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第25章-1 天壇公園
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部屋へ戻ろうと廊下を歩いていると、どこかから賑やかな音楽が聞こえてくる。
窓の外を見ると、病院の裏の広場で赤い扇子を持った男女がひらひらと回転しながら踊っているのが見えた。
まだ朝の6時だというのに、大音量で陽気なリズムが響いて華麗な動きで踊っている。その隣では太極拳をするグループがいる。
公園や広場で、健康のために朝早くからこうして踊ったり太極拳をしたりするのは中国ではよくある光景だ。
そういえば、以前、孝弘の太極拳を見せてもらったことがあったな。
朝の光の中で、5年前の懐かしい出来事を思い出した。
仕事終わりに孝弘の誘いで羊の串焼きを食べに行った。
ウイグル族の店で、独特のスパイスの効いた串焼きはくせになるおいしさだ。
路面に出ている店なので、風が吹いていて気持ちがいい。
7月の北京の空は夕暮れの色がやさしかった。
スパイスの効いた羊肉に冷たいビールがよく合う。
味のうすい五星ビールを飲みながら、祐樹はこっそりデート気分を楽しんでいる。
「そうだ、天壇公園って遠い? けっこうおもしろいって聞いたんだけど」
ゆでピーナッツをつまみながらさりげなく切り出した。
こういうふうに訊いてみると、親切な孝弘はたいてい行こうかと誘ってくれる。それをわかっているから祐樹はときどき話を振るのだ。
「タクシーで30分くらいだよ。観光地だけどふつうに広い公園で、庶民の憩いの場でもあるけど。もとは昔の皇帝が祈りを捧げた場所だったっけ?」
孝弘が首をかしげた。
天壇公園というきれいな公園があると聞いたのは鈴木からだ。
「俺も去年、一回行っただけだな。行ってみる?」
ほら、やっぱり誘ってくれた。
果たして土曜日の朝に行く約束をして、祐樹はデートの約束が増えたとにっこりする。
孝弘がそんなことをこれっぽっちも思っていないのは承知の上だ。
朝6時という待ち合わせ時間に目を丸くすると、その時間の公園が楽しいのだと孝弘はいたずらっぽく笑った。
タクシーを降りて公園入口からすぐ手前の路上に食堂や屋台が並んでいる。
そこでタクシーを降りた孝弘が屋台を指さした。
「先に朝ごはんにしよう」
これまた早朝とは思えない賑わいで、ほかほかと湯気を上げる大鍋や蒸籠が歩道に並んで、その前で客があれこれ注文している。
ドラム缶にしか見えない鉄板のうえでは生煎包がジュウジュウ焼かれ、大きな蒸籠では包子や馒头が温められており、油の張った大鍋では油条が次々揚がり、隣りの大鍋では馄饨(ワンタン)や米粥がぐつぐつ煮えている。
ほかにもいろいろな食べ物があるようだ。
「こういうの、食べたことある?」
「ないけど。これって大丈夫?」
夜市で屋台の食べ物には気をつけるよう注意されたことを思い出して訊いてみると、孝弘は心配ないとあっさりいう。
「平気だよ、夜市より安全だから」
「そうなんだ」
「個人の胃腸の強さにもよるけどね。でも高橋さん、あんまり腹壊さないみたいだし」
確かに個人差は大きい。ダメな人はペットボトルのミネラルウォーターでもダメなのだ。
「こういう火を通したばかりの作りたては平気だよ」
祐樹はうなずいた。
小学生が座るような低い木の椅子に腰かけ、大きなテーブルにほかの客と相席する。
よくわからないので孝弘にオーダーを任せると、待つこともなく、目の前に馄饨と白粥と豆腐脑が一杯ずつ、油条、生煎包、焼餅等が並んだ。
「高橋さん、どうぞ。味見して、食べられるものだけ食べたらいいよ。口に合わなかったら無理しなくていいから」
熱々の油条をちぎってレンゲでお粥に沈めながら、漬物もそこに入れてかき混ぜ、そのまま口をつけずに渡してくる。
窓の外を見ると、病院の裏の広場で赤い扇子を持った男女がひらひらと回転しながら踊っているのが見えた。
まだ朝の6時だというのに、大音量で陽気なリズムが響いて華麗な動きで踊っている。その隣では太極拳をするグループがいる。
公園や広場で、健康のために朝早くからこうして踊ったり太極拳をしたりするのは中国ではよくある光景だ。
そういえば、以前、孝弘の太極拳を見せてもらったことがあったな。
朝の光の中で、5年前の懐かしい出来事を思い出した。
仕事終わりに孝弘の誘いで羊の串焼きを食べに行った。
ウイグル族の店で、独特のスパイスの効いた串焼きはくせになるおいしさだ。
路面に出ている店なので、風が吹いていて気持ちがいい。
7月の北京の空は夕暮れの色がやさしかった。
スパイスの効いた羊肉に冷たいビールがよく合う。
味のうすい五星ビールを飲みながら、祐樹はこっそりデート気分を楽しんでいる。
「そうだ、天壇公園って遠い? けっこうおもしろいって聞いたんだけど」
ゆでピーナッツをつまみながらさりげなく切り出した。
こういうふうに訊いてみると、親切な孝弘はたいてい行こうかと誘ってくれる。それをわかっているから祐樹はときどき話を振るのだ。
「タクシーで30分くらいだよ。観光地だけどふつうに広い公園で、庶民の憩いの場でもあるけど。もとは昔の皇帝が祈りを捧げた場所だったっけ?」
孝弘が首をかしげた。
天壇公園というきれいな公園があると聞いたのは鈴木からだ。
「俺も去年、一回行っただけだな。行ってみる?」
ほら、やっぱり誘ってくれた。
果たして土曜日の朝に行く約束をして、祐樹はデートの約束が増えたとにっこりする。
孝弘がそんなことをこれっぽっちも思っていないのは承知の上だ。
朝6時という待ち合わせ時間に目を丸くすると、その時間の公園が楽しいのだと孝弘はいたずらっぽく笑った。
タクシーを降りて公園入口からすぐ手前の路上に食堂や屋台が並んでいる。
そこでタクシーを降りた孝弘が屋台を指さした。
「先に朝ごはんにしよう」
これまた早朝とは思えない賑わいで、ほかほかと湯気を上げる大鍋や蒸籠が歩道に並んで、その前で客があれこれ注文している。
ドラム缶にしか見えない鉄板のうえでは生煎包がジュウジュウ焼かれ、大きな蒸籠では包子や馒头が温められており、油の張った大鍋では油条が次々揚がり、隣りの大鍋では馄饨(ワンタン)や米粥がぐつぐつ煮えている。
ほかにもいろいろな食べ物があるようだ。
「こういうの、食べたことある?」
「ないけど。これって大丈夫?」
夜市で屋台の食べ物には気をつけるよう注意されたことを思い出して訊いてみると、孝弘は心配ないとあっさりいう。
「平気だよ、夜市より安全だから」
「そうなんだ」
「個人の胃腸の強さにもよるけどね。でも高橋さん、あんまり腹壊さないみたいだし」
確かに個人差は大きい。ダメな人はペットボトルのミネラルウォーターでもダメなのだ。
「こういう火を通したばかりの作りたては平気だよ」
祐樹はうなずいた。
小学生が座るような低い木の椅子に腰かけ、大きなテーブルにほかの客と相席する。
よくわからないので孝弘にオーダーを任せると、待つこともなく、目の前に馄饨と白粥と豆腐脑が一杯ずつ、油条、生煎包、焼餅等が並んだ。
「高橋さん、どうぞ。味見して、食べられるものだけ食べたらいいよ。口に合わなかったら無理しなくていいから」
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