あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第17章-2

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 肩を揺すられて目を覚ましたのは、祐樹のマンションだった。
 寮じゃなかった。どうする? 言うか? やめとく? 
 支えられながら部屋に入って、孝弘はぐらぐら揺れる思考をまとめようとする。
「大丈夫?」
「んー、平気」
 いつも泊まっていた部屋のベッドで体を起こした。
「はい、お水飲んで」
 グラスを渡されて冷たい水を飲んだら、その冷たさですこし頭がはっきりした。

 どうしようか、いや、迷ってる場合じゃない。
 たぶん、これは最後のチャンスだ。

 
 グラスをしばらく手の中で転がして、決心する。
 窓のそと、ぽっかり浮かぶ満月を祐樹が見ている。
「高橋さん」
 カーテンを閉めた祐樹の前に立つと、孝弘は手を伸ばして祐樹の両手を握った。
 祐樹を真っ直ぐに見て言った。
「抱きたい」
 ストレートな言葉に祐樹は瞬きした。
 予想していなかったようで、ぽかんと孝弘を見返す。

 両腕を回して抱きすくめるとびくっと体を揺らした。
 合せた胸の鼓動が速い。
 動揺が伝わってくるが、耳元でささやいた。
「欲しい、だめ?」
 祐樹はしばらく黙っていた。
 その間にもどくどくと心臓は脈打ち、緊張がどんどん高まっていく。

 本気で抵抗されたら、もちろん押切るつもりはない。
「抱いても、上野くんのものにはならないよ」
 冷静な声が聞こえた。
 ああ、断る気だなとわかった。
 そりゃそうだ。いきなり抱きたいなんて言われて承知するわけがない。
「それはわかってる」
 賭けてたんだとつぶやいた。
 
 寝たふりしてて、きょう、安藤さんが連れて帰ってくれたらこれでもう会わない。
 でも、もし高橋さんが部屋に入れてくれたら、欲しいっていう。
 そう決めてた。

 孝弘の告白に、祐樹はそっかと返した。
「いいよ。しよう」
 祐樹の返事に、孝弘の体がぴくりと震えた。

 いま、何て言った?
 予想外の返事が聞こえて、祐樹の顔を覗きこむ。

 言い出したのは自分だけど、まさかOKされるとは思っていなかった。いや絶対押しのけられると予想していた。
 ぽかんとした孝弘に祐樹はおかしそうに微笑んだ。

「あのさ、俺、本気だよ」
「知ってる」
 祐樹がそっと唇を押しつけた。
 一瞬で離れて、孝弘を見つめた。
 孝弘は喜びよりも困惑を感じた。
 どうして祐樹がいいよなんて言ってくれるのか。

「俺、高橋さんに無理難題を押しつけてる?」
 子供が駄々をこねるから根負けして、言うこと聞いてあげよう的な?
「どうかな……、いや、そうでもないよ」
「ほんとに?」
「嫌だったら、そう言うよ。知ってるでしょ」
 確かにそうだ。嫌なことはきっぱり断る人だった。

 もういいか。お互い酔ってることにしても。
 うんとうなずいて、孝弘は素直になることにした。
「どうしたらいいか、教えてくれる?」
 男を抱くのは初めてだ。
 正直にそう言うと、祐樹はすこしためらったが、ちょっと待っててといい部屋から出て行った。

 途端に頭の中はパニックになった。
 どうしよう、俺、まじですんの?
 え、高橋さんとセックス? 
 したいけど、ちゃんとできんの? 

 
 祐樹はすぐに戻ってきて、何かを孝弘の手に押しつけた。
「これ使って」
 手のなかのものを見るとローションとコンドームだった。
 それがわかったところでさっと電気を消され、常夜灯のみの薄闇になった。リアルにセックスするんだといきなり実感する。
「用意がいいんだな」
 つい確認してしまったが、どちらも未開封でほっとした。いやべつに、未開封だからってなにもないって保証はないし、開封してたとしても何か言える立場じゃない。

 祐樹は目を細めてそんな孝弘を見ている。
 ぞくりと男を刺激する表情だった。そのまま体を寄せると耳元でささやいた。
「たしなみ、だよ」
 大人の余裕を見せつけられた気がして悔しい。
 ひとまずそれは枕元に置いて、シャツを脱ぎ捨てた。
 なんだか現実感がない。祐樹はじっと孝弘を見ている。
 そのまま、祐樹を引き寄せて口づけた。

 ベッドに座ってキスを重ねながら、祐樹のシャツのボタンを外していく。
 胸のうえに手を置いてみたら、祐樹の鼓動が指先に伝わった。すこし速い。
 開いたそばから手を入れて、背中を抱き寄せて肌の感触を味わった。祐樹はいっさい抵抗しなかった。心配していたが、ちゃんと腕を回してくれてキスを返してくれた。
 一方的な行為にするつもりはないとわかって安心する。

 深く口づけながらお互い服を脱がせあって、あちこち触れた。
 どこに触っても祐樹はとめなかった。
 孝弘の唇が首筋から鎖骨をたどって胸の先に触れても。
 そのまま舌でやんわり乳首を押しつぶすと、かすかに声を上げて背中をそらせた。ちいさな粒を甘噛みする。
「ん、あっ、あ…っ」
 祐樹のこらえきれない声が孝弘の興奮をさらに煽る。

 唇で挟んでいじると、そこは小さくたちあがってきた。もう片方を指先でこねながら、そっと祐樹の表情をうかがう。
 喉をならす猫のような、うっとりした顔。
 上気した目元の色がなまめいていた。
「気持ちいい?」
「ん、いいよ」
 ささやきながら耳元にキスをする。

 孝弘は片手で背中のカーブをいとおしみながら、ゆったり手を下して、腰の先の割れ目までたどる。滑らかな尻のカーブをなでて、前に手を回すと祐樹の性器に触れた。
 他人のものに触れるのは初めてだ。
 半ば起ちあがっていて、孝弘は安心する。
 自分の愛撫にちゃんと感じてくれているのがうれしかった。



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