あの日、北京の街角で

ゆまは なお

文字の大きさ
89 / 112

第26章-3

しおりを挟む
「帰国直前まで家に泊めてやってたのに、帰国した途端、いっさい連絡も取り合ってないっていうし、上野はなんか知らんが落ち込んでるみたいだったし」
 そっか、やっぱり落ち込んでたのか。
 帰国後の孝弘の様子を思いがけず聞くことになり、祐樹はうろたえた。
 そうだよな、あんな別れ方をして、傷つかないわけがない。
 抱き合った翌朝に置き去りにされたと知って、孝弘は祐樹を恨んだだろうか。それとも、責めただろうか。
 
 でもあの時はあれが最良だと思ったのだ。
 一時的に傷ついたとしても、祐樹のことなど一刻も早く忘れてくれればいいとそれだけを願った。
 今になって思えば、自分勝手だったと後悔しているけれど。
「一体、なんでけんかしたんだ?」
「いや、けんかっていうか……、あの、上野くんはなんて?」
 返答に困って質問で返した。

「んー、なんて言ったっけな。高橋さんに失礼なことを言っちゃったんです、とか言ってたかな。酔っぱらって高橋さんを怒らせて、会わせる顔がないから自分からは連絡できないとか。でもあいつ、そんな失礼なことしないだろ。お前もちょっとやそっとのことじゃ怒らないだろうしさ。ほんとは何なの?」
 安藤は詮索するというより、単純にふしぎに思っているようだ。
 そして、こんな場面でも安藤が孝弘を信頼していることに祐樹はうれしくなった。

「えー…もう忘れました。ほんと些細な行き違いで。でも今はもう平気ですから」
 安藤は納得しかねる顔だったが、過去の話をほじくり返す気はないらしい。
「それならいいんだけどな。上野とはこれから長いつき合いになるだろうし、ちゃんと仲直りしたんなら安心だな」
「え?」
 祐樹がどういう意味かと訊ねようとしたとき、青木が慌ただしく戻ってきた。

「高橋くん、退院手続き、終わったぞ。どうする? いったんホテルに戻って、荷物まとめとくか? 俺は今日の午後にはここを発つことになったから、必要なことがあればそれまでに言ってくれ」
 青木は電話のあと、病院の事務所にも行って来たらしい。
 手続きの終わった用紙を祐樹に渡そうとする。
 安藤がそれを横からさらった。

「青木、もういいぞ。あとのことは俺がちゃんとやっとくから、ホテル戻ってチェックアウトの用意しろよ。俺が来たんだし、安心して帰国しろ。高橋と上野の面倒はこっちで見るから」
「すみません、安藤さん、慌ただしくて。後のことよろしくお願いします。高橋、体調気をつけろよ。それから上野くんのこと、頼むな」
「こちらこそ、色々ありがとうございました。本当に、気をつけて帰国してください」
 最後に孝弘の顔を見ていくというので、安藤も一緒に四人で孝弘の病室に向かう。

 個室にいると聞いて、安藤は祐樹に向かってにやりとした。
 中国駐在の長い安藤は、祐樹がどんな手を使ったのか、よく理解している。
「起きろよ、上野。もう朝になったぞ。お前の好きな春餅(チュンビン)、おごってやるからさ」
 安藤はそう声をかけながら、そっと孝弘の肩を揺すってみた。孝弘の反応はない。
 横から青木が心配そうな顔で別れを告げる。
「上野くん、先に戻るよ。今回はお世話になりました。また東京で会おう」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ
BL
 太平の世。国を治める将軍家の、初代様の孫にあたる香山藩の藩主には四人の息子がいた。ある日、藩主の座を狙う弟とのやり取りに疲れた藩主、玉乃川時成は宣言する。「これ以上の種はいらぬ。梅千代と余四郎は男を娶れ」と。  これは、そんなこんなで藩主の四男、余四郎の許婚となった伊之助の物語。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...