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第26章-1 安藤との再会
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8時前に朝食を買いこんだ青木が病室にやってきた。
「病院前にいっぱい露店あったよ。適当に買ったけど大丈夫かな」
バナナと水とパンとカップ麺と熱々の生煎包を渡された。露店の前で、青木が迷っている姿が見えるようだ。
「大丈夫です。色々ありがとうございます」
「上野くんは?」
「まだ意識が戻らなくて。さっき様子を見て来たんですけど」
「そうか。心配だな」
思案気な顔の青木が朝食を勧め、祐樹は一口サイズの焼き包子を食べながら今後の話をした。
「青木さんは先に北京に戻りますよね?」
祐樹の抜糸を悠長に待ってはいられないだろう。
「多分そうなるな。昼までには東京から連絡来るだろ。もしかしたら、北京に戻らずに上海経由でそのまま帰国になるかもしれん。今回の出張報告は厄介だな」
こめかみをぐりぐりと揉んで、青木は口をへの字にする。
「すみません、迷惑かけて」
祐樹は申し訳なく思って、首をすくめた。
「いや、高橋がそう思う必要はないよ。工場の視察は東京からの指示だったんだし、その怪我も不運な事故だろ」
「まあ、そうですけどね」
「ひとまず緒方部長からは応援を寄越すと言われたんだが」
「応援?」
祐樹が首を傾げたところで、病室に男がひとり入ってきた。
「安藤さん!」
祐樹が声を上げ、青木立ちあがる。
「おー、高橋(ガオチャオ)。なんだ、元気そうじゃないか。土砂崩れに巻き込まれて、キズモノになったと聞いたけど、相変わらず美人だな。半年ぶりか? もっとだっけ?」
久しぶりに会う安藤は、かなり恰幅がよくなっていた。変わらない遠慮ないもの言いに思わず笑ってしまう。
祐樹の初めての北京研修の面倒を見てくれたのが安藤で、祐樹とはそれ以来のつき合いだ。
「お久しぶりです! じゃあ応援って、安藤さんですか?」
「なんだ、応援て。ああ、部長からそう聞いてたのか? 緒方部長が様子見に行ってくれって電話よこしたんだよ。青木もお疲れさん。今回はほんと大変だったんだってな」
現在、上海駐在中の安藤はこの出張の顛末を聞いているらしい。
「で、上野(シャンイエ)が通訳についてたんだろ。あいつ、どうした? 久しぶりの再会だし、念願の高橋との仕事で張り切ってたんじゃないか?」
ふしぎなセリフを聞いた気がしたが、祐樹はひとまず現状を告げた。
「それがまだ、意識が戻らなくて」
それを聞いた安藤が眉を寄せる。
「事故が起きたのが昨日の昼ごろだったっけ? それから一度も目覚めてないのか?」
時計を見ると、もう9時になろうとしていた。
「MRIとレントゲンでは異常はなかったんですけど、頭部を切ってたのでちょっと縫いました。その時の麻酔はもう醒めてるはずなんですけど、意識が戻らないんですよ」
青木の説明に、安藤は思案顔でうなずいた。
「そうか。まあ様子見るしかないか。中国の麻酔が効きすぎてるのかもな。高橋はもう大丈夫なのか?」
「はい。夜は炎症からけっこう熱が出ましたけど、すこし下がりました。一応、今日退院ですけど、このまま上野くんに付き添うつもりです」
「そうだな、付添人がいるよな。それに意識が戻るまでは心配だしな」
青木の携帯電話が鳴った。東京からだろうか、話しながら病室から出て行くのを見送った。
安藤と二人になって、祐樹は先ほど疑問に思ったことを訊ねた。
「安藤さん、さっき、念願のおれとの仕事でうんぬんって言ってましたけど、どういう意味ですか?」
「あれ、上野から何も聞いてないの?」
「何もって?」
「あー……、あいつも意地っ張りというかみょうに照れ屋なとこあるから、自分からは言わないか」
安藤はなにか思い出したのか、にやにや笑う。
「あいつ、俺に口利いてくれって頼んできたんだよ、うちの会社の現地通訳をやりたいからって」
「え? 売り込みがあったってことですか?」
つまり今回の出張に孝弘が来たのは、偶然じゃないらしい。
「でも相当大変だったんじゃないか、上野が中国慣れしてるって言ってもまだ若いし、だいぶ中国側に振り回されたみたいだな」
「まあ、はい。でも上野くんは今回、自分から来たんですか?」
「ああ。俺さ、昔、あいつが留学生だったとき、HSK10級が目標だっていうから、取れたらうちの会社で専属にしてやるって言ったことがあったんだよ。それで高橋が帰国したあとの話だけど、あいつほんとに10級取って、わりと長いあいだ北京事務所でアルバイトしてたんだけど、それは聞いてる?」
祐樹は驚いて目を見開く。
自分が帰国したあとも、アルバイトを続けていたとは知らなかったのだ。
注:現在のHSK(漢語水平考試)はこの制度ではありません。
「病院前にいっぱい露店あったよ。適当に買ったけど大丈夫かな」
バナナと水とパンとカップ麺と熱々の生煎包を渡された。露店の前で、青木が迷っている姿が見えるようだ。
「大丈夫です。色々ありがとうございます」
「上野くんは?」
「まだ意識が戻らなくて。さっき様子を見て来たんですけど」
「そうか。心配だな」
思案気な顔の青木が朝食を勧め、祐樹は一口サイズの焼き包子を食べながら今後の話をした。
「青木さんは先に北京に戻りますよね?」
祐樹の抜糸を悠長に待ってはいられないだろう。
「多分そうなるな。昼までには東京から連絡来るだろ。もしかしたら、北京に戻らずに上海経由でそのまま帰国になるかもしれん。今回の出張報告は厄介だな」
こめかみをぐりぐりと揉んで、青木は口をへの字にする。
「すみません、迷惑かけて」
祐樹は申し訳なく思って、首をすくめた。
「いや、高橋がそう思う必要はないよ。工場の視察は東京からの指示だったんだし、その怪我も不運な事故だろ」
「まあ、そうですけどね」
「ひとまず緒方部長からは応援を寄越すと言われたんだが」
「応援?」
祐樹が首を傾げたところで、病室に男がひとり入ってきた。
「安藤さん!」
祐樹が声を上げ、青木立ちあがる。
「おー、高橋(ガオチャオ)。なんだ、元気そうじゃないか。土砂崩れに巻き込まれて、キズモノになったと聞いたけど、相変わらず美人だな。半年ぶりか? もっとだっけ?」
久しぶりに会う安藤は、かなり恰幅がよくなっていた。変わらない遠慮ないもの言いに思わず笑ってしまう。
祐樹の初めての北京研修の面倒を見てくれたのが安藤で、祐樹とはそれ以来のつき合いだ。
「お久しぶりです! じゃあ応援って、安藤さんですか?」
「なんだ、応援て。ああ、部長からそう聞いてたのか? 緒方部長が様子見に行ってくれって電話よこしたんだよ。青木もお疲れさん。今回はほんと大変だったんだってな」
現在、上海駐在中の安藤はこの出張の顛末を聞いているらしい。
「で、上野(シャンイエ)が通訳についてたんだろ。あいつ、どうした? 久しぶりの再会だし、念願の高橋との仕事で張り切ってたんじゃないか?」
ふしぎなセリフを聞いた気がしたが、祐樹はひとまず現状を告げた。
「それがまだ、意識が戻らなくて」
それを聞いた安藤が眉を寄せる。
「事故が起きたのが昨日の昼ごろだったっけ? それから一度も目覚めてないのか?」
時計を見ると、もう9時になろうとしていた。
「MRIとレントゲンでは異常はなかったんですけど、頭部を切ってたのでちょっと縫いました。その時の麻酔はもう醒めてるはずなんですけど、意識が戻らないんですよ」
青木の説明に、安藤は思案顔でうなずいた。
「そうか。まあ様子見るしかないか。中国の麻酔が効きすぎてるのかもな。高橋はもう大丈夫なのか?」
「はい。夜は炎症からけっこう熱が出ましたけど、すこし下がりました。一応、今日退院ですけど、このまま上野くんに付き添うつもりです」
「そうだな、付添人がいるよな。それに意識が戻るまでは心配だしな」
青木の携帯電話が鳴った。東京からだろうか、話しながら病室から出て行くのを見送った。
安藤と二人になって、祐樹は先ほど疑問に思ったことを訊ねた。
「安藤さん、さっき、念願のおれとの仕事でうんぬんって言ってましたけど、どういう意味ですか?」
「あれ、上野から何も聞いてないの?」
「何もって?」
「あー……、あいつも意地っ張りというかみょうに照れ屋なとこあるから、自分からは言わないか」
安藤はなにか思い出したのか、にやにや笑う。
「あいつ、俺に口利いてくれって頼んできたんだよ、うちの会社の現地通訳をやりたいからって」
「え? 売り込みがあったってことですか?」
つまり今回の出張に孝弘が来たのは、偶然じゃないらしい。
「でも相当大変だったんじゃないか、上野が中国慣れしてるって言ってもまだ若いし、だいぶ中国側に振り回されたみたいだな」
「まあ、はい。でも上野くんは今回、自分から来たんですか?」
「ああ。俺さ、昔、あいつが留学生だったとき、HSK10級が目標だっていうから、取れたらうちの会社で専属にしてやるって言ったことがあったんだよ。それで高橋が帰国したあとの話だけど、あいつほんとに10級取って、わりと長いあいだ北京事務所でアルバイトしてたんだけど、それは聞いてる?」
祐樹は驚いて目を見開く。
自分が帰国したあとも、アルバイトを続けていたとは知らなかったのだ。
注:現在のHSK(漢語水平考試)はこの制度ではありません。
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閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
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