あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第8章-2

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「え? カバンを預けるの?」
 祐樹の戸惑った顔に、孝弘はあっさりうなずいた。 
 前回、孝弘と買いに行ったドラマが途中で終わっていたので、おいしい家庭料理をお腹いっぱい食べたあと、続きのVCDを買いに行く予定だった。
 その途中で通りすがりの小さな超市チャオシー(スーパーマーケット)に入ったのだが、祐樹はこういう店は初めてだったらしい。

「財布と貴重品があれば持って。パスポートとか持ち歩いてないよね?」
「ないよ。財布だけかな」
 店の入口には受付カウンターがあり、店員がそのカウンター内にひとり立っている。その奥にはカラーボックスを重ねたような扉のないロッカーが並んでいて、いくつかにはカバンが入っていた。

 孝弘が慣れた手つきで店員にカバンを渡し、店員はそれをロッカーに置くと番号札を取って孝弘に渡す。なるほどと納得して祐樹も同じように番号札をもらう。
 それからようやく、金属のゲートを通って店内に入った。テーマパークの出入口にあるような、回転式のバーを押して回して入るゲートだ。
 店に入るだけで、目をきょろきょろさせている祐樹に、孝弘がいたずらっぽく笑った。
「高橋さんの家の近くの外資系スーパーではこういうのないかもだけど、町のスーパーはだいたいこんな感じだよ。万引き防止というか強盗防止というか、財布しか持って入れないようになってる」
「知らなかったな。いつも同じスーパーしか行かないから」

 そして、店内の品揃えも祐樹を驚かせた。
 入口近くの棚には大量の粉の袋が並んでいる。しかも業務用かと思うくらいの大きさだ。日本で見るようなサイズは見当たらず、5キロ入り、10キロ入りの袋が売り場の棚にどかどかと無造作に積んである。
「え、水饺粉シュイジャオフェンだって。これ水餃子の皮? 何種類もあるけど」
「ああ、メーカーが違うから。薄力粉と強力粉の配合が違うんだって」
「へえ、お好み焼き粉みたいな感じかな」
「そうだと思う。好みの配合の粉を買うんだろ」
「こっちは饅頭粉マントウフェン? 中力粉ヂョンリーフェン? ……なんか粉がいっぱいだね」

「北京はもともと小麦文化なんだよ。米より餃子とか麺をたくさん食べる地域だから、粉から手作りが一般的だよ」
「あ、そっか。米は南方でとれるんだっけ。これ買って、家で餃子作るの?」
「そう。中国人の家に遊びに行ったら、麺打ち台が出てきて粉こねて、一緒に餃子包んだりする」
「ああ、ドラマで見たけど、本当にそういうことするんだ」
「うん。最近は冷凍水餃子も売ってるけど、やっぱ作り立てがおいしいって手作りする人も多い」
 粉売り場を過ぎて、袋入りラーメンの売り場でもその種類の多さに驚いている。

「なんか見たことないパッケージがいっぱいある」
 祐樹が日頃、利用しているスーパーと違って、地元民向けのスーパーにはごくごく庶民的な商品しか置いていない。
「安いの、やっぱおいしくないからおすすめできないよ」
 1元もしないものから10元くらいまで、たくさん並んでいる。寮の部屋でもお湯を注ぐだけでできるので、孝弘も時々食べているが味はピンキリだった。
「鍋に入れるとよさそうなのってある?」
「まず、鍋に入れる前提なのかよ」
 祐樹の料理を思い出して、孝弘は笑いながら突っ込む。
 こんなやりとりが平然とできるくらいに、親しくなっていた。


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