あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第25章-2

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 どんなものかとほかほかと湯気のたつ揚げパン入りの白粥を食べてみた。
「あ、意外といける」
「うん。お粥に味はついてないんだけど、この油条入れるとふしぎとおいしくなる。ここに並んでるのが、北京人ベイジンレンのわりとポピュラーな朝ごはん」

 生煎包は小ぶりの焼き包子でごま油とねぎのいい香りがした。
  焼餅は中にそぼろが入っている。 焼きたて熱々で、具がジューシーでとてもおいしい。
 
  どれも路上でよく見かけるが祐樹はチャレンジしたことはなかった。
 今度、自分でも買ってみよう。
 屋台の食べ物は値段交渉もいらないし、何個いくらと決まっているので祐樹でも心配なく買える。

 馄饨は香草が苦手だから一口でダメで、豆腐脑はいわゆるおぼろ豆腐だ。レンゲで掬って食べてみる。甘めのしょうゆだれが不思議な味だった。
「……変わった味」
「まずかった?」
「うーん……。そうとも言えない」
   まずいのかおいしいのか判断がつかない味というものに、北京に来て何度か出会った。
 そういう感じと言うと、孝弘がうなずいた。

「わかるよ。そういうの、癖になる味って言うんだってぞぞむは言ってる。食べ慣れるとおいしくなるのが、そう感じるんだって」
「そうなのかな」
 首をかしげながらもう一口食べてみる。
 やはり馴染みのない不思議な味がした。食べ慣れるほど食べる機会はなさそうだ。
  饅頭は具のない肉まんという感じの蒸しパンで、もっちりしていて食べごたえがあるが味はない。

「これは主食扱いで、おかずと一緒に食べる。このまま職場に持って行って行ったり。弁当というかおにぎりみたいな感じっていうのかな」
「そうなんだ。でもやっぱり小麦文化なんだね」
 テーブルに乗った朝食は、うすい白粥以外は小麦でできたものばかりだ。
  こうして並べられるとそれがよくわかる。

「そうだな。高橋さん、無理しなくていいよ、そんなにおいしいもんじゃないでしょ」
 祐樹の手からワンタンの椀を取って、孝弘はすいすいと掬って食べる。
 全体的にあまり祐樹の口には合わないが、孝弘はそれを承知の上で連れてきたんだろう。
 つまり、庶民の味の体験学習だ。

 すこしずつ試していると孝弘が立ち上がって、路上で自転車に木箱をくくりつけたおじさんから陶器の白い瓶を2つもらって戻ってきた。
「これ、酸奶(スワンナイ)。飲んでみて」
 薄っぺらい紙のふたに太いストローを刺して飲むと、想像した液体ではなく、ゆるい固体が口のなかに入ってきた。
   ストローでズルズルと吸い込まれてくる。意外にもちゃんと冷えていた。

「ヨーグルト?」
「そう、飲むヨーグルトだけどあんま甘くなくて飲みやすいだろ。これ、けっこう好きで毎日飲んでる」
 孝弘の朝食は学校内の屋台でワンタンや麺で済ませることが多いそうで、道理で慣れてるはずだと思う。
   三食すべて外食だと胃も疲れて大変だから、朝はこれくらいがいいんだろう。
 二人で分け合って食べて、これが全部で15元くらいと聞いて驚いた。200円もしない。庶民の食べ物はそんなものらしい。
 
 何気なく見ていると、孝弘が木箱の人にヨーグルトの瓶を返してお金をもらっていた。
「返金があるの?」
「うん、瓶代はデポジット制なんだ。返せばお金が返ってくる」
「へえ、知らなかった」
 食事を終えて「じゃ、行こうか」と立ち上がる。

 天壇公園は祐樹の想像よりかなり広かった。
 例によって外国人料金があり、中国人の数倍の見学料金が表示されていた。
 チケット売り場で孝弘が学生証を見せて何か話している。戻ってきた孝弘が祐樹にチケットを渡した。外国人用のそれではなかった。
「たいていの場所で学割がきくんだ」
 高橋さんも語学学校行ってるからと学生料金にしてもらったという。
「ありがとう。学割ってどのくらい安いの?」
「中国人と同じか中間くらい」
「へえ、意外と学生さんには優しいんだね」

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