あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第30章-1 本当の気持ち

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 そこから地下鉄で20分ほどで祐樹の最寄駅に着いた。
 途中コンビニに寄って、食べ物と飲み物を買う。日本に帰国してから残業続きだったので自炊もしておらず、冷蔵庫はからっぽの状態が続いていた。
 古い住宅街の細い道を通り抜けて、四階建ての小さなマンションについた。三階の角部屋が祐樹の部屋だ。
「ふうん。なんにもないな」
「ほとんどいないからね」
 1年前に深圳赴任から帰国して借りたが、ここで寝泊まりしたのは年の半分くらいだ。

 祐樹も孝弘同様、どこが家だかわからないという生活だった。
 狭いキッチンとフローリングの部屋がひとつ。生活感がほとんどない。
 8畳ほどのフローリングの部屋にはテレビとテーブル、クッションが2個転がっているだけで殺風景にもほどがある。
 大きな荷物を持たない主義なのでベッドもソファもない。いつまた海外赴任するかわからないからだ。布団は部屋のすみにざっくりたたんで置いてあった。

 ひとまずコーヒーでも淹れようかとジャケットを脱いで、カップを出そうとしたところで、背中から孝弘に抱きこまれた。
「コーヒーより祐樹がいい」
 耳元にささやかれ、うなじに吸い付かれて体が震えた。
 あからさまに性急に求められて、祐樹がうろたえた声をあげる。
「や、ちょっと…、上野くん」
 ぞくりと背筋を駆け上がってくるのは快楽の予感なのか。

 退院後は帰国まで二人きりだったが、移動や上海事務所に寄ったついでに安藤に取引先に紹介されたりと慌ただしくしていた。
 体調があまりよくないこともあって、ベッドでお互い触りあったくらいで終わっていたから、こうして触れ合うのは久しぶりだ。
「待てない。ていうか名前呼んでよ」
 戸惑う祐樹を軽くいなして、孝弘はシャツの裾から手を入れてくる。
 肌にじかに手のひらが触れて、祐樹は身をよじる。

「いますぐ、欲しい」
「でも、まだ…。あっ、ん…ん」
 背中をやさしくなでられ、その手が前に回ってちいさな乳首を探り当てた。くいくいと指先で弄られて、ぞくりと官能が目覚めるのを自覚する。
 ストレートに求められてうれしい気持ちと、まだすこし戸惑う気持ちで揺れている。
「覚悟してって言っただろ」
 孝弘の余裕のない声に、話は後回しだと諦めた。
「ん、いいけど。でもシャワー浴びたい。昼間汗かいたし」
「わかった。じゃあ一緒に浴びよう」
 蠱惑的な笑みを浮かべて、孝弘が祐樹の腕を引いた。

「え、いやそれは」
「だめ?」
 祐樹が強く押されるのに弱いのをよく知っていて、孝弘は引く気配を見せない。
 いいだろ?とダメ押しの笑顔を見せて、頬にちゅっと口づける。
 うまいなあと思う。強気なくせに下手に出て甘えてくるところとか。やさしく抱き寄せるのに強引なところとか。それに翻弄されているのがそんなに嫌じゃない。
 いや、終わってるな、おれ。
 
 抗わずに服を脱がされ、さきに浴室に入る。
 お湯の温度を確かめているうちに孝弘が入ってきて、後ろからぴったり抱きつかれた。
 肩に顎を乗せられて、密着した背中が孝弘の心音を拾った。すこし速い。
「ドキドキしてる?」
「してるよ、祐樹の裸みて、興奮しないわけないじゃん」
 すこしほっとした。
 明るい場所で裸を見られたのは初めてだ。
 熱のこもった視線に祐樹の心音も速くなる。

 ざあざあと前からシャワーの湯をかぶりながら、口づけられた。
 何度もキスを交わす間に孝弘の手が湯を止めて、ボディソープのポンプを押す。
 山盛りにした泡の両手で、洗いっこしようと誘って祐樹の体に泡を塗り広げた。もこもこした感触がくすぐったい。
 祐樹が泡だらけの手を孝弘に伸ばすと、楽しそうに笑い声をあげた。
 孝弘の子供のような素直な笑顔にうれしくなって、泡だらけになって触りあった。

 口づけを交わしながら、孝弘の手が祐樹の全身を味わうように撫でていく。そのうち、孝弘の手が怪しく動いて祐樹の感じるポイントを拾い始める。
 泡のなかで祐樹の体がぬるぬると揺れた。
 くすぐったくてふわふわしていて、でもそれだけじゃない触り方で孝弘の手が肌をすべる。
「これ、気持ちいい?」
「ん、気持ちいいよ」
 ささやかな胸の突起を撫でられて素直に答えたら、きゅっとつまんだり捏ねたりしながら腰を押しつけられた。
 同じ程度の興奮具合で、こっそりほっとする。


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