あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第4章-4

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「これ、こないだの写真」
 きょうの目的だった写真を渡されて、祐樹は一枚ずつめくってみた。椅子の横に孝弘は立ったままで写真を覗きこんでいる。
「やっぱりタイマーって緊張感ある顔してるね」
 いつシャッターが下りるかわからずに、微妙に待つ雰囲気の表情がおかしい。くすくす笑いながら机のうえに並べる。
「うん、この作った顔の感じが笑えるよな」
「でも、ちゃんと長城がうまく入ったね。これ、すごくいい感じ。おみやげに売ってるハガキにありそう」
「ああ、そんな感じ」
 お互いのワンショットはそれぞれきれいに山の稜線に添って長城が入っていた。

「カメラ持って来てもらってよかったな」
 自分の写真なんて撮りたいと思わない祐樹はカメラを持ち歩かないが、こうして写真を見ると、記念写真も悪くないと思えた。
 うん、半年しか北京にいないんだし、できるだけ撮ってみようか。

「あ、これ、もらっていい?」
 一枚を手に取った。
 二人で並んだ背後に、龍のようにくねくねとした長城がきれいにおさまっている。表情も自然で、タイマー機能を使って成功した一枚だった。
「好きなの何枚でも持って行っていいよ。焼き増しするし」
 祐樹が選んだものとワンショットのものをまとめて孝弘が写真を封筒に入れてくれた。

「せっかく来たから、学校見ていく? 案内するよ」
「うん、見たい。あ、本屋さんあったら寄りたい」
「わかった。他に行きたいとこある? たいてい何でもあるよ」
「入れるなら学食でご飯、食べてみたいな。部外者でも平気?」
「全然いいけど、高橋さん、どこなら大丈夫だろ」
 孝弘が思案する顔つきになった。

「どこって?」
「食堂はいくつもあって、中国人学生用と職員用と留学生用に分かれてるんだ」
「ああ、人がそれだけ多いから?」
「そう。学内に学生用は四つ、職員用が三つあって、いちばんおいしいのが学生用の第二食堂」
「食堂によって味が違うんだ?」
「うん。メニューも違う。でも学生用はさすがにちょっと」
「やっぱり学生じゃないとダメだよね」
 祐樹の言葉に孝弘はあっさり首を横に振った。

「ううん、高橋さん、ぜんぜん学生に見えるよ」
 それは喜んでいいんだろうか。
「ていうか身分証見せるわけじゃないから誰でも入れるし。学生用食堂だとご飯買う時はまずホーローのお椀持って行くんだ」
「お椀持って行く?」
「そう。商店でよく売ってるけど、ホーローの取って付きの大きなコップと言うかお椀というか」
「ああ、わかった。金魚の絵とか描いてるやつ?」

「そう。そこにご飯とおかず2、3こ選んで、ぶっかけ飯みたいに食べる。食堂広いけど、学生数も多いから外で食べる人も多いよ」
 職員食堂や留学生食堂だと食器は用意されているが買い方は同じだと言う。
 食堂のきれいさは留学生食堂がいちばんらしい。中国の食事マナーでは食べかすはテーブルに置くのでどうしてもそうなる。

「そんなに汚いの?」
「んー、まあ、習慣が違うからね」
 食堂には掃除する担当者もいて、掃除はされているらしい。
「そうだよね。前に上野くんが学食にも北京ダックあるって言ってたから、それが食べてみたかったんだけど」
「ああ、あれか。だったら平気だな」
 学食と言っても、学内にあるレストラン扱いの店だと言う。
 連れて行ってもらったら広くて殺風景な店で、客はさほど多くなかった。学内の送別会や食事会などの行事に使う店だそうで、ちゃんと店員がいてオーダーを取りに来た。

「へえ、ほんとにあった」
 あの時の専門店のように皿の上に飴色つやつやの北京ダックがきれいに並んでいるということはなくて、切った順にぽいぽい置いたぜと言った適当さだ。
 みそとネギをつけて、丸い薄餅バオビンにくるんで食べるのは同じだ。皮だけじゃなく肉も結構ついていて、これはこれでおいしい。

「俺はこれしか食べたことなかったよ。北京ダック専門店なんて、あれが初めてだったし」
「そうだったんだ。でもこれもいけるね」
「うん、こっちもどうぞ」
 孝弘が屈託なく笑って、京醤肉絲ジンジャンロウスーを勧める。代表的な北京料理だと言うが、日本人も好きな味付けだった。祐樹の生活ではこういう料理は意外と食べられない。




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