あの日、北京の街角で

ゆまは なお

文字の大きさ
87 / 112

第26章-1 安藤との再会

しおりを挟む
 8時前に朝食を買いこんだ青木が病室にやってきた。
「病院前にいっぱい露店あったよ。適当に買ったけど大丈夫かな」
 バナナと水とパンとカップ麺と熱々の生煎包を渡された。露店の前で、青木が迷っている姿が見えるようだ。
「大丈夫です。色々ありがとうございます」
「上野くんは?」
「まだ意識が戻らなくて。さっき様子を見て来たんですけど」
「そうか。心配だな」
 思案気な顔の青木が朝食を勧め、祐樹は一口サイズの焼き包子を食べながら今後の話をした。


「青木さんは先に北京に戻りますよね?」
 祐樹の抜糸を悠長に待ってはいられないだろう。
「多分そうなるな。昼までには東京から連絡来るだろ。もしかしたら、北京に戻らずに上海経由でそのまま帰国になるかもしれん。今回の出張報告は厄介だな」
 こめかみをぐりぐりと揉んで、青木は口をへの字にする。

「すみません、迷惑かけて」
 祐樹は申し訳なく思って、首をすくめた。
「いや、高橋がそう思う必要はないよ。工場の視察は東京からの指示だったんだし、その怪我も不運な事故だろ」
「まあ、そうですけどね」
「ひとまず緒方部長からは応援を寄越すと言われたんだが」
「応援?」 
 祐樹が首を傾げたところで、病室に男がひとり入ってきた。

「安藤さん!」
 祐樹が声を上げ、青木立ちあがる。
「おー、高橋(ガオチャオ)。なんだ、元気そうじゃないか。土砂崩れに巻き込まれて、キズモノになったと聞いたけど、相変わらず美人だな。半年ぶりか? もっとだっけ?」
 久しぶりに会う安藤は、かなり恰幅がよくなっていた。変わらない遠慮ないもの言いに思わず笑ってしまう。

    祐樹の初めての北京研修の面倒を見てくれたのが安藤で、祐樹とはそれ以来のつき合いだ。
「お久しぶりです! じゃあ応援って、安藤さんですか?」
「なんだ、応援て。ああ、部長からそう聞いてたのか? 緒方部長が様子見に行ってくれって電話よこしたんだよ。青木もお疲れさん。今回はほんと大変だったんだってな」
 現在、上海駐在中の安藤はこの出張の顛末を聞いているらしい。

「で、上野(シャンイエ)が通訳についてたんだろ。あいつ、どうした? 久しぶりの再会だし、念願の高橋との仕事で張り切ってたんじゃないか?」
 ふしぎなセリフを聞いた気がしたが、祐樹はひとまず現状を告げた。
「それがまだ、意識が戻らなくて」
 それを聞いた安藤が眉を寄せる。

「事故が起きたのが昨日の昼ごろだったっけ? それから一度も目覚めてないのか?」
 時計を見ると、もう9時になろうとしていた。
「MRIとレントゲンでは異常はなかったんですけど、頭部を切ってたのでちょっと縫いました。その時の麻酔はもう醒めてるはずなんですけど、意識が戻らないんですよ」
 青木の説明に、安藤は思案顔でうなずいた。

「そうか。まあ様子見るしかないか。中国の麻酔が効きすぎてるのかもな。高橋はもう大丈夫なのか?」
「はい。夜は炎症からけっこう熱が出ましたけど、すこし下がりました。一応、今日退院ですけど、このまま上野くんに付き添うつもりです」
「そうだな、付添人がいるよな。それに意識が戻るまでは心配だしな」
 青木の携帯電話が鳴った。東京からだろうか、話しながら病室から出て行くのを見送った。

 安藤と二人になって、祐樹は先ほど疑問に思ったことを訊ねた。
「安藤さん、さっき、念願のおれとの仕事でうんぬんって言ってましたけど、どういう意味ですか?」
「あれ、上野から何も聞いてないの?」
「何もって?」
「あー……、あいつも意地っ張りというかみょうに照れ屋なとこあるから、自分からは言わないか」
 安藤はなにか思い出したのか、にやにや笑う。

「あいつ、俺に口利いてくれって頼んできたんだよ、うちの会社の現地通訳をやりたいからって」
「え? 売り込みがあったってことですか?」
 つまり今回の出張に孝弘が来たのは、偶然じゃないらしい。
「でも相当大変だったんじゃないか、上野が中国慣れしてるって言ってもまだ若いし、だいぶ中国側に振り回されたみたいだな」
「まあ、はい。でも上野くんは今回、自分から来たんですか?」

「ああ。俺さ、昔、あいつが留学生だったとき、HSK10級が目標だっていうから、取れたらうちの会社で専属にしてやるって言ったことがあったんだよ。それで高橋が帰国したあとの話だけど、あいつほんとに10級取って、わりと長いあいだ北京事務所でアルバイトしてたんだけど、それは聞いてる?」
 祐樹は驚いて目を見開く。
 自分が帰国したあとも、アルバイトを続けていたとは知らなかったのだ。


注:現在のHSK(漢語水平考試)はこの制度ではありません。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】  愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。 ──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──  長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。  番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。  どんな美人になっているんだろう。  だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。  ──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。  ──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!  ──ごめんみんな、俺逃げる!  逃げる銀狐の行く末は……。  そして逃げる銀狐に竜は……。  白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...