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第27章-2
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タクシーのなかで、家族の話や日本での学生時代の話を聞いた。
孝弘はけっこう健全にやんちゃな高校生活を送ったようで、アルバイトの話でかなり笑わされた。
「高橋さんはアルバイトしなかったの?」
「うちの高校、禁止だったんだよ。中高一貫のけっこう厳しい学校だったから。楽しかったバイトってなに?」
「うーん。わりとどれも楽しかったけど。着ぐるみショーとか子供の反応がおもしろかったな。ヒーローよりも悪役のほうがリアクションがあって楽しいんだ」
「へえ。悪役って倒されるんだよね?」
「そう。最初はヒーローに殴り掛かりに行って、子供たちがキャーとかやめてーとか言ってくれたら、よっしゃってなる」
着ぐるみの中で笑顔になっている孝弘を想像して祐樹も笑う。
「あとは、孫になってお見舞い行ったりとかしたな」
「何それ?」
「老人ホームにいるおばあちゃんのお見舞いに行くバイト。もうボケちゃってるけど、孫が大好きで、でもその孫ってほんとはもう30歳超えた大人の人で。だけどおばあちゃんの中ではまだ高校生なんだ」
「うん」
「それで、お孫さん本人から俺がその人に似てるっていうんで頼まれて、月に2回、お孫さん本人と一緒にお見舞いに行ってたんだ」
「おもしろいアルバイトだね。そんなのよく見つけたね」
「あー、いや、見つけられたというか。バス停で声かけられたんだ。お孫さん本人に、いまちょっと時間ありますかって」
どこかで聞いたような話だ、と祐樹は笑う。
「それで頼まれてお孫さんになったんだ?」
「そう」
「お孫さんになったり通訳になったり、上野くんは芸達者だね」
後部座席に並んで座って、体温を感じる距離に気持ちが弾む。
恋愛のドキドキというにはほど遠く、話せて楽しいという程度の高揚感。
慕田峪長城は孝弘が言ったとおり、ほとんど人がいなかった。
八達嶺の人の多さを見ていたから、こんなにも静かな場所とは思っていなくて、祐樹は驚いて孝弘をふり向いた。
「すごい、本当に誰もいない」
うれしくなって笑いかけると、孝弘はちょっと自慢気な顔で、な?というようにうなずいて見せた。
二人でなんとなく並んだり前後になったりしながら、黙々と登ったり降りたりした。沈黙がまったく苦にならず、山から吹くさわやかな風と太陽を感じながらお互い自分のペースで登り、たまに会話したり休憩したりした。
祐樹はそもそも中国にこれっぽっちも興味はなくて、中国史も受験勉強以上の知識は持っていない。
万里の長城についても始皇帝が作ったんだっけ?というぼんやりした知識しかなく、それでも数千年前に造られたというこの巨大な建造物には感動した。
ひときわ高い見張り台のようなところまで来てふり向くと、登り口から山の嶺に沿ってくねくねと続く長城が、龍の体のように見えて壮観だった。
「気持ちいいね」
風に吹かれながら、今登ってきた道を眺める。
「やっぱり登ると暑いね」
「でも高橋さんて、汗とかかかなさそう」
「そんなわけないでしょ。けっこうかいたよ。でも乾燥してるからすぐ乾くよね」
からっと乾いた北京の空気は軽くて、日本のように汗でべたつくという感じはまったくしない。
笑いかけると、孝弘が手を伸ばして祐樹の腕に触れてきた。どきっとしたが、平然とした顔をよそおった。
どうしたかなと思って見ていると、唐突に「輪ゴム」という。パンが乾燥する話をしながら孝弘の髪に飛んできた葉っぱが絡んだのを見て取ってやる。
孝弘はけっこう健全にやんちゃな高校生活を送ったようで、アルバイトの話でかなり笑わされた。
「高橋さんはアルバイトしなかったの?」
「うちの高校、禁止だったんだよ。中高一貫のけっこう厳しい学校だったから。楽しかったバイトってなに?」
「うーん。わりとどれも楽しかったけど。着ぐるみショーとか子供の反応がおもしろかったな。ヒーローよりも悪役のほうがリアクションがあって楽しいんだ」
「へえ。悪役って倒されるんだよね?」
「そう。最初はヒーローに殴り掛かりに行って、子供たちがキャーとかやめてーとか言ってくれたら、よっしゃってなる」
着ぐるみの中で笑顔になっている孝弘を想像して祐樹も笑う。
「あとは、孫になってお見舞い行ったりとかしたな」
「何それ?」
「老人ホームにいるおばあちゃんのお見舞いに行くバイト。もうボケちゃってるけど、孫が大好きで、でもその孫ってほんとはもう30歳超えた大人の人で。だけどおばあちゃんの中ではまだ高校生なんだ」
「うん」
「それで、お孫さん本人から俺がその人に似てるっていうんで頼まれて、月に2回、お孫さん本人と一緒にお見舞いに行ってたんだ」
「おもしろいアルバイトだね。そんなのよく見つけたね」
「あー、いや、見つけられたというか。バス停で声かけられたんだ。お孫さん本人に、いまちょっと時間ありますかって」
どこかで聞いたような話だ、と祐樹は笑う。
「それで頼まれてお孫さんになったんだ?」
「そう」
「お孫さんになったり通訳になったり、上野くんは芸達者だね」
後部座席に並んで座って、体温を感じる距離に気持ちが弾む。
恋愛のドキドキというにはほど遠く、話せて楽しいという程度の高揚感。
慕田峪長城は孝弘が言ったとおり、ほとんど人がいなかった。
八達嶺の人の多さを見ていたから、こんなにも静かな場所とは思っていなくて、祐樹は驚いて孝弘をふり向いた。
「すごい、本当に誰もいない」
うれしくなって笑いかけると、孝弘はちょっと自慢気な顔で、な?というようにうなずいて見せた。
二人でなんとなく並んだり前後になったりしながら、黙々と登ったり降りたりした。沈黙がまったく苦にならず、山から吹くさわやかな風と太陽を感じながらお互い自分のペースで登り、たまに会話したり休憩したりした。
祐樹はそもそも中国にこれっぽっちも興味はなくて、中国史も受験勉強以上の知識は持っていない。
万里の長城についても始皇帝が作ったんだっけ?というぼんやりした知識しかなく、それでも数千年前に造られたというこの巨大な建造物には感動した。
ひときわ高い見張り台のようなところまで来てふり向くと、登り口から山の嶺に沿ってくねくねと続く長城が、龍の体のように見えて壮観だった。
「気持ちいいね」
風に吹かれながら、今登ってきた道を眺める。
「やっぱり登ると暑いね」
「でも高橋さんて、汗とかかかなさそう」
「そんなわけないでしょ。けっこうかいたよ。でも乾燥してるからすぐ乾くよね」
からっと乾いた北京の空気は軽くて、日本のように汗でべたつくという感じはまったくしない。
笑いかけると、孝弘が手を伸ばして祐樹の腕に触れてきた。どきっとしたが、平然とした顔をよそおった。
どうしたかなと思って見ていると、唐突に「輪ゴム」という。パンが乾燥する話をしながら孝弘の髪に飛んできた葉っぱが絡んだのを見て取ってやる。
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