あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第13章-2

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「つき合うって、何言ってるの。おれ男だけど」
 困惑の口調で、当然の断り文句を祐樹は口にした。
 男だから対象外ってわけ?
「わかってる。でも高橋さんはちがうだろ」
 それを聞いて初めて、祐樹は戸惑ったように瞬いた。

「どういう意味?」
「俺が男でも問題ないよね。俺じゃダメ?」
 探るような目でじっと孝弘を見つめた祐樹が目線を外し、ふっとため息をついて、やはり返事はせずに別の質問をした。
「気づいてたのか。おれ、けっこう隠せてるほうだと思ってたんだけどな。なんでわかったの?」
「見ててわかったわけじゃなくて。ごめんなさい、電話聞こえちゃって。本をもらいに行ったときに」
 立ち聞きしてすみませんと謝ると、ああとつぶやき、今度は長々とため息をついた。

「それはもういいけど。聞いてたならわかるだろうけど、終わったことだし」
「べつに過去を詮索する気はないよ。以前、誰とつき合っていようと俺が好きなのは今の高橋さんだし」
「うん。気持ちはうれしい、ありがとう。……でも、ごめんね」
 さきほどしなかった返事だった。
 祐樹はそっけないくらいにあっさり断った。

「なんでか聞いてもいい?」
「おれが上野くんを恋愛感情で好きじゃないから」
 残酷なセリフを祐樹はとても優しく告げた。
 意外と男らしくはっきりした性格だと知っていたが、こういう場面でも祐樹の態度は変わらなかった。優しくて穏やかだけれど、つけ入る隙を見せない。

 どうにか足掻きたくて、もう一度、口を開く。
「今から考える余地もない?」
「年下は好みじゃないんだ」
 どう頑張っても変えられない部分で好みじゃないとはっきり言われて、孝弘も食い下がりようがない。だからごめんね、と困ったように言われれば、孝弘にそれ以上言える言葉は何もなかった。

 
 成就なんてするわけない。
 最初からわかっていたことだけど、やっぱりこたえた。


「そっか」
 それ以上、ここにいるのが耐えられず、カバンを手に取ると「お邪魔しました、帰ります」と言って逃げるように部屋を出た。
 真夜中を過ぎていたけれど、祐樹はひきとめなかった。これまで門限を過ぎて泊まらなかったことは一度もなかったのに。
 階段を駆け下りて路上に出て、孝弘は大きく息を吐いた。

 あー、ふられちゃったな、と頭のなかで思う。
 そりゃそうだろ、年下で学生で。北京生活の経験値がすこし高かったから、その部分で優位に立てていただけで、人として、男としての魅力がなかったってことなんだな、と納得するしかない。
 はっきり断ってくれたのは祐樹の優しさなのだ。

 以前の相手と比べても仕方ないが、きっと仕事が出来る、年上の頼りがいのある人だったんだろうと想像して、ひとりで勝手に落ち込んだ。
 年はどうしようもないけど、せめて社会人だったらな。そうすればもう少し、頼りにしてもらえたんだろうか。
 予想外の告白に驚いていたし、困惑していたけれど、まったく心動かされた様子がなかった。戸惑った顔でため息をつき「ごめんね」と優しい声で告げた態度を思えば、脈なんかあるわけない。

 ふられるときってこんなにあっさり終わるのか。
 考えてみれば、こんなに真剣に告白したのは初めてだ。人生初のまじ告白が年上の男相手で、速攻でお断りされるってどうよ。
 おかしくて笑いたい気もしたが、笑うことはできなくて、ほんのすこし口元に苦笑が浮かんだ。
 この苦しさもそのうち消えてしまうのかな。帰国で別れた彼女をしばらく経ったら思い出さなくなったみたいに。

 考えても現状を変えられるわけではないし、アルバイトはまだ一週間残っている。あと少なくとも三回は事務所で顔を合わせることになる。
 次に会うときに、意地でも平気な顔でいられるよう、それだけを強く強く決意した。


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