あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第30章-5

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「ほんとに好きだったよ。大好きだった」
 いつの間にか、涙があふれていた。
 孝弘が指先でそっとぬぐって、やさしく頬に口づける。
「じゃ、なんで俺、ふられたんだ?」
「おれなんかにはもったいないと思ったから。こんなまっすぐでやさしい男の子を、男同士の恋愛に引き込むのは駄目だと思ったんだ」
 涙でにじんだ視界のさきで、孝弘がなにか言いたげに目を細めた。

「それに何よりノンケで、未成年で。一生懸命勉強してる学生さんだし、将来有望だろうに、わざわざ男のおれと恋愛することもないだろうって。しかも帰国が決まってたし」
「知ってたよ、帰国することくらい。男だってことも百も承知でさ。それでもいいと思ったから告白したんだ。また中国に赴任してくるなら、きっと会えるだろうと思ったし。国内なら会いに行けるだろ?」
 それを聞いて祐樹は驚いた。

 まだ学生の孝弘が、祐樹の赴任先まで会いに来ることまで考えていたのだ。留学生の恋愛は帰国で終わる期間限定のものだと孝弘は言った。祐樹もそういうものだろうと思っていた。
 でもあの時、孝弘は祐樹の研修後まで考えてくれていた。そこまで考えた上で告白してきてくれたのだと初めて知って、胸が苦しく痛くなる。
「……そんなこと、考えてくれてたの?」
 震える声で尋ねたら、憮然とした答えが返ってきた。
「当たり前だろ、でなきゃ年上の男に告白なんかしねーよ!」
 突然、孝弘ががばっと身を起こす。

「なのにあっさりふりやがって! あー、思い出したらなんか腹立ってきた」
 体のしたに祐樹を組み敷いて、上から意地悪な顔つきで祐樹を見据えた。
「そのうえ、こないだも俺の必死の告白、断りやがって。マジで泣きそうだったんだけど! しかもほかの女とつき合えとかいうし!」
 孝弘の勢いに祐樹が怯んだ。改めて自分の行動を言葉にされると、ずいぶんと酷いことをしてしまったと思う。
 どうにか遠ざけたいと思ってのことだったが、孝弘にしてみれば自分の気持ちを躱されてばかりで腹が立つのも当然だろう。
「う…、ごめんね。あの、もうわかってると思うけど、ついでにいうと、年下がだめってわけでもないから。もしかして、気にしてた、んだよね……?」

 強い光を宿す孝弘の目線に、祐樹の声がだんだん弱くなっていく。孝弘は難しい顔をして一瞬、天井を仰ぎ、それからはあっと盛大なため息をついた。
「あー、もうマジで。こんなに回り道させやがって。5年前の俺の悔しさ、思い知りな」 
 抱き寄せた耳元で早口でささやくと、性急に口づけられた。噛みつくようなキスをされて、祐樹はあっという間に嵐のような激しさに巻き込まれる。
「ほんとにごめん。孝弘が好きだよ」
 精一杯の謝罪は唇の中に消えた。

 さっきの優しい抱き方が嘘のような荒々しさで孝弘が祐樹の体をひらき、押し入ってくる。でも蕩けたばかりの体は柔軟に孝弘を受け入れて、その激しさを悦んで包みこむ。
 そのままもう一度、声がかれるまで鳴かされることになった。

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