついた体にドキドキした。そのまま手を下してすでに猛っている性器に触れた。
 手に包み込んで愛撫するとますます硬くなっていくのに興奮した。
「孝弘、ここ、好き?」
「うん。よすぎる、ヤバい」
 祐樹のやり方で孝弘が気持ちよさそうな顔をするのがうれしい。
 単純なことだ、と思う。触れば気持ちいい、ただそれだけのことならあれこれ悩まないのに。

 お返しとばかり孝弘の手が遠慮なく動いて、祐樹の弱いところに次々触れてきた。
「ふっ、んん…あっ」
 こらえきれず、鼻から抜けるように声がもれた。
 互いに触りあって高めあう。小さく口づけをしてぴったり体をくっつけて、互いの興奮が伝わるのを感じる。
 この体が好きだと触れた場所から流れこむような気がして、手でも唇でも体中に触れた。
 濡れた音が立ち、それも刺激になって二人を煽る。

「あ、あっ、待って。そんなに、したらっ……あっ」
 続けざまに祐樹に声を上げさせながら、孝弘は手のなかに包んだ熱を熱心に愛撫した。とろりと溶けそうなくらい体が熱くなっていて、祐樹はゆるく首を振った。
「あー、ちくしょ、終わるのもったいないな」
 あと少しの刺激で解放されるというところで、手をとめて孝弘がつぶやく。
 お互いにぎりぎりまで追いつめられていて、でも快楽を引き延ばしたくてこらえている。

「も、いきたい」
 祐樹の切羽詰まった声に、孝弘の我慢が切れた。
「いいよ、一緒に」
 キスを外さないまま、互いの手のなかでほぼ同時に終わりを迎えた。びくびくと跳ねる体をいとおしいと思う。
 唇を外して祐樹は甘えるように孝弘の肩に額をこすりつけた。大きな手が祐樹のまるい頭を包み込むようになでる。
 荒い息がおさまるまで、一言も話さずそうして固く抱きあっていた。


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