あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第17章-4

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 目が覚めると、ひとりでベッドに寝ていた。
 部屋に差し込む日の光から、もう朝も遅い時間だとわかる。昨夜のことを思い出して、夢を見ていたみたいだとぼんやり思い、はっと身を起こした。
 祐樹はどこだろう。

 部屋に戻ったんだろうか。
 つい何度も求めてしまったけれど、祐樹は拒まずに最後まで孝弘につき合ってくれた。
 あの後で部屋に戻ったなら寂しい。
 一緒に朝を迎えたかったのに。
 耳をすませても物音はしなかった。

 脱ぎ捨てた服が椅子の背にかけてあり、それを羽織って部屋を出た。
 水を飲もうとキッチンに行って、違和感に気づいた。
 何もないのだ。もともと、それほど物があったわけではないが、それにしてもがらんとしている。
「高橋さん?」
 呼びかけながらリビングに入り、違和感は確信に変わった。

「高橋さん!」
 足早に祐樹の寝室に向かう。そこも空っぽだった。
 祐樹の私物が一切なくなっていた。
 呆然としたままリビングに戻る。テーブルの上に、メモが置いてあるのに気づいた。
 きょう帰国すること、鍵を趙さんに渡してほしいことがさらりと書いてあった。ほかにはなにもなかった。単なる業務連絡にも等しいメモだった。

 ふとゆうべの帰り際の、安藤たちと祐樹の会話を思い出す。
「でも明日出発でしょ」
「最後に悪いな、じゃあ、頼むわ」
「気を付けて帰ってね」
 あれは単なる別れの言葉だったんじゃない。
 帰国の挨拶だったのだ。
 予定が変わったんだろう、帰国予定はもうすこし先だったはずだ。孝弘と会わなかった先週のうちに帰国日が決まったのかもしれない。

 きょう帰国だとわかっていて、祐樹はゆうべ孝弘に抱かれたのだ。
 一瞬、頭が真っ白になる。
 もう日本に帰ってしまった?
 本当に?
 ほんの数時間前まで、一緒のベッドで過ごしたのに?
 抱きたい、と言ったときの祐樹の戸惑った顔を思い出す。驚きと戸惑いと、何かをためらうような考え込むような…、複雑な顔をしていた。

 きょう帰国なら突き放すこともできたはずだ。
 なぜ抱かせてくれたんだろう?
 最後に憐れみを与えたのか。同情だったのか、ほだされたのか。
 いずれにせよ孝弘には一言も言わないで、別れの言葉もかけずに出て行ってしまったのだ。 
 本当に、もう二度と会えない。
 連絡先を残していないということは、連絡をするなという意味だろう。安藤に聞けば教えてくれるだろうが、祐樹の意志が明白なのにそんなことはできない。

 そんなにも疎まれていたのだろうか。それはないと思いたい。
 ゆうべはあんなにも優しく触れあったのに。好きだと言ってくれなくても、連絡を絶つほど嫌われているとは思えなかった。
 でもポーカーフェイスの上手な祐樹のことだ、本音は別だったのかもしれない。目の前の現実に、思考はどんどん悪いほうへと落ちていく。

 がらんとしたリビングで、なにをどう考えればいいのかわからず、孝弘はひとり立ち尽くしていた。



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