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第8章-3
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初めて泊った日の朝食に出てきた豚肉と豆腐とモヤシの鍋。ポン酢がうまかったな。この前、遊びに行ったときは、すきやき風の醤油味の鍋だった。
「いや、〆にいいかなーって」
「鍋ならスープ使わないんだろ。どれでも変わらないんじゃない? 袋ラーメンじゃなくて麺売り場もあるよ。あ、韓国ラーメンが麺がしっかりしてて鍋向きかも」
真っ赤なパッケージの辛ラーメンが山積みになっている。じゃあ今度試してみようと祐樹が2つ取った。隣にはカップラーメンがこれまた山のように積んである。
「カップ麺てこれしかないの? 紅焼牛肉麺?」
袋ラーメンの種類の豊富さに比べて、カップ麺売り場はさみしい品ぞろえだ。
「うん、まだ少ないな。去年だっけ、カップ麺売りはじめたのって」
「え? そうなの? それまでなかったってこと?」
カップ麺があって当たり前の世界に住んでいたので、祐樹はちょっと衝撃を受けた。
「ああ、でもマクドナルドも去年できたばっかりって言ってたよね」
「うん。外資系スーパーにはカップヌードルも売ってたけど、1個いくらだっけ、さっきの昼メシ代くらいするから滅多に買わなかったな」
二人でお腹いっぱい食べた食事代とカップ麺が同じ値段と知って、それにも祐樹は驚く。
「そっか、輸入品だとそんな高いんだ。これも外国人価格?」
「たぶんね。国産はそこまで高くはないよ」
カップ麺は割高なのに面子なのか手軽さが受けたのか、北京っ子に大売れしている。種類はまだ少ないがあっという間に増えるだろう。
調味料の棚では、ずらりと並んだ瓶詰めのラベルを祐樹が読んで、孝弘が発音を訂正していく。
「食堂で出てくる味はこれだったんだ」
祐樹には新たな発見がたくさんあったようで、いくつかかごに入れている。
「これ、鍋の味付けにいいかもよ」
「上野くんだって、鍋前提じゃない」
「だって高橋さんに鍋しか食わせてもらってないし」
すでに何度か祐樹の手料理をごちそうになっている。味付けや具材は毎回ちがうのでまったく問題はない。
そもそも手料理を出されて、それにケチをつけるほど孝弘は礼儀知らずでもなかった。
「でも、どれもうまかった。鍋ってすげーって認識を改めたもん」
孝弘の言葉に祐樹は照れたのか、めずらしく困ったような顔で笑う。
「で、高橋さん、なに買いに来たの?」
ローカルスーパー初体験の祐樹はあちこちの売り場で足止めされて、気づいたら店に入って20分近くたっていた。
「えーと、何だったかな?」
スーパーに入った目的をすっかり忘れてしまったようだ。買う予定じゃなかったラーメンや調味料が入ったかごを持って、首をかしげている。りすみたいでかわいい。
いくらなんでも年上の社会人に、怒りそうだから言えないけど。きれいな顔して文句なしにかっこいいけど、時々見せる仕草が子供のようにかわいい。いや言いませんけど。
「思い出せない?」
「うーん。……まあいいや。また思い出したらで」
でも喉が渇いたというので飲料売り場に行くと、祐樹は百事可楽(ペプシコーラ)の赤い缶を棚から選ぶ。
「ペプシって日本では飲まなかったんだけど、こっちで飲んだらちょうどいい感じだったんだ。炭酸強すぎないのが」
「俺も炭酸強いのは苦手。だから実はこっちのビールが案外好きなんだよな。五星とか燕京とかちょっと味も薄いだろ」
そう言いながら、孝弘の手がつい五星ビールに伸びた。
それを見ていた祐樹がコーラを棚に戻して、やはりビールを手に取った。
レジを済ませてから、番号札と引き換えにカバンを返してもらって外に出て、街路樹の日陰でビールを飲む。
北京の道のいいところは、歩行者道の横には大きな街路樹が植えられて、いつも日陰があることだ。
「ぬるいね」
「うん、北京の味ってやつだよ」
「たしかに。最近慣れて、あんまり気にならなくなってきた」
「飲めなくはないしな」
「でもやっぱ、飲料は露店で買わなきゃだね」
「お、北京通になってきた?」
路上にいる露店なら氷水につけて冷やしたものが売っているのだ。
「どうかな。でも上野くんのおかげだよね、いつもありがとう」
年下に向かってこんなことを素直にいうんだもんな。しかもその笑顔で。
なんとなくそわそわするような、ドキドキするような感覚を孝弘はすこし持て余す。祐樹といると、時々こんな感じで気持ちが不安定になるような気がする。
祐樹があまりにも素直に「ありがとう」なんて言うから照れてしまうんだろうか。
うん、きっとそうだ。
年上の社会人なのに祐樹にはちっとも偉ぶったところがなくて、孝弘が紹介する中国のよもやま話を楽しそう聞いている。
その反応を見るとなんだか孝弘もうれしくなってしまい、またどこかに連れて行こうと思ってしまうのだ。
おかしいな、こんなにお節介というか面倒見のいいタイプじゃないはずだけど。
楽しそうな笑顔が見たいってちょっとヘンか?
でもかわいいし。
埃っぽい風に吹かれて、孝弘はぬるいビールを飲んだ。
「いや、〆にいいかなーって」
「鍋ならスープ使わないんだろ。どれでも変わらないんじゃない? 袋ラーメンじゃなくて麺売り場もあるよ。あ、韓国ラーメンが麺がしっかりしてて鍋向きかも」
真っ赤なパッケージの辛ラーメンが山積みになっている。じゃあ今度試してみようと祐樹が2つ取った。隣にはカップラーメンがこれまた山のように積んである。
「カップ麺てこれしかないの? 紅焼牛肉麺?」
袋ラーメンの種類の豊富さに比べて、カップ麺売り場はさみしい品ぞろえだ。
「うん、まだ少ないな。去年だっけ、カップ麺売りはじめたのって」
「え? そうなの? それまでなかったってこと?」
カップ麺があって当たり前の世界に住んでいたので、祐樹はちょっと衝撃を受けた。
「ああ、でもマクドナルドも去年できたばっかりって言ってたよね」
「うん。外資系スーパーにはカップヌードルも売ってたけど、1個いくらだっけ、さっきの昼メシ代くらいするから滅多に買わなかったな」
二人でお腹いっぱい食べた食事代とカップ麺が同じ値段と知って、それにも祐樹は驚く。
「そっか、輸入品だとそんな高いんだ。これも外国人価格?」
「たぶんね。国産はそこまで高くはないよ」
カップ麺は割高なのに面子なのか手軽さが受けたのか、北京っ子に大売れしている。種類はまだ少ないがあっという間に増えるだろう。
調味料の棚では、ずらりと並んだ瓶詰めのラベルを祐樹が読んで、孝弘が発音を訂正していく。
「食堂で出てくる味はこれだったんだ」
祐樹には新たな発見がたくさんあったようで、いくつかかごに入れている。
「これ、鍋の味付けにいいかもよ」
「上野くんだって、鍋前提じゃない」
「だって高橋さんに鍋しか食わせてもらってないし」
すでに何度か祐樹の手料理をごちそうになっている。味付けや具材は毎回ちがうのでまったく問題はない。
そもそも手料理を出されて、それにケチをつけるほど孝弘は礼儀知らずでもなかった。
「でも、どれもうまかった。鍋ってすげーって認識を改めたもん」
孝弘の言葉に祐樹は照れたのか、めずらしく困ったような顔で笑う。
「で、高橋さん、なに買いに来たの?」
ローカルスーパー初体験の祐樹はあちこちの売り場で足止めされて、気づいたら店に入って20分近くたっていた。
「えーと、何だったかな?」
スーパーに入った目的をすっかり忘れてしまったようだ。買う予定じゃなかったラーメンや調味料が入ったかごを持って、首をかしげている。りすみたいでかわいい。
いくらなんでも年上の社会人に、怒りそうだから言えないけど。きれいな顔して文句なしにかっこいいけど、時々見せる仕草が子供のようにかわいい。いや言いませんけど。
「思い出せない?」
「うーん。……まあいいや。また思い出したらで」
でも喉が渇いたというので飲料売り場に行くと、祐樹は百事可楽(ペプシコーラ)の赤い缶を棚から選ぶ。
「ペプシって日本では飲まなかったんだけど、こっちで飲んだらちょうどいい感じだったんだ。炭酸強すぎないのが」
「俺も炭酸強いのは苦手。だから実はこっちのビールが案外好きなんだよな。五星とか燕京とかちょっと味も薄いだろ」
そう言いながら、孝弘の手がつい五星ビールに伸びた。
それを見ていた祐樹がコーラを棚に戻して、やはりビールを手に取った。
レジを済ませてから、番号札と引き換えにカバンを返してもらって外に出て、街路樹の日陰でビールを飲む。
北京の道のいいところは、歩行者道の横には大きな街路樹が植えられて、いつも日陰があることだ。
「ぬるいね」
「うん、北京の味ってやつだよ」
「たしかに。最近慣れて、あんまり気にならなくなってきた」
「飲めなくはないしな」
「でもやっぱ、飲料は露店で買わなきゃだね」
「お、北京通になってきた?」
路上にいる露店なら氷水につけて冷やしたものが売っているのだ。
「どうかな。でも上野くんのおかげだよね、いつもありがとう」
年下に向かってこんなことを素直にいうんだもんな。しかもその笑顔で。
なんとなくそわそわするような、ドキドキするような感覚を孝弘はすこし持て余す。祐樹といると、時々こんな感じで気持ちが不安定になるような気がする。
祐樹があまりにも素直に「ありがとう」なんて言うから照れてしまうんだろうか。
うん、きっとそうだ。
年上の社会人なのに祐樹にはちっとも偉ぶったところがなくて、孝弘が紹介する中国のよもやま話を楽しそう聞いている。
その反応を見るとなんだか孝弘もうれしくなってしまい、またどこかに連れて行こうと思ってしまうのだ。
おかしいな、こんなにお節介というか面倒見のいいタイプじゃないはずだけど。
楽しそうな笑顔が見たいってちょっとヘンか?
でもかわいいし。
埃っぽい風に吹かれて、孝弘はぬるいビールを飲んだ。
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